2019年の設立以降、ペンタブレットをはじめとしたデジタルアーティストのための製品を世に送り出してきたセンスラボ テクノロジーズ(以下、センスラボ)。CGWORLDでは、センスラボの製品責任者を務めるマイケル・トンプソン(Michael Thompson)氏にインタビューを実施。設立5周年を迎えるこのタイミングで、改めてセンスラボのビジョンと特徴について詳しく伺った。

マイケル・トンプソン(Michael Thompson)氏

センスラボ テクノロジーズ
グローバル・プロダクト・ヘッド

設立5周年を迎えるセンスラボ テクノロジーズ

CGWORLD(以下、CGW):自己紹介をお願いします。

マイケル・トンプソン氏(以下、マイケル):私は長年、テクノロジーとグラフィックの市場に携わってきました。ヒューレット・パッカード(HP)ではDesignJetプリンタのグローバル・プロダクト・マーケティングを担当し、その後はワコムでWacom Cintiq製品全般を担当していました。現在は、センスラボのペンタブレットとペンディスプレイのデザインチームを統括しています。

CGW:センスラボのブランドの概要を教えてください。

マイケルセンスラボは、「最高のデジタルドローイング・ツールをプロのアーティストに提供すること」を目標に、2019年に設立されました。

本社はアメリカのワシントン州バンクーバーにあります。開発はオレゴン州ポートランドで行なっており、アメリカ以外に日本・シンガポール・フランス・中国に拠点を持って活動しています。

社名は"人間の感覚"を表す"Sense"と、"イノベーションと実験の場"を表す"Labs"のふたつのキーワードに由来しています。私たちのビジョン「Create What You Dream」の基盤である、アーティストの創造性を高めるためにテクノロジーを最適化したい、という願いを表しています。

センスラボの6つの設計哲学

CGW:センスラボの製品には、どういった特徴がありますか?

マイケル製品ごとの設計目標によって特徴は異なりますが、どの製品にも共通した6つの設計哲学があります。

プロのアーティストとの共同デザイン

マイケル:新しい製品をデザインするとき、私たちはまずアーティストと話をします。既存の製品のどこが気に入っていて、どこが気に入らないのかを徹底的にヒアリングします。ヒアリングをもとにアイデアを持ち寄り、モックアップを制作します。
さらにアーティストからモックアップに対するフィードバックを得て、アーティストが有用だと思えるものが出来上がるまでブラッシュアップしていきます。

配慮の行き届いたデザインの革新と、細部へのこだわり

マイケル:「プロのアーティストが抱える課題を解決すること」が、私たちにとってのイノベーションです。一見些細な問題に感じられることも、同じデバイスで1日に何時間も作業する人たちにとっては、重要な問題になることがあります。
その良い例が、センスラボのペンディスプレイに導入した"スーパーAG(アンチグレア)エッチング加工"です。照明や窓からの太陽光の反射は眼精疲労を引き起こすため、反射を軽減するこの仕様はアーティストに好評をいただいております。

アーティストにフィットした製品をつくる

マイケル:私たちが一番やりたくないことは、アーティストに私たちの製品に適応するための変化を強いることです。できる限り、アーティストに合わせた製品を提供したいと考えています。
例えば、手が大きいアーティストもいれば、手がとても小さいアーティストもいるので、あらかじめ2種類のサイズのペンを用意しています。また、ショートカットデバイスで操作をしたいアーティストもいれば、キーボードを使いたいアーティストもいます。そのため、私たちは左手デバイス「クイッキーズ」を制作し、アーティストに選択肢を提供しました。

▲ショートカット用左手デバイス「クイッキーズ」

人間工学

マイケル:プロのアーティストのなかには、締め切りに追われて1日に12時間以上も作業し続けるような人もいます。快適な制作環境を提供するためには、人間工学に基づく設計も非常に重要です。
その一例として、個人の好みや姿勢に合わせてペンディスプレイを操作できるように、複数のスタンドオプションを用意しています。腕にかけられる構造にしたり、軽くて移動しやすいものにしたり、傾斜角度をつけられたり回転させられたりと、様々な工夫を施しています。

完全なソリューションの提供

マイケル:「せっかく製品を買ったのに、結局追加の部品やデバイスを買わなければならないことに気づいていつもイライラする」と、私たちはアーティストから何度も何度も聞かされてきました。
センスラボの製品には、ペンや「クイッキーズ」といったアーティストに必要な付属品があらかじめ同梱されています。もちろん、全ての製品に全ての付属品が揃っているわけではありませんが、製品の使用目的に必要だと思われるものはなるべく同梱しておくようにしています。

プレミアム品質と美しいデザイン

マイケル:アーティストにはいつでも締め切りがあり、製品が動かなくなれば彼らのビジネスは止まってしまいます。ですから、設計や製造方法のディティールにこだわり、多くの時間を費やして製品の品質向上に努めています。
また、センスラボの製品を使うことでインスピレーションを感じてほしいので、製品のデザインも重要視しています。私たちの製品を使うことを誇りに思ってもらいたいのです。

ユーザーからのフィードバックを反映し、新しい製品をつくり続ける

CGW:ユーザーからの製品に対するフィードバックをどのように収集し、開発に反映しているのか詳しく教えてください。

マイケル:プロのアーティストへのインタビューの他にも、様々な方法でフィードバックを収集しています。オンライン上の製品レビューにはもちろん目を通していますし、カスタマーケア担当者とも密に連携を取っています。

さらに、制作したプロトタイプを展示会に持ち込むこともよくあります。展示会では多くのフィードバックを一度に得ることができるので、貴重な機会です。

▲写真左:センスラボ テクノロジーズ アメリカ営業部長 ハンナ・インペリアル・キャノン(Hannah Imperial Cannon)氏、写真右:マイケル・トンプソン(Michael Thompson)氏

マイケル:もちろん、技術的に不可能なことやほとんどの人が使わない機能なども含めた全てのアイデアを盛り込むわけにはいきませんが、場合によっては「みんなが欲しがらないようなものであっても、一部の人が心から欲しいと思っている」機能やアクセサリについても、選択肢として提供します。

CGW:センスラボの独自性は、どのようなところにあると思いますか?

マイケル:「アーティストが何を求めているか」に、もっとも重きを置いている点です。

その好例として、ベゼル(ディスプレイの枠部分)が挙げられます。アーティストへのヒアリングの際、「絵を描くときにはある程度の幅のベゼルが欲しい」という意見が多く寄せられました。
長時間の作業で、繰り返し画面の端に絵を描く場合などは、ベゼルに十分な幅がないと、腕に疲労が蓄積します。画面の端から手が落ちないように、力を入れ続けなければならないからです。そういった負荷がかからないように、センスラボの製品ではベゼルにある程度の幅をもたせるようにしています。

CGW:最後に、日本のアーティスト向けにメッセージをお願いします。

マイケル:日本のアーティストは世界で最もクリエイティブであり、その作品には独自の文化的スタイルが息づいていると感じます。日本の文化や伝承、歴史にインスピレーションを受けた表現や、情緒的なキャラクターはとても魅力的です。

センスラボでは今年の6月に、プロのアーティスト向けに「Xencelabs ペンディスプレイ16」を発売しました。ペンディスプレイ16を使って日本でどのような作品がつくられるのか、今からとても楽しみにしています!

▲Xencelabs ペンディスプレイ16
Xencelabs ペンディスプレイ16の詳細はこちら

TEXT&EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)