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スマートフォン向けVRアクションゲーム『シドニーとあやつり王の墓』の配信開始に合わせ、2015年11月にVR市場への本格参入を表明したGREE VR Studio。本スタジオは、グリー株式会社が培ってきたソーシャルゲームの企画・開発経験を活かし、魅力的なVRコンテンツを継続的に提供していくことを目指している。
2016年4月には、最新作となる『TOMB OF THE GOLEMS』の配信を開始した。本作は前作以上のボリュームとゲーム性を有するGear VR用のアプリで、制作にはAutodeskのハイエンド3DCGツールであるMayaが使用されている。 「VRアプリは、従来の3DCGゲームアプリでは不可能だった"新しい体験"をユーザーにもたらします。その体験を心地良いものとするため、我々は新たなワークフローや制約を模索し、新しい表現に挑戦し続けます」と語る本作中核スタッフたちへの取材を通して、最新のVRアプリ開発事情を紹介しよう。

▲Gear VRアプリ『TOMB OF THE GOLEMS』のプロモーションムービー。Gear VRはGalaxy S6|S6 edgeを装着することでVRコンテンツを楽しめるHMDだ。対応アプリは専用ストアからダウンロードできる

VRコンテンツでは、従来以上にコンセプトアートを重要視

前述の通り、GREE VR Studioの設立表明は2015年11月だったが、グリー初のVRタイトルは同年9月の東京ゲームショウ2015で発表された『サラと毒蛇の王冠』だった。当時から現在にいたるまで、グリーにおけるVRタイトル開発の中核を担ってきた渡邊匡志氏は、当時のことを次のようにふり返る。

  • 渡邊匡志氏
    (プロデューサー/プログラマ)

「現在、スマートフォンはモバイルゲームの主要プラットフォームになっています。ただし、プラットフォームは数年に1度のタイミングで変化していきます。それに応じて、ゲームの開発スタイルや収益構造も変化を余儀なくされます。"VRは、次世代プラットフォームの1つとなる可能性がある"。昨年3月のGDC2015におけるVRの盛り上がりを見て、そう感じた人は多かったのではないでしょうか。当社の取締役や開発者たちも例外ではありませんでした」。いち早く、次世代プラットフォームにおける開発競争に参入し、新しいノウハウや経験を蓄積したい。そう考えたグリーは、2015年4月、VRコンテンツの開発着手を決定したという。

▲【左】Oculus Rift対応、謎解き脱出VRゲーム『サラと毒蛇の王冠』のキービジュアル/【右】東京ゲームショウ2015における『サラと毒蛇の王冠』の展示ブース

グリー初のVRタイトルの開発は、渡邊氏を含むたった2名でスタートしたという。「今はプロデューサーがメインの役割になっていますが、当初は企画、R&D、プログラム、声優さんの収録立ち会いまで、何でもやっていました。もう1名のスタッフも、同じく汎用的な力の持ち主で、2人して色々な課題に挑戦する日々でした」。最初は市販のアセットなどを使って開発を進めていたが、目指す最終形が明確になるのに従い、"もっと良いものにしたい"という欲求が大きくなったとふり返る。「段階的に社内で別のゲームアプリを開発していたスタッフたちを巻き込み、最終的にはすべての3DCGアセットを社内で制作することになりました」。

結局、開発に関わったスタッフは20名以上にまで膨らんだという。本作の登場キャラクターは2体、ステージ数は3つというシンプルな構成ではあったが、実制作にかけられる期間は3ヶ月で、余裕のあるスケジュールとはいえなかった。「VRコンテンツの場合、早々に動く試作品をつくり、実際にHMDを装着し体験してみなければ良いも悪いも判断できません。そのためアーティスト全員がしっかりとゲームの世界観を理解し、迷いなくアセットを組み上げられるワークフローを意識しました」。その結果"コンセプトアートありき"のワークフローに行き着いたと、マネージャーでシニア3Dアーティストのパオリーノ・ルイス氏は語る。

  • パオリーノ・ルイス氏
    (3Dチームマネージャー/シニア3Dアーティスト ※GREE VR Studioではアートディレクションを担当)

『サラと毒蛇の王冠』の開発では、"どんなゲームをつくるのか?"が一目瞭然に伝わる、全ステージの断面図が描かれた。「本作はTGS2015で来場者に体験していただくことを想定していたので、"真っ直ぐ進んで終わる"というシンプルな構成になっていました。そのため、プランナーのアイデアをもとに、早い段階で串田さんに断面図を描いていただきました。この絵が、開発の方向性を決定づける指針となったのです」。

▲【左】開発初期に描かれた『サラと毒蛇の王冠』における全ステージの断面図。「早い時期にこの絵が描かれたことで、目指すべきゴールをスタッフ全員が共有できました」(渡邊氏)/【右】『サラと毒蛇の王冠』"遺跡入り口"のコンセプトアート

▲【左】『サラと毒蛇の王冠』"第一の部屋"のコンセプトアート/【右】『サラと毒蛇の王冠』"第二の部屋"のコンセプトアート

▲【左】『サラと毒蛇の王冠』"第三の部屋"のコンセプトアート/【右】『サラと毒蛇の王冠』"エンディング"のコンセプトアート

さらにアーティストの串田夏子氏は、3つのステージをはじめ、主要シーンのコンセプトアートも描いた。グリーのVRタイトル開発では、従来のゲーム開発以上に、コンセプトアートが重要視されるという。

  • 串田夏子氏
    (シニアアーティスト)

「VRコンテンツの場合、ユーザーは文字通りその世界に没入します。そのため相当長い時間、背景を見続けることになるのです。背景に込められた意図がダイレクトに伝わるため、アーティストにとってはやりがいがあると同時に、しっかりとした世界観の構築が求められます。どんな世界観をユーザーに体験してもらいたいのか、コンセプトアートをもとに考えを整理し、絵だけでは明確にできない部分は企画書で補完していきます」と渡邊氏は解説する。「本来であれば360度の世界を描かなければいけませんが、実際には描ききれない場合が多いので、絵の雰囲気を通して描かれていない空間全体のコンセプトが伝わるよう気をつけています」と串田氏は補足する。

VRは、開発者にとって現在最もモチベーションの上がるジャンル

『サラと毒蛇の王冠』、『シドニーとあやつり王の墓』、『TOMB OF THE GOLEMS』は、どれもグリー社内のスタッフだけで開発されており、スタッフの多くは重複している。前作の開発経験が次回作に活かされているため、ワークフローや開発ノウハウは徐々に洗練されつつあるという。「最近のモバイルゲーム開発は以前より長期化しており、1本あたり1~2年の期間を要します。一方でVRコンテンツの開発はまだまだ黎明期で、ユーザーに支持されるプラットフォームも定まっていません。今は色々な表現方法やプラットフォームに挑戦し、どんどん新規タイトルをリリースすべきタイミングです。VRは、開発者にとって現在最もモチベーションの上がるジャンルだと思います」とテクニカルアーティストの岩本高志氏は語る。

  • 岩本高志氏
    (TAチームマネージャー/シニアテクニカルアーティスト)

実際、GREE VR Studioによる2本のVRアプリは、どちらも半年以下の期間で開発されている。社内スタッフのみの少人数体制、しかもコンセプトアート主導だからこそ可能なスケジュールだとパオリーノ氏は続ける。「ほかのゲーム開発で培ったMayaのノウハウやリソースを流用するなどして、開発を効率化しています。例えば『シドニーとあやつり王の墓』の開発では、企画やコンセプトアートからモデリングへ移行した直後に、アニメーションもスタートしました。とはいえ、本作用のモデルは完成していなかったので、『サラと毒蛇の王冠』のモデルとリグを使い、アニメーションをつけ始めたのです」。こうしてモデリングとアニメーションを同時並行で進めておけば、開発期間を何割か短縮できる。モデルが完成した段階で最新のアニメーションデータをリターゲットすれば、すぐにHMDを使った検証を始められるというメリットもある。「まだまだトライ&エラーの回数を多く積むことが重要な時期なので、速くつくって、早く動かす(検証する)ことを大切にしています」と渡邊氏は語る。


▲『シドニーとあやつり王の墓』のキービジュアル。ハコスコやグーグルカードボードなどの簡易HMDで楽しめる、ダウンロード無料のiPhone・Android対応VRアプリだ。スマートフォンのみでプレイできる"一眼モード"も用意されているので、ぜひ体験してほしい

▲【左】『シドニーとあやつり王の墓』"遺跡入り口"のコンセプトアート/【右】コンセプトアートをもとにMayaでモデリングされた"遺跡入り口"

▲【左】『シドニーとあやつり王の墓』"ホルスの間(第2ステージ)"のコンセプトアート/【右】コンセプトアートをもとにMayaでモデリングされた"ホルスの間(第2ステージ)"


▲『シドニーとあやつり王の墓』主人公シドニーのアイデアスケッチ。最終的に、右端のデザインが採用された

▲【左】『シドニーとあやつり王の墓』主人公シドニーのデザイン画/【右】デザイン画をもとにMayaでモデリングされたシドニー

▲【左】『シドニーとあやつり王の墓』"ホルスの間(第2ステージ)"に登場するモンスターのデザイン画/【右】デザイン画をもとにMayaでモデリングされたモンスター

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テーマパークの動線・構造設計に近い発想が求められる

最新作の『TOMB OF THE GOLEMS』には、GREE VR Studioが培ってきたVRコンテンツ開発のノウハウが数多く投入されている。ここからは、代表的なノウハウを紹介していこう。まずは、ユーザーの"VR酔い"を予防するための工夫だ。

(1)不用意にカメラを動かさない
(2)Gear VRでは60fpsを維持する
(3)没入感を上げる(背景に加えて、音響、エフェクト、操作性なども強く意識し、違和感をなくす)

上記3点が大切だと渡邊氏は語る。「VR空間のなかでユーザーの視線を誘導したい場合には、カメラワーク以外の方法を使う必要があります。カメラワークを使わず、いかにドラマティックな展開を演出するか。難しくはありますが、開発者の腕の見せ所でもあります」。加えて、スマートフォンによるリアルタイムの60fps描画を、Gear VRの左右両眼(2画面)で維持するためには、テクニカルとアートの両面を視野に入れたバランス調整が求められる。「VRアプリの描画領域は非常に広大なので、通常の3DCGゲームアプリ以上に高負荷な処理が要求されます。それを見越した慎重なパフォーマンス設計を、開発の初期段階から行っておく必要があります」とテクニカルアーティストの酒井駿介氏は語る。

  • 酒井駿介氏
    (テクニカルアーティスト)


▲VRアプリの描画領域は、上の動画のように360 度におよぶ。アーティストには、そのすべてを創造できる発想力が期待される

▲【左】『TOMB OF THE GOLEMS』"エクストラボス"のコンセプトアート/【右】デザイン画



▲アニメーションはMayaのキーフレームアニメーションでつけられている。一部、モンスターのマントなどで物理シミュレーションも使用されており、ベイクした後、キーフレームアニメーションとして出力されている

▲エフェクトの多くはUnityのshurikenで表現されているが、shurikenで表現しきれない場合は、Mayaの板ポリゴンにアニメーションを適用するなどして表現されている。【左】はUnityの設定画面。【右】はゲーム内のエフェクト発動シーンだ

リッチな表現にするほど描画負荷は高くなり、Gear VRで60fpsを維持することが難しくなる。かといって表現をチープにしすぎると、ゲームの魅力や面白さが損なわれてしまう。すべての要素をリッチに描画することは難しいため、ステージごとに細かいチューニングを行ったと酒井氏は語る。「まずは各ステージのポリゴン数やテクスチャサイズを決定し、そのうえで、アニメーション、エフェクト、ライティングなどの各要素にどこまで容量を割くかスタッフ間で相談しました」。特にシェーダ、アニメーション、エフェクトは負荷が高くなりやすいため、試行錯誤が必要だったとパオリーノ氏はふり返る。「例えば、大きな刃物が振り子のように揺れている第2ステージでは、刃物の反射をスペキュラシェーダで表現しています。ただしこれは負荷の高い処理なので、ほかの背景モデルの影表現をライトマップ中心にするなどして、ステージ全体の描画負荷を調整しました」。

▲『TOMB OF THE GOLEMS』"第2ステージ"のコンセプトアート【左】と、そこに登場するモンスターのデザイン画【右】

▲"第2ステージ"のプレイ画面。画像【右】中央の刃物の反射(スペキュラ)は、シェーダによるリアルタイム処理で表現されている

加えてUIデザインには、今までのゲームにはない工夫が必要だと渡邊氏は語る。「ゲームのUIデザインよりも、アトラクションやテーマパークの動線・構造設計に近い発想が求められます」。一般的なゲームで多用されているパネル状のUIをVRコンテンツの空間内に表示すると、その世界に対するユーザーの没入感が損なわれてしまうのに加え、視界まで塞いでしまう。「例えば道順を示したいなら、空中に矢印を浮遊させるのではなく、3DCGの看板や標識を立てるといった工夫が必要です。『TOMB OF THE GOLEMS』では、ステージをクリアしたら浮遊していた棺桶が落下し、内部からスコアを示す星が出現するなど、多彩な演出を盛り込んでいます」。

▲アトラクションやテーマパークの動線・構造設計では、実際に道をつくり、看板や標識を立てる。VRコンテンツのUIデザインでは、それに近い発想で3DCGモデルを配置することが求められる

VRコンテンツの開発着手から1年未満の間に、3タイトルを開発したグリー。今後も新たなVRタイトルの開発に果敢に挑戦したいと渡邊氏は続ける。「Gear VR市場は北米の方が盛り上がっているため、『TOMB OF THE GOLEMS』は英語版と日本語版の両方でのリリースとなります」。 VR業界は、コンテンツ開発においても、プラットフォーム開発においても、まだまだ群雄割拠の状態が続くだろうと渡邊氏は予測する。 「良質なVRアプリをリリースするだけでは、多くの方に遊んでいただけない可能性が高いでしょう。体験の場を増やすため、オンライン・オフラインを問わず、提供方法を含めて考えていく必要があります」。

今後もさらなる盛り上がりが期待されるVRコンテンツ。ゲーム業界、映像業界を問わず、VRという新ジャンルの開発に挑戦するスタジオは増加傾向にある。本格化し始めたVRコンテンツの開発において、Autodeskの3DCGツールがどのような活躍を見せるのか、引き続き注目していきたい。



TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

PRODUCT INFORMATION
Maya2016

Autodesk Maya 2016

●動作環境
OS:Windows 7 Professional(SP1)、Windows 8.1 Professional、Apple Mac OS X 10.9.5 および 10.10.x
CPU:Intel または AMD製の64 ビット マルチコア プロセッサ
HDD:4GB のハードディスク空き容量
メモリ:4GB(8GB 以上を推奨)

●価格(税別)
Maya 2016 スタンドアロンライセンス:565,000 円
Maya 2016 Desktop Subscription with Basic Support(1年間ライセンス):226,000円<

Maya2016

Autodesk Maya LT 2016

●動作環境
OS:Windows 7 Professional(SP1)、Windows 8.1 Professional、Apple Mac OS X 10.9.5 および 10.10.x
CPU:Intel または AMD製の64 ビット マルチコア プロセッサ
HDD:4GB のハードディスク空き容量
メモリ:4GB(8GB 以上を推奨)

●価格(税別)
Maya LT 2016 スタンドアロンライセンス:111,000 円
Maya LT 2016 Desktop Subscription:1ヵ月4,000円
Maya LT 2016 Desktop Subscription with Basic Support(1年間ライセンス):33,000円

Maya2016

Autodesk MotionBuilder 2016

●動作環境
OS:Windows 7 Professional(SP1)、Windows 8.1 Professional
CPU:Intel または AMD製の64 ビット マルチコア プロセッサ
HDD:6GB のハードディスク空き容量
メモリ:4GB(8GB 以上を推奨)

●価格(税別)
MotionBuilder 2016 スタンドアロンライセンス:645,000 円


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