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    Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。

    TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony​ Pictures​ Imageworks
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    今回のお題

    こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、第3期2週目のお題から、「大変な」というテーマでのポーズの添削をします。

    「大変な」というお題は、力が入ったような印象を作ることが重要です。こういったポーズの場合は、何度か本連載でもお話ししていますが、「緊張と緩和」の「緊張」状態をいかに上手く表現するかがキーポイントになります。今回はより具体的な緊張の印象を作るためのコツやその要素についても触れていこうと思います。

    作品01:「大変な」

    投稿作品

    先ほどもお話しした通り、「大変な」というお題でポーズを作る場合は、基本的に体に力が入ったようなポーズが多くなってくると思います。そういう意味では、この作品はしっかり力が入った印象が作れていて、なおかつ表情でも緊張の印象をしっかりと作っているのでとても良くできているポーズと言えます。シルエットの取り方もなかなか良く、全体的にとても見やすいポーズになっています。

    今回はそのあたりの良くできている部分をさらに誇張して、よりわかりやすく表現するためのポリッシュのコツに焦点を当て、個人的にポーズを作る上で気を付けているポイントをお話しししようと思います。


    Point 1:緊張とネガティブスペース

    「緊張と緩和」については何度か触れていますが、基本的に筋肉に力が入った状態というのが緊張状態ということになります。今回のポーズでそれが最も顕著にわかる部分は、表情以外で言うと腕の部分だと思います。特に、こういった場合個人的には肩のポーズを重要視しています。このポーズでも両腕のポーズがかなり印象的で、表現する上では使える部分だと思います。

    基本的には「肩を上げることで緊張状態を作る」というのがベースになるので、そういう意味では良くできていると思います。ただもうひと工夫するなら、「ネガティブスペース」という考え方がこの場合は便利に使えます。簡単におさらいすると、キャラクターのポーズを作ったときに影になる部分がシルエットだとすると、その反対の影以外の部分のことをネガティブスペースと呼びます。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

    ここで注目してほしいのが、肩の周りのエリアです。このポーズでは、リグの肩のコントローラは上がっているかもしれませんが、肩の周りから首にかけて隙間(ネガティブスペース)が生まれているのがわかると思います。CGのリグを使ったポーズだとしても、ポーズをデザインする上での考え方は2Dも3Dも同じです。なので、3Dを扱う場合にも2D的に、場合によっては平面的に考える必要があります。そうすると今回のポーズは、実際に形は上がっていたとしても、ネガティブスペースがあることによって若干肩が上がっているように見えなくなってしまっているかもしれません。

    修正後のポーズを見ると、腕のポーズそのものにはそこまで変化はありませんが、ネガティブスペースが顕著に少なくなっているのがわかると思います。ネガティブスペースをなくすことで肩が上がっている印象をより明確にしています。実際にポーズから感じる印象も、修正後の方がかなり体に力が入っているように感じると思います。


    Point 2:指のポーズの重要性

    また、指のポーズもかなり大事です。特にCGでは「モノを持つ」ということが物理表現をする上でかなり重要な要素になります。なぜならCGでは基本的にモノに重さがないので、アニメーターがポーズや動きを使って重さを表現するしかなく、指のポーズひとつで本当に持っているか持っていないかがはっきりわかってしまいます。実はそれほど大事な部分なのです。

    今回の指のポーズは基本的にはそこまで悪くはありませんが、力を入れて握っているということを踏まえると、もう少しグリップに力があるようなポーズにしてみるとより緊張の印象を作れると思います。


    Point 3:シンプルイズベスト

    キャラクターの表情に関しても少しお話ししようと思います。最初に書いた通り、今回の作品は力が入った表情という点では良くできているので、わかりやすい印象が作れていると思います。ただ、個人的に表情というのはコントローラがたくさんあって、悪い意味でとても簡単に複雑になってしまいます。そのため、ポーズを考える際には逆になるべくシンプルなデザインを心がけるようにしています。例えば今回のような力の入ったポーズ(緊張)では、大きく分けて「内側へ向く力」と「外側へ向く力」のどちらかにすると良いと思います。

    どちらを選ぶかはその場のシチュエーションやキャラクターのデザイン、性格によって決めると良いでしょう。今回の作品では個人的な印象として内側に向く力の方が合っている気がしたので、こんな感じの表情を提案しました。


    添削前のポーズ


    添削後のポーズ

    今回の添削はポーズの基礎がわかっている人向けで、さらにもうひと工夫するにはどうすれば良いか? というような、アニメーションで言うところの「ポリッシュ」の内容でした。実際に、アニメーションにおいては、今回解説したようなポイントが良いショットからものすごく良いショットにするためのコツだったりします。やっていること自体はそれぞれとても小さいことですが、それが積み重なることで全体の印象が大きく変わってきます。このあたりのポイントが身につくと、ポーズだけでなくアニメーションでも表現力がぐっと豊かになると思います。

    今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!

    「エイド宿題」とは?

    「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。

    ●参加方法とやり方

    ・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
    ・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
    ・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。

    ●参考

    ・エイド宿題とは?
    https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/

    ・エイド宿題 これまでのお題
    https://ryowaks.com/category/aidshukudai/

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