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第31回:デジタルデータの管理について考える

第31回:デジタルデータの管理について考える

みなさんこんにちは。2月も終わりに近づき、暖かい日も増えてきました。我が家では去年末に車を買ったので、最近の週末は子供を連れて車でアチコチの公園に遊びに行っています。皆さん、どこかおススメの公園などあったら教えてください。

※現在、当社パイプラインツールはWindowsのみの対応となっています。ご了承ください。

TEXT_痴山紘史 / Hiroshi Chiyama(日本CGサービス
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

デジタルデータの管理について考える

成果物の管理については前回までで一通りカバーすることができました。さて、われわれが扱うデータはこれで全てでしょうか? 実はプロジェクトで扱うデータのうちで、これまでに議論を進めてきたアセット管理やパイプラインに乗るものは、全体から見ればほんの一部です。もちろん、パイプラインで扱うアセットがプロジェクトの核になる部分であり、きちんと管理を行うことで得られるメリットはとても大きいです。今回はそこから更に一歩進んで、プロジェクトのパイプラインに乗らないデータを管理する方法を考えます。

はじめに、プロジェクトを進めるために必要で、パイプラインやアセット管理システムに乗せづらいデータをいくつか挙げてみましょう。


ーリファレンス画像、設定、シナリオ、絵コンテなどの資料

プロジェクトを進めるための参考資料を集め、スタッフで共有することはよくあります。また、ロケハンに行って数百枚の写真を撮影したり、作品のイメージを膨らませるためのスケッチを描くこともあるでしょう。これらのはプロジェクトを形づくる上で重要な情報ですが、それが直接作品になるわけではありません。また、このデータは多種多様な方法で集められる上に、大人数で協力して作成・編集するものでもないので、パブリッシュという工程やパイプラインというシステムとの相性もよくありません。


ー外部から届いたデータ

納品データや資料集、チェックバック情報など、外部から届くデータは多岐にわたります。そして、その内容やフォルダ構成はデータを送ってくる人の事情に合わせられており、自分たちでコントロールすることはできません。これらのデータはプロジェクト中にどんどん増えていく上に、不定期に過去のデータから必要なものを探し出して内容を確認する必要が出てくるので、途中で削除するのも難しいです。その割には後々必要なデータの割合は少なく、大多数は一度確認したらそのまま埋もれていくことになります。パブリッシュは膨大なデータから必要なデータを整理・格納する行為なので、ほとんどのデータはパブリッシュされずに残ることになります。

また、作業の状況を確認する際、1週間前に納品されたデータとして探したい場合や、外注先の納品履歴を知りたい場合、アセットの更新履歴から探したい場合のように、目的によってデータの探し方を変えたくなります。人力で管理する場合、byDate, byAsset, byCompany のようなフォルダを作成して、それぞれにデータをコピーするケースもあります。


ー素材データ

テクスチャの元になる写真や、フリー素材サイトから集めたデータ、プロジェクトのために用意した素材データは、成果物を作成するスピードとクオリティに直結する財産と言えるものです。このようなデータは手元にストックして簡単に使えることが大事で、一度集めたら更新を行うことはあまりありません。また、大量のファイルを管理する必要があるため、バージョン管理システムを使うにはあまり向かないです。


ー長年蓄積されてカオス化したフォルダ

プロジェクトが進むにつれて、謎のフォルダが増えていきます。また、長期に渡るシリーズ作品であれば、人の入れ替わりやプロジェクトのルールの変更によって過去の事情を知る人がどんどん減っていきます。そうでなくても時間が経つにつれて人の記憶は薄れ、プロジェクト内のデータ管理ルールも変わっていきます。そのような歴史的経緯が積み重なったフォルダは、カオスになり、どこにどのようなデータがあるかを見つけることが難しくなってしまいます。

デジタルアセット管理システム

このような、デジタルデータを管理するためのシステムは世の中にたくさんあります。映像・写真関係でなじみが深いのはAdobeのBridge、Photoshop Lightroomといった1台のパソコン上で動くものや、社内でサーバを立ち上げてWebベースで管理するシステムです。それから、クラウド上にデータをアップロードして管理するサービスも最近は流行っています。Shotgunに素材データを上げて、その中で管理するという荒業を行なっているところもあるようですね。それ以外にも世の中には本当に多種多様なシステムが存在していて、Digital Assett Managementなどのキーワードで検索するとそれこそ山のように見つかります。

これらのシステムにはそれぞれ特徴や得手不得手がありますが、大まかに分けて以下のような傾向があります。


ー1台のパソコン上で動くもの

・パソコン全体をひとつの単位で管理しているため、プロジェクトや目的ごとに管理を分けることには向かない。
・データベース化されておらず、管理するデータ量が多くなると動作が遅くなる。
・検索やタグ管理はあまり得意ではない。
・1台のパソコンで完結することが前提になっていて、複数人で共有することに向かない。


ー社内サーバでWebベース管理するもの

・企業で使われるのはこのタイプが多い。
・映像関係に限らず選択肢は豊富だが、オフィス文章の管理をメインの用途にしていることが多いので、対応ファイルフォーマットなどが不十分。特にRAWやHDR画像のような特殊な画像は絶望的。
・Webベースでの管理のため、データを使用するためにファイルをダウンロードする必要があるなど、取り回しがしづらい。
・システムのコストが高くなりやすい。


ー社外のサービスを使用するもの

・Webベースでの管理のため、データを使用するためにファイルをダウンロードする必要があるなど、取り回しがしづらい。
・社外との回線速度がネックになってくるため、動画素材の扱いに難がある。
・全てのデータをアップロードする手間が大変。
・データにアクセスするためにはアカウントが必要(お金が必要)。金の切れ目が縁の切れ目。

総じて、一般的なオフィス文章を扱うのであれば、Webベースでの管理でもかなりのところまで対応できます。Google Appsのドキュメントやスプレッドシートを使って仕事を進めている方も多いでしょう。しかし、対象が映像関連のデータとなるとハードルが一気に上がってきます。まず、単純にデータが大きく、特殊なファイルフォーマットが多いため、そのままではWebブラウザ上で閲覧できません。さらに、素材として使用する場合は、その都度手元にダウンロードしてから使う必要があるという煩わしさがあります。

また、アセット管理システムにデータをアップロードしてタグ付けして整理して......という操作もストレスの元です。最近のWebベースのインターフェイスはかなりよくできてはいるものの、PC上でファイルを操作する場合と比べるとレスポンスや操作性の面で比較にならないです。

そんなこんなで私もデータを手軽に管理・閲覧できるツールを長年探してきたものの、なかなか見つからないので自分でつくることにしました。それが DigDocです。

例えば、クライアントや外注先からデータを受け取ったとき、中にどのようなデータがあるかをざっくりと確認したいというケースはよくあります。通常は、フォルダをひとつひとつ確認しながら、必要であればファイルを開いて確認することになるでしょう。フォルダの数が多いと、これが結構な手間となります。そのような場合でも、データをフォルダに展開してDigDocに読み込ませるだけで、中にあるデータを一覧できるようになるので、確認作業の手間を減らすことができます。

カオス化したフォルダも、同様にDigDocに読み込ませることで、ざっくりと閲覧・検索・プレビューができるようになります。また、日付やファイル名、拡張子などでフォルダ全体を検索できるので、うろ覚えのまま一年くらい前のexrファイルかな? という感じでデータを探していくことができます。

データ管理をしようとすると、綿密な計画を立ててデータを整理して、サーバに登録してタグ付けして......ということになりがちですが、大抵は途中で飽きて放置されるか、ごく少数の意欲のあるスタッフがメンテナンスをしていくことになります。これはあまりよい状況とは言えないので、もう少し緩くざっくりと管理できる方法をまずはオススメします。

ドキュメント管理

もうひとつの大事なこととして、ドキュメント管理にも触れておきます。プロジェクトの仕様や各種ノウハウ、社内で作成したツールの使い方などを集約する場所をつくっておくことはとても大事です。当社では、ドキュメント管理にMoinMoinを使用しています。MoinMoinはWikiシステムとして開発されてはいるものの、柔軟性が非常に高く、当社のWebサイトもMoinMoinで構築しています。

MoinMoinは日本ではあまりなじみがないですが、オープンソースソフトウェアのWebサイトではよく採用されています。例えば、Linuxの人気ディストリビューションUbuntuのCommunity Help Wikiや、Python WikiもMoinMoinで構築されています。MoinMoinはPythonとの相性がとてもいいです。本体がPythonで開発されているだけではなく、Pythonで開発する際のドキュメンテーションで広く使われている Sphinxでも採用されているreStructuredText(reST)という書式が採用されているため、一貫した形でドキュメントを管理することができます。また、動作が高速なのも特徴です。機能モリモリなECサイトをつくるような場合には物足りなくなるかもしれませんが、普通のWebサイトをつくるくらいなら必要十分なシステムです。

お手軽にWebサイトを構築して管理する場合、WordPressが候補に上がるでしょう。DigDocのWebサイトはWordPressで構築しています。WordPressであればちまたに情報もたくさんありますし、高機能なエディタが備わっているのでreSTに拒絶反応を示すような人でも簡単に管理することができます。

そのほかにも、最近ではドキュメントやデータを管理するためのサービスも充実してきているので、システム管理まで手が回らないという人はそういうサービスを探すのもいいでしょう。

まとめ

今回はパイプラインに乗せづらい周辺データについて考えていきました。パイプラインやルールが決まってデータ管理は完璧だ!! と思ったら、それは全体のほんの一部に過ぎなかったわけです。しかし、これらのデータも今まで考えてきたデータ管理の考え方を発展させていくことで少しずつ整理していくことができるはずです。いきなり全てに手を付けるのではなく、これまで同様に、手を付けられるところから少しづつ切り崩して整理していきましょう。

システムはそれぞれ得手不得手や使う人の嗜好に合う・合わないがあるので、これがあれば完璧!! というものはなかなか存在しないです。いろいろ試行錯誤してみてください。継続的にデータを管理するのは誰にとっても大変で、管理をするモチベーションも保ちづらいものです。元々のモチベーションが低い中でちょっとでも使いづらいシステムが導入されてしまうと、すぐに使われなくなってしまうのは火を見るよりも明らかなので、手になじむかどうかはとても大事です。



第32回の公開は、2021年4月を予定しております。

プロフィール

  • 痴山紘史
    日本CGサービス(JCGS) 代表

    大学卒業後、株式会社IMAGICA入社。放送局向けリアルタイムCGシステムの構築・運用に携わる。その後、株式会社リンクス・デジワークスにて映画・ゲームなどの映像制作に携わる。2010年独立、現職。映像制作プロダクション向けのパイプラインの開発と提供を行なっている。新人パパ。娘かわいい。
    @chiyama

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