今回はカナダのバンクーバーからお届けしよう。筆者は学生さんに向けて講演する際、「目標をしっかり定めると、その後の行動が自然とターゲットを向くようになる」という話を必ず入れるようにしているが、今回ご登場いただいた石井伸弥氏も、同じ意見をおもちのようだ。それでは早速、石井氏の貴重な体験談をうかがってみよう。

Artist's Profile

石井伸弥 / Shinya Ishii(Sony Pictures Imageworks / Senior Modeler)
愛知県出身。2011年サンフランシスコ市内にあるAcademy of Art Universityを卒業後、 ロサンゼルスのSony Pictures Imageworksにてキャリアをスタート。その後、Dreamworks AnimationBlizzard Entertainmentなどを経て、2014年にバンクーバーのSony Pictures Imageworksのモデリングチームの立ち上げメンバーとして参加し、現職。キャラクター・背景・ハードサーフェイスなどモデリング全般を担当するモデリングスペシャリストとして、実写&CGアニメーションなどジャンルを問わず幅広く作品に参加。今年公開の映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、スパイダーマンの新スーツ(インテグレーテッド・スーツ)を担当
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<1>「夢を追うのに年齢は関係ない!」、ハリウッドに向け再出発

――学生時代の話をお聞かせください。

小さい頃は非常に病弱で、1年の半分以上を病院で過ごすような子供でした。そのため学校の授業についていけず、成績はいつも最下位! ギリギリ入れた高校は県下でも有名なヤンキー校でした。押し寄せてくる将来への不安から逃げるようにバイクに跨がり、走れば走るほど社会から孤立していきました。気がつけば旅にハマっており、ふと「日本の外の世界を見たい」と、バックパック片手にオーストラリアに旅立ちました。

旅先で様々な人と出会い、自分が嫌っていた「The日本人の価値観」が小さいことだと気づかされました。この時、既に22歳手前。日本社会のレールから完全に脱線し、自分の行く末に絶望を感じていた僕にとって、オーストラリアでの体験は「希望の光」でした。

「夢を追うのに年齢は関係ない! 人生の巻き返しだ!」と思い立ち、再出発は「どうせなら夢はデカく、自由に好きなことして社会的に認められ、日本の奴らを見返してやろう!」と、ノートにやりたいことを100個書き出し、まとめた結論は「ハリウッド映画を手がけるアーティストになる」ということでした。

当時、ピクサー映画が好きだったこともあり「じゃあ、ピクサーで働こう」と楽観的に決め渡米しました。渡米後すぐにCGの学校に進学するための資金が無かったため、まず2年制のコミュニティ・カレッジに進学、卒業と同時にOPT()を利用してデザイン会社に就職しました。OPTが切れるタイミングでE-2ビザに切り替え、勤務しながら学費を貯めました。結果、希望の⼤学に⼊学できたのは28歳の時でした。

OPT(オプショナル・プラクティカル・トレーニング):アメリカの大学を卒業すると、自分が専攻した分野と同じ業種の企業において、実務研修を積むため1年間合法的に就労できるオプショナル・プラクティカル・トレーニングという制度がある。STEM分野で学位を取得すると、OPTで3年までアメリカに滞在することができるので、留学先の学校に確認してみると良いだろう

――留学されたときの話をお聞かせください。

サンフランシスコにあるAcademy of Art Universityに進学しました。大学進学には2つの理由があります。「労働ビザの取得」と「就職用のネームバリュー」です。アメリカの労働ビザ取得は大変難しいと知っていたので、大学の卒業生に与えられるOPTを取得し、その後、一般の労働ビザ取得を目指しました。また、目標のピクサーがあるベイエリアで一番有名な美術大学なら、学校と企業側(ピクサー)の「繋がり」があるだろうと思い決断しました。

実際、学校には「ピクサークラス」というクラスがあり、ピクサーの現役アーティストが講師として教えていました。

巻き返しが必要な僕は、最短でハリウッドに入るために「4年間を如何に行動するか」の戦略を立てました。企業が凄腕アーティストだけを求めているとは考えず、就職は「総合点合格!」であると。会社ではたくさんの人達が働いているので、チームを助けるためには技術が平均レベルの人材も求められるだろうと思いました。そのスポットに、自分のようなCG未経験者でも潜り込める隙があると信じ、人とはちがう就職へのアプローチを計画しました。

1年次は、業界の情報収集に力を注ぎました。僕はCGのことを何1つ知らず、「3DCGとは?」からのスタートでした。同時に卒業生の就職動向にも着目しました。

当時は大学4年次にデモリールの作成に取り掛かり、卒業と同時に企業でインターンを始めるのが一般的でした。そこで僕は、学生時代にインターンを始め、卒業時点ですでにハリウッド映画のショットがデモリールに入っていたら、他の学生と差別化ができると思い、4年次のインターンを就活計画の軸にしました。

2年次は、現地アーティストとのコネクションづくりに奔走しました。パーティーやイベントに積極的に参加してたくさんの人に自分を売り込みました。当時、SNSがまだメジャーではなく、現地アーティストと今ほど簡単に繋がることができなかったので、ひたすら自分の足を使って「ハリウッド映画業界を目指している日本人」の存在をアピールし「人」から「人」へと繋がりを広げました。結果、ピクサーのリードモデラーの方と繋がることができました。

3年次はデモリール制作が目標でした。毎日毎日、朝から晩まで机の前で作品づくりに没頭する日々でした。その結果、良い作品ができ、学内コンテストで3位に入賞することができました。

そして4年次、計画通り現地VFX企業のMethod Studioからインターンのオファーを貰いました。しかし! インターン先は僕が住んでいたサンフランシスコから640km離れたロサンゼルスにありました。当時はもちろんリモートワークなどはなく、オフィス勤務のみ。学校側もオンラインでの受講を認めておらず、クラスに出席しなければ卒業できません。悩んだ末、サンフランシスコからロサンゼルスに飛行機通勤をすることにしました。毎週の飛行機代で4万円飛ぶという大変な1年間でしたが、おかげで卒業時点のデモリールにハリウッド映画のショットを入れることができました。

――海外の映像業界での就職活動について体験談をお聞かせください。

大学卒業後の就活の場は、SIGGRAPHのジョブフェアでした。ジョブフェアには企業ブースも設置されており、僕たち就活生はそのブースに自分を売り込みに行くのです。

その当時は、ブースにいるリクルーターにデモリールDVDと履歴書を手渡ししていました。会場ではノートパソコンを持参し、その場で自分のデモリールを見せる人もいました。

ちょうどその頃はiPadが出たばかりで、僕はiPadにデモリールを入れて参加しました。当時まだ珍しかったiPadはリクルーターにウケが良く、普通であれば箱に入れられて終わりになってしまったであろう僕のデモリールを手に取って見てもらうことができました。「多くの応募の中からどうやって目に留めてもらえるか」を考えた結果です。

このSIGGRAPHで応募したロサンゼルスのSPIからオファーが来たことが、僕のモデラーとしてのスタートになりました。

海外の場合、やはり就労ビザの問題がネックになります。その後はOPTによって数社を転々とし、アメリカ大手ゲーム会社Blizzard Entertainmentのシネマティックチームで働いていたときに、SPIから「バンクーバーオフィスのモデリング部署の立ち上げに参加してくれないか?」とオファーをいただき、カナダのバンクーバーに移ってきました。

このときはSPIからカナダのビザをサポートしてもらい、幸いなことに苦労することなくビザの取得ができました。

職場で、オスカー像を手に

<2>大切なのは夢を掴むための戦略と「諦めない心」

――現在の勤務先はどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

SPIはバンクーバーを拠点とし、LA、モントリオールに支社を置き、アニメーションとVFX(実写)の両方を手がけるVFX会社です。アニメーションとVFXの両方を網羅する会社は少なく、最近では他社も真似して両方できるように切り替えているみたいです。

――最近、参加された作品について印象に残るエピソードはありますか。

今年の始めに日本でも公開された映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のキャラクターと背景モデルを担当しました。スパイダーマンの新スーツ(インテグレーテッド・スーツ)をモデリングしています。基本、VFXのキャラクターモデリングは、俳優の3Dスキャンモデルか、VisDevモデル(ZBrushでコンセプトデザイン用に製作されたモデル)が用意されているのですが、今回のスパイダーマンの新スーツはそれらが用意されておらず、2Dのデザイン画が2枚程度でモデリングしなければなりませんでした。

そこで、スーツの材質や性能などをデザイン画から読み取り、自分で色々想像してモデルをつくり上げることができたので非常に楽しかったです。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

モデル全般をモデリングできるところです。北米でのモデラーの仕事は、キャラクター・背景・ハードサーフェイスと細分化されており、背景なら背景だけを担当するのが一般的なのですが、SPIでは良い意味で細分化されておらず、アーティストが望むなら好きなモデルを担当できます。また、VFXとアニメーションではモデリングのテイストや作業方法が異なるのですが、SPIには双方の仕事が入ってくるので、VFXに飽きてきた頃にアニメーションに移ることが多く、良い意味で気分転換できるのが楽しいです。

近年、ヒーローキャラクター、ヒーロー背景など映画に置いて重要なパートを担当することが多いので、非常にやりがいがあります。

モデリングという作業は、CG映画製作の段階で初めて物を3Dに起こす作業です。何も無いところからキャラを生み出したり、乗り物や街並み、森や島などを作成することは、新たな世界を創造している気分になります。自分が作成したキャラクター達が、自分のつくった世界で駆け回っているところを映画館で見るととても興奮します。

――英語や英会話のスキルはどのように習得されましたか?

僕の英語習得の道は、オーストラリアの路上から始まりました。1年間、路上でアフリカのドラムを叩きながら、街ゆく人達に身振り手振りを加え、がむしゃらに喋りながら「日常会話」を勉強しました。その後、大学進学を目的として渡米しました。この時、僕のTOEIC点数は400点前後。進学のために英語を学ぼうと語学学校に入学したのですが、点数は全く伸びず、語学学校の授業は役に立ちませんでした。

僕に英語を教えてくれたのは、現地のネイティブ達ではなく、語学学校で出会った1人の日本人でした。彼は、日本の進学塾の英語教師でした。彼の英語勉強法は独特で、英語を語学として考えるのではなく、数学として考える勉強法でした。その結果、3ヵ月で見事TOEIC850点オーバーを取得し、その後の進学・就職も無事でき、今でもこの方法は役立っています。

英語には大きく分けて2つの勉強法があると思います。「進学・就職」を目的とするのか、「コミュニケーション」を目的とするのか、です。前者であれば、日本での学習で70~80%迄スキルを上げられるので、日本での勉強をお勧めします。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

一番大事なことは「いつ」、「どこで」働きたいかを、まず決めること。例えば、自分の好きな映画やゲームを思い浮かべ、その制作会社で働いている自分を想像してください。会社名が出てくると、漠然と考えていた「夢」を「現実」に感じることができます。

また、期限を決めることでゴールが見え、遡って必要な時間を算出でき、自分に合った計画を立てるうちに、あやふやだった足元に「道」が出きてきます。後は、コツコツと自分の立てた計画をこなすだけ! 諦めず、日々の小さな努力の積み重ねが、あなたを目標へと連れていってくれます。CGスキルや英語力がなくても大丈夫! 年齢や性別も海外では関係ない。大事なのは、夢を掴むための綿密な戦略と諦めない心!!

「夢は決して逃げたりしない、逃げるのはいつも自分自身だ~!!」

SPIの仲間達と

【ビザ取得のキーワード】

①Academy of Art Universityを卒業
②学校卒業後OPTを取得、ロサンゼルスのSony Pictures Imageworksに就職
③バンクーバーのSony Pictures Imageworksに移籍、就労ビザ取得
④Sony Pictures Imageworksからカナダ永住権をサポートしてもらい、取得

あなたの海外就業体験を聞かせてください。インタビュー希望者募集中!

連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。
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TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada