1989年の設立以来、TV、CM、アニメなど多彩なジャンルの映像制作を手がけている老舗ポストプロダクション、キュー・テック。同社では、2018年頃から制作部にShotgunを導入し、通常のプロジェクト管理にとどまらず予算や各スタッフの作業時間、機材の管理までもShotgun上で行なっているという。その独特な使用法と社内への定着に至る経緯を制作部ディレクショングループマネージャー・金苗貴宏氏に聞いた。
INTERVIEW_ショットガン・トキトウ
TEXT_岸本ひろゆき / Hiroyuki Kishimoto
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
<1>幅広いジャンルの映像制作を担うキュー・テック制作部
ショットガン・トキトウ(以下、トキトウ):通常のShotgunの使い方であるプロジェクト管理に加えて、受注・予算管理、機材管理もというのはかなりユニークな例なのではないかと思います。特に、Shotgunには実務時間を追跡するための「タイムログ」というエンティティが標準で備わっていますが、これを予算管理面で活用しておられるとのこと。こちらは入力の手間もありなかなか定着しないという例が多いのですが、どのように運用しておられるのか大変興味深いです。本日はそのあたりをうかがっていけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。まずは自己紹介をお願いします。
金苗貴宏氏(以下、金苗):株式会社キュー・テック 制作部ディレクショングループ マネージャーの金苗です。元々弊社はレーザーディスク株式会社というレーザーディスクを作る会社だったのですが、そこから音響と編集をパッケージにして、オーサリング、プレス業務を行うキュー・テックという会社になりました。
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金苗貴宏/Takahiro Kan-nae
株式会社キュー・テック
制作部ディレクショングループ
マネージャー
www.qtec.ne.jp
金苗: 今期から制作系の部署をまとめた「制作部」が発足し、CG、VFX、映画やドラマの制作・プロデュースを行うようになりました。私はアニメ、CM、イベントの番組制作などを請け負う「制作部ディレクショングループ」というところでマネージャーをやらせていただいています。最近のCGの実績ですと、『天気の子』、『オルタード・カーボン: リスリーブド』、アニメ『モンスターストライク』、また近年は、VTuberらデジタルアーティストのライブモーションを担当させていただくことも多くなっています。
私は2007年入社で、在籍13年ほどになります。制作部ディレクショングループの下には管理、アーティストなどが10名ほど在籍していて、私は制作には携わらず、管理業務やクライアント様との窓口業務を担当させていただいています。案件の受注管理、予算管理、あとは機材・ソフトウェアの管理なども担当していて、それらにShotgunを利用しています。
<2>2015年ごろから導入を検討し、2018年に本格稼働
トキトウ: 金苗さんは、ボーンデジタルでShotgunのイベントを始めた初期の頃からいらしていたのを覚えています。その頃はまだ国内でもShotgunユーザーはそれほど増えていなかったと思いますが、導入当初の様子はいかがでしたか?
金苗:使用を考え始めたのは2015年ごろで、日本のユーザーの中では早い段階から目をつけていた方だと思います。小規模に導入してみましたが、本当に一部のスタッフにしか浸透しない状態でした。以前社内にあったLive2Dの部署がそれで、当時の担当は上手く使っていた一方、CG部署の方はExcel管理を捨てられず、通常業務もある中で新たにShotgunを覚えるという敷居の高さを実感しました。また、私も当時は営業一本で管理の仕事をしていなかったため、本腰を入れられませんでした。
2年ほど前に私がマネージャーになり、当時のCG部署の課題として「勤務時間が見えない」「案件の詳細がどうなっているかわからない」「忙しいと訴えられても、何がどう忙しいのか判断材料がない」ということが課題となっていました。案件管理は1人の制作進行に委ねられていて、他人と共有しづらいExcelで管理されていました。
情報を共有・閲覧できるものが欲しい、というニーズが挙がり、それはまさにShotgunで達成できることだったので、部署全体で使おうと決めました。それでも使い方を覚えるというハードルが高く、思うように導入が進まないまま半年ほど経った頃に案件がスケジュール的に炎上するという出来事があり、そこに私がヘルプで入ったときにShotgunでの管理を試してみました。半年の間にトキトウさんにいろいろ伺いながらプロジェクトもある程度作れるようになっていたので、作成してみんなに展開したところ、すごくわかりやすいと。それがCGのスタッフにもShotgunが受け入れられるきっかけになりました。
トキトウ:そうすると2015年ごろに導入されて、実際に広く使われるようになったのは金苗さんが今のポジションになった2018年ごろ、そこから本格的に案件受注管理という使い方が確立されていったということですね。それまでは、何か別の管理ツールなどは使っておられましたか?
金苗:当時の担当はExcelで管理していました。でも、誰かと共有するために作っているわけではなく個人的に情報を管理する目的で作られていたので、Excelの説明を受けて内容を理解する必要があったり、個人の独自解釈が含まれていたりと、共有されてすぐわかるというものではありませんでした。フリーの管理ツールなども含めて検討しましたが、Shotgunを導入しているしLive2D部署での成功例も見ていたので、使うことができれば絶対行けるという手応えはありました。それで、部署として何がなんでも使いこなしていきましょう、と話をして。
トキトウ:その段階で受注管理に使っていきたいというご相談を受けました。現在はShotgun上でプロジェクトをまとめて予算管理・受注管理しているということで、そのあたりを詳しくお聞かせください。
金苗:社内プロジェクトを管理する「Qtec Project」というエンティティを作って、各月ごとに「見通し」「売り上げ」などを入力しています。で、計算フィールドを用いて、原価と稼働時間をかけて利益率が出るようになっています。
グルーピングは月ごとにカテゴリ別になっています。「3DCG」「VFX」「Live2D」などをプルダウン式で選択できるようにしていて、ステータスでは進行中なのか請求済みなのか、受注なしなのか、を管理しています。社内の管理番号などのフィールドを用意したり、採算が合わなかった(利益率がマイナスになった)ものは「条件で行の色を変更」で赤くなるようにしたり。それらは1案件ごとに確認できるようにしています。
▲カスタムエンティティ「Qtec Project」を用いた「売上管理表」(上)、「売上管理グラフ」(下)(数値はダミー)。売り上げの見通しや実際に売り上げた金額、利益率などが一覧できる。利益率の算出には、タイムログの合算による人件費の累計も用いられる。それらの数字を集計してグラフ化し、営業部署内での打ち合わせ、交渉に用いている
金苗: 売り上げや今後の見通しなど、書類での提出を求められることがあります。そういうときに「予実管理」タブで必要なフィールドに絞ってCSV形式で書き出すことができるので、そこから書類の形に整えて使っています。
トキトウ:そういう書類作成時にはマクロも用意していたり?
金苗:CSVをExcelで読み込んで、提出に不要な列は削除して「テーブルとして書式設定」を適用して金額の合計を計算したり、不要な年月にチェックを外したりして整えれば提出用書類が出来上がります。そういう書類作成用のCSVをエクスポートするのに適したレイアウトを作ってあるのが「予実管理」タブです。最初は必要があるたびに作っていたのですが、結局あらかじめ作っておいた方が楽だなと気づいて。以後は用途に合わせてタブを増やしています。
稼働時間に対して計算を行う「稼働時間」タブでは、月ごとの予測時間、稼働時間、原価予測等を行います。このほか、外注費、月別売り上げ、案件のカテゴリ別などバリエーションがあります。こういうのも、Shotgun本格導入以前はなかなかなかったんですよね。きちんとまとめておきなさいというのはもちろんあるんですけど、意外とまとまらなくて。
トキトウ:外注費では、外注先ごとにフィルタを用意されていますね。
金苗:そうですね、パートナー企業ごとにフィールドを追加してそこに外注費を入力しています。そうしてまとめた結果は、毎週のミーティングでグラフ化して確認しています。このくらいかかるから、だいたいどれくらいの人員が必要になるとか、もうちょっと受注できそうといった、営業の数字の話をするのにも活用しています。
トキトウ:もともと金苗さんが営業ポジションということもあり、こういうグラフや数字を用いた説明がしやすいというのはありそうですね。
金苗:やはり組織や上司と話をしていく上では、こういう資料を毎回毎回数字として出していく必要がありますね。管理職の目線ではどうしても数字を重視しますので。そして、言われてから資料を作るのでは時間がかかってしまいますが、Shotgunを使っていると日々の入力で蓄積した情報が勝手に表になり、必要な情報だけ取り出せばすぐに資料のベースになるので、そこはすごく大きなメリットだなと思います。そういうデータベースや、データを取り出して使うといったシステムは、これまで社内にはなかったんですよね。
<3>タイムログで各スタッフの繁忙度やスキルを可視化
トキトウ:この予算管理・受注管理プロジェクトにも「スケジュール」という項目がありますね。どのようにスケジュールを管理されているのでしょうか?
金苗:当初はTaskのガントを使ってスケジュール管理していましたが、実はもう使っていません。大体1年ほど運用して機能を知っていく中で「Project Timeline」「Crew Planning」がすごく使えるということに気づき、現在は全面的にこちらで管理しています。
▲「Project Timeline」(上)、「Crew Planning」(下)の各画面
金苗: 今期から制作部隊が一緒になり、スケジュール管理をさらに徹底していくながれになりました。そこでCrew Planningもしっかり入力していかなければということになり、管理スタッフが更新してくれています。情報が現状とずれてしまうと意味がないんですが、まめに更新してくれているので信用度も高い。2人でこれを見ながら、リソース配分について話し合っています。入力してしまえば「9月はこの人が大変」など視覚的に理解できるので、だったらこの人をこの案件へ移動して、といった対策を打つことができます。
トキトウ:作業の偏りを分散できるようになっていったんですね。そして、そうした作業の実績をタイムログとして入力して行なってもらっていると言うことですが、そのあたりのお話を伺っていきたいと思います。
金苗:プロジェクトとは独立した「集計」というページを作っていて、そこでタイムログを一括管理しています。ディレクターの人たち、3DCGの人たちといったタブを設けて、スタッフ別にグルーピングしてあります。サマリーとして何時間働いたかが集計されるので、パっと見で誰が何時間働いているかがわかります。
▲プロジェクトとは独立した、タイムログ集計ページ。各プロジェクトのタスクに対して入力されたタイムログを一元的に管理する。作業者ごとに、プロジェクト、作業の種類などを入力し、その累積を人件費の計算に用いる。また、作業の種類とかかった時間から作業者のスキルの方向性を見定め、新たなタスクを振る際の見積もりにも使われる。そのため、営業的にも人材管理的にも大事な数字となることを説明し、継続的に入力を促し続けている
金苗:大事なのは、これは勤怠管理ではないということです。出退勤のタイムカードはまた別にあります。私が知りたかったのは、「勤務時間の中で何時間制作業務にあてているか」ということです。どこの工程にどれだけの時間がかかっているのか。それが見たくて出来上がったのが、このタイムログの集計ページです。
単なる手を動かしている時間の合計ではなく、時間のかかり方からその人の苦手作業も読み取ることができるんですよね。モデリングに時間がかかっているな、エフェクトが苦手そうだなとか。各プロジェクトのタスク欄には、タスクエンティティに用意されている「ビッド」「タイムログ」「タイム ログ - ビッドの %」を表示していて、年間を通して入力してもらった実績をふり返ったときに、やっぱり苦手だったのかな? などを判断していこうと考えています。いろいろな検討材料になると思います。
トキトウ:単なる工数として見るだけでなく、個人のスキルも判断できると。
金苗:ある程度、ではありますが。普段の成果などに加えて、そこに数字の信頼性を乗せることができます。「時間がかかった」にも、好きだから頑張りすぎちゃったとかクライアントの修正がたまたま多かったとか様々なケースが考えられるんですが、そのへんの事情を差し挟まずに数字で見ると言うのがやりたくて。
で、昨年蓄積したタイムログから各工程の実績の平均値を出して、それをビッド欄に入れています。作業時間の見積もりは、予算が絡んだりもしますし私情が含まれてしまったり、どういう根拠でこの見積もりになっているのか説明できない部分がありました。メンバーそれぞれがどの工程にだいたいどれくらい時間がかかるのか、複数年にまたがるような長期プロジェクトでタイムログが貯まってくると膨大な実績値になりますので、じゃあ今期から、その平均値を出してタスクを振るときの見積もりとして使おうと。
「難しかった」とか「チェックが多かった」とか、スタッフたちが口にしていた曖昧な事柄が、タイムログを蓄積することでちゃんとこういうかたちで出てくる。見積もりの判断材料としては、昨年の実績値ですからスタッフ側も納得しやすいです。
一方で、新しいことや経験がないことを振る場合には長めに見積もりますね。そして習熟して手が早くなってくると、この数字に表れるんです。大いに役に立っています。
トキトウ:タイムログをしっかり入力していくのはハードルが高いという声を良く聞きます。そこを金苗さんはどのように社内で浸透させていったのか、秘訣があれば伺いたいです。
金苗:最初はすごく苦労しました。そもそもそういったものを入力をするという文化がなかったので。ただ、前任者が日報をつけるしくみを用意していたので、「日報の代わりにこれですよ」という言い方でルール化したところ、みんなすっと入ってくれました。
リモートワークに切り替わっても、かねてからタイムログを入力する習慣があり、これだけは入力してくれとお願いして。お互いに見えない状況下でも、作業実績を把握できましたね。Shotgunとチャットワークでのやりとりでほぼ目が行き届き、とても助かりました。毎日毎日様子を見つつ、入力されていなければ口を酸っぱくして忠告する。と言っても、チャットワークのグループチャットに、入力されてないよって言うだけですが。それをひたすらくり返していくと。
時には、何か未来を予測した数値を「先に入れておきました」って入力する人もいるんですが、実績値を入れてくれないと意味がありません。そういう事例は細かく見つけて指摘していくと、スタッフ側も、見られている数字なんだなということに気づいてくれます。「これが蓄積されるとどうなりますよ」というのはちゃんと説明していて、会社の実績として登録され、数値として表れていくものだから適当にはやらないでほしいこと、目的・用途を伝えてただのログではないことを理解してもらっています。適当に入力されると信頼性がなくなってしまうので、できるだけ100%入力してもらえるように努めています。
スタッフにとっては日報と同じで難しいことではないはずですが、やはり入力の習慣が根付かず、諦めて、やらなくなっていくというパターンは多いのではと思います。気づいたら誰か入力をやめちゃっているなんてことも起こります。でもそこで諦めず、入力してないじゃないですかと打ち返す根気良さは必要になると思います。
なぜそんなに根気を注ぐのかといえば、それだけ私がタイムログを大事に思っているから、入力してくれないと困るから、ということですね。次の案件のことを考えるのにも必要ですし、スタッフ個人の業務時間も気にしなければなりません。タイムログで問題が解決すると言うわけではありませんが、まずは数字として表すことで、交渉のテーブルに乗せることができる。問題が社内のことなのか、外なのか、予算なのか、が掴みやすくなってくる。忙しいので予算や人をくださいという話をしたくても、君にとっての「忙しい」と僕にとっての「忙しい」は違う、といった感覚的な話になってはどうにもなりません。そういうことを除外できるので、数字になって出るということを私自身はすごく大事だなと思っています。
トキトウ:営業視点でのShotgun導入や管理というのは、私にとっても新鮮な話です。1年間の平均で次の工数(ビッド)に割り当てるというのもすごく面白いなと。公平な作業の割り振りにつながっていくということがわかれば、入力する側も必要性を実感しやすいのかなと。
金苗:食事や雑務を抜いた1日の実務時間がだいたい6時間として、1ヶ月で約120時間。タイムログが130時間、140時間と貯まっていたらすごく多いということになり、ログを付けてもらっておくことで、助けが欲しいときにわかります。
さらに、勤務時間が多くなっている理由は何か? ロケに行っていたからだとか、編集作業に入っているからだとか。ログから読み取れることを材料に、「忙しいので、人ください」に留まらない話が組み立てられます。スタッフが言いたいことをちゃんと数字にして言うのが私の仕事でもあるので、これがあることでしっかりと上司と交渉することができるんですよ。
トキトウ:なるほど。作業実績が蓄積されることで「忙しい」という状況が数値化でき、そこから適正な作業配分や上司との交渉に広げていける。さらには次期案件の予算や工数計算にも役立っているわけですね。
[[SplitPage]]<4>機材やライセンスも一括管理
トキトウ:受注管理や人材管理だけでなく、機材管理、ソフトウェアの管理にもShotgunを使われているそうですね。
金苗:元々はExcelで管理していたんですが、見づらくて......Shotgunを使い慣れていく中でいろいろと考えて、「機材&ライセンス管理」というプロジェクトを立てました。カスタムエンティティで「ライセンス管理」を作って、そこに機材を登録して一覧できるようにしています。
▲整備中の「機材&ライセンス管理プロジェクト」に用意された、「機材管理一覧」(上)と「機材管理詳細」(下)ビュー。社内マシンのメーカー、OS、CPU/GPU/メモリなどのスペック、リモート環境下で誰に貸与したか、などが一覧できるようになっている。ソフトウェア管理にはタスクとパイプラインステップを流用し、インストール状況をステータス管理
金苗:現在弊社もリモートワーク中なので、スタッフごとにグルーピングして、今誰に何台マシンが貸与されている、という状況がわかります。パイプラインステップでソフトウェアメーカーを、タスクでソフトウェアを表現するというかたちを採りました。Autodesk、Adobe、Unity、RedGiant......などのメーカーごとにどのソフトのライセンスを入れているか、入れる予定だったけど入れていないのか、などをステータス管理しています。フォントパッケージも管理の対象です。
Unityなどは、アサインされるプロジェクトに応じてバージョンに気を遣わなければいけないので、バージョンも入力しています。ステータスに応じて行の色が変わるようにルールを設定していて、ライセンスを所有しているけどマシンに入れていない状態のものはソフトウェア名が赤くなるようにしてあります。2つの部署が合流したところなので、どのソフトがどこにインストールしてあって、というのもまだ把握しきれていない例があるためです。
トキトウ:これは基本的には金苗さんお1人で管理されているプロジェクトですか?
金苗:そうですね、これは今期から作りはじめたところで、ある程度完成したらもう1人、アシスタントマネージャーと共有して更新していこうと考えています。今後はステータスの構成やビューのレイアウトなどを整えていく予定です。これまでは一覧化が全然できていなかったのが課題だったので、こういう風にまとまっているというのは便利ですね。
先ほども触れましたが、Shotgunは必要な情報を必要なときに自在に取捨選択して、見た目を変えることができてわかりやすいです。そのとき欲しい情報を、手早くまとめ方を変えて閲覧できるというのは、すごく大きいと思っています。マシンの写真をサムネイル登録していくと、機材を管理しているという感じも出てきて、楽しくなってきます。
トキトウ:面白い使い方ですね。Shotgunを使ったことがない人がこういうのを見ると、「機材の管理もできちゃうんだ」と思うんじゃないでしょうか。
<5>Shotgun導入でミーティングが減った
トキトウ:正確には難しいかもしれませんが、Shotgun導入の前と後でこのくらい工数が削減できた、といったような効果はありましたか?
金苗:そういった観点では使っていなくて、「見える化」ができるようになった点が大きかったと思っています。数字として出せる、それによって、ちゃんと交渉ができる。使い方としては日報の側面が強いので、何人月で良くなったというような話題はあまりないですね。
機能の面では、Shotgunは動画に限らずファイルをアップロードできるというクラウドストレージ的な側面もあります。そこを活用して、FTPでのデータの受け渡しが必要なくなったという効果はありました。制作メンバー自体はShotgunに依存していませんが、何のタスクがどれほどあるのかなどプロジェクトの物量がわかるようになったので、急に知らないカットが湧いてきたとか、聞いていない作業を振られたとか、そういうイレギュラーが少なくなったとは思います。
トキトウ:ミーティングが削減されたといったことは?
金苗:「Shotgun見ておいて。わかるようにしておいたから」で済むようになったので、読みあわせなどはしないですね。みんなもそうした資料をShotgunに取りに行く習慣は根付いたのかなと。そういう意味では、気づいてみれば昔からあった習わしみたいなものは、確かになくなってきたような気はしますね。はっきりと確認したわけではないですが、案件のキックオフはやりますけど、それ以外のミーティングは少なくなりました。意識はしていなかったですが、それで結構回せているなと。ようやく浸透した感はありますね。
CG制作が主業務のスタッフからは、「Shotgunすごいですね」というようなことはあまりないと思うんですよ。逆に、私たち管理者側ではこういうのが欲しかったという声は大きくて。「Project Timeline」や「Crew Planning」は、まさにこれ! といった感じですし、そのあたりの評判が良いですね。過負荷になりそうな人材配置を見つけてすぐに分散させることができます。これらは他のメンバーや営業にも見えるようにしているので、誰が見ても部署が取り組んでいるプロジェクト全体を把握できます。最初の課題だった「スケジュールの見える化」は達成できましたね。
トキトウ:ちなみにこれで営業の利益がアップしたというようなことはあったりするんですか?
金苗:具体的にはわからないですけど(笑)。一番良いのは、データベースになることですよ。入力すればするほどどんどん情報が蓄積していくので、欲しいときに引っ張ってこれるっていうのが、Shotgunを使っていて一番大きいと感じています。過去のあのプロジェクトでどうだったかを参照して、それをベースに見積もりを出すとか。そうしたときにはタイムログが相当役に立つし、昨年はどこからの案件が多くて、今年はどうか、といった比較も容易にできます。これを基に交渉したり、予算を作る目安にしたり。数字もわかりやすいですし、見えるようになったねっていう印象ですね。
トキトウ:金苗さんの方から、Shotgun導入を考えている方へ伝えておきたいことなどはありますか?
金苗:そうですね......。最初の導入っていうのは、かなり大変だと思います。私も通常業務をしながらShotgunを覚えるというのが大変で、途中何度も挫けそうになりました。
でも、導入できれば苦労しただけの効果はあると思います。私のような営業ポジションからは特に感じるのですが、データベースにデータが蓄積されていくとやはり大きな財産になりますので、それを信じて根気強く使い続けてほしいと思います。また、みんなでやればやるほど、データを蓄積してくれる人が多いほど、比例して効果が大きく出るんじゃないかと。デザイナーが使うよりも、管理系の職種の人が使った方がより力を発揮するんじゃないかと個人的には思いますね。
トキトウ:なるほど。営業職の方でスプレッドシート管理をしている人はぜひチャレンジしてみてはどうか、というところでしょうか。
金苗:Excelのお手軽さとは感覚の違いが大きいので、そこの苦労はあると思います。使い方や用語など覚えることも多くて、パイプラインステップって何のことかわからないし、思ったように動いてくれないぞというようなこともあります。Excelのように、セルを引っ張って連番を入力、といったこともできるようにならないかなと思っているんですができません。計算フィールドは関数が足りないと思うこともありますし、浮動小数点数の計算には制限もありますし。
ただ、そういった計算面についてはCSVで出力してそちらで対応すれば済むことです。どのみちShotgunの画面が正式な書類になるわけでもなく、書類作成時にはExcelなどで作業することになりますから、厳密な数字などもそこで処理します。Shotgunの中でできなくてもまあ良いか、ということも多いです。
トキトウ:タイムログがしっかり入力されていって、全体の予算感が掴めれば大丈夫という。
金苗:そうですね、上司と話すときに「最近どうなんだ」って聞かれても、普段から見ている数字は頭に入りますし、「こうですよ」というのが言いやすくなりますね。ブラウザ上では常に起ち上がっているのですぐ数字を答えられますし、その数字も感覚的なものではない正確な、信頼性のある数字です。Shotgunによってそれが得られたというのは、導入した成果として大きなところだと思います。
トキトウ:これから取り組んでいきたいことなどはありますか?
金苗:機材管理プロジェクトの整備を進めて、アシスタントと一緒に管理できる体制にしていきたいです。ステータスの構成や、それぞれのビューのレイアウト、グルーピングなどをいろいろ変えていくと思います。
またステータスはShotgun全体で様々な用途があるため、使えば使うほど乱雑になっていってしまいます。これはどこかで整理したいなと思っています。受注管理プロジェクトのパートナー企業ごとに増えてしまうフィールドも同様ですね。このあたりの管理方法は、どうするのが一番良いのか考え続けていくことになりそうです。
トキトウ:なるほど。これからも使い方の工夫は続いていきそうですね。今回のお話の中では、特にタイムログ機能の使い方については、どうやれば上手く管理できるかという質問を多くのスタジオからいただきます。「入力したログがどのように活用されるのか、どれほど大事かを明確に・根気良く伝える」ということが非常に重要だということがわかりました。大変興味深いお話、ありがとうございました。