CGWORLD.jpにて 「PHENOMENAL THINGS」を連載中のデジタルアーティスト・森田悠揮氏。同氏にとって初となる個展「OVERWHELMED」が11月2日(火)から9日(火)の1週間、 UltraSuperNew Gallery 原宿にて開催される。「デジタルで育った最初の世代」というバックグラウンドを活かし、CGを武器にアートの世界へと歩みを進める森田氏。「アートをする自分とデザインをする自分は別人」、「アートの世界ではまったくの無名」と話す同氏の主観と客観の見事なバランス感覚に、筆者自身も自分を見直すヒントを得たようだった。ときに悩みつつも、目標は明確にして軽やか。等身大で語る森田氏の「今」をインタビューした。


INTERVIEW&TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE


  • ◀森田悠揮氏による初の個展「OVERWHELMED」11月2日(火)から
    会場: UltraSuperNew Gallery 原宿
    期間: 11月2日(火)〜9日(火)
    時間:11時〜19時
    ※月曜定休日





「アートをする自分」と「デザインをする自分」はまったく別人格

CGW:今日はよろしくお願いします。CGWORLDのインタビューは4年ぶりですね。この4年間で変化はありましたか?

森田悠揮氏(以下、森田):めっちゃありました(笑)。何から何までかなり変わりましたが、アート作品を作り始めたことが一番大きな変化です。「アート」というか、作りたいものを純粋に1から100まで自分で作って、それを世に出していくという活動なんですが、これによりインプットもアウトプットもだいぶ変わりました。

CGW:好みにも変化があったのでしょうか? 

森田:これまで「CGデザイナー」としてCG業界で生きてきたわけですが、良いと思うものや好きだなと思う作品の基準が「CG業界に引っ張られたもの」だったんですよ。そこからもっと広い目でいろんなものを見ることができるようになったなと。様々な展示会やギャラリーに足を運んでいろんな作家さんの作品を見たり、海外で作品を展示する機会があったり。触れるものの範囲がかなり広がりました。

  • 森田悠揮 / Yuuki Morita

    フリーランスキャラクターデザイナー/デジタルアーティスト/造形作家

    国内外問わずアート、映画、ゲーム、広告、デジタル原型など様々なジャンルで活動しているフリーランスのアーティスト。ZBrushでの生物や怪獣などのクリーチャーデザインを得意とする傍ら、Houdiniを用いた動画、アート制作なども行う。
    初の著書 『the Art of Mystical Beasts』ボーンデジタルから発売中。

    website: itisoneness.com
    Instagram: yuukimorita
    Twitter: @YuukiM0rita

CGW:CG作品だけではなく、様々な芸術作品を見る機会が増え、アンテナの受信範囲が広がったんですね。

森田:はい。CGデザイナーとして、ArtStationなどでCGアーティストの作品を追っていた時期があったのですが、今ではジャンルを問わず、様々な作家さんの作品を見るようになりました。絵画から彫刻、陶芸、ファッション......、本当に何でも。今から思うと、昔の自分は視野が狭かったし、インプットの幅も限られていたと思います。

CGW:日々の制作を通して感じる変化はいかがでしょうか?

森田:僕が学生のころは「リアルなCG」が求められていて、「いかに現実に寄せられるか」がクオリティの評価に繋がっていたように思うのですが、今は「リアルさ」や「現実世界っぽいシミュレーション」だけが良いとは言えなくなったのではないでしょうか。一昔前までは、CGは「専門的な知識と技術が必要な狭き門の世界」として職業的には「技術職」という専門的な界隈だったと思うのですが、今では高校生がBlenderを使って自由にCG作品を作れるまでになっていますよね。身近になったぶん敷居も下がったし、表現の幅も広くなって「画一的な正解」がなくなったように感じています。ベースはリアルだけどどこか誇張したり、黎明期っぽいグラフィックだったり。様々な方向性の「良い」が生まれたのがここ数年のCG界隈の変化なんじゃないかな。

CGW:技術的な上手い・下手ではなく「こういう表現もありだな」と思えるトライアル的な作品をSNSなどで見かけるようになりましたよね。

森田:そうですね。映画産業やVFXの世界においては、やはり「リアル」で「現実世界を再現する」という制作であるべきかなとは思いますが、CGの用途が広がってきたおかげで本当に様々な正解があって良いと思えるようになったし、ここ3〜4年でCGが活かされる道がずいぶん広がったように感じています。あと、ミュージシャンがミュージックビデオで使う映像を自分で作るようにもなりましたよね。CGの使い方も様々で、VFX的にリアルさを求めるアーティストもいれば、あえて初代PlayStationやPlayStation 2のような90年代風のグラフィックを表現するアーティストもいて、色んな意味で幅が広がったと感じています。CGって本当にこれからですよね。

CGW:森田さんが制作される作品の変化についてはいかがですか?

森田:前回インタビューを受けたときはキャラクターデザインの仕事を主にしていたこともあり、スカルプトやデザインに力を入れていた時期だったので「仕事の内容」を重視していました。自分が得意とするクリーチャーが作れそうな案件であれば何でも引き受けていたんです。それがここ2年で「どういう会社/誰と仕事をするか」が重要になってきたように感じます。「自分がどのように必要とされているのか」を客観的に理解できるようになったので、自分にしかできない案件なのか、そうじゃないのかがわかるようになったんでしょうね。アーティストとしては「あなただから頼みたい」と依頼してくれる方が当然嬉しいので、そういった仕事を大切にしています。

CGW:そのように考えられるようになった背景には、経済的な安定やキャリアを重ねたことで難なくこなせるようになってきた、という側面もあるのでしょうか?

森田:すごくあると思います。特に経済面は大きく変わりました。仕事を選べるようになったのも、経済的な変化による影響が多少はあるように思います。ただ、クリーチャーを作るのは今でも好きですが「アウトプットしたいものの1つ」で、あくまでも「CG業界で生きていくためにやりたかったこと」なんですよ。今はCG業界の外に出て挑戦したいことがあるので、そういう意味でも「あなただから頼みたい」と言ってくれる依頼に重きを置くようになったように感じています。

CGW:森田さんがまだ学生だった頃からインタビューをさせていただいていますが、当時からアートに関するお話をされていたし、明確なビジョンを持たれているのが印象的でした。未来を語る一方で、現時点でできる限りの挑戦をされていて、「芸術とビジネス」の両方を現実的に考えられていましたよね。

森田:そう言ってもらえると嬉しいです。一貫性があって良かった(笑)。今の自分に何ができて何が求められていて、どういった社会的ニーズとマッチングするのか。そして、そこでどのように能力を使うかを客観的に判断する力はあるかもしれません。

CGW:CGの世界は変化が激しく大変ですが、激動の中にあってもまっすぐに自分の道を突き進む姿は格好良いですね!

森田:あはは、ありがとうございます(笑)。CGは本当に毎年ソフトがアップデートされるし、覚えることもいっぱいあるし大変ですよね。自分の場合は、業界のニーズに自分を適用させるというより「ニーズを生みしてながれを作る」方が得意なんだと思います。

CGW:自分でニーズを生み出すというのは、表現者として理想的な在り方ですね。CGの世界で「ニーズを生み出す」にはどうすれば良いのしょう?

森田:CG業界の中で言えば、格好良いものやすごいものを作ればニーズは勝手に生まれると思うんですよ。クリーチャーでいうとオークだったりドラゴンだったり、これまでにあった古典的なものを作り続けるのも必要ですが、まだ見たことのないものを世の中に提示してその反応を見る。いずれにしてもとにかくすごいものを作る。そんな感じなんじゃないかな。

CGW:森田さんは現在、「デザイン」と「アート」でいうと、どちらの制作をメインに活動されているんですか?

森田:1から自分の作品を作るということであれば、今はアートがメインです。本当に自分がやりたいことはやっぱりアートなんですよ。いわゆる「CGの仕事(クライアントワーク)」もありますが、そちらは「デザイナーの自分」がやっている感じで完全に分けています。というのも、「アートをしている自分」と「デザインをしている自分」がいてほぼ別人格で制作しているんですよね。ただ、こうやって「アート」と言っているのはそう表現するしかないからで、もしかすると自分がやっていることはアートじゃないかもしれない、と思うこともあります。正確に言うと、「純粋に心の底から作りたいものをただ作って世に出して、色んな人に見てもらうという活動」なので、これをアートと言って良いのかわからないです。

CGW:なるほど。「デザイン」は依頼やニーズを受けてその要望に応えるための制作で、「アート」は自分の内側から湧き上がる衝動で制作して世の中に送り出す、ということですね。

森田:そうですそうです。アートだけで生きていけたら良いのですがまだスタート地点に立ったばかりで、ようやく11月に初の個展を開くといった段階なので、これでやっていけるのかどうかはまだわからないです。個展はその感触を確かめるための試験的な試みでもあるんですよね。

CGW:どういった作品を展示されるんですか?

森田:展示するのは立体作品9作品で、この2年で制作したものです。大きさは50〜60cmほどのものから1m50cmくらいあるものまであります。自分でギャラリーを探してメールを送って交渉して。もう完全に個人活動というか、仕事では発散できない表現が行き着いた結果といった感じです。

CGW:そういえば、2019年の年末にはNYで作品を展示されていましたよね。

森田:はい。立体作品を作りはじめた頃で、Instagramに掲載した作品を見たとあるギャラリーの人から「コンペを開催するのでぜひ参加してください」とDMが送られてきたんですよ。立体・彫刻部門とデジタル部門、絵画部門、写真部門とあって、そのコンペで選ばれるとNYにあるそのギャラリーで展示できるといったものでした。それなりに影響力のあるギャラリーのようだったし、タイミングも良かったので応募してみたら、最終的に選ばれて展示させてもらったというながれです。

CGW:そうだったんですね。あらゆるところでSNSが活用され、国境を超えたオファーも容易になりましたよね。ところで、そのコンペにはどれくらいの応募があったのでしょうか?

森田:立体・彫刻部門だと2,000作品ほどのエントリーがあって、そのうちの7〜10作品ほどが選ばれて展示されたようです。

CGW:なかなか狭き門でしたね。

森田:どうでしょうね。それこそCGWORLDで連載させてもらっているのも、たくさんのデジタルアーティストがいる中で選んでもらえているわけだし、確率的にはもっと低いんじゃないですかね。

CGW:しかし、わずかな可能性でも挑戦してみようと思える感性は、表現やイノベーションの世界では重要なポイントですよね。道を切り拓くための原動力でもありますから。

森田:そうですね。あとは、「作りたいものを作れるようになった」というのも大きいかもしれません。

CGW:そもそも「作りたいものが作れない」というのは、具体的にはどういう状態なんですか? 技術的な問題ではないですよね。

森田:作りたいものが何かに流されていたりすると満足度は低いんですよ。例えば僕の学生時代でいうと、すごい作品を作っている人がいて「俺も負けないくらいその路線で作れるようになろう」と思っていたのですが、それってその人の作品を見て競争心が働いたことで「技術的に上手いものを作ろう」としていたんです。心から表現したいものではないのに、それで満足していたところがありました。でも今は本当に心から作りたいものが湧き出てくるし、それを表現するための技術もある。アウトプットのスピードもクオリティも上がったし、何の迷いもなく自分の表現に向かって進めるようになったんです。

CGW:なるほど。自分の表現ができるようになったのは、何かきっかけがあったのですか?

森田:きっかけというのはなくて、ずっと心の中で求めていたものが噴き出してきた感じです。クリーチャーなどを作るCGデザインの仕事ももちろん楽しいのですが、結局「他人(ひと)が作る作品のほんの一部」でしかありませんから。自分の内側から出てくるものを、0から100までちゃんと表現しないと満足しないんだと思います。

CGW:ようやく「表現者としてアートの路線に乗った」といった感じですね。

森田:本当にそんな感じです。しかし、ここに来るまでめっちゃ時間がかかったなと思って(笑)。美大生なんて18歳くらいからずっとこんなマインドでものを作ってるんですよ?  それに比べたら「俺、何やってたんだろう」ってすっごく思うんですよ。もちろんデザインの仕事を経験していなかったら今の表現もできていないわけで、これまでの経験は100%必要だったことは確かです。でも、最初から自分の表現や技法を探してアウトプットして行く美大生たちに比べたら、まだまだだなとすごく思います。

CGW:「遠回りをしてしまったんじゃないか」という歯がゆさは少しわかる気がします。しかしどれ1つとして飛ばすことはできない経験ですから。まだまだこれからなので焦らずに行きましょう。......お互いに(笑)。

森田:ほんとほんと(笑)、そうですね。でも今、めちゃくちゃ充実感があります。「アートの世界がいよいよこれから始まる」という感じで楽しみです。



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足下と次の一歩を見るだけ。でもたまに地図を見て確認。

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足下と次の一歩を見るだけ。でもたまに地図を見て確認。

CGW:森田さんは日本を拠点に活動をされていますが、今後も海外に拠点を移す予定はないのですか?

森田:これまでニューヨーク、サンフランシスコ、プラハ、パリと海外で展示をしてきましたが、やっぱり日本が大好きなんですよ。まず日本のインフラは本当にすごいと思うし、文化面では寺社仏閣が好きなのでそういった場所だったり、神社の一角にある彫刻だったり仏像だったり。デザインを含め小さな頃からそういうものに惹かれていたんです。あと地理的にも恵まれているため寒い場所から暑い場所まで少しの移動距離で簡単にアクセスできるし、海や川、砂漠や森、鐘乳洞......と、自然が豊富ですからね。そういうものにいつでも触れることができるのは日本に住んでいるからこそだし、そういった刺激が作品制作にも繋がっているので、日本から離れることはまったく考えていないです。

▲森田氏のアート作品「Vajrabhairava」

CGW:森田さんが目指しているのは「ハリウッド映画に携わりたい」とか「海外のビッグタイトルに携わりたい」といったものではありませんからね。最もインスピレーションを受ける場所にいたいと思うのは当然ですね。

森田:そうなんですよね。実際、アート作品にも「和のテイスト」のようなものを採り入れているし、今後もその方向で行くつもりです。自分が好きな文化的背景やストーリーを作品に組み込んで行きたいなと。一方で、連載「PHENOMENAL THINGS」で掲載しているものは「CGデザイナーとしての自分」が制作したものなので、アート作品と作風をからめるつもりはありません。

CGWご自身のサイトでも「アート」と「デザイン」を明確に分けられていますよね。

森田:完全に別ものです。名義を分けることも考えましたが、良い名前が思いつきませんでした。

CGW:境界線を引いて制作するのも、アーティストとしての1つの在り方ですね。とはいえ、どこかで「アートの自分」と「デザインの自分」が交差しませんか?

森田:そこなんですよね。CGデザイナーとしてのキャリアは今年で10年目になるのですが、デザイナーとして培った感性や能力を抜くのがすごく難しかったです。CGデザイナーのながれを持ち込んでアート作品を作ってしまうと、こじんまりとまとまってしまい、どうしても「デザイナーが作ったもの」になってしまう時期があって。それがすごく嫌でした。ただどちらも1人で制作しているので、いくら「別もの」と言っても、たまに割り切れない感覚になるのは仕方がないですね。

CGW:デザインに慣れて上手に作る下地が出来上がってしまうと、どうやっても綺麗に整ってしまったり、設計図のようなものが滲み出してしまったり。不本意ですよね。

森田:そうなんですよ。キャラクターデザインを散々造形してきたので、アナトミーもしっかりと勉強したし、映画やゲームのキャラクターもたくさん見てきたし。ここでも「リアリティ」というワードが出てくるのですが、そういった作品に登場するキャラクターは、ほぼ全てアナトミーに基づいて作られたものじゃないですか。そういうのがアートをする上でめちゃくちゃ邪魔になるんですよ。「アナトミーを理解した上で崩せる」のがベストかもしれませんが、美大生の作り方を見ていると、アナトミーを採り入れつつも「自由な表現」がちゃんと軸にあるんですよね。僕の場合は「アナトミーでガチガチに固めた土台」があるせいか、頭で考えすぎる癖が付いてしまっていたんですよ。

CGW:ルールをひとつひとつ手放して野生に戻るようなものなので、慣れるまでは方法論に縛られますよね。さて、アート作品を中心に制作する一方でクライアントワークもこなされていると思いますが、現在のCGの現場をはじめ身の回りの出来事はどのように映っていますか?

森田:今は「CGが上手いのは当たり前」の時代で、CGの勉強を始めて3ヶ月くらいの人がすごい作品を作っていたりするじゃないですか。そういったものを見て「すごいな」ではなく「当たり前」と思うようになってきました。その一方で、NFTで売れてる作品などを見てみると技術的には5分程度で作れそうなものだったりします。売り出し方やテイストの作り方といった「NFTという文脈」をからめた作り方が上手いですよね。

CGW:確かに。「文脈を理解する」というのは、現代を生きる表現者にとっては重要なポイントかもしれませんね。属する世界の中にいる自分を客観的に見たり、そもそも自分がいる現在地を知ることだったり。

森田:そう。「文脈を理解する」ってもうアートの領域ですよね。でもこれからは、デザイナーといえど文脈を理解することは必要になっていくんだろうなと思います。自分の作品を色んな人に見てもらわないからには理解できないことですけどね。

CGW:少し前に、エドワード・スノーデンの作品がNFTで5.4億円で落札されましたが、このようにアーティストが制作したものではなくてもアート作品になり得ますよね。彼の作品に対する評論は今は横に置いて、「誰が作ったか」という文脈によって価値が与えられることもある、と改めて実感しました。まったく同じものであっても、無名の誰かが作ったものでは価値も評価もたいして付きませんからね。アートには「制作者のバックグラウンドも重要」ということですかね。

森田:スノーデンレベルのバックグラウンドを作るのはすごく難しいですよね。それこそアートだけやっていてもその文脈は絶対に作れませんから。芸術の分野以外で何かやっていたり、幼少期の体験だったり、社会的な活動だったり。売れているアーティストにはそういったものがバックグラウンドにあると思います。となると、僕は皮肉や社会に向けたメッセージを伝えたいわけではなく、単純に頭の中で見えたビジョンを目で見たいから作っているだけなので、その線で言うと僕がやっていることはアートではないかもしれません。特に現代アートの場合は、かなり強い社会的メッセージが込められていますからね。

そこで自分の作品に無理やりメッセージ性を込めるとすれば......、資本主義的なアートの「カウンター的な意味」を作品に取り込むことはできると思います。「メッセージ性とかそういうの、もう良くね?」みたいな感じで。「単純に目で見て "良い" と思えるかどうかでアートをやろうよ」というスピリットでアートに喰い込んでいくことはできるかもしれません。

CGW:なるほど。それも面白いですね。現代美術では意味が求められすぎていたので、視覚の原点回帰ですね。ではCGの世界はどうでしょう。CGアーティストにもバックグラウンドや文脈が求められるものでしょうか。

森田:「売れるため」であれば必要かもれませんが、そもそも(現時点では)CGはアートではないのでCG業界に「アート」を求めてはいけないですよね。この間も自分のバックグラウンドについて考えていたのですが、僕が作っているアート作品は「感情的な部分」や「個人的なもの」にフォーカスを当てて具現化したもので、たまたまCGを使って制作しているだけなんですよね。ただそこで「CGを使って作品を作っています」というのは、今の日本のアート界にとってプラスに受け取られることではないように感じるんですよ。だから、むしろそれをプラスに変えるバックグラウンドを作って言語化できるようになれば良いのかなと。小学生の頃から自宅にMacがあってPhotoshopに触れていたのですが、「デジタルで育った最初の世代」というバックグラウンドも上手いこと育てていくべき文脈なのかなと思っています。

CGW:自分が育ってきた時代や世代という背景も、ひとつの個性で強みになり得ますね。日本のCG業界の中にいる森田さんは、知名度も高く有名なアーティストだと思うんですよ。CGに携わっている方であれば、恐らくほとんどの方がその名前を知っているのではないでしょうか。しかしアートの世界へと場所を変えた途端に、「無名のアーティスト」になってしまうんですよね。

森田:そう、それなんですよ! アートの世界では誰も僕のことを知らないんです。マジで本当に誰も僕の名前を知らない(笑)。CGの世界から出て、一般の人に自分の作品と名前を広げていくのが本当に難しいなと。どうすれば良いかを考えたところで解決しないし、文脈をいくら構築したところでどうにもならないし、そもそもそういうこともあんまりしたくないし。知ってもらうためにはやっぱり見た目のインパクトというか、パッと見て単純にすごいと思ってもらえるようなものを作るしかないから、......まぁ本当にやることはそれしかないのかな。

CGW:アートとなると、これまでとはちがった目で見られるでしょうし、歯がゆさがありますね。「CGで作ったんでしょ?」というリアクションもいまだにあるのでしょうか。

森田:ある(笑)。めちゃめちゃありますね。しかも「CGなんでしょ?」は、きっと良い意味ではないですよ。「PCで作るから楽なんでしょ?」みたいな。確かに(全てを手で作るよりは)楽かもしれないけど、さっきも言ったように楽だからCGで作っているわけではなく、「最初からCGで作ってきたから、今もCGで作っているだけ」ですからね。そこは誤解されると辛いところです。でもニューヨークで展示した際に色んな人と話をしたのですが、そのときはCGに対するマイナスイメージは受けなかったし何も聞かれなかったんですよね。造形やデザインを純粋に評価してもらえたので、とてもやる気が出たし嬉しかったです。

あと、アートにも様々なジャンルがありますからね。ニューヨークでの展示は「ポップ・シュルレアリスム」という比較的新しいジャンルだったのですが、少なくともそのジャンルの中では上手く受け入れてもらえました。一方、日本のアートの世界では技法や素材を見る人がまだ多いようにも感じるので、そういう人たちには響かないんだろうなと。そういったことも最初からわかった上でのアート活動なので、これはもう自分で顧客を広げていくしかないですよね。そもそも獲得する人たちがいないので、だいぶ時間がかかりそうです。

CGW:常々感じていたのですが、森田さんは「アートとビジネス」、「主観と客観」のバランスをとるのがすごく上手ですよね。感性や情熱に任せて作るだけではなく、客観的な視点をもってマネタイズするところまでちゃんと考えられていますよね。そんな森田さんにお聞きしますが、CGの世界はこれからどのように変化していくと思いますか?

森田:CGはまだまだ可能性がたくさんあるし、今後はもっとCGの間口が広がって行くと思います。これからも仕事は増える一方でしょうし、今からCGを始めるのも全然遅くないですよ。ただ、そのぶん競争率も高くなっていくし、オリジナリティがないと難しくなるはずです。専門性の高い前衛的な会社がもっと増えて、まだまだ別のかたちで「何かに特化した独自のブランド」でCGを作る人が出てくると思います。一方で「CGのことなら何でもやる」という存在もなくなってはいけないですよね。

CGW:まだ我々が知らない新たな技術や表現が出てきそうで楽しみですよね。

森田:そう、例えば「デジタルヒューマン」ってこれまで存在しなかったものじゃないですか。そういうものが新たに出てきそうですよね。Cafegroup岸本(浩一)さんは、5年前くらいからこういう未来を見据えてデジタルヒューマンの会社を作ったんだろうし、そんな感じで「自ら専門性を作り出していく」というか、それこそ「ニーズを生み出していく」余地がたくさんあるんじゃないかな。とにかくCGは表現的にもまだまだやりきれていないですよ。それこそ、あえて初代PlayStationのようなグラフィックだけを作るといった具合に「技術的に上手いことを売りにしない会社」なんかも増えていくだろうし。

CGW:そうですね、過去の技術や表現が何度も巡ってはアップデートされて、新しい表現になっていますからね。その一方で、これまでにまったくなかった技術や表現が生まれてニーズが作り出されていく。なるほど、冒頭にお話しされた「ニーズを生み出してながれを作る」はここに繋がるわけですね。最後になりますが、今後挑戦してみたいことはどのようなことですか?

森田:今は立体作品を作っていますが、立体・映像問わず挑戦してみたいことはたくさんあります。中でも、ブランドとのコラボレーションをしてみたいと思っていて、クライアントワークとして作るのではなく、僕の作品を気に入ってくれたブランドに対して完全にオリジナルで制作する、といった感じでコラボレーションしていけたら最高ですね。だからまずは自分の作品を見てもらうこと。そこに向けた第一歩目としての個展でもあるし。

CGW:目の前にある課題をひとつずつ、ですね! 長期的なプランを練るときはどれくらいの長さで考えるのですか?

森田:だいたい10年以内の計画です。1年後、3年後、5年後、10年後と刻んで、「人生計画」や「どこ・誰と仕事するか」みたいな感じで結構細かく。しかも毎日頭の中でめっちゃイメージしますよ。

CGW:「言語化」と「イメージ」って、自分を知る上ですごく重要ですよね。そこが曖昧だと外的要因に左右されがちですし。

森田:そう。めっちゃ重要。多分、これが一番重要なんじゃないかな。そうやって自分の舵取りをしているんですよ。でも結局は「今作りたいものをただ作るだけ」。それで良いんだと思います。

CGW:そうですね、足下(あしもと)をちゃんと見つつ。

森田:そう、それですね。足下と次の一歩を見るだけ。でもたまに地図を見て確認して。そのバランスですね。

CGW:自分自身のことを知っていきつつ、しっかりとご自身の歩みをコントロールされているんですね。お話を伺って気付きがたくさんありました。今日は本当にありがとうございました。個展、楽しみにしています。

森田:こうやって話すことで、自分でも確認ができるので助かります。こちらこそありがとうございました。



■森田悠揮氏による初の個展「OVERWHELMED」開催

会場: UltraSuperNew Gallery 原宿
期間: 11月2日(火)〜9日(火)※月曜定休日
時間: 11時〜19時