>   >  新人講師がゼロから挑むUnityによる人材教育:No.07:「あそびのデザイン講座」の根底に流れるデザイン思想とは?
No.07:「あそびのデザイン講座」の根底に流れるデザイン思想とは?

No.07:「あそびのデザイン講座」の根底に流れるデザイン思想とは?

「あそびのデザイン講座」と先行研究との接続

−−「あそびのデザイン講座」で提唱されている遊びの理論と、アカデミズムとの接続についても教えてください。前回の連載でも書きましたが、「あそびのデザイン講座」自体が、MDAフレームワークを下敷きにされている印象を受けました。

安原:MDAフレームワークについては、名前を聞いたことがあるくらいで、内容はほとんど知りませんでした。MDAフレームワークは僕らより下の世代が、僕らがつくってきたゲームを分析して、そこからつくり上げていった理論だと思うんですよ。だから、僕はあまり興味がなかったというのが、正直なところです。

−−ただ、これから安原さんが大学で業績を積み上げて行かれるのであれば、ご自身の理論と先行研究との接続について、考えていく必要がありますよね。

安原:それはもちろんです。卒業研究をしている学生たちの面倒も見ているので、一緒に勉強している感じですよ。その上で「あそびのデザイン講座」の内容もブラッシュアップしていきたいですね。


−−日本デジタルゲーム学会やGDCで発表されるようなことは考えられていますか?

安原:時間があれば、ぜひ。というのも、学校の先生って授業の準備に採点にと、いろいろ時間が取られますよね。この前うっかりゲームプロデュース論で課題を出したら、出席していた約230人分の回答をチェックする羽目になりました(笑)。とてもじゃないけど、これは手が回らないぞと。

−−「あそびのデザイン講座」は15回目が出たところで終了ですか? 今後、内容の拡張をされる予定はありますか?

安原:現在14回目が最終チェック中で、15回目も10月中には公開される予定です。ただ、今回はUnity2018で実装されたシネマシーンやプロビルダーといった機能には触れていません。そのため、今後は「あそびのデザイン講座」の内容をブラッシュアップしながら、そうした新機能についても盛り込んでいくつもりです。ただ、シェーダやアニメーションのように、専門以外の分野までやるつもりはありません。大学には僕以外にも優れた先生がたくさんいらっしゃいます。学生にも興味があれば、そうした先生方に教わってくださいと言っています。

−−「あそびのデザイン講座」はUnity上でゲームデザインをガチで学べる、唯一無二な教材という点が特徴です。一方でUnityで処理負荷が大きい部分は、シェーダや大域照明といった、絵づくりの部分だと思います。そのため、そういった高負荷の部分は削除して、ゲームデザインだけを学べるような、専用のUnityがあると良いなと思います。

安原:確かに、教育用のエディタに特化したUnityがあると良いですよね。もっとユーザーのすそ野が広がると思います。実際、ゲームデザイナーがプロトタイプをつくるだけなら、それくらいで十分かもしれませんし。

−−Google Sketchがそんな感じになるかなと思いましたが、広まりませんでしたね。

安原:確かにそうですね。ちょっとアバウトすぎたのかな。

−−Unityというデファクトスタンダードなゲームエンジンとの接続性が重要なんだと思います。Scratchも同様で、Scratchにどれだけ熟練しても、それだけではプロとして仕事ができませんよね。しかし、Unityをベースとした簡易エディタであれば、そのままUnityに移行できます。

安原:まさに、それは言えていますね。

−−あとは海外展開ですね。英語版はつくられないんですか?

安原:そこも時間次第なんですよ。実は非公式ですがスペイン語版があり、メキシコで使われているようです。皆さん日本語を自分で勉強して、スライドを翻訳して使っているようです。

−−じゃあ、できるだけ早く英語で公式版を出さないといけませんね。

安原:はい、自分ひとりだと手が回らないので、分担してうまく進められればと思います。

−−最後になりますが、安原さんはAAAゲームの開発にディレクターやゲームデザイナーとして関わられた経験があり、ゲームデザイナー向けの教育資料をつくられていて、それを基に大学で授業もされているわけですよね。そういった人は世界でも非常に少ないと思うんですよ。もしかしたら、安原さんだけかもしれない。

安原:わからないですが......そうかもしれません。

−−だからこそ「あそびのデザイン講座」は貴重だと言えますし、そうした教材がもっと増えれば、ほかの大学や専門学校でも活用できます。とりあえず、僕が授業に使いますので、今後の展開をお待ちしています。

安原:ありがとうございます。これからもがんばります。



今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
(第8回の公開は、2018年11月以降を予定しております)

プロフィール

  • 小野憲史
    ゲームジャーナリスト

    1971年生まれ。関西大学社会学部を卒業後、「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲームジャーナリストとして活動。CGWORLD、まんたんウェブ、Alienware zoneなどWeb媒体を中心に記事を寄稿し、海外取材や講演などもこなす。ほかにNPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長、ゲームライターコミュニティ世話人など、コミュニティ活動にも精力的に取り組んでいる。2017年5月より東京ネットウエイブ非常勤講師に就任。

本連載のバックナンバー

No.01:「あそびのデザイン講座」活用レポート
No.02:Unityスクリプトに初挑戦
No.03:Unityアセットストアに初挑戦
No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計
No.05:到達度のちがいをどのように捉えるか?
No.06:あそびのデザインとMDAフレームワーク

その他の連載