MVN の最大の特徴は、そのコンパクトさにある。 17 個の慣性センサーを搭載したフルボディスーツ、データの送受信機、電源バッテリー、小道具用の慣性センサーなど、全てのシステムが1台のスーツケースの中に収まる。セットアップや撮影、データのポスト処理に要する手間が少ないため、所要時間や人件費の面でもコンパクトな運用が可能だ。モーションキャプチャ事業を主力とするモズーに、 MVN の導入理由を語って頂いた。
▼About Company
株式会社モズー
モーションキャプチャとアニメーション制作を主軸とする、 CG プロダクション。スタッフ数は約 10 名。プロジェクトの内容やスケジュール、予算に応じて、モーションアクターやキャプチャ方法、ワークフローまで包括したコンサルティングを行えることが強みだ。
▼About Project
exsa株式会社のオリジナル企画用のモーションデータ撮影
exsa は東京と名古屋に開発拠点を置き、TVCM、PV 、アニメーションなどの CG を制作している。今回のプロジェクトでは、社員発のオリジナル企画に使うため、下のキャラクター用のモーションデータを撮影した。
モーション撮影を手軽に短時間で行うための選択
--竹原さんは、モーションキャプチャに関わり始めてから 15 年以上の大ベテランだそうですね。普段は光学式を使用することが多いそうですが、今回のプロジェクトでは、どういう意図で MVN を導入したのでしょうか?
竹原氏--今回のプロジェクトは、 exsa さんのオリジナル企画用のモーション素材を撮影するのが目的でした。社員教育や検証も兼ねているため、時間や人員を抑え、なるべくコンパクトな撮影にしたいというご要望がありました。
--つまり、短時間かつ少人数で撮影するために、MVN を選択したのでしょうか?
竹原氏--今回の場合は、それが1番の理由ですね。光学式での撮影は、設備や手間、人員など、様々な面で大がかりになってしまいます。これに対してMVNなら、比較的コンパクトに撮影できるというメリットがあります。加えて MVN の場合は、原理的に隠れマーカが発生しないため、光学式だと不可能な撮り方ができるというメリットもありますね。1つの撮影方法に限定せず、プロジェクトの内容や規模、納期などの条件に応じて、最適な撮影方法を選択できるようになれば良いなと、以前から考えていました。
--棟方さんも長年光学式を使用されてきたそうですが、MVNの使用感は如何でしたか?
棟方氏--セットアップから撮影まで、スムーズにできました。マーカをどこに付ければ良いかといった点で悩む必要がないので、モーションキャプチャ未経験の人でも、気軽に使用できると思います。
--撮影したデータを、リアルタイムに MotionBuilder へ流し込んでいましたが、データ確認やポスト処理のフローも手軽にできそうですか?
棟方氏--今回は MotionBuilder と、専用ソフトの MVNStudio の両方でリアルタイムに確認しました。データが軽いので、どちらの環境でもよく動いていましたよ。
竹原氏--光学式の場合はラベリングというプロセスを必要としますが、MVN は同様の処理を必要としないため、キャラクターを動かすまでが手早いという印象があります。もちろんモーションのブラッシュアップは必要なので、ポスト処理がゼロになるわけではありませんが、作業全体の工程はスリム化できそうです。
Point 01 付属の慣性センサーで、アクターはもちろん小道具のモーションも撮影可能
(写真左)MVNのフルボディスーツは、頭、胸、腰、肩(左右)、上腕(左右)、前腕(左右)、手(左右)、大腿(左右)、下腿(左右)、足(左右)の 17 箇所に慣性センサーが搭載されており、1人でも着脱が可能だ。
(写真右)MVNのスーツケースには、小道具用の慣性センサーが1個同梱されている(オプションにて最大3個まで使用可能)。今回のプロジェクトでは、槍や両手剣に見立てた小道具にセンサーを取り付け、モーション撮影を行なった。
プリビズ制作や実写の撮影現場に導入してみたい
--今後 MVN を導入してみたいプロジェクトがあれば、教えていただけますか?
竹原氏--一番やりたいのはプリビズですね。しっかりアニメーションを付けた、フル CG 映像のためのプリビズを制作したいです。実写映像の場合、必要なセットや工数を算出するのがプリビズの主な目的です。これに対してフル CG 映像の場合は、工数はもちろん、演出やカメラワークなどのビジュアル要素を、スポンサーやスタッフ間で共有することに価値があると思っています。目指す方向性を早期に共有できれば、軌道修正もより容易になりますから。そんなプリビズで最も要求されるのが、スピーディーでシンプルな制作体制なんです。
--極端な話、MVN があればディレクターとジェネラリストのアーティストによる総勢2名の体制で、プリビズ制作が可能になってしまいそうですね。棟方さんは、どういった形でMVNを試してみたいですか?
棟方氏--特撮番組の制作ですね。現在の制作フローは、最初に実写映像を撮影し、その映像を見ながら光学式のスタジオでアクターが演技するんですが、両者の動きを合わせるために毎週とても苦労しています。両者が接触するシーンや、相手から逃げるシーンは特に難しいですね。実写の撮影現場にMVNを持ち込んで、モーションデータも一緒に撮影できれば、制作に掛かる負荷を大きく減らすことができると思います。
--MVN は設置場所に縛られませんし、広い空間での撮影も可能なので、ワークフローを画期的に改善できる可能性があるわけですね。
竹原氏--まだまだ MVN を使い始めたばかりなので、セットアップの方法や、キャラクターへのデータの流し込み方法など、様々な検証をしていきたいと思っています。特徴や使い方を理解すればするほど、新しい発想が生まれ、表現の可能性が増えていくだろうと期待しています。
Point 02 ジャンプなどの上下移動をともなうモーションも撮影可能
今回のプロジェクトでは、上のような指示書に基づきジャンプモーションの撮影も行なった。MVN は、ジャンプや階段の上り下りといった、上下移動をともなうモーションにも対応できる。ただし、MVN の慣性センサーが撮影するのは空間における相対位置なので、地面との接地点などに誤差が発生することもある。その場合は、ポスト処理で接地点を指定し再演算を行うことで、より信頼性の高いデータを得られる。
TEXT_尾形美幸