ハイエンドな映像作品やゲーム、リアルタイムのパフォーマンスなど 年々その活用範囲が拡大しているパフォーマンスキャプチャ。国内でも様々なキャプチャシステムが販売されているが、スパイスはシステム販売にとどまらず、自社キャプチャスタジオでの収録からアニメーションやコンポジットなど後工程の制作まで社内で手がけている。他に類を見ないこのユニークな制作体制の強みと、最近の制作事例について話を伺った。

TEXT_ 石井勇夫(Z-FLAG)
PHOTO_弘田 充

制作と機材の両面から最適なワークフローを実現する

グラフィック制作プロダクションとしてスタートし、CG制作の分野でも21年の歴史を誇る業界草分けの存在であるスパイス。2001年からはモーションキャプチャ機材の輸入販売も手がけ、独自のリアルタイムキャプチャシステムを組み込んだ体験コンテンツを国内の博物館の常設展示として提供するなど、モーションキャプチャを活用した映像コンテンツの制作において確かな技術とノウハウを積み上げてきた。

現在ではOptiTrackDynamixyz Performer2 SVIGS-Cobra Gloveの3システムを備えた自社パフォーマンスキャプチャスタジオを運営し、データ収録からその後工程の制作にいたるまで社内で柔軟に対応している。体、顔、手指の同時収録が可能なスタジオは国内では同社のみだという。CG制作と機材の販売・サポートを同じ社内で扱っているのは、スパイスの大きな強みと言える。

最近では2月10日(土)の「闘会議2018」にて開催された『スプラトゥーン2 ハイカライブ』や関西・福岡圏で放映中の短編アニメ『放課後ミッドナイターズ』などが、同社でモーション収録から制作までを 手がけた事例として挙げられる。社内のCGスタッフは自社で扱う機材にも精通しているため、コンテンツの要件に応じてどの機材を使いどういうデータを収録すればより効率良くクオリティを上げることができるか、常に最適なワークフローを実現することができるというわけだ。機材を導入する側からしても、実制作の経験に基づく運用サポートや導入トレーニングを受けられるのは安心だろう。

  • 林 丈二氏
    株式会社スパイス 専務取締役

「今後は話題のバーチャルYouTuberの一歩先を行く、高いクオリティとリアルタイム性を両立したコンテンツの提供を目指しています」と専務取締役の林 丈二氏は語る。そのためにも、現在販売している複数のデバイスをより使いやすいようにUnity上でまとめてコントロールできるプラグインを独自に開発中だ。これによりユーザーはボタンをクリックするだけで、体・顔・手指の動きの同時収録が可能になる。こうしてパフォーマンスキャプチャの敷居を下げつつ、それを活用した高品質な映像コンテンツを自ら生み出していく同社の取り組みに注目だ。

CASE:01
『スプラトゥーン2 ハイカライブ』
ハイエンドにもスピーディにも対応できるシステム

スプラトゥーン2 ハイカライブ 闘会議2018

「当社のキャプチャシステムはハイエンドな要求にも応えられますが、さらに近年は短期間での制作も要求されてきています」と、パフォーマンスキャプチャに精通したチーフデザイナーの杉本 玲氏は現状の制作環境について語る。これまでのモーションキャプチャでは、ボディ以外の部分については同時撮影されたビデオを確認しながらアニメーターが手付けで動きを付けていたが、彼らの貴重なリソースをもっと有効活用したいと考えるなかでパフォーマンスキャプチャシステムの導入が進んだという。

  • 杉本 玲氏
    株式会社スパイス チーフデザイナー

スパイスのキャプチャシステムは顔から指先までを身体と同時に収録できるため、ダンサーの繊細な動きを指まで再現するだけでなく、リップシンクなどの単純作業からアニメーターを解放し、アニメーターはよりクリエイティブな部分に集中することができる。今回の『スプラトゥーン2 ハイカライブ』でも、2~4キャラクターが登場する30分という長尺のライブ映像に対してパフォーマンスキャプチャを利用することで、全ての要素が揃った映像をクライアントと早期に共有できたことがクオリティアップに寄与したという。「限られた制作期間の中で的確な監修をいただき、キャラクター性の再現や演出のつくり込みに多くの時間を使うことができました」と杉本氏は語ってくれた。

『スプラトゥーン2 ハイカライブ』4キャラクター揃い踏みの様子 c2017 Nintendo

CASE:02
『放課後ミッドナイターズ ショートムービーズ シーズン2』
キャラクターの「ノリ」をそのまま活かす

2007年の短編アニメから始まり、長編映画化やVRシアターなど多彩な展開で人気を博したモンブラン・ピクチャーズ制作の3DCGアニメ『放課後ミッドナイターズ』。2016年末にSNSで人気が再燃したのをきっかけにクラウドファンディング等で資金調達、制作した新作短編シリーズ『放課後 ミッドナイターズ ショートムービーズ シーズン2』が、現在 関西や福岡の地上波で放映されている。そのモーションキャプチャと一部のCG制作を請け負ったのがスパイスだ。


左上の場面のモーションキャプチャ収録の様子(左)。収録はその場でキャラクターモデルにモーションをリアルタイムに反映させ、確認しながら行われた(右)

もともと2015年にSIGGRAPH Asiaが神戸で開催された折、スパイスがモーションキャプチャのリアルタイムデモのために同社から本作のキャラクターを借り受けたのが縁だという。パフォーマンスキャプチャスタジオでの収録について監督の竹清 仁氏は「スパイスさんとは楽しくできる予感がしていました。現場での良い雰囲気はコメディ作品にとって非常に大事なんです」とノリのよかった現場の印象を語ってくれた。

  • 竹清 仁氏
    モンブラン・ピクチャーズ株式会社 代表取締役
    『放課後ミッドナイターズ』シリーズ・監督
    mtblanc.jp

小道具はなるべく劇中と同じものを使い、キャプチャしたデータのノイズをなるべくそのまま使って「グルーヴ感」を大事にする竹清監督の演出に、スパイスのスタッフは応えてくれたという。6ヶ月で30話つくるというタイトなスケジュールが可能だったのは、キャプチャだけではなくCG制作もできるスパイスだからこそだ。「私たちモンブラン・ピクチャーズは映像プロダクションですが、CGはもちろん、専門的な部分は餅は餅屋にお願いして。とても良いチームでできたんじゃないかと思います」と監督は両社のシームレスな連携をふり返ってくれた。

  • KBC九州朝日放送にて毎日深夜放送中 他
    2012年より世界7カ国で公開された映画「放課後ミッドナイターズ」の短編シリーズ、第2弾。真夜中の理科室でウダウダと実験、研究(という名のお遊び)をくり返す、"キュン様"と"ゴス"の秘密のスピンオフ28ストーリー!
    afterschool-midnighters.com

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