強化装甲「ウィルウェア」を使用して活動する警察庁の特殊部隊「機動強襲室第八係」の姿を描いた本作。今回はオレンジによる3DCG制作について取材した。

TVアニメ『アクティヴレイド-機動強襲室第八係』は近未来の東京を舞台に、ウィルウェアと呼ばれる強化装甲を装備する警察庁特殊部隊「機動強襲室第八係」の活躍を描いたオリジナルアニメ作品だ。総監督はアニメ『ガン×ソード』『コードギアス』シリーズの谷口悟朗監督が務めた。今回はウィルウェアやヴァーチャルマスコットLikoなどの3DCGカットを担当したオレンジのスタッフに話を聞いた。

「総監督が谷口悟朗監督ということで、注目を集めるだろうと思い、面白いことができればと考えていました。シリーズ構成も多くの特撮戦隊シリーズを手がけている荒川稔久氏ですので、アニメ作品でありながらも特撮感のあるCGカットになるように心がけました」と、CGディレクターの都田崇之氏は本作への思いを語る。制作はヴァーチャルマスコットLikoのキャラクター制作から始まった。Likoのデザインは制作会社から提供されていたが、電脳キャラクターとしてどのようにアレンジしてデザインしていくかは、オレンジに委ねられていた部分も多かったという。「Likoのモデルはオレンジとしても力を入れて取り組みました。キャラクターモデルの作成はTVアニメ『艦隊これくしょん-艦これ-』など、これまでに携わった作品で経験を積んでいたので、そのノウハウを注ぎ込んで最初に作成したのがLikoのモデルです。モーションキャプチャへの対応をはじめ、新しい挑戦となる要素が多く含まれています」と、CGプロダクションマネージャーの藤田進夢氏。

そのほか、各ウィルウェアのモデル制作においても、提供されたデザインを基に各担当のCGデザイナーがアイデアをさらにプラスするかたちでモデリング作業が行われているという。「本作では『3DCGとしてやりやすいように』と、こちらに任せていただける部分も多くありました」と語る藤田氏。第二期もLikoやウィルウェアなど、CGキャラクターの活躍に期待したい。

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<POINT:1>強化装甲のウィルウェアやヴァーチャルマスコットLikoの作成

主人公たちが身に付ける6体の強化装甲"ウィルウェア"やヴァーチャルマスコットのLikoはオレンジが作成した3DCGモデルが使用されている。これらのキャラクターはデザイン画が提供されているが、そのままにモデリングされるだけではなく、デザイン画をベースにオレンジのCGデザイナーが監督にアイデアを提案しながら最終的なフォルムが決定されているという。

モデリングチーフの大杉 翼氏はウィルウェアのモデリングでこだわった部分について「人が中に入っているということが前提になるデザインであることです」と語る。また、男性キャラクターと女性キャラクターでデザインの区別をつけたり、敵側のウィルウェアは全て製造された企業が異なるため、そのちがいがはっきりわかるようなデザインになるように心がけているという。「敵のウィルウェアを並べて見ると、一見すると統一性がないように見えるかもしれませんが、それぞれの企業の個性が出ていて良い感じに表現できたのではないかと思います」と藤田氏。本作に登場するウィルウェアは、フライトユニットが装着されていたり、携帯する武器も多い。これらのデザインやギミックは提供されたデザイン画などを基に、オレンジのアーティストの方でもデザインのアイデアを出しながら制作が進められた。特にエルフΣの武器のデザインやギミックは大杉氏がゼロからデザインしたものなのだという。

「造形に興味のあるスタッフが多く、デザイン画には描かれていない部分もアイデアを出してデザインしてくれたり、上手くまとめてくれるので、そういうことができるスタッフの人選も上手くいったのではと思います」と都田氏。CGスタッフがメカデザインやギミックデザインに参加することで、実際の動き方を考慮しながらデザインすることができるため、デザイン作業の面でもモデリング作業の面でも非常に効率的に進めていくことができたという。

ストライクセンターセプター

▲<A>黒騎 猛が着用するウィルウェア、ストライクインターセプターのデザイン画。ストライクインターセプターは作品の顔ともなるキャラクターであるため、モデル制作にも力が入れられている。特に頭部と背中に背負っているフライトユニットには注力したという。フライトユニットのデザインは、デザイナーから上がってきた内容に追加して、CGスタッフが自ら形状や動きのギミックまでを考えている。フライトユニットデザイン担当はオレンジの長川 準氏。「デザインやギミックの案を担当のCGスタッフととりまとめてプロダクションアイムズに確認したところ、OKをもらえたので、あとはこちらの方で自由にデザインさせていただきました」(藤田氏)。

▲<B>3Dモデル / <C>レンダリングされたモデル

▲<D>フライトユニットのデザイン

▲<E>モデリングされたフライトユニットの収納状態 / <F>飛行状態

エルフΣ

▲<A>瀬名颯一郞が着用するウィルウェア、エルフΣの設定画。エルフΣはストライクインターセプターと同じく、制作初期に作成されたモデルで、本作に登場する3DCGモデルの情報密度やクオリティの基準となるモデルということを重視しながら作成された。デザイナーの考えたコンセプトを活かしながら、内部に人が入っているということを意識したデザインにリモデルされており、脛の装甲など3D上で細く見えないように調整が施されている

▲<B>3Dモデル / <C>レンダリングされたモデル

▲<D>エルフΣの装備であるライフルのギミック案

▲<E>ライフルの3Dモデル。原案ではライフルを装甲にマウントした状態で折りたたまれているように見えたため、ギミックとしてグリップ、ストック、マガジンそれぞれの収納機構が盛り込まれている。武器リデザイン・モデリング担当は大杉氏 / <F>肩のリング状のパーツ。背面マウント位置からリングをレールにして手に保持できる位置にスムーズに移動できるような構造・レイアウトが作成されている。「ギミックが複雑に動くのがメカもののロマンですね」(都田氏)

メーティストラクチャーibuki


▲星宮はるかが着用するメーティストラクチャーibuki。原案ではやや男性的なシルエットだったが、社内デザイナーにより女性キャラクターらしいシルエットにリモデルされている。設定画リデザイン担当は大杉氏で、モデリングを担当したのは田中貴大氏。他のウィルウェアのデザインも着用するキャラクターの設定や性格に合わせてデザインをリモデルしているという。「私の方でそのキャラクターの設定を吟味して、こんな感じにできないだろうかとスタッフの方へ振ると、良い感じに上げてきてくれるので非常に助かります」と藤田氏。キャラクターがウィルウェアを着用しても、そのままキャラクターとしての設定が継承されるように心がけてリモデルされているという

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猛銃號


▲第6話に登場した猛銃號。往年のロボットアニメのメカを彷彿とさせるデザインに仕上がっている。他のウィルウェアではIKなどを使って、人間らしいアニメーションを付けられるようにセットアップされているが、この猛銃號はあえてFKによる関節の軸の回転だけでアニメーションが付けられている。「あえて簡単なリグにしていますが、単純な動きにならないように気をつけてアニメーション付けしています。そのへんが非常に楽しいメカですね。デザインは昔の勇者ロボ風で格好良く動くという感じにしています」(都田氏)

ミュトスのウィルウェア


▲犯罪ネットワーク・ロゴスのミュトスが着用するウィルウェア。バイク形態へ変形したり、タイヤが変化した蛇腹状の鞭をくり出すなど、複雑なギミックが施されたモデルだ。「鈴木勘太氏のデザインが素晴らしかったので、なんとか整合性をとって3Dモデルとして作り上げたいと思っていたのですが、上手くジョイントパーツを作ってもらってデザインを崩すことなく作成してもらえました」と藤田氏。蛇腹状の鞭のギミックでは、鞭として伸びた際に通常スプラインIKを使用したセットアップではねじれが発生してしまい、上手く表現できなかった。これを解消するためオレンジ社内で検証を重ね、それぞれの蛇腹がカメラに対し綺麗に映るよう調整、セットアップされている

ヴァーチャルマスコットLiko




▲本作のCGモデルの中で最初に手がけられたのが、ヴァーチャルマスコットのLikoだ。原案からひとつの個性をもったキャラクターとしてどのように表現していくかに注力したという。これまでオレンジが手がけたCGキャラクターのために開発した技術をつぎ込んで作り上げられている。ヴァーチャルマスコットという位置づけから、踊ったりキャッチーな動きが多いため、モーションキャプチャに対応したリグや、フェイシャルアニメーション、長い髪の毛やアクセサリといった揺れものなどのリグも細かく設定され、魅力的な動きのできるキャラクターとして仕上げられている。なお、揺れものは基本的にスプリング制御をプラスして衝突判定をMassFXで習得し、頂点に焼き込むように設定されている

オートモーフ「Camera-O-Matic」


▲Likoのフェイシャルにはオレンジが開発したCamera-O-Maticが組み込まれている。Camera-O-Maticは、カメラの位置に応じたキャラクターのフェイシャルのオートモーフを可能にする技術だ。顔オブジェクトとカメラの相対角度を習得して、あらかじめ用意されたモーフターゲットから最適な変形モーフを適用することができる。これまではカットごとの見え方に合わせて顔の形状を変化させたり、目の位置を変えたりしていたが、このスクリプトを使うことで、カメラを動かした際にリアルタイムで変形が適用される。画像上が未対応の状態で、下がCamera-O-Maticを適用した状態。顔の輪郭が大きく変化しているのがわかる。Likoの表情の描画は、他の作画に合わせて眉やまつげが髪の毛を透過するようにPencil+で設定されている

ウィルウェアのルックとハイライトのテクスチャ

▲ウィルウェアのルックは、Pencile+を使って構築されている。今回は作画に合わせるため若干太めのラインが設定された。これにより作画と相性が良く、よりセルに近い表現ができるとのこと。長年、アニメルックのCGキャラクターを手がけてきたオレンジならではのノウハウだ。なお、第8話からはモデルにハイライトテクスチャを導入している。以前のモデルはポリゴンモデリングベースでハイライトを表現していたが、ポリゴン数のリソース問題や差し替え作業の負担、激しいアニメーション作業ではスキニングの都合でめり込みなどが起こったため、レギュラーで登場するモデルに使用。そのほか、ストレッチやスケールがかかる場合などでも利用された

LH Auto-Rig の活用とセレクタ

ウィルウェアやLikoのモデルのリグは、LH Auto-Rigを使ってセットアップされている。LH Auto-RigはCG-Animationが開発したオートリグセットアップツール。3ds MaxのBipedやCATに比べて機能が豊富で、ながれ作業的にリグの設定ができるため、非常に効率良くセットアップすることができる。アニメーションの表現もしやすく、モーションキャプチャにも対応しているため、本作のキャラクターにはとても重宝したという。

▲<A>LH Auto-Rigの初期生成状態。ここから関節位置をキャラクターの特徴やプロジェクトの仕様に合わせて設定していく

▲<B>ボーンの構造が完成した状態。この後、ボーンのストレッチや自動補完される内部的なパラメータなどをオレンジ内の仕様に合わせて設定していく

▲<C>LH Auto-Rigで生成したリグの仕様をオレンジ社内の仕様に合うように調整したもの。この状態で汎用モーションを使って動きをチェックし、各キャラクターのもつ特有のリグを作成していく

▲<D>最終的なセットアップが終わったエルフΣ。オレンジではオリジナルのヘルパーセレクタを開発しており、アニメーターがストレスなくヘルパーを使ってアニメーション付けができるようになっている

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<POINT:2>バトルシーンやユニットセットのアニメーション

ウィルウェアを使ったダイナミックなアクション、Likoのキュートなアニメーションなど、本作はCGアニメーションならではの見どころが非常に多い作品だ。アニメ的な動きの見せ方を踏襲しながらも、どこか戦隊特撮のアクションを見ているようなアニメーションに仕上がっている。「特撮ヒーローのような演出を非常に大切にしたいと思っていたので、特撮ヒーローものならではのアクションのケレン味を表現することにポイントを置いています。また、一部モーションキャプチャを導入してみたことにも関連しますが、メカが動いているのではなく、中に人が入っているんだということを意識してアニメーションを作成しています」と都田氏は話す。

モーションキャプチャのシステムは、オレンジ社内にXsensのMVNを使用したスタジオを設けており、他の作品でも利用されているという。この"中に人が入っているようなアニメーション"という方針は、ヴァーチャルマスコットLikoのアニメーション付けにも活かされている。Likoのアニメーション付けは全話を通してひとりのアニメーターが担当している。キャラクター専任のスタッフがアニメーションを付けることで、統一された個性のある動きを実現することができたという。

また、オレンジによるアニメーション付けの作業はキャラクターだけに留まらず、ウィルウェアを着用するユニットセットのマニピュレータのアニメーションや指揮車両の発進シーンなど多岐に渡る。本作では絵コンテを忠実に再現するだけでなく、絵コンテを基にアニメーターがカットをつくりながらアドリブで動きを付けることも多い。そのようなアニメーターから積極的にアイデアを監督へ提案する作り方は、演出側にも好評価を得ているという。

ミュトスとストライクインターセプターのバトルシーン



▲本作のアニメーションの制作方法には、作画先行で進むカットとCG先行で進むカットの2種類があるという。画像は12話に登場するミュトスとストライクインターセプターのバトルシーン。このカットはCG先行で制作されている。このようなダイナミックなアクションのあるカットでは、背景も全て3DCGで作成し、カットを作成しているという。「このような3DCGがメインのカットになると、CGアニメーターも折角だからダイナミックにつくろうと、モチベーションを高くもって作業することができていたと思います」(都田氏)

パース誇張によるカット制作

▲ダイナミックなアクションシーンのアニメーションを演出するため、パースの誇張なども使われている。作例はミュトスがカメラに向かって腕を突き出すカットだが、ケレン味のあるアニメ独特のパース感を表現するため、腕のパーツのスケールを極端に変形させて表現している。LH Auto-Rigで作成したリグは、このような部分的な変形にも柔軟に対応できるためとても使い勝手がいいという

モーションキャプチャの活用

▲第3話では新しい試みとしてモーションキャプチャを使ったアニメーション制作が行われている。モーションキャプチャを使うことで「中に人が入っている感じを出したい」という目的もあるが、ウィルウェアがハッキングされて自動で動いている状態と、自分の意思で動いている状態とを手付けとモーションキャプチャを切り替えて使用することで、微妙な動きのちがいを表現することをねらったという。また、手付けでは振り付けに手間がかかってしまうダンスのアクションも、プロのダンサーの動きをキャプチャすることで、リアルで臨場感のある動きを効率良く作成することができた。「モーションキャプチャは準備にやや時間がかかりますが、準備さえできてしまえばその後の作業は非常に効率が良い」と都田氏。一部のカットでは都田氏自身がキャプチャスーツを着込んでキャプチャした部分もあるという

Liko のアニメーション


▲Likoのアニメーションもアドリブの演技が多い。この例ではアニメーターのアイデアで絵コンテにはなかった指し棒が小物として追加された。「こういうアドリブのできるスタッフがよく出てきたなと思います。こちらの想像以上にやってくれた」と都田氏。そのほか、フェイシャルに関してもモデラーが想定していないような、設定にない表情までも作り出されていることもあるという。声優を"キャラクターの中の人"と呼ぶことがあるが、専任のアニメーターが全話を通してアニメーションを付けることで、アニメーターもそのキャラクターの"中の人"になれたのではと都田氏は話す。また、Likoのアニメーションはアフレコではなく事前にセリフを収録して、音声に合わせてアニメーション付けするプレスコ形式で進められている。アニメーターのセンスにプラスして、プレスコでアニメーションを作成することで声の演技に合わせてアニメーションが付けられるので、より感情豊かな動きにつながっているのだろう

ユニットセットシーン



▲いくつものマニピュレーターがウィルウェアのパーツを、次々に装着させていくユニットセットのシーンは絵コンテを基に、都田氏が3Dモデルを動かしながらアドリブでアニメーションを作成している。「とても大変なカットで、集中して作り上げていきました」と都田氏。パーツを装着していく順番を考慮しながら、その場でパーツを分解、または新たに作成しながらアニメーション付けをするなど、非常に大変な作業となった。都田氏はこうした、たたみかけるようなメカの動きを付けるときは、「音が付いたときの気持ち良さ」を常に考えながらアニメーション付けをしているのだという

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス))
PHOTO_弘田 充





  • 『アクティヴレイド -機動強襲室第八係-』

    TVアニメ『アクティヴレイド -機動強襲室第八係-』総監督:谷口悟朗/監督:秋田谷典昭/キャラクター原案:佐伯 俊/アニメーションキャラクターデザイン:西田亜沙子/シリーズ構成:荒川稔久/アニメーション制作:プロダクションアイムズ

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