カナダのバンクーバーからお届けしよう。今でこそ多くのVFXスタジオが存在するバンクーバーだが、今回登場いただいた藤原氏が海外での就職活動を始めたころは、バンクーバーにもモントリオールにも、まだ大手スタジオが存在しなかったという。そこからILMで活躍するようになった現在までのキャリア・パスについて、話を伺った。

Artist's Profile

藤原淳雄 / Atsuo Fujiwara(Industrial Light & Magic Vancouver / Senior Animator)
大阪府出身。東京でCGデザイナーとしてキャリアを開始。4年後の2006年よりカナダに移住し、CM・TVシリーズ・ ゲーム・映画など様々なジャンル、複数の会社でアニメーターとして経験を積む。現在は、Industrial Light & Magic(以下、ILM)に所属。また、オンラインスクールAnimationAidの発起人であり、共同代表も務める。2016年初頭の同スクール開校後は講師、運営にも携わっている。
www.ilm.com

<1>夢の計画書に書いた「スター・ウォーズに関わる人になる!」という決意

――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

小学校の低学年の頃から、映画好きの両親に映画館に連れて行ってもらいました。

記憶に残っているのは、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』、『E.T.』、『ネバーエンディング・ストーリー』、『ベスト・キッド』、『ランボー』です。

特に、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』のスピーダー・バイクのシーンはスクリーンで観ると大迫力で、すごく興奮したのを覚えています。映画のパンフレットが家にあって、イウォークたちがかわいくて何度も見返していました。

ランボーが崖からジャンプして自分で腕を縫うシーンを見たときは、怖くて泣いてしまって、映画館から連れ出された記憶が残っています。中学に入ってからは、自分でレンタルビデオ屋さんに行って借りた映画をたくさん観ていました。

子供の頃から運動が大好きで、中学ではバレーボール、高校では中学からずっとやりたかったアメリカンフットボールクラブに所属して、クラブ活動漬けの毎日でした。運動以外には特にやりたいことが見つからず、周りにながされるまま大学を受験しました。浪人して大学の経営学部に入学しましたが、アルバイトで稼いだお金で、スキー、スノーボード、サーフィンばかりしていました。大学3年生になって、就職活動が始まり、やっと自分の将来や仕事について考えるようになりました。

新しいもの好きだった父が買ってきたマックに触れる機会があり、その頃からパソコンを使う仕事がしたいなぁという気持ちが湧いてきました。

そんな中、レンタルビデオで借りてきた『トイ・ストーリー』を見て、「これだ! パソコンを使って3DCGをやりたい!」と思うようになりました。

親に大学に行かせてもらった上に、そこからまた異なる分野を目指すというのは、さすがに都合が良過ぎると思い、「海外で映画制作に関わりたい」という夢の計画書を書いて、親に見てもらいました。大学を卒業することと留学費用を自分で出すという条件で、就職活動をやめて3DCGの勉強をすることを認めてもらいました。

その夢の計画書には、当時『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開されていて「数年後のエピソード3に関わるようになる」という無謀な夢を書いたと記憶しています。

結果的に、ここで大学を中退しなかったことは、後にカナダ就労ビザ申請や移民ビザのポイントにプラスに働きました。大学4年間でやりたいことを見つけることができたので、親には本当に感謝しています。

卒業後、留学にかかる資金が思うように貯まらず、留学を一旦諦めて大阪のデジタルハリウッドで3DCGを勉強することにしました。アニメーションの授業では、キーを打ってCubeやSphereが動くだけで凄く興奮したのを覚えています。そのときからずっとアニメーションが一番好きな作業です。

――日本で仕事されていた頃の話をお聞かせください。

日本で働いていたのは20年近く前なので、今とはかなり状況も異なると思いますが……デジハリでは「CG業界は徹夜が当たり前で給料も安く、好きじゃないと続かないよ。クラスで就職できるのは1人か2人」と言われ続けていました。実際に東京でCGデザイナーとして仕事を始めるとすぐに徹夜が続き、机の下で寝たり、数日帰らない日もありました。仮眠室やシャワーもあって、会社に住んでいるような人がいたり、先輩の中には「CG業界の未来はないよ。やめた方がいい」と言う人もいました。

1年後には別会社に移り、環境は少し良くなりましたが、厳しいスケジュールや長い労働時間は続き、無茶な仕事を終わらせろと上司からプレッシャーをかけられることもありました。働き始めてから3年を過ぎた頃には、大好きだった3DCG制作も少しずつ嫌いになっていて、給料もなかなか上がらず、残業代もちゃんと出なかったので、将来への不安を感じていました。

そんな中、後輩が上司からひどいパワハラを受けているのを目の当たりにしました。気持ちの糸が完全に切れてしまい、もう会社も3DCGも辞めようと思いました。しかし、どうせ辞めるなら初心に戻って「海外で働く」という夢にチャレンジしてみよう。そう考えるようになったんです。

結果的に、このネガティブな出来事が、僕の人生の大きなターニングポイントになりました。

たくさんのことを教えてくれた先輩や共に苦しい状況を乗り越えた同僚には、今でも感謝しています。同僚との楽しい思い出もありますし、やさしい先輩もたくさんいました(笑)。今でも厳しいスケジュールや難しい仕事が来たときに「諦めず何とかする」という気持ちになれるのは、日本での経験があったからだと思っています。

――海外での就職活動は、いかがでしたか?

CGWORLD誌で「海外で働く日本人アーティスト」の連載を読んで、アメリカでのビザ取得は難しいというのは分かっていたので、まずワーキング・ホリデー制度を使ってカナダに行って、そのあとチャンスがあればアメリカに移ろうと考えていました。

カナダに行った2006年当時は、モントリオールやバンクーバーにはアメリカやイギリスの大手映像制作会社のスタジオはなかったので、まず地元のアニメーションや映像制作の会社が多いカナダ最大の都市トロントに行くことにしました。

就職活動は、トロントの映像会社10社ほどにデモリールやレジュメを郵送するところから始めました。

そのうちの1社からすぐに電話がありました。ところがカナダに来る前に受けたTOEICテストが370点の僕の英語力では、どこの会社から電話がかかってきたか聞き取れず、会社の名前を聞き直すすべも分からないままに話がどんどん進みました。

面接の日時だけは数字でなんとか聞き取れましたが、頭の中は「やばい、どこの会社だろう? どこだろう? どこだ……汗」でした(笑)。電話の最後に質問がないかと言われましたが、今さら社名は訊き返せない……と、とっさに思いついたのが住所を訊くことでした。何度も何度も聞き直しながら住所をメモり、電話を切りました。デモリールはすでに送っていたので、知ってるはずの住所を尋ねるなんて「変な人だ」と思われていたでしょうね。

自分の英語力では、そのメモが本当に合っているかも自信がもてず、面接当日に答え合わせとなりました。会社に行って受付の人に面接に来たと伝えると、たしかに面接がありました! もうそれだけで軽くガッツポーズです。

面接の準備は、想定できる質問を書き出し、その答えを考え、あとは丸暗記でした。

その会社は、Guru Studioという、当時はコマーシャルの仕事が中心で、僕の好きなスタイライズされたアニメーションが得意な会社でした。

面接では、いくつかの質問を聞き取れ、なんとか答えることができましたが、まったく理解できない質問もあり当てずっぽうで暗記した中の1つを答えてました。質問とかなり異なる返答もあったと思いますが、カタコトの英語を喋るけど「なんだか凄い情熱がある」というのは伝わったようで、オファーをもらうことができました。

後で聞いたところ、日本好きの社員が数名いて「日本人を採りたい」と言ってくれたそうです。

Guru Studioは、リーマンショックのせいで仕事が無くなるまでの4年間、就労ビザを何度も更新してくれました。その間にカナダ永住権の申請もしていましたが、ビザ・オフィスやシステムの変更と重なって、いつ取れるか分からない状態が続きました。

その後は、仕事を求めてモントリオール、ハリファックスと都市を移動し、TVシリーズやゲームの仕事などを続けながら2012年に何とか永住権を取得することができました。

その頃には、アメリカの大手映像会社がバンクーバーにいくつもスタジオを開き、当初考えていたアメリカへの移動の必要が無くなりました。バンクーバーに移ってからは、Sony Pictures ImageworksMPC、Weta Digital(現・WetaFX)などでVFX映画やアニメーション映画に携わり、現在は、ILMで働いています。約20年かかりましたが、学生時代に書いた夢の計画書を実現することができています。

7年前に、現在CGWORLD編集長の若杉 遼君とオンラインスクールAnimationAid(※)を立ち上げて、アニメーションの講師もしています。カナダでアニメーターをやっていると言うと、みんな「良い仕事だね」と言ってくれます。給料もカナダの平均年収より高く、技術のある選ばれた人だけができる魅力的な仕事というイメージです。僕の経験やスキルを伝えることで、日本のCGアニメーターの技術が上り、より魅力的な仕事になればと思っています。

※関連記事:「アニメーションエイド ポーズ宿題」

Sony Pictures Imageworksにて『スパイダーマン:スパイダーバース』のオスカー受賞式の中継をオフィスでチームと一緒に見る会に家族で参加

<2>夢のILMで活躍中、後進へのアドバイスは「とにかくデモリールを出すこと」

――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

ILMは、ジョージ・ルーカスによってスター・ウォーズを制作するために1975年につくられたVFXの会社です。親会社がルーカスフィルムで、ディズニーグループに所属しています。ヘッドオフィスはサンフランシスコで、ロンドン、シンガポール、シドニー、バンクーバーにスタジオがあります。今はバンクーバーに所属していて、主に自宅からリモートで仕事をしています。子供の頃からILMが手がけた作品をたくさん観ていたので、夢の会社で働けていることに毎日幸せを感じています。

――参加された作品の中で、印象に残るエピソードはありますか?

ILMに入って最初のプロジェクトは『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』でした。完全リモートワークで、当時4歳と3歳だった子供に、仕事姿を見せられる機会が増えました。いつも画面には恐竜が映っていたので、子供たちは僕のことを、恐竜が大好きだと信じ込んでいます。プロジェクトが終わった今でも恐竜の絵を僕のために描いてくれたり、ジュラシック・パークのLEGOを一緒につくり楽しんでいます。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

ラフ・アニメーション(ブロッキング)に動きやディテールを足すことで、アニメーションを再生したときに「お、生きてきた。いい感じに動いてる」となる瞬間が一番好きです。

プロジェクト毎に新しいキャラクターやアニメーションスタイルに挑戦できるのも魅力の1つで、毎日楽しく仕事しています。

現在はアニメーション映画、北米版『Ultraman』の制作に関わっています。子供の頃から親しみのある日本のキャラクターのウルトラマンに、カナダに居ながら関わることができて、とても嬉しいです。

――英会話のスキルは、どのように習得されましたか?

友達から勧められたシットコム(シチュエーション・コメディ)ドラマ、『フレンズ』を何度も観ました。生活で使える表現や、英語での笑いの取り方、北米の文化などが学べるのでお勧めです。途中からはドラマの内容が気になりすぎて、勉強というより普通に楽しんで観ていました。

今だと少し古くなってしまうので、何か別のシットコムを見つけるのが良いかもしれませんね。あと、格安英会話のレッスンを毎日1時間ぐらい続けてました。話すことへの慣れと自分の考えを英語で言葉に変えるトレーニングになりました。

海外に来るとやらなければならない事務手続きや、ちょっとしたトラブルなども多くあります。本当に分からないこと以外は、できるだけ自分で解決するようにしていました。お陰でサバイバル能力が上がって、英語を喋ることに自信がつきました。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

「デモリールをとにかく出す!」

あなたのレベルを決めるのは、採用する会社です。自分で無理だと決めつけず、まずはデモリールを出してください。もし返事が無ければ「返事をもらえない無いレベル」という訳ですが、採用する担当者も人間です。次にデモリールを更新したときに「成長が見える」と気に留めてくれるかもしれませんし、少なくとも会社に入りたいという情熱を感じると思います。

そして、「人にはナイスに!」

アニメーターは、チームワークの仕事です。人にナイスにすることで、みんなが気持ちよく仕事できると思います。また一緒に仕事したいと思う人になりましょう。

ILM Vancouverにて。リモートワークなので、まだ1度しか出勤したことがないそう

【ビザ取得のキーワード】

①大学卒業後、デジタルハリウッド大阪校で3DCGを学ぶ
②東京でCGデザイナーとして経験を積む
③4年後、ワーキング・ホリデー制度を利用してカナダのトロントへ
④就労ビザを何度か更新し、カナダ永住権を取得

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TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada