社内にBlenderチームを結成し、デモ映像の制作を通じて日々検証を行なっているグリオグルーヴ。3ds Max歴25年からBlenderを使い始めた同社のCGディレクター横田義生氏が、自身の経験からBlenderを始めたい人に向けたTIPSを紹介していく新連載「ベテランジェネラリストのBlender基礎レッスン」がCGWORLD.jpでスタートする。
今回は連載第1回として、話題の小学生Blender使い・悠人氏と横田氏との対談をお届けする。悠人氏は、大人気漫画『鬼滅の刃』に登場する「無限城」をBlenderで再現し、その作り込みとクオリティの高さで一気に注目を集めた小学6年生だ。悠人氏はなぜ3DCG制作に興味をもったのか、今Blenderを使う上での悩みとは。横田氏からの提案も含めてお送りしたい。なお、対談には悠人氏の父、DecoponMAGI氏にサポートに入っていただいている。
TEXT_安田俊亮 / Shunsuke Yasuda
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
※本対談は8月21日(金)、Zoomによるオンライン会議にて実施されました
Infomation
『DEEP HUNTER』
グリオグルーヴBlenderチームによる、Blenderで制作を完結させることを目標としたCGアニメーション作品のパイロットムービー。本連載では、次回以降この映像の制作を通してBlenderの基礎を解説していく
プログラムよりもモデリング。プロも驚く悠人氏の熱意と実力
横田義生氏(以下、横田):あの無限城は社内でもとても話題になっていて、ぜひ一度お話を聞いてみたいと思っていました。「小学生が作ったの!?」と本当に衝撃でした。作品はステイホーム期間中に作ったのでしょうか?
DecoponMAGI氏(悠人氏の父。以下、MAGI):はい、4月から休みでしたので。ほとんど遊んでいたんですけれども(笑)、できたものをアップしたらバズってしまった、という感じです。
小学校休校中の息子がyoutubeのblender講座を見ながらほぼ独学で作った無限城です
— DecoponMAGI (@XenoXss) May 13, 2020
鬼滅の絵を描きたいけど背景が大変なので3Dで作ろうと思ったとのことですが、むしろ背景の方が凄くなってしまったのでは... #鬼滅の刃 pic.twitter.com/W4eZfJftqs
▲DecoponMAGI氏によって悠人氏の無限城が投稿されたのは今年の5月。9月24日現在で48.2万いいね、12.2万リツイートという驚異的な数字を記録
横田:Blenderは前から使っていたんですか?
MAGI:1年以上前に初めて触って、そのときは人型のモデルを作ろうとして途中で止まっていたんです。それが4月になって時間ができたので、改めて建物を作ろうと取り組んで、今度は最後まで完成できました。
横田:本当にすごい。独学で、しかも期間は1週間かからないくらいなんですよね。うちにもモデリングスタッフがたくさんいますが、「小学生でこのレベルなら自分たちはどうなっちゃうんだろう」とビクビクしていました(笑)。
CGWORLD(以下、CGW):悠人さんはプログラミング教室にも通っているんですよね。それはいつからですか?
MAGI:小学3年生からです。もともとゲーム、特にマップを作るようなゲームが好きで。ゲームを作ることに興味があるというので、教室に通わせてみました。
CGW:悠人さんはプログラミングは楽しいですか?
悠人氏(以下、悠人):プログラミングは、そんなに......。プログラミングよりも、Blenderとかで3DCGを作っている方が楽しいです。
▲悠人氏が対談時に見せてくれた制作中のデータ。学校の課題の選挙ポスター制作のために、投票会場となった体育館の様子をBlenderでモデリングしている
横田:ゲームの3DCG制作に興味があるんですね。3DCGの仕事は、モデラーもそうですし、アニメーター、エフェクター、それにコンポジターという職業もあります。その中でも、特にやりたいのはモデリングですか?
悠人:はい。
横田:とても良いと思います。モデラーは職人気質の人が多いのですが、悠人さんみたいに自分で勉強して作れるタイプだったら向いていると思うし、ガンガン腕が上がっていくのではないでしょうか。
悠人:ありがとうございます!
CGW:周りに同じように3DCGを作っているお友だちはいますか?
悠人:いません。
MAGI:本当なら友だちにも3DCGやってと言いたいし、やってほしいみたいです。でもなかなか言えないと。もし3DCGができる友だちがいたら、一緒にやってみたいようです。
横田:3DCGって共同で作品を作っていくことが多いので、そういう楽しみもぜひ味わってほしいですね。プログラミング教室でもそういった方はいないのでしょうか。
MAGI:見ている限り、いないようです。教室ではUnityを使って2Dのゲームを作っている方が多いですね。高校生なら3DCGをやっている人はいるのですが、話しにくいみたいで。同年代だとなかなかいないのかなと。
横田:そうなんですね。きっと、続けていれば周りにどんどん3DCGをやる方が出てくると思います。ぜひ、そのときに楽しみを取っておいてください。
iPad+Substance Designerでテクスチャ作成も習得
悠人:質問です。ゲームの3DCGを作るなら、Mayaは覚えた方が良いですか?
横田:ゲームということであればMayaは使えた方が良いと思います。大きなゲーム会社はほとんどがMayaを使っていますし、3DCGの仕事はMayaが多くなっています。なので、Mayaは覚えておいた方が良いツールではありますね。Mayaに興味があるんですか?
悠人:あります。すぐにでも触りたいんですが、中学生からしか使えないらしくて。
MAGI:Mayaは学生版なら無料なのですが、小学生は「学生」の対象に入っていなかったんです。それで「Mayaは中学生からだよ」と本人に言ったらものすごく怒りまして......。
横田:そうなんですか! うーん、できるならMayaもやっておいた方が、将来いろいろな仕事ができると思います。なので、あとちょっとだけ我慢して、中学生になったらMayaも勉強し始めると良いのかなと。使い方がまったく違うので最初は戸惑うかもしれませんが、基本的にできることはMayaでもBlenderでも一緒です。ここまでBlenderが使えているのであれば、意外とすんなりMayaも使えるようになるのではないでしょうか。
悠人:もうちょっと質問いいですか? テクスチャを作るのにオススメのソフトはありますか?
横田:プロの現場では、今はほとんどSubstanceを使用しています。それとPhotoshopですね。
Photoshopは、絶対に覚えた方が良いツールです。Photoshopは、3DCGではモデルでもエフェクトでもコンポジットでも全ての仕事で使うものなので、まず完全にPhotoshopを覚えて、それからSubstanceですかね。
Photoshopで2Dを覚えてくると、次は3Dに直接描きたくなってくると思うんですよね。そうなると自由に描けるSubstanceが適しています。Photoshop、Substanceの順でテクスチャを描く練習をしていけばきっと上手になると思います。
CGW:悠人さんは、実際にSubstance Designerを触ってみたんですよね?
悠人:はい。最近慣れてきました。
横田:あ、良い感じですね。作業はペンタブでされているんですか?
MAGI:ほとんどiPadです。幼稚園のころからiPadを触っていて、ペンタブよりもiPadで指を使う方が速いみたいですね。ただ、これから仕事にするならペンタブがあると良いかなとは思っています。
横田:そうですね。テクスチャを描いていく上では、ペンタブの方が細かい部分まで描き込めると思います。でも見ていると、ノーマル、ディフューズ、アルベドなども理解しているんですね。
MAGI:名称は理解していないと思うんですけど、いろいろやってみて、これがこうというのを直感的にやっているんだと思います。
横田:直感でわかるのが一番良いですよ。
悠人:とりあえず、繋げればリアルになることはわかりました。
横田:そうですね。今見せていただいているのも、凹凸がきれいに出ているので、光の加減でもっと良い感じになると思います。無限城のデータを、Substance Designerで描き直してみるのも楽しいかもしれないですね。
悠人氏の疑問を横田氏がスパッと解決!
悠人:BlenderからUnreal Engine 4にデータを移すと、巨大化していたり、小さくなっていたりするのですが、これはどうしたら良いですか?
横田:これは、BlenderとUnreal Engineで大きさの基準が異なるために起きてしまう現象です。厄介なことに3Dのツールごとにそれぞれ基準が違うため、データのやり取りをしながらノウハウを覚えていくしかありませんが、Blenderのアドオンに、UE用にデータを書き出してくれるものもあります。無料のものから有料のものまでいくつかありますので、そういったアドオンを使用してデータをコンバートすることでも解決できると思います。
悠人:あと聞きたかったのが、ボーンです。Blenderでモデルにボーンを入れて、動かそうとすると体の一部が抜けたりするんです。これはなぜでしょうか。
横田:ボーンは、ウェイトといって、頂点が骨に付いていく設定をきちんとする必要があります。でないと、置いていかれる部分が出てきてしまうんですよ。
悠人:[自動のウェイトで]を使っていました。
横田:なるほど。ウェイトは、自動のウェイトだけだと限界があって、処理できない部分があります。この処理できなかった部分は、手作業で直すしかないんですよね。
悠人:どうやるんですか?
横田:モデリングするときに、編集モードで頂点などをモデリングしていきますが、同じところに[ウェイトペイント]という項目があります。このノードに入って、「この頂点はこの骨に付いていく」という設定を調整していきます。
悠人:大変そう......。
横田:そう、大変なんですよ(笑)。リガーといって、専用の仕事があるくらいに難しい作業です。モデラーがリガーを兼ねている会社もたくさんありますが、ゲーム会社などでは完全に分かれていると思います。複雑なキャラクターになるほど骨を入れていくのは大変で、専門知識が必要ですからね。プログラムを組みながら骨を入れていく感じです。ウェイトはなかなか難しいので、追々勉強していくのがいいかもしれませんね。
MAGI:わかった?
悠人:うん、わかった。ありがとうございます!
横田:どういたしまして。今後、私たちはBlenderの使い方に関する情報を発信していきますし、こうした情報交換も定期的にできると良いですね。世の中の状況が改善したら、ぜひ弊社に来ていただいて、制作の現場をより間近に感じていいただける機会を作れたらと思います。
MAGI:ありがとうございます。その際はよろしくお願いします。
横田:こちらこそ、楽しみにしています。本日はありがとうございました。
Profile.
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横田義生/Yoshio Yokota(Griot Groove)
3ds Max歴25年。Web3D、建築、ゲーム、CMを経て現在映像プロダクション・グリオグルーヴにディレクターとして所属。頑なに3ds Maxを使用してきましたが、そろそろ新しいツールを覚えたいと言うタイミングでBlenderに出会い仕事の傍ら猛勉強中です。もともとジェネラリストでしたが、ここしばらくは制作現場からは遠ざかっていたため、これを機に一クリエイターとして制作をしていこうと意気込んでいます