CGはある意味熟成されつつあると言われる現代においても、まったく新しいビジュアルを生み出し、人々の記憶に強烈な印象を残した『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)。本作でVFXスーパーバイザーを勤めたダニー・ディミアン/Danny Dimian氏はこの映像を生み出すために大変重要な役割を果たした。ディミアン氏が制作中いかに考え、どのように決断していったのか話を聞いた。



TEXT_奥井晃二 / Kouji Okui
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to Foundry

『スパイダーマン:スパイダーバース』2019年8月7日(水)Blu-ray&DVD&3D&UHD発売/同日レンタル開始/6月26日(水)デジタル配信開始 from 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』公式 on Vimeo.



<1>3DCGテクノロジーへの関心からキャリアをスタート

まずはディミアン氏のキャリアをふり返ろう。ディミアン氏はアートの勉強からスタートし、映画制作を志していたのだが、カナダのカルガリー大学在学中にコンピュータ・サイエンスに興味をもち、コンピュータ・プログラマーとして学んだ。そのため仕事としての道はプログラマーとしてスタートすることになった。最初に今はなきVFXスタジオであるメトロライト・スタジオ(※『トータル・リコール』(1990)で第63回アカデミー賞で視覚効果賞受賞)に職を見つけ、そこでプログラマーやTDとして、画像処理のライブラリ・プログラムやRenderMan用シェーダを書いたり、レンダリング・パイプラインの整備を行なったりしていたそうだ。

しかし1986年にピクサーの『ルクソーJr.』を見て衝撃を受ける。その時の気持をディミアン氏は語る。「これはVFXとしてのCGではなく、新しい表現力、特にストーリー・テリングの新しいかたちに成り得ると感じたのです」。

Luxo Jr. - Trailer


それから徐々にエンジニアではなく、映像をつくるポジションへの興味がもどっていき、2000年にソニー・ピクチャーズ・イメージワークス(SPI)に移籍。SPIでも当初は『インビジブル』(2000)のシェーダを書くところからスタートしたが、その直後に今作と同じ『スパイダーマン』(2002)のサム・ライミ版実写化映画にライティングTDやルックデヴ・アーティストとして参加している。また『スチュアート・リトル2』 (2002)ではコンポジターを務めたが、ディミアン氏いわく"自分がフィルムメーカーのひとりであることを(より強く)実感する"という3DCGアニメーション制作の一員になる志向性を強め、『ポーラー・エクスプレス』(2004)、『モンスターハウス』(2006)にシェーダ・ライターとして参加、『サーフズ・アップ』(2007)からCGスーパーバイザーをまかされるようになった。そして『アングリーバード』(2016)以降はVFXスーパーバイザーに昇格している。

The Angry Birds Movie - Official Teaser Trailer (HD)


『ポーラー・エクスプレス』は本作と同様に"描かれた絵"を3DCGで制作することを模索した作品であった。『ポーラー・エクスプレス』では絵本のようなルック、特に筆のストロークの表現を目指したとのことだが、当時の技術では上手くいかなかったそうだ。しかし当時色々な問題が存在することを理解し、その問題について考え続けてきたことが本作で活かされたという。

The Polar Express - Original Theatrical Trailer


<2>今までに観たことがないスパイダーマン映画をつくる

ここからは本題である『スパイダーマン:スパイダーバース』プロジェクトをふり返ろう。
まずはチームのみんなで「なぜまたスパイダーマンの映画をつくらなくてはいけないのか?」を考えるところからスタートしたそうだ。
「2002年以降、すでに8本ものスパイダーマンの映画がつくられてきているわけです。『新しい映画をつくるにあたっては、何かしっかりとした理由が必要』だと思っていました」と、ディミアン氏。
そして考え出された理由は次の2つだ。

1.マイルズ・モラレスが主人公の映画は初めて
2.スパイダーマンの劇場長編アニメーションは初めて


しかし、ディミアン氏にとってはまた別の理由があった。「私にとって一番重要だったことは、フィル・ロードとクリス・ミラー(Phil Lord & Chris Miller)のコンビ(※本作の脚本とプロデュースを担当)が、今までに観たことがないアニメーション映画を観たがっていたという事実です。われわれにとってのゴールとは、"新しいビジュアル言語を見つけること"でした。実のところ、最初は何が必要なのかもわかっていませんでしたけど、とにかく新しいことを試したかったということだけは確かです」。

Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
コンセプトアートから。これらの手描きでテストされた雰囲気や形状、色を参考に実際のシーンが制作された


何をどうすれば上手くいくのかわからない状況はむしろディミアン氏を駆り立てたようだ。
「私にとってはエキサイティングでした。腕まくりをして『よし、やってやろう!』と思いました。最初は子供のように遊ぶことからはじめました。制作過程においては間違ってもかまわないのです」。

ここまでディミアン氏を前向きに取り組ませた理由は周囲に頼りになる人たちがいたからこそ。また『ポーラー・エクスプレス』における経験を含め、SPIでは色んな実験をしてきてデータも蓄積しているため、沢山の資産を活用できたようだ。色々なシーンがイメージボードやコンセプト・アートに起こされていった。

「既成概念にとらわれず普通だったらできないことを試してみたいと思っていました。われわれはそれを"グラフィック・フリーダム"と呼んでいました。ここまで自由なことは滅多にありませんし面白かったのですが、ちょっと怖くもありましたね」。

Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
本作品の新しく特徴的なルックを生み出すために描かれたコンセプトアート


試した色々なアイデアを統合した結果、全てのアイデアが指し示したのはオリジナルのコミック・ブックだった。
「私たちの誰もがコミック・ブックを愛していましたが、なぜそこまで特別なものに感じているのかを考えたのです。素晴らしいグラフィック・デザイン、ビビッドな色彩、強くダイナミックなキャラクターのポージング。私たちはこの映画の中のどのフレームでも止めて見たときに印刷されたコミック・ブックに見えたらどんなに面白いだろうと考えました。手描きの強い線、不完全なところも魅力でした。私たちはリアリズムよりもアートを、複雑さよりもデザインを求めていることがわかったのです」。
それ以降、スタッフが目指す指標は「コミック・ブックのように印刷されたものに見える」ということと、「手で描かれたイラストのように見える」ことに集約されていった。

Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
こちらは最初に描かれたコンセプトアート。この絵によって今回の作品のルックはこれでいこうと確信したそうだ


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<3>『スパイダーマン:スパイダーバース』で生み出されたテクニック

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<3>『スパイダーマン:スパイダーバース』で生み出されたテクニック

印刷されたコミック・ブック、そして手で描かれたイラスト、それを目指す上で重要視されたのが、明確な色使いとシャープな形であった。そのため通常の映像では画面に奥行きを与えるために利用するデフォーカス、動きを柔らかくダイナミックに見せるモーション・ブラー、立体感を表現する陰影のグラデーションを使わないことにした。

陰影を表すグラデーション(CGでいうところのシェーディングによる陰影)は用いないことになり、その陰影や立体感を表すために代用されたのが、イラストのハッチングと印刷の網点を模した表現である。CGのレンダリングにおけるライティングと陰影情報をこれらのハッチングや網点表現に置き換えていくために、ライティングの設計をKatanaで行い、Arnoldで数多くのパスに分割してレンダリングし、様々な調整はNUKE上で行えるようなスクリプトを構築した。こうすることで何度もレンダリングし直す必要がなく、コンポジターが心ゆくまでルックを調整することに専念できた。また制作効率自体もかなりスピードアップすることができた。

  • Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
    遠くに見える車が行き交うヘッドライトの灯りを表現した手描きの素材。これを用いることで独特の遠近感が生み出された

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    ニューヨークのストリートを描くショットでは遠くの道路上の車の灯りを左図のような素材を動かして表現している

スパイダーマンの映画には、ニューヨークの日常風景が多く登場する。デフォーカス表現による遠近法の代用方法の1つとして、夜の遠くに見える車のヘッドライトの流れは手描きの光素材を配置して動かす方法が使用された。またニューヨークの街並みを描く上で必要になるのが無数のビルの窓灯り。これも一々きちんと窓の中にあるオブジェクトまで描いてしまうと過剰に立体的で不要な情報が増えてしまうため、手描きによる数枚の窓灯り素材を立方体状に組み合わせた「マジック・キューブ」というものを用意し、全てのビルの窓にはこれをランダムに配置した。またバスの中に見える乗客のモブ、これも1つ1つCGキャラを配置するのは過剰であると考え、手描きで描かれたイラスト素材を配置している。こうした手描きレベル・オブ・ディテール(LOD)とも呼べる表現が多数考案されて活用された。

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バスの中のモブなどにはこの図のような手描きのレベル・オブ・ディテール素材が用いられている


Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
テスト段階の画像。制作を敏速化するためにKatanaでライティングのテストを行い、それを使って新しいルックを作り出す方法を構築した。このプロセスはマクロ化されて後の本制作でも使用された


また実写やCGに現れるレンズ・ブラーとモーション・ブラー表現の本作ならではの置き換えもある。画面に奥行きを与えるためにフォーカスのぼけを使用し、動きの滑らかさやスピードを強調するためにモーション・ブラーはよく使われる。しかし本作では明確な形状によるシャープな印象を優先するため、こうしたぼけ表現は使わないことにした。その代わりとしてレンズぼけの代わりには印刷を模した色ずれや像のダブらしと網点表現による合成処理を組み合わせて対応した。またモーション・ブラーの代わりも像をダブらして重ねたりスミア(像が流れたように見える現象)を画像合成したりして表現した。

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アニメーション・テストから。アクションはシルク・ド・ソレイユのパフォーマーを撮影した映像を参考にしている


動きの強調のために効果線も導入された。さらに激しいカメラの動きやアクション・シーンにおいては日本のアニメや漫画でも多用される効果背景の手法が取り入れられた。ディミアン氏は本作ならではの表現を生み出すために日本のアニメ作品も沢山参考にされたそうで、『AKIRA』(1988)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)を皮切りに、『紅の豚』(1992)や『君の名は。』(2016)など、まさに"ありとあらゆる作品"を分析したそうだ。

ちなみに日本ではコミック原作の作品をアニメ化するときには伝統的に手描きアニメのスタイルが用いられることが多いが、本作はなぜ2Dアニメでつくろうとしなかったのだろうか。
「私たちはまったく新しいスタイルを生み出したかったのです。コミック・ブック的なルックを真似て2Dアニメにするだけだと何かが失われていると感じました。結局のところ、コミックと2Dアニメは別の言語なわけです。私たちにとって3Dの技術を使うことでまったく新しい要素を付け加え、新しい言語を生み出さなくてはいけないと考えました」。

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キャラクターについては、イラストで強い表現が生み出されている理由を手描きの描線にあると考えた。ディミアン氏はこれらの線を2種類に分けて処理する方法を開発した。1つ目はパフォーマンス・ラインと呼ばれ、キャラクターの表情を表すための様々な線のことである。顔にできる皴を表すこともあれば、単に瞼の二重の線なども含まれている。このパフォーマンス・ラインの制作のためにはキャラクターの3Dモデル上に立体的に線を描けるツールが開発された。キャラクター・デザイナー自らがキャラクター・モデルに線を描き込み、その線を基に3Dオブジェクトが生成され、フェイシャルリグに組み込まれた。

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主人公マイルズ・モラレスのセットアップ。顔の上に描かれている表情線は、モデル上にキャラクターデザイナー自らが3Dドローイング・ツールを使って描いた線が3Dモデル化され、そのままリグに埋め込まれる方法が開発された


2つ目はフォーム・ラインと呼ばれ、顔のパーツやアウトラインの形状を表す線のことを指す。フォーム・ラインについてはカメラの向きと顔の向きが決まればおおよそどこに線を描くべきかが決まる。そのためある程度の自動化が可能と判断されマシン・ラーニングの手法が取り入れられた。まず、いくつかの特徴的な角度から見たときの線をキャラクター・デザイナーが描き、それ以外のフレームは自動的に線を補間して生成するプログラムを開発したのである。AIの技術を映像制作に利用できないかずっと考えていたディミアン氏にとっても実戦投入するのはこの作品が初めてだったとのことだ。

こうして作成されたパフォーマンス・ラインとフォーム・ラインはどちらもキャラクターの本体とは別のパスでレンダリングされ、コンポジット上で位置を調整しながら合成されるため、3Dオブジェクトであることが意識されないよう自然な仕上がりになっている。

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顔や体の形状を表すための線はフォーム・ラインと呼んでいて、形状とカメラ位置によって凡そどこに線を引きたいかは決まっている。代表的な角度のものを何枚かキャラクター・デザイナーが描き、マシン・ラーニングを使ってそれ以外の角度のフレームでの線の引き方を自動化した


エフェクトの表現についてはガラスの亀裂、火花などいくつかの種類は3Dでエフェクト制作したものをイラスト風に加工して使われたが、なかなか求められていたダイナミックな表現が得られなかったため、爆発や煙などは伝統的な2Dのエフェクト・アニメーターによって作画されたアニメーション素材をHoudiniにスプライト素材として取り込み、それを3Dエフェクトの描画に使用する方法が採られた。実際のエフェクトが活躍するショットにおいては手描き由来のエフェクトと3Dシミュレーションで作られたエフェクトなど多くのレイヤーをコンポジターがルックをデザインしながらミックスしているため、違和感のない仕上がりになっている。

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    火花、爆発、炎のようなエフェクト・アニメーションには伝統的な手描きアニメーションの素材が使われた

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    手描きのアニメーション素材をスプライトとしてHoudini内で使用し、3Dのエフェクトと組み合わせて制御されている


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この複雑なエフェクト・ショットでは、手描きアニメとシミュレーションによる素材を混ぜ合わせ、グラフィカルなルックをコンポジットで実現している


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<4>『スパイダーマン:スパイダーバース』のビジュアルが支持された理由

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<4>『スパイダーマン:スパイダーバース』のビジュアルが支持された理由

ディミアン氏はこの移り変わりの激しい業界にいながら、SPIに20年間も在籍を続けている。このことが本作の制作に果たした意味合いは大きいという。
「これほど長い年月の間、1つのスタジオにいることになるとは思いませんでした。しかし辞めようと思うと、いつも新しくて面白いプロジェクトがやってくるのです。作品が魅力的だっただけではなく、居続けた理由はチームワークにもありました。今作では約800名が関わっていますが、私はその人たちの多くと長い期間で信頼関係を築いてきたのです。良い信頼関係を築くには何年もかかります。素晴らしい仕事をするには信頼関係は大切です。特にこの作品のように新しいこと、見通しの立たないことに挑戦する上ではね」。

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NUKE上で多くのレイヤーに細かい調整がなされた。コンポジットの段階でアーティストたちが様々な調整を重ねたことにより、デザイン的な違和感が払拭された


こうして築かれた信頼関係は『スパイダーマン:スパイダーバース』における様々な難題解決の中でも重要な武器となった。
「本作ではいつもの作品とはちがって、3人のディレクター、4人のエグゼクティブ・プロデューサー、そしてプロダクション・デザイナーがいました。VFXスーパーバイザーとして、これだけ多くの人たちの意見を取りまとめる必要があるのは、自分のキャリア史上初めてのことでした。通常多くの人が話し合ってものごとを決めると往々にして平均化されてつまらないものになってしまいます。ユニークなものは協議からは生まれません。しかし本作では、自分たちが進んでいる道がどこに向かっているのかわからなくても、みんなが協力して自分たちを信じて突き進むことができました。この映画の場合、どうすれば良いのか最初は皆目見当もつかず、その後も多くの問題を解決しながら進まないといけませんでした。しかし困難に出会ったときは少し立ち止まってふり返るのです。それまでに努力してきた道のり、一緒にやってきた仲間を信じることを。そしてまた次のことに立ち向かう。本作が完成できたのも多くの人が互いに信頼しあい、協力することができたからだと思います」。

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手前の地下鉄のホームの構造物やキャラクターはフォーカスが合っていないでボケている設定だが、通常の実写やCGとは異なり、レンズのボケの効果を使わずに色ずれ、像のダブらし、網点処理によって表現している


Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
モーションブラーの表現もNUKE上でスミアや像のダブらし処理を施すことで生み出している


Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
こちらの背景処理では像のダブらしに加え、2Dアニメや漫画などと似た効果線を加えることで回転の動きが強調された


<5>これからのCG、そして未来のアーティストたちへのメッセージ

先進的なビジュアルを生み出したディミアン氏はすでに『スパイダーマン:スパイダーバース』の次回作の制作に取りかかっているとのこと。彼にとってこれからのCGやVFXとはどんなものだろう。

「3DCGの技術は確かに成熟してきています。昔は聞かれたものです。『こんなことできますか?』と。でも今は『これできるでしょ?』と聞かれます。そのため、『なぜそのような表現をしなくてはいけないのか』を考えることが重要になっています。ストーリーを語るためにはビジュアルが必要で、その中でときには新しい技術も必要になります。でも、そのストーリーが問いかけてくるのです。『なぜ、そうするのですか? そのストーリーを最も効果的に語れる方法になっていますか?』と。ツールはツール、テクノロジーはテクノロジーに過ぎません。要はストーリーが手法を決めるのです。今、CG・VFX制作者は『どのようにやるか』ではなく、『なぜそうするのか』を考えることが大切なのです」。

Image courtesy of Sony Pictures Imageworks
激しいアクションシーンでは日本のアニメや漫画で多用される効果背景の手法も採り入れられた


普段から油絵具で絵を描いているディミアン氏にとっても「ストーリー」と「イメージ」の関係性は大きなテーマであり続けている。「私は確かにイメージを作る責任のある立場にいます。しかし常にイメージが前面に立つのではなく、ストーリーを語るためにイメージがあるのだと考えています。いつも心にあるのはストーリーを語るためにどんなビジュアルが良いのかです。革新的なイメージは印象に残りこそしますが、ストーリーを語るには有効ではないこともあります。どのようにストーリーを語るか、それが重要なのです。良いストーリー、良いイメージは生み出すものなのです」。

最後にディミアン氏は、これからの未来を担う若いアーティストたちへのメッセージを寄せてくれた。
「現在、CGを学んでいる皆さんにはツールを学ぶのではなく、"ビジュアル・ストーリー・テラー"を目指してもらいたいのです。最も勉強してほしいことはビジュアルでストーリーを語ること。そのためには表現の基礎を蓄積していくことが重要です。ペイントやドローイングのような絵画、カメラの使い方や映画撮影術、文章を書くこと、ストーリーの構造を理解すること、色彩、こうした原理原則をしっかり学ぶことが将来、必ず役に立ちます。ツールなんて今はYouTubeを使えばいくらでも学べるのですから。簡単だとは言いませんけどね(笑)」

そしてディミアン氏は、こうした表現の基礎を学ぶことの重要性を次のように説明する。
「私は様々な基礎を学ぶことを推奨していますが、その全てにおいて達人になれと言うつもりはありません。色々なことをやってみながら自分に何が向いているのかを把握すること、楽しいなと思うことが見つかればそれに集中してもっと深く追求していけば良いのです。でも実は、あなたが何かの分野を選ぶのではありません。その分野があなたを選ぶのです。だから選ばれるためにはあらゆることをやってみなくてはいけないのです」。

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