ウォルトディズニーアニメーションスタジオのアニメーターであり、オンラインスクール「AnimationAid」(以下、アニメーションエイド)の講師、そしてCGWORLDの編集長でもある若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「アニメーションエイド ポーズ宿題」。本連載では、その企画で集まった作品を若杉氏がドローオーバーで添削し、ポイントを解説する。

記事の目次

    「アニメーションエイド ポーズ宿題」とは?

    こんにちは、海外で働くCGアニメーター兼CGW.jp編集長の若杉(@ryowaks)です。

    さて本連載では「お題に沿ったポーズをつくる」という課題に提出された作品を添削し、その内容を解説していきます。お題として設定されるのはサブテキスト(ポーズから伝わってくる言葉)で、今回のお題は「もうやだ」です。

    以下の3つのポイントを考えながら、作品と添削内容を見ていきましょう。

    ①キャラクター(性格、年齢、性別など)
    ②コンテキスト(状況、話の流れ、時間経過など)
    ③サブテキスト(キャラクターの心の声など)

    今回のお題について

    今回のお題は「もうやだ」です。

    取り上げた提出作品では、セットやプロップなども最大限に活用して「もうやだ」というサブテキストをしっかりと表現できていたと思います。また、画面内の構図、構成などもちゃんと考えられていて、ポーズだけでなく、とても良いレイアウトになっていると思いました。

    キャラクターの演技やポーズを考えるとき、個人的にとても大事にしていることがあります。それは、良いポーズというのはそのキャラクターの性格や考えていることが、そのポーズを見ただけで明確に見てとれるということです。そのためには「キャラクターがどういう動きをするのか?」という、キャラクターを動かす前の「動きの選択」という点がとても大事になってきます。

    初心者のアニメーターの中には動きを考えるとき、「ただ動きをつくれば良い」と思ってしまっている方が多い印象です。例えば椅子に座るのであれば、歩きながら椅子の前に回り込んで、椅子の背もたれを押さえしゃがむように座ります。そういう風につくられたアニメーションは、動きとしては人間らしく重さも伝わるよう綺麗にポリッシュされているかもしれません。

    ただ、その動きからキャラクター性やその場の状況が伝わってくるかと言うと、少し設定がベタで曖昧すぎてしまいます。そして、結果的に動いてはいるけど、その動きから伝わってくるものが何もないというアニメーションにつながってしまいます。

    そういう観点で改めて今回の作品を見てみると、ソファの背もたれに寄りかかって座っているポーズや、指先で力なくボトルを握る仕草など、具体的につくられているのがわかると思います。とても良くできていますね。

    修正を加えるとすれば個人的に2ヵ所だけ、キャラクターの表情とキャラクターの重さの表現で、もう少しプラスできる部分があるかもしれないと思ったので、その2点について解説していこうと思います。

    提出作品『もうやだ』

    表情と感情の種類

    キャラクターの感情について、そもそもの感情の種類を間違えることはあまりないと思います。例えば怒っているべきシチュエーションで、キャラクターが笑っているような、そんな大げさな間違いはしないですよね。ただ、表情による感情表現が苦手な人の中には、怒っている表情というのは「怒っている」という風に1つの表現だけが存在すると思っている人が多いようです。

    実際には、怒っていると言っても、そのキャラクターの性格やその場の状況、どういうながれがあったのか……などなど、様々な要素によってその「怒っている」という感情が少しずつ変わってきますよね。つまり、多くの人は感情の種類で間違えるのではなく、感情の度合で間違えているということです。

    表情と感情の度合

    そこでぜひ考えてみてほしいのは、 感情には度合があるという点です。感情の度合というのは何も難しいことではなく、シンプルにどれくらい強い感情なのかというレベルだと思ってください。 そしてその度合を調整するためにとても便利に使えるのが、この連載で何回も出てきていて、僕が一番大切なルールの1つだと考える「緊張と緩和」です。

    「緊張と緩和」をとても大事にしている大きな理由の1つが、この緊張と緩和という考え方が、ただ単に力が入っているのか? 力が抜けているのか? という力の入り方の表現の使い分けだけでなく、感情の度合をコントロールできるからです。

    感情の度合と緊張と緩和

    前置きが長くなりましたが、感情の度合をコントロールするための「緊張と緩和」の使い方はとてもシンプルです。緩和に近づければ近づけるほど、その感情の度合は弱くなり、その逆に、緊張に近づければ近づけるほど感情の度合は強くなります。

    以前「緊張と緩和」をポーズで使うときには、3つの大きなポイントがあるとお話ししました。

    「緊張と緩和」の3つのポイント
    ①眉毛
    ②肩
    ③指

    参考記事:「緊張と緩和」の表現に重要な3つのポイントは「眉毛・肩・指」! 編集長・若杉 遼がポーズを添削指導 お題49「ついてきて」

    ただし感情の度合をコントロールするために使うときには、表情を見せるためにカメラがキャラクターに近い位置にある(Close Up)場合が多いです。そうなると必然的に、指や肩が見えない場合もあると思います。なので表情の場合は、基本的には眉毛、まぶた、口周りなど、顔のデザインに気をつければ大丈夫です。

    まぶたの緊張と緩和

    眉毛に関しては何度も緊張と緩和の表現について説明していますが、まぶたに関してはなかなか取り上げる機会がないので、ここで改めて復習も兼ねて、まぶたの緊張と緩和の表現について説明します。

    基本的な考え方は、眉毛と同じだと思っていただいて大丈夫です。筋肉の動きはゴムの動きと似ています。押し込んだら跳ね返ってくる、引っ張ったら戻ろうとするというゴムの性質を意識すると、まぶたも眉毛と同じく内側にいく力と外側にいく力、両方のパターンで緊張という力が入ったデザインをつくることができます。

    まぶたの外側に行く力を意識して緊張のポーズをつくった場合、一点だけ気をつけてほしいポイントがあります。それは黒目の周りに白目のエリアをしっかりつくっておくことです。カートゥーンのキャラクターの場合は黒目がとても大きい傾向があるので、どんなにまぶたを大きく開けても黒目と瞼がぶつかってしまうケースもあると思います。ただ、しっかりと緊張と緩和のちがいをつくるためには、まぶたが黒目に乗っている緩和のデザインとなるべく明確に差をつけて、わかりやすいデザインにしたいです。

    同じようなポーズをつくっても黒目が瞼にぶつかっているのか? それとも黒目の周りにしっかり白目のエリアをつくれているのか? というのは、表情の印象に大きな印象のちがいを生んでしまうので、気をつけておきましょう。下の画像のように、2つを見比べて見るとはっきりとちがいがわかると思います。

    ネガティブスペースと重さ

    こちらも初心者のアニメーターがポーズをつくるときによくやってしまう例の1つですが、キャラクターが地面に寝そべっていたり、今回のケースのように背もたれなどにもたれかかっている場合など、体重を足以外の部分にかけている場合に、ネガティブスペース(ポーズの隙間)があると重さの感じ出なくなってしまいます。 

    理想的なポーズのイメージは、溶けたチョコレートのように、全体的にぐでっと重力の赴くまま下に垂れているようなイメージです。溶け始めたチョコレートが地面に垂れて広がっていくときには、当たり前ですがチョコレートと地面の間に隙間は生まれませんよね? これによって説得力のあるキャラクターの重さの表現ができるということです。

    添削

    <添削前のポーズ>

    <添削ノート>

    最後に、作例の上から僕が描いた絵と元の絵を見比べてみましょう。

    一番最初にお話しした通り、ポーズの選択がとても具体的でキャラクターの性格や心の声がよくわかる、とても良い作品でした。後は細かい部分の重さや、表情の明確さがプラスできると、さらに良いかなと思いました。

    今回の添削はこんな感じです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

    最後に、ポーズ宿題に参加してくださった皆さん、ありがとうございました! 皆さん毎回素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させてもらっています。ぜひ今後も参加してくださると嬉しいです!

    「アニメーションエイド ポーズ宿題」について

    オンラインスクール「アニメーションエイド」のクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。

    ●参加方法とやり方

    ・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。

    ・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう

    ・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。

    ●参考

    ・「アニメーションエイド ポーズ宿題(旧・エイド宿題)」とは?
    https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
    ・これまでのお題
    https://ryowaks.com/category/aidshukudai/

    若杉 遼/Ryo Wakasugi

    2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はウォルトディズニーアニメーションスタジオに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
    ●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
    ryowaks.com
    ●AnimationAid
    animation-aid.com

    TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada