画にプラス要素を。

画には法則があります。
それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。 永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。
そして願わくば貴方の人生に+画を。

今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Turorials』と連携してお届けします。



TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE


【+画 ONLINE】vol.004:桜 / 「対比」を究める
(CGWORLD Online Tutorials)の
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Concept

均衡の法則

桜の季節ですね。
桜は日本の文化にとても根付いています。
言葉、画像、映像、音楽、食物......。この季節に桜を採り入れていない分野を探す方が難しいかもしれません。それほど多くの人に愛される樹木(花)も、とても素敵ですね。

これはカリスマと呼ぶのか、代名詞なのか、文化なのか。
長い年月をかけて、人々の心の奥底にまで魅力が浸透しているのは、そのものに歴史があるからでしょう。

実は、筆者の作品には桜をモチーフにしたものがとても多いんです。桜をつくる機会が非常に多いということです。特にこの季節は、3~4月のCMや広告などでどこもかしこも桜をモチーフに扱います。まさに「桜まつり」。ひょっとしたら、皆さんも筆者がつくった桜を一度はどこかで見ているかもしれません。

ちなみに、前号からいきなりトップ画像の画角が正方形になりました。インスタ映えということで(笑)。

さて、今回は「対比」についてお話ししていこうと思います。

<画創の法則>
・均衡の法則

創造物にはバランスがあります。
人間は無意識のうちに、目でバランスを捉えています。

<対比>

対比のバランスを考えることで、見る人の印象に様々な変化を与えることができます。これは、人間は常に「何かと何かを対比する」ことで「存在を認識している」という事実に基づいた考え方です。

良い悪いという話ではありません。例えば、「大きい・小さい」は、対比がなければ判断できませんよね? 「あれより大きい」とか「これより小さい」とか。また、目で見えるものは対比がないと錯覚に陥ります。夜空の月は地平線に近い方が大きく見えるし、対象となる物を置くことで、大きさを判断することができます。

TVを例にしてみましょう。
読者の皆さんは見たことがないという方もいらっしゃるかもしれませんが、ほんの10数年前までは、「テレビ」といえば......

こんなとても厚みのある「ブラウン管」と呼ばれるモノでした。歴史の教科書に出てきますかね? 筆者がCGを始めた頃もこのように大きなモニタを使っており、机の上のほとんどのスペースをモニタが占領してました。

さて、ふちを細くしてみましょう。
いかがでしょうか? ちょっと新しくなった感じがしませんか? 少なくとも、上の画像よりは新型に見えますよね。「フルフラット(テレビ)」と呼ばれていたような......。

さらに奥行きの厚みを薄くしてみましょう。まさに現在の液晶TVですね。ここまでくると、現代か近未来です。ただのボックスに画面があるだけなんですが、「厚みの対比」を変えただけでずいぶん見え方が変わります。これは、固定観念も影響していますね。 スマホでもノートPCでもそうですが、なぜかフチが太いほど古く、細いほど新しく見えます。いずれフチがなくなったら未来的なデザインにも限界にくるのか。どこまで細くなるのか楽しみですね。 古さの対比では、「角を丸くする」というのもありますが、これも......

なんだか古く見えますね。昭和な感じ? レトロな感じがします。

ここで面白いのは、さらに角を丸くすると、なぜかもっと未来的に見えてしまうということです。ここまで流線形が極まったテレビは、なぜかはるか未来のものに見えます。まさに、このあたりが固定観念の対比。

想像できる範囲内の変化は、現実と過去、そして近未来あたりですが、想像を大きく超えるものや理解の外側にあるものは、はるか未来に意識が行ってしまうようです。はたまた、宇宙的な?

さてもう少し見てみましょう。

この3つの枠組みは、
【1】は「普通」、「現代的」、「身近にあるもの」に見えます。一般的な構造物ですね。強度もありそう。
【2】は細くて弱々しいですが、未知の最新の技術かもしれません、未来的です。
【3】はどうでしょう? 少し組み方をずらしただけで、木造のような組木に見えますね。

このように、ちょっとしたバランスの対比変化で、物質の質感まで見る人に想像させることができるのです。

ただの棒ですが......、

組み方やバランスの変え方で、木造のような雰囲気のあるものにも、鉄筋による現代建築のようにも変化させることができます。

これを「画創の対比」と言います。

ちなみに、これは手前にある建物の枠に使用しています。わざと目に見えるギリギリの細さにすることで、洗練された「未来的なデザイン」とも言える造形に見えるようにしています。

では、これがもし太かったらどのように見えるでしょう?

もしくは四角いものだったら? そして大きな四角。日本の障子の標準的な縦横比は、縦6~8個くらいといったイメージがあるので、このサイズだと障子に見えませんね。太い木材の牢獄?

このように一般的な障子のサイズにすると、大きさまでイメージできるのではないでしょうか。だいたい縦185cmみたいな。ただの黒い枠なのに面白いですよね。



Design

レイアウト

カメラ的には少々歪んだことをしています。現実的にはパースがつくものですが、これをカメラ補正(あおり)をすることで正対にし、正方形のレイアウトで見映えがするように調整しています。

超望遠で撮影したような感じになりますが、特に縦横を意識させる正方形のレイアウトでは、このような「軸に平行」になるラインがとても重要になってきます。

そして、これは仕上げの法則の1つ。
「隠す」こと。

桜の木だけではあまりにも中途半端ですが、単純な黒い枠で囲ってあげるだけで密度を感じさせることができます。

窓のように、「見える範囲」をわざと集中させることで、あたかも密度が増したかのような錯覚に陥るというわけですね。画の密度を上げる手法は「増やす」だけではありません。 「隠す」こともまた一考。

さて、シーンの作成としてはここまでです。コンポジットに移りましょう。



Composite

絶妙な桜の色味

彩度による変化は印象に大きなちがいを与えます。左は「暖かみ」、「春」、「南国」といったイメージを。右は「寒さ」、「冷たさ」、「古さ」、「冬」といったイメージをもたせます。

こういった心理的な印象を与える重要な要素が、コンポジットやカラコレです。シーンをつくった後にも「つくる操作」は必要です。

「浅い色合い」で。桜のピンク色は、とても狭い範囲の「ピンクの濃さ」によって印象がぐっと変わります。こういった白に近いパステルのような淡い範囲の色は、調整がとても難しいです。

画像はAfter Effectsに取り込んだままの画像ですが、最終の画像より格段に色味が強いことがわかります。これは、「色味のないところから色味を付ける」より、「色味のあるところから色味を抜いていく」方が現実的で、調整がしやすいからです。一発で見事に決まりの色ができれば良いのですが......、まだ修行が足りないようです。

フレアとグローに関しては、ネットで検索してもAfter Effectsの標準機能に満足していない方がとても多いように感じます。私も、実は標準のグローはほとんど使用したことがありません。

しかしグロー効果はとても重要で、自然かつ魅力的に魅せるためには欠かせないものです。「画創の法則/仕上げの法則」になりますので、いつかご紹介できればと考えています。

自然な背景はまず、「彩度を下げる」が鉄則ですね。 これは白と黒でもわかるとおり、自然界には「0」も「255」も存在しにくいです。映像上あるかもしれませんが。

そういえば、光を一切反射しない物質だか塗料だかの画像を見たことがあるのですが、あまりに真っ黒なので、「マスク抜き」を失敗したかのように見えました。これは、いつも見ているものに「そんなものは存在しない」という固定観念から導き出される思考があるからです。

そして、CGの世界では、「0」も「255」も、それこそ「255.0.0」も「0.255.0」も存在してしまうので、ここで固定観念の現実から「虚像」に感じてしまう問題があります。でも真っ赤って言われたら「255.0.0」にしますよね?

そして、もう1つ。コンポジットの定番というか鉄板というか......、「画創のS」!

一般的には、彩度が低いと寒く見え、高いと暖かく見えますね。4月のまだ少し肌寒い感じを表現するには、極彩色では南国のようになってしまうので、彩度を落とすのも想像できます。

コンポジットのカラコレはV-Rayでほとんど調整してしまったので、ここではLUTを適用し、微調整する程度にしています。ものごとは常に「対比」をもって存在を確認し合っています。身の回りにある「対比」、ぜひ探してみてくださいね。

そして今年はお花見に行けるのだろうか......。



【チュートリアル収録内容】

<画創の法則>
・均衡の法則から対比
・仕上の法則からフレアとグレア
・画創のS

<実際の制作過程メイキング>
・モデリングからコンポジットまで
・使用ソフト:3ds Max、After Effects

長年、セミナーや授業でお話ししてきた生の感覚をぜひご体感いただけたら嬉しいです。

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Information

  • 3ds Max『画龍点睛オンライン』講座
    文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
    tutorials.cgworld.jp



  • 3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)
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    online.dhw.co.jp/course/3dcg



Profile

  • 早野海兵/Kaihei Hayano

    画龍 / Garyu
    ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
    #3dsMAX,#adobe aftereffects,#zbrush,#substancepainter

    <代表作>
    ゲーム『鬼武者』シリーズ
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
    連載「+画」、「画龍点睛」

    早野海兵公式サイト:kaihei.net
    画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
    Twitter:@Kai_ryu_Kai