国、年齢、性別等を問わず、広く愛され続けてきたディズニー作品と楽曲たち。その世界観を音楽ゲームとして落とし込んだのが『ディズニー ミュージックパレード』だ。ディズニーならではの美麗なイルミネーションやライドアトラクションをなぞるような、まばゆいパーティクルで構築された本作のステージ制作の舞台裏にせまる。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 278(2021年10月号)からの転載となります。
TEXT_安田俊亮
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
© Disney. Published by TAITO
『ディズニー ミュージックパレード』
ジャンル:音と光のライドアトラクション/音楽ゲーム
価格:基本プレイ無料(アイテム課金型)
対応OS:iOS/Android
リリース開始日:好評配信中
www.taito.co.jp/musicparade
"音と光の世界"を旅するディズニーの音楽ゲーム
レールに乗り、数々のディズニーの楽曲をプレイできるライドアトラクション型音楽ゲーム『ディズニー ミュージックパレード』。ファンおなじみのメロディを音楽ゲームとして楽しめるだけでなく、楽曲の世界観に合わせたステージ構成も大きな魅力となっている。特にステージ背景にはパーティクル表現がふんだんに用いられており、夜空に輝くイルミネーションやライドアトラクションの中を進むような美しくきらびやかなビジュアルが特徴的だ。
- クリエイティブディレクター・石田礼輔氏(タイトー)
「本作はタイトーによる音楽ゲーム『グルーヴコースター』をベースとしながら、ディズニーらしい"音と光であふれる世界"を打ち出すことをコンセプトとしています」とタイトーのクリエイティブディレクター・石田礼輔氏は語る。方向性のヒントとなっているのは、ディズニーのパークのショーイベント。当初は映画の世界を再現しようと考えていたが、工数がかかるほか、テーマ作品ごとにトーンが変わるため統一感を出せない。そこで採用されたのが、エレクトリカルパレードのような、キラキラとした光の粒子で全てのディズニー作品の世界観を構成する表現だ。統一感を出せるほか、今までの音楽ゲームやディズニーのゲームにはないビジュアルスタイルだったことも決め手となった。
- 右:制作ディレクター・横山裕一氏、左:エフェクトアーティスト/モーションアーティスト・門間 毅氏(以上、アールフォース・エンターテインメント)
また本作は最大4人のマルチプレイも可能で、"共感する楽しさ"もポイントだ。「プレイを始めると、知らない誰かといつの間にか、音を奏でながら光の世界を旅している。そんなイメージを目指しました。ステージによっては他のプレイヤーとコースが分かれたり、スタンプによるコミュニケーション要素を入れたりするなど、さりげなくマルチプレイならではの楽しさを盛り込んでいます。ビジュアルは黒を基調とすることで、本作ならではの良質な世界観を表現できたと思います」(アールフォース・エンターテインメント 制作ディレクター・横山裕一氏)。
<1>ディズニーらしさを伝えるパーティクル表現
イルミネーションとしてのパーティクル表現を突き詰める
本作の開発環境はUnity。本作のビジュアル表現の中でも特に印象的なパーティクル表現もUnityの機能が利用されている。あらかじめMayaで作成した3Dモデルのメッシュ上にパーティクルを表示し、シェーダは加算半透明がメイン。さらに速度設定をゼロとすることで、キラキラとしたイルミネーションのきらめきを表現している。「ただし、加算を重ねると白飛びが強くなりすぎます。その場合は下地となる3Dモデル側に減算系やブレンドで色を付けておいて、パーティクルが乗ったときにほどよい輝きになるよう調整しておきます」とアールフォース・エンターテインメントのエフェクトアーティスト/モーションアーティスト、門間 毅氏は述べる。
パーティクル表現は常に進化しており、例えば楽曲「ハワイアン・ローラーコースター・ライド」ステージはハワイらしい海の波飛沫がそのバリエーションのひとつだ。ここでは、波のモデルをスケールアニメーションさせながら、その上のパーティクルをノイズ機能で揺らすことで水の粒子らしい動きを表現している。さらに、「これが恋かしら」ステージではスキンアニメーションを仕込んだモデルにパーティクルを配置することで、「ステージ先のカーテンが開く」などの表現も行なっている。
1つのステージは1分半ほどの長さだが、プレイ中は同じシチュエーションが続くので演出が淡白だとプレイヤーが飽きてしまう。そのためステージ制作では、演出やカメラの動きなどでいかに1分半内でメリハリをつくっていくかが大切となる。飽きない演出を生み出すのは苦労の連続だったが、その中で印象的なパーティクル表現をつくることが重要なポイントのひとつだったそうだ。「パーティクル表現を模索しているうちに、演出方法にも様々なバリエーションがあることがわかってきました。波のようにノイズ機能を最大限利用することもあれば、最近ではパーティクルの配置場所をずらしてみたり、他のシェーダと組み合わせたりして、表現の幅をさらに広げるようにしています」(門間氏)。
「ビビディ・バビディ・ブー」ステージのかぼちゃの馬車
「ビビディ・バビディ・ブー」ステージでは「かぼちゃを馬車に変えるときの歌」とのイメージが強いことから、かぼちゃを登場させることをコンセプトのひとつとしている
▲本ステージのコンセプトを示した俯瞰図
▲かぼちゃの馬車はあらかじめ3Dモデル【左】をつくっておき、パーティクル発生源に同じモデルを指定することでモデル形状に沿ってパーティクルを発生させている【右】。さらに薄くオブジェクトを表示させて、発色や形状を補完した。このほかにも、フェアリーゴッドマザーの魔法のイメージから、キラキラとした光やシャボン玉を音楽に合わせて配置していく。曲の最後には遠くに城を見せることで、「お城へこれから向かう」というストーリー性も演出した
「仕事のうた」ステージのドレス
シンデレラのドレスをつくる内容が歌われる「仕事のうた」ステージでは、毛玉糸や糸巻き、はさみやまち針などがモチーフとして多く登場する。モデルは大きめのサイズにし、「ネズミ視点」であることを表現。曲の展開に合わせてレールの動かし方も変化させ、忙しかったり布を縫いつけたりするようなイメージを意識している。ステージ最後に印象的に登場するドレスは、原作となる映画『シンデレラ』でネズミたちが完成させたものがベース
▲ドレスのモデルはパーツ分けされており【上段】、それぞれの部分でパーティクルの色や濃淡をコントロールすることで密度を調整していった【下段】
「美女と野獣」ステージのダンスホール
「美女と野獣」ステージでは、原作映画に登場するダンスホールが主な舞台。夜空の背景から黄金に輝くダンスホール、そしてまた夜空へと場面が展開していく。途中には映画のワンシーンをイメージさせるステンドグラスが登場したり、バラの花びらがレールに動きに合わせて舞い上がっていく演出が入ったり 、終盤に向かってドラマチックな盛り上がりを見せる
▲ダンスホールの床は、パーティクルの密度が少ないベースとなる部分【画像】
▲密度を高めて強調する部分【画像】と分けることでメリハリをつけて......
▲模様をよりくっきりと見せている
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<2>「ディズニー ミュージックパレード・ゲームテーマソング」ステージ制作メイキング
<2>「ディズニー ミュージックパレード・ゲームテーマソング」ステージ制作メイキング
自動化と職人技を合わせてステージを演出する
ステージ制作は、まず楽曲のアレンジからスタートする。ベース曲をどうアレンジしたら音楽ゲームとして楽しくなるかをアレンジャーとミュージック制作班とで相談して決める。曲が完成すると、デザイナーの柳氏が絵コンテやイメージを作成。「ディズニー映画を何十回も見て落とし込んだ」という原作の世界観をゲーム上でどう表現するかを詰める。
ゲーム部分となるレールとノーツ(タップするタイミングを示すオブジェクト)の譜面作成は、自社で開発したUnityの拡張ツールを使用。譜面班が楽曲のイメージに合わせて、3D空間上に背景となる仮のオブジェクトとレールを配置し、カメラワークを含めたプリビズで構成を確認。問題なければ本制作へと入っていく。
パーティクル表現については、当初はリアルタイムレンダリングで制作を行っていたが、低スペック端末対応やバッテリーの消費低減、さらによりリッチな表現を目指すために、背景のみプリレンダリングしたムービーへと切り替えている。レンダリングサーバはオンプレミスではなく、AWS上でUnityを動かし、自動化プログラムでフレームレートごとの画像を撮影し、解像度ごとのムービーを出力するというもの。「ただ、本作はあくまでゲームなので、いくら背景が綺麗でもノーツが見えにくくなってしまうと本末転倒です。視認性を保ちつつ、一方で背景とゲーム部分とに一体感を出すように、ノーツと背景の色味などは最後の最後まで調整しています」と譜面制作リーダーの佐川氏は語る。
「演出ではカメラの動かし方も大事で、動かし方に気をつけないとプレイヤーが極度に酔ってしまいます。カメラのパンやティルトは遅延制御と補完制御を自動化し、ときには手動でパンのタイミングを遅らせるなど、様々な工夫を入れながら、最後は職人的に仕上げていくのが『ディズニーミュージックパレード』のこだわりです」(横山氏)。
ムービーの自動生成パイプライン
▲作業上の主なツールはMayaとUnity。Mayaでモデリングなど必要なオブジェクトを制作し、Unityでステージの演出や構成を行なっていく。また譜面班もUnityの拡張ツールを使って、音源に合わせたカメラデータとレールデータをつくっていく。各データはAWS上で動作しているUnityで連番画像としてプリレンダリングする。高解像度なその画像を基にAWS上で端末の規格に合わせた3種類の画面比率でエンコードして動画化する。クラウドサーバを活用することで、コストを抑えたプリレンダリング環境を実現させている
譜面班の作業内容
譜面班の作業は、Unityの独自拡張ツールが使用されている。まずイラストによる俯瞰図を参考に、音源に合わせるかたちでオブジェクトの配置、レールの設置、カメラの動きなどを作成していく。初期のレイアウト段階では背景やオブジェクトは仮当ての状態で、予定のタイミングで予定の被写体が映っているかどうかの演出面や、ゲームとしてのバランスも考慮することを意識。ステージ班など他のチームメンバーとも意見交換しながら、その後の方針を決めていく。さらに、出来上がった初期レイアウトに画像や文章で補足した「ラフVコン」を作成し、ステージの全体イメージが完成する。「ディズニー ミュージックパレード・ゲームテーマソング」をはじめとした近作では、この「ラフVコン」と内容をまとめた「方向性シート」を俯瞰図の代わりとしている
STEP 01:レイアウト
▲譜面班による、初期のレイアウト段階。オブジェクトなどは仮当てで、タイミングやカメラアングルなどを決めていく。作業完了後、一度監修のチェックを受ける。【左】は紅葉が横切る演出、【右】は大量の音符が出る演出部分で、以降完成までの画面を比較していく
STEP 02:モデルの差し替えと簡易的な演出の追加
▲レイアウトをベースに、より最終形に近いモデルと入れ替え、簡易的なエフェクトや演出を加えた状態。追加でのカメラワークなど、デザイナーと相談しながらブラッシュアップする
STEP 03:ルックのブラッシュアップ
▲ある程度カメラワークが固まってきたら、本格的なステージのルックをブラッシュアップする。この段階では白飛びや色味はそれほど調整せず、タイミングの細かい調整などを中心に行う
STEP 04:全体のバランス調整
▲最終チェックに向けて、ステージ全体の演出バランスを整えていく
STEP 05:最終チェック
▲ほぼ完成形の状態にして、最終の監修チェックに提出。曲によっては変更要請が入り、リスクや工数を相談しながら調整する。【下段】はアグラバーの宮殿に向かう部分で、最後の最後にカメラワークが変更となった
STEP 06:完成映像
▲最後のチェックを経て、1つのステージ映像が完成する。【下段】では画面奥に宮殿を望む、見映えの良いアングルに変更されているのがわかる
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