>   >  IPをプログラムで記述することで、より強固に成長させられる〜書籍『IPのつくりかたとひろげかた』イシイジロウ氏インタビュー
IPをプログラムで記述することで、より強固に成長させられる〜書籍『IPのつくりかたとひろげかた』イシイジロウ氏インタビュー

IPをプログラムで記述することで、より強固に成長させられる〜書籍『IPのつくりかたとひろげかた』イシイジロウ氏インタビュー

広告業界からゲーム業界を経て、アニメ・舞台演劇・アナログゲームと、メディアを越えて八面六臂の活躍を見せるイシイジロウ氏。近年では『新サクラ大戦』、『文豪とアルケミスト』、『モンストアニメ』などの制作にかかわる一方で、『Under the Dog』、『龍よ、狼と踊れ Dragon,Dance with Wolves~草莽の死士~』、『ドラゴンギアス』など、インディーズでの作品制作にも精力的に取り組んでいる。

そんなイシイ氏が2020年10月に初の著書『IPのつくりかたとひろげかた』を上梓した。『アベンジャーズ』、『スター・ウォーズ』、『スター・トレック』など、数々のヒットシリーズを例に挙げながら、IP(知的財産権)の成長過程を「ストーリーIP」、「キャラクターIP」、「世界観IP」に整理して語るという内容だ。クリエイターならではのユニークな視点で書かれたIP論について、本の内容を基に話を聞いた。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada


Information.

  • イシイジロウ氏に学ぶ
    ストーリー作成基礎講座
    「IPのつくりかたとひろげかた」編

    日時:11月20日(金)14:00~16:20
    (Zoom待機開放:13:50)
    ※セミナーの進行状況により多少変動する可能性あり
    会場:Zoom
    参加費:一般:4,000円/学生:1,000円
    主催:株式会社エッジワークス
    申込:peatix.com/event/1678187

SF映画の名シリーズを題材に独自のIP論を展開

CGWORLD(以下、CGW):イシイさんと言えばゲーム業界では知らない人がいない著名クリエイターですが、改めて自己紹介をお願いできますか?

イシイジロウ氏(以下、イシイ):1967年生まれで、リクルート、カルチュア・コンビニエンス・クラブで広告クリエイティブを担当し、ゲーム業界に転身しました。チュンソフト(現・スパイクチュンソフト)で『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(2004)、『428~封鎖された渋谷で~』(2008)、レベルファイブ『タイムトラベラーズ』(2012)などを制作し、2014年に独立後は『文豪とアルケミスト』(2016〜)で世界観監修、『新サクラ大戦』(2019)でストーリー構成、アニメ『モンスターストライク』第1シーズン(2015)でストーリー・プロジェクト構成などを担当しています。

  • イシイジロウ/Jiro Ishii
    ストーリーテリング代表取締役
    Twitter:@jiro_ishii

CGW:チュンソフトで中村光一さん、レベルファイブで日野晃博さんという、ゲーム業界の著名クリエイターから薫陶を受けられたわけですね。

イシイ:そうですね。どちらも素晴らしいクリエイターで、様々なことを学びました。

CGW:独立後はインディーズ作品にも精力的にかかわられていますね。

イシイ:まず劇場版アニメ『Under the Dog』(2016)で原作を担当しました。本作品ではKickstarterにも挑戦し、当時のアニメジャンルでは世界一となる1億円近い制作資金を集めることに成功しています。他にオリジナル舞台『龍よ、狼と踊れ Dragon,Dance with Wolves』シリーズをDeNAと組んで起ち上げていました。現在は盤上にフィギュアを並べて遊ぶボードゲーム『ドラゴンギアス』の企画をアークライトマックスファクトリーと組んで進行中ですね。大作にかかわりつつ、自分が原作を保持するプロジェクトも同時並行で進めています。

CGW:その上で今回、初となる著書『IPのつくりかたとひろげかた』を上梓されました。出版の経緯について教えてください。

イシイ:これは本の中にも書きましたが、もともとゲーム『Fate/Grand Order(以下、FGO)』の企画・開発・運営を行われている、ディライトワークスで開催した社内セミナーがベースになっています。前半が物語論、後半がIP論でしたが、後半で自分の好きな映画のシリーズについて話し始めたら、止まらなくなってしまって。

その過程で物語論が三幕構成をはじめ、かなり詳細な分析が進んでいるのに対して、IP論については参考になる書籍や研究が乏しいことに気がつきました。そこで、セミナーを通してある程度自分なりの考えが言語化できたこともあり、版元の星海社さんに企画提案を行なって、出版させていただくことになりました。

CGW:映画『アベンジャーズ』、『スター・トレック』、『スター・ウォーズ』など、ハリウッドの大作シリーズの成長過程を分析される一方で、ご自身の手がけられた作品群についても、詳細な解説が行われていますね。『スター・トレック』シリーズは個人的にも好きなIPで、2009年に公開されたリブート版も劇場で見ていましたので、読みながら膝を打ちました。

イシイ:『スター・トレック』シリーズは本当に勉強になりますね。

CGW:他に映像作品では『宇宙戦艦ヤマト』シリーズも出てきますね。ご自身でもタイムトラベルもののアドベンチャーゲーム『タイムトラベラーズ』を手がけられています。SFはお好きなんですか?

イシイ:はい。子どもの頃からSFが好きで、のめり込みました。ただ、世代的にはSF小説のブームに遅れて、映画やアニメなどでSFに触れた、いわゆるオタク第1.5世代です。もっとも、だからこそゲームという表現媒体を手に入れることができました。

余談になりますが、僕はオタクを「常に新しい表現やコンテンツを追い求める開拓者」で、だからこそ「永遠のマイノリティ」だと定義しています。世の中にはSFオタク、アニメオタクなどあるジャンルにこだわる人もいますが、僕はあまり興味がありません。ボードゲームだったり、人狼だったり、最近ではマーダーミステリーだったり、常に新しいムーブメントにアンテナを張るようにしています。

CGW:確かに今、コアなゲームオタクはコンシューマゲームやモバイルゲームから少し離れて、ボードゲームやマーダーミステリーに移っていますね。

イシイ:そこでどんな新しいものが生まれるか、楽しみですね。その一方でアニメーションでも3DCGによって、新しい映像文法が生まれています。新海 誠さんが個人アニメーションをデジタル技術で拡張し、メジャーな存在にされたことも、僕らがずっと夢をみていたことです。『鬼滅の刃』の大ブームについても同様ですね。ただ、それとメディアにこだわることは、また別の話かなと。

SFの話でいえば、1990年代によく「SFは死んだ」と言われましたよね。でも、僕は死ぬことが勝利だと思っていて。全てがSFになったから、SFは死んだんです。それは喜ばしいことですよね。ミステリもロックもそうです。これらはみんな死んで、勝利した。勝利したジャンルは僕にとっては、もう良いんですよ。

CGW:次のフロンティアに向けて。

イシイ:まさに『スター・トレック』ですね。

「ストーリーIP」、「キャラクターIP」、「世界観IP」って何だ?

CGW:話を戻すと、この本の中ではIPを「ストーリーIP」、「キャラクターIP」、「世界観IP」の3種類に分けて論じられていますね。IPの三大要素ともいえる、ストーリー・キャラクター・世界観の重要度を基準に分類されている点がユニークだと感じました。このうち、「ストーリーIP」の例として挙げられているのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作です。ストーリーを変えるとIPが破綻するので、ストーリーIPといった具合ですね。

同じようにストーリーは取り替えがきいても、キャラクターの取り替えが利かないものを「キャラクターIP」と定義されています。『ドラえもん』、『ドラゴンボール』などが好例です。最後に世界観だけが共通で、キャラクターもストーリーも取り替えがきくものが「世界観IP」です。『アベンジャーズ』に限らず、『機動戦士ガンダム』、『ウルトラマン』、『仮面ライダー』といった国産IPが例に出されています。

イシイ:そうですね。

CGW:ポイントとなるのが属人性の排除です。言われてみれば「なるほど」といった感じですが、こういった発想がどこから出てきたのでしょうか? どういった問題意識がありましたか?

イシイ:その前に自分の話をさせていただくと、本質的に僕はストーリーIPを好むクリエイターなんですよ。マイフェイバリットアニメは『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978)、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)、『THE IDEON 発動篇』(1982)で、洋画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作、『ターミネーター』(1985)、『ターミネーター2』(1991)、『ダイ・ハード』(1998)などです。邦画だと内田けんじ監督の作品などですね。どれも「続編が上手くつくれない」作品群で、これはストーリーIPの特徴です。

CGW:定義がわかりやすいですね。

イシイ:ゲームも同じで、これまでつくってきた作品を見ていただければわかると思います。キャラクターや世界観よりも、まずお話が面白ければいい。そういったゲーム作品をつくるべく、これまで頑張ってきました。その到達点が現実の渋谷を舞台にしたアドベンチャーゲーム『428』です。おかげさまで高い評価をいただきましたが、あれ、思ったより売れないぞって。

CGW:批評家の評価と売上があれだけ乖離したゲームも珍しかったですね。

イシイ:ただ、後になってふり返ってみると、『428』はザッピングシステムをはじめとしたストーリーの構築技術が精密なだけで、他の部分のこだわりは薄かったのかもしれません。キャラクターも世界観も、飛び抜けて革新的というわけではなかった。そこが原因だったと思います。ただ、そうしたゲームに至ったのも、さっき言ったとおり、僕がそうした作品が好きだという点が大きいんです。

CGW:なるほど。

イシイ:そんなふうに『428』のリリースで、ストーリーが精緻なだけでは、売上面で頭打ちになることがわかりました。それと同時に、自分が精緻なストーリーを好むクリエイターだということも自覚できました。その上で、「売れなくても自分が納得いくものを突き詰めていく、作家タイプのクリエイターになりたいのか」と自問自答した結果、そうではないと結論づけたんですね。

それよりも、自分に足りないところは何なのか、自分にできないことは何なのか。それがわかれば、それが得意な人と組めば良いと思いいたりました。じゃあキャラクターって何だろう。世界観って何だろう。それらをどう組み合わせていけば、勝利するIPがつくれるんだろうか。会社員時代から漠然とした問題意識はありましたが、独立する上で、様々なことを言語化するようになりました。

CGW:独立すると何でも自分で決められる反面、決めた責任もありますからね。

イシイ:そうですね。会社の枠がないので、どこの誰とでも話せますし、そこでいろんな議論ができたことも、言語化の助けになりました。相手の年齢も固定されないので、若い世代とも凄く話せるようになりましたし、逆に同世代の人間とはあまり話さなくなりましたね。僕らの年齢になると価値観が固定しがちなので。そうなると、時代に取り残されてしまうリスクが高まります。そうならないためには、自己否定が必要です。実際、40代になっても50代になっても自己否定をしてバージョンアップをしている人って、実際には少ないんですよね。

CGW:余談ですが、学校の先生をされると良いかもしれません。30歳くらい年下の世代と話すことが当たり前で、様々なジェネレーションギャップが体験できます。自分も『ガンダム』、『エヴァ』を知らない、見たことがない、という世代と接しながら、いろいろなことを教わっています。

イシイ:わかります。だからこそ人狼やボードゲームなどに興味があるし、そこで20代と交流しています。そういった場所に集まってくる若者は、かつてアニメが漫画映画だと言われていたころの僕らなんですよ。最先端の分野で、まだ世間に認知されていないんだけど、自分は好きだという。

そういえば、中年男性と思春期の女性の関係性を描いた映画として当たり前に『レオン』(1994)の話をしたときに、ある20代の女性から「『レオン』が基礎教養だと思ってもらっても困る」と突っ込まれたことがありました(笑)。いろいろと考え直させられるものがありましたね。

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メディア特性と3つのIP論

Profileプロフィール

イシイジロウ/Jiro Ishii

イシイジロウ/Jiro Ishii

ストーリーテリング代表取締役
Twitter:@jiro_ishii

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