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今年、創業100年を迎えた株式会社イワタ。そんな同社が2020年3月3日発売予定の『イワタ福まるご』は、全体に丸みを帯びたかわいらしいシルエットでありながらも上品な印象を与えるフォントに仕上がっている。本文の使用に適した読みやすい細~中間のウエイトから、丁寧な水かきの処理や角の丸みを生かした懐かしい表情の太いウエイトまで全5ウエイトを展開。様々な挑戦が盛り込まれた『イワタ福まるご』のリリースに合わせて、今回プロモーションビデオが制作された。本稿では、開発を手掛けた同社のフォントデザイナー本多育実氏とモンブランピクチャーズの山代竜也氏の対談の様子をお届けしよう。
TEXT, EDIT_UNIKO(@UNIKO_LITTLE)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
<1>『イワタ福まるご』の誕生まで
CGWORLD(以下、CGW):今回『イワタ福まるご』の開発にあたりディレクターを勤められました。開発に至る経緯をお聞かせください。
本多育実氏(以下、本多):イワタは創業100年と歴史のある会社で、元は活字母型の製造販売を行っていました。社内には当時の見本帳などが残っており、入社して間もない頃、それらの整理を頼まれました。その中でこの丸ゴシックの活字見本が出てきて。かわいくてすっかり気に入ってしまい、上司に製品化をもちかけたのが始まりです。
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本多育実氏(株式会社イワタ/フォントデザイナー)
CGW:偶然の出会いから『イワタ福まるご』が開発されたんですね。本多さんの提案から完成までにどれくらいの期間がかかりましたか?
本多:実際に開発がスタートしたのはそれから2年後になるのですが、着想を得て製品化を持ちかけてから完成まで6年ほどかかっていますね。まずは見本帳にあった文字の中から数文字ピックアップして、次に実際にスケッチして雰囲気をつくり始めました。そこから漢字、仮名、英数字など製品化に必要な文字を一揃え作ります。
イワタ社内に古くから伝わる文字の見本帳
CGW:『福まるご』の特徴についておしえてください。
本多:『イワタ福まるご』は、岩田母型時代の活字書体に独自の解釈を加えたオールドスタイルの丸ゴシックで、鉛活字の手書きや手彫り、インクにじみなどの有機的な曲線から着想を得た今までにないユニークな表情が特徴です。展開は全5ウエイトで、細~中間のウエイトは長文にも適した読みやすさがあり、太いウエイトはふっくらと豊かな丸みを活かした目を惹くデザインです。見出しから本文まで、様々なシーンで使いやすい書体になるよう設計しました。
『イワタ福まるご』は「L/R/M/B/E」の全5ウェイト。優しく丸い書体だが、上品で読みやすいため汎用性が高そうだ
CGW:「福まるご」というネーミングも良いですね。
本多:「福」と「まる」で言葉の意味あいも響きも良いなと思って。開発に携わったいろんな人々の意見をふまえたうえで、書体の特徴をうまく捉えている「福」という文字を選びました。
CGW:今回はノベルティもつくられたんですね。
本多:はい。近年はあまりノベルティをつくっていなかったのですが、『イワタ福まるご』のことを展示会で知って覚えてもらいたかったのと、イワタはちょっとお堅いイメージを持たれがちなので、遊び心のあるもので親しみを持ってもらおうという思いで制作しました。
CGW:『イワタ福まるご』の開発の背景には新しい試みが盛り込まれているんですね!
『イワタ福まるご』のPRのためにつくられたポチ袋
<2>ありそうでなかった、「文字が主役」のモーショングラフィックス
CGW:『イワタ福まるご』の動画制作の依頼を受けてどういった印象を持たれましたか?
山代竜也氏(以下、山代):文字そのものを映像で表現するというのは新しいタイプのオファーで新鮮でした。当社代表の竹清をはじめモンブランピクチャーズ自体、デザイン系のモーショングラフィックを得意としているのでフォントに興味がある社員が多く、これは面白そうだなと。お声がけいただけてうれしかったです。
CGW:山代さんに白羽の矢がたったのはどういった経緯なんですか?
山代:学生の頃からモンブランピクチャーズでずっとアルバイトしていて、正式に入社したのは1年半前なんですよ。会社の方針で若手の実力をそだてようという思いがあったようです。モンブランピクチャーズとしてのクリエイティブをしても良いという条件もあって、ぜひチャレンジさせてもらいたいなと。僕としては、「おもしろそう!絶対やりたい」と即承諾しました。色々とやるべき仕事は他にもあったんですが、なんとか調整して挑戦したいなと。
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山代竜也氏(モンブランピクチャーズ株式会社/ディレクター、モーショングラフィックデザイナー、コンポジター)
CGW:初めて文字を見た時の印象はいかがでしたか?
山代:この文字が「何を伝えたいのか」という点をまず確認したのですが、イワタさんから「かわいい」というキーワードをもらったので、すぐに「かわいい」という言葉について研究しました。フォントを見たときに自分自身でも「かわいい」と思ったのですが、「かわいい」にもいろいろあるじゃないですか。ガーリーなかわいいとか、こどもっぽいかわいいとか。でも「イワタ福まるご」はもっと品のある綺麗な印象を受けました。なんていうか、「美人さんの小さな女の子」って言う感じです(笑)。背景も品の良さを演出したかったので白にしました。
本多:まさに狙ったとおりです。文字を開発する際にコンセプトを作るのですが、個性がありながら派手すぎない、落ち着きのある書体にしようと。だから、トレンドを意識するというより、ずっと使ってもらえる文字を作ろうと考えました。単にポップなだけの見出し文字ではなく、本文でも使えるベーシックで組みやすく、かつ読みやすい書体をという思いがありました。
CGW:動画制作にかかった期間と使用したツールをおしえてください。また、制作するにあたってどのように構成を組んでいったのですか?
山代:制作期間はプランに2週間、制作に2週間ほどです。使用したツールはAfter Effects、3Dの部分と質感の表現にはCinema 4Dを使用しています。構成に関しては、まずはモチーフとしてアメーバでいこうと決めました。そこからミクロの世界に飛び込んで行き、その先に「イワタ福まるご」があるというストーリーです。次に、30秒の中でも特に見せたいカットを決めて、そこから没入感を味わってもらえるよう、カットで切り替えるのではなく連鎖するようにシーンをつなげていこうと考えました。そこからさらに情報量を足していって次々と展開させることで、「ずっとループして見ていられる動画」になるようにしました。
CGW:音楽に関してはいかがですか?
山代:アメーバとミクロの世界というキーワードから、細胞の中の世界や水の中にいるイメージが浮かんだので、音楽にも水を感じるように水中を漂う気泡っぽい音を入れています。あと、少し女性の声を入れてかわいらしく洗練された曲になるようにしました。
CGW:難しかったところはどういったところですか?
山代:CMや映像の中に出てくる文章やコピーなど、何かの情報を伝えるために文字を動かすということは慣れているのですが、今回の目的は文字そのものをモーショングラフィックで魅力的に見せるというものです。これはモンブラン・ピクチャーズとしても初めての試みだったのですが、社内に動画のリファレンスがなくて(笑)
動画に登場する『イワタ福まるご』の書体から発想を得たアメーバ的な表現。よくみると、各パーツは文字でできている。分裂したり融合したり、有機的でかわいらしいなめらかな動きでずっと観ていられる気持ちよさがある
ぷっくりとまるいシェイプからインスピレーションを受けて、丸くてプニプニした表現をふんだんに取り込んだ
没入感を出すための表現の一例。細胞の中にどんどんとクローズアップしていく様子をイメージした
CGW:動画が完成して初めて観たときの感想をお聞かせください。
本多:これまでイワタからこういった「色」が出てきたことがなかったのでとても新鮮でした。そして「文字が動くとこうなるのか」と驚いたとともに、自分が開発した文字がプニプニと柔らかく動く姿を見て嬉しかったです。何度もずっと見ていられる映像ですね。
CGW:『イワタ福まるご』がどのように使われていくことを期待していますか?
本多:『イワタ福まるご』ばっかり使ってください! とは言いません。でも、こういった雰囲気の丸ゴシックってまだ数もそんなに多くないと思うので、真面目な文章からかわいい文章まで、様々なシーンで使用する際の選択肢のひとつにしていただければ嬉しいです。我々が動画制作に挑戦したように、学生さんや若手のデザイナーさんなどにもどんどん使ってもらって「文字の新しい使われ方」がされるといいなと思っています。
山代:モンブランピクチャーズとしても、今回のようにしっかりとメッセージを伝えるデザインの力に加え、モンブランなりのエンターテイメント性のある作品を世の中に届けていこうと考えていますので、今後も色々と挑戦していきたいですね。
本多:今年でイワタは創業100周年を迎えました。2月5日(水)から7日(金)まで開催される印刷メディアビジネスの総合イベントpage2020に出展しますので、『イワタ福まるご』をはじめイワタの新書体をぜひ見に来てください!
株式会社イワタ
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弊社の情報・お問合せは www.iwatafont.co.jp をご覧ください