連載開始から実に20年を経た今も根強いファンに読み継がれる弐瓶 勉原作のハードSF漫画『BLAME!』がついに劇場長編アニメ化。映像制作を担当したポリゴン・ピクチュアズ(以下、PPI)は、アニメ『シドニアの騎士』において証明された通り、画づくりにおける弐瓶作品との相性は抜群との評価も高い。『シドニアの騎士 第九惑星戦役』の劇中劇『BLAME! 端末遺構都市』当時のスタッフを中心に結成された精鋭チーム(含・原作ファン)の手による、最先端と呼ぶにふさわしいアニメ制作に迫ってみたい。

本記事ではキャラクターづくりを紹介した前回に続き、繊細なライティング表現と空気の層を感じさせるコンポジットの工夫を探る。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 226(2017年6月号)からの転載記事になります

TEXT_石井勇夫(Z-FLAG)/ Isao Ishii(Z-FLAG)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
©Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee

技術・開発力を活かしよりディテールのある表現へ

「ライティングは監督の意向もあり、光源のわかるようなリアルなライティングを心がけました」と語るのはライティング&コンポジットスーパーバイザーの平林 章氏。コンポジットにはNUKEを使用。今回から色彩設計時にもNUKEを導入してもらい、これまでPSDで受け取っていた色指定をNUKE内で完結できるようにした。これにより作業の効率化はもちろん、Photoshopを介さないので色の変換も必要なく、16bitデータでコンポジットが完結するリニアワークフローを実現できたという。大半はAfter Effectsのようにレイヤー状に平面を並べてコンポジットしているが、ジオメトリとカメラを読み込み、直接ペイント修正するような3D的な手法も使われている。各シークエンスのマスターショットには色指定と2Dエフェクトがつくり込まれており、それを基に各アーティストが作業を進めた。

本作はこれまでのmental ray主体のシェーディング/ レンダリングから、JCube開発の「Maneki」3Delightのレンダリングに切り替えられている。ライティングで特に難しいのは顔の影で、Maneki導入に伴い、仕上がりをMayaのビューポート上で確認するためのビューア「mqToonPreviewer」をライティングTDが開発。これにより結果をリアルタイムに確認しながら進めることができたが、いかに綺麗な影を落とすかはショットごとに微妙な調整が求められたという。

レンダーレイヤーツール「Layer Manager」とパス一覧

3Delightではレンダーレイヤーが使えないため、同様の機能を実現するツール「Layer Manager」をライティング&コンポジットチーム専属のTDが作成し、活用している

図では真ん中の「character」レイヤーと右の「shadow」レイヤーがレンダリングされる設定になっている

レンダーパスの一覧。どのキャラクターも19種類ほど用意されている

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NUKEによる色指定

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NUKEによる色指定

『シドニアの騎士』や『亜人』では、Mayaでレンダリングする際に色指定されたカラーパレットを適用していた。このフローは手間がかかる上にリテイクのたびに再レンダリングが必要となり、懸案となっていた。本作ではNUKE上で色指定を行うフローを実現、データのやり取りもスムーズになり、さらに修正対応のハードルも下げることができた。なお、色指定のために、使い慣れたPhotoshopの「色相・彩度」調整レイヤーと同じ挙動をする独自のノードなどが開発された

づるの色指定の一例

NUKE上のキャラクターに関わるノード群。赤い部分が色指定ノード

複数の色指定をNUKE上でブレンド

キャラクターの影表現

ライティングは、主に光を当てるためのDiffuseライトと、影を落とすShadowライトの2灯で行われた。キャラクターに光と同じ方向で影を落とすと、首の下や胸の下の影が足りず平面的になったり、逆に顔に変な形の影が出たりするため、それを避けるために影用のライトを独立させたという。ショットによっては、輪郭を出すためのリムライトも使用。後方や左右から光を当てると、階調が豊かでリッチなハイライトを入れることができる。また、前述のようにこれらをリアルタイムで確認することができる「mq Toon Previewer」が開発されている

「mq Toon Previewer」はMaya標準のビューポートと同じメニューに追加

影の形状のNG例資料

「mq Toon Previewer」の画面

NUKEによるダイレクトペイント

レンダリングで表現を詰めきれないときには、NUKE上でダイレクトペイントすることも。アニメーションをベイクした顔だけのジオメトリをMayaからAlembicで出力し、NUKEで読み込んで行う。図のように、いずれかのフレームにペイントすればジオメトリのアニメーションに沿って変形するため、全てのフレームに描き込む必要はない。意図しないところに落ちてしまっている影も同様の方法で修正された



  • 基のレンダリング画像



  • ダイレクトペイント後の画像

完成画

NUKE作業画面



  • 劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー
  • 劇場アニメ『BLAME!』

    原作:弐瓶 勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
    総監修:弐瓶 勉
    監督:瀬下寛之
    副監督・CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
    アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
    配給:クロックワークス
    製作:東亜重工動画制作局

    www.blame.jp

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.226(2017年6月号)
    第1特集:劇場アニメ『BLAME!』
    第2特集:映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2017年5月10日
    ASIN:B06ZYQP5WN