「アセットを並べて終わり」というゲームが多すぎる
−−それにしても、ここ数年の安原さんのキャリアチェンジはすごいですよね。Naughty Dogを経てユニティに移られた時も驚きましたし、そこから大学の先生を始められたのにも驚きました。
安原:Unityを最初に触ったときに、これは良いなあと思ったんです。
−−ただ、Naughty Dogでも内製ゲームエンジンでゲーム開発をされていましたよね。Unityとの差がそこまであるとは思えませんが......。
安原:やっぱりユニティの「ゲーム開発の民主化」という言葉に惹かれたところはありますね。それにアメリカでは日本に先駆けて、サードパーティーのマルチプラットフォーム戦略が一般的になっていました。そのためUnityの勢いを肌で感じていたんです。自分も使ってみて、これはすごい、すぐにゲームがつくれると思いましたし。
−−2010年ごろの話ですね。
安原:それと共にインディゲームのブームもありました。Unityを使えば、自分たちがつくりたいゲームをすぐにつくれて、いろんなハードに同時展開できますよね。これから、このながれが来ると思ったんです。それで仕事が一段落したところで、ユニティにコンタクトをとりました。2016年のことです。
−−とはいえ、「ゲームをつくる人」から、「ゲームづくりを支援する人」にキャリアチェンジされたわけじゃないですか。そこに葛藤などはありませんでしたか?
安原:なんというかなあ、やっぱりAAAゲームだと、開発規模が大きくなりすぎて、自分の好きなようにはつくれないんですよ。
−−ただ、そこでインディゲームという身の振り方もあったと思います。特にアメリカなら、そういった開発者がたくさんいると思いますし。
安原:そこはUnityの功罪で、海外のインディゲームといっても、アセットストアからアセットをわーっと落としてきて、ばーっと並べて、できた! みたいな人がいっぱいいるわけですよ。実際に遊ぶと、はじめの2分くらいはおもしろいんですが、そのあとが続かない。一見豪華でも、次に何をすれば良いのか、わからなかったり。
▲「あそびのデザイン講座」PDFの抜粋
−−ああ、なるほど。
安原:どうしてみんなゲームデザインについて、まじめに考えないんだろうと思っていました。そんなとき、はたと「ああ、教える人がいないんだ」という結論に行き着いたんです。ゲームづくりって、その背後にいろんな知識が必要じゃないですか。ハードウェアやソフトウェアの知識も必要だし、リベラルアーツだって必要だし、UIひとつつくるのだって、その地域の文化や慣習が関係するし。それに加えて、自分がそれまで蓄積してきたものがなければ、その人なりのゲームってつくれないですよね。
−−はいはい。
安原:一番危険なのは、ヒットしているゲームの真似をして終わっちゃうこと。確かに、Unityを使えばそういったゲームでも、比較的手軽につくることができます。だけど、それで終わっちゃうとまずい。実際、会社からヒットしているゲームのフォロアーをつくれといわれたり、続編の制作を任されたりして、結果的にそれしかつくれなくなってしまうゲームデザイナーの例をたくさん見てきました。
−−つぶしがきかなくなるわけですね。
安原:幸い、日本のゲーム業界では2010年ごろからモバイルゲーム市場が急速に成長したので、家庭用ゲームのベテランが一斉に移行できて、救われた面がありました。それまでの経験を基に、一回キャリアをリセットする機会が得られたわけですからね。でも、この先どうなるかは誰にもわからない。だったら、そろそろ真面目にゲームデザインについて考えてみようよ、という思いがあったんです。とはいえ、そんなに深く考えていません。おもしろさという原点に立ち返った感じです。
▲「あそびのデザイン講座」PDFの抜粋
−−世界的に見ても同じような問題意識をもっている人はいると思うんです。それでも、Unityでゲームデザインの教材づくりをはじめられたのは、安原さんが初めてですよね?
安原:たぶん、それまで誰も深くゲームデザインについて考えていなかったんですよ。よくあるのは「アクションタイプのゲームです」「主人公は多彩なアクションができます」「敵を倒します」といったところからつくり始めるパターンですね。でも、そのときにちょっと考えてほしいんです。なぜ、こんな主人公なんですかと。多くの場合、そこに意味はありません。鎧を着た騎士でも、カンフーマスターでも、なんだって良いわけです。「なぜ敵を倒すの?」と聞いても、ただ「敵だから」というだけ。もうちょっと考えを働かせてほしいんですよ。
−−学生だけでなくて、プロの開発者もそうなんですね。
安原:そうなんですよ。世界的に見てもゲームデザインについて、まったく教えられていないし、問題意識ももっていない。そもそもゲームデザインって目に見えないじゃないですか。だから必要性についても、みんな気がついてないんです。ゲームってデザインされているからおもしろいんですよ。裏を返すと、おもしろいゲームをつくるためには、ちゃんとデザインしなければいけない。
−−それを日本でやろうという話は、いつ頃からありましたか?
安原:ユニティで代表取締役会長をつとめている豊田信夫は元セガ・オブ・アメリカ副社長なんです。自分もセガ・オブ・アメリカには長くいたので、親近感がありました。そこで、Unityを使ってこんなことをやりませんかって、企画をもち込んだんです。日本担当ディレクターの大前広樹もビジネス・ブレークスルー大学でUnityを教えていて、同じような問題意識があったようです。かなり好意的に受け止めていただきました。
−−「あそびのデザイン講座」の開発時間はどれくらいかかりましたか?
安原:1年くらいですね。僕もUnityを学びながらつくっていましたし、今でもプログラミングはユニティの人に聞きながら、変えていっています。
−−じゃあC#のスクリプトを学びはじめたのは......。
安原:本当にそれからですよ。だからC#の経験は2年くらいですね。それでも、これくらいのレベルまでなら、誰でも到達できます。
−−それは心強いですね。自分もがんばります。