CGクリエイターを目指す学生にとって、ポートフォリオは自分の魅力を企業に伝える最も重要な手段だ。では、どのような工夫や視点があれば、その魅力をより効果的に示せるのだろうか。


本連載では、先日発売を迎えた書籍「CGクリエイターになるためのポートフォリオ実例集」を基に、VFXディレクター/デザイナーの佐藤智幸氏が指導する受講生が実際に内定を勝ち取ったポートフォリオを取り上げ、その制作のPOINTを紹介していく。


記事の目次

    ※本連載は、書籍「CGクリエイターになるためのポートフォリオ実例集」の内容をベースにCGWORLD.jp向けに再構成したものです。

    書籍情報

    CGクリエイターになるためのポートフォリオ実例集 <内定を決めたポートフォリオから学ぶ作品づくりと見せ方の秘訣>


    定価    3,520円(本体3,200円+税10%)
    発行・発売    株式会社 ボーンデジタル
    ISBN    978-4-86246-657-0
    総ページ数    304ページ
    サイズ    B5正寸、オールカラー
    発売日    発売中

    詳細・購入はこちらから(Amazon)

    佐藤智幸 / Tomoyuki Sato

    VFXディレクター/デザイナー。音楽活動を経てCGデザイナーへ転身。TV局内にて活動後フリーランスへ。白組、デジタル・フロンティア、オムニバス・ジャパン、NHKなどでVFXディレクター/VFXデザイナーとして映画・ドラマのVFXを中心に活動し、LIVE映像やCDのアートワークなども手がける。C&Rクリエイティブアカデミーにて後進の育成・指導も行なっている。

    note.com/vfx_sato

    今回のポートフォリオ

    ゲーム背景を意識した作品で、青い海と空、そして人魚像が印象的な作品。

    ●ページ構成
    A3 [横] 8ページ(A4 [縦] 16ページ)
    ●使用ツール
    Maya、ZBrush、Photoshop、Substance 3D Painter、Substance 3D Designer、Unreal Engine

    青と白を基調とした美しい海岸線、そして人魚像が主題として強調され、神秘的で美しい光景が視覚的に際立っている。A3横、見開きいっぱいに配置することで高い没入感を意識したダイナミックなレイアウトになっている。

    <1>ナラティブ:プレイヤーの感情の考察

    POINT 1:マインドマップを活用し、世界観のアイデア出しを行なっている。これにより、 テーマ、要素、関連性を構造的に可視化し、一貫性のある、深みのある土台を効率的に確立している。

    POINT 2:さらにナラティブの要素を考え、そこからプレイヤーの感情の起伏まで考え画づくりに活かしている。

    昨今、注目を浴びている「ナラティブ(narrative)」という言葉は日本語では「物語」と訳されるが、「物語」という括りだけではその概念の全体を十分に捉えることができない場合がある。このポートフォリオではナラティブを単なるストーリーではなく、プレイヤーが世界に「没入し、体験し、意味を解釈するプロセス」全体として捉えている。

    <2>モデリング:加重を意識した階段の歪み

    POINT:人がよく通る場所に生じるわずかな沈み込みを再現するため、Maya上でオブジェクトの傾斜やソフト選択を用いた調整を行なっている。これは、CGの完璧な直線を消すとともに、CGモデルに「時間の経過」や「利用の痕跡」を刻み込み、世界観の説得力を高めるための重要な要素である。

    <3>R&D:画角・アウトラインの研究

    POINT 1:カメラの画角の比較
    カメラの画角を複数試し、比較検討している。広角の場合は、たった1mmのちがいで画の雰囲気が変わってしまう場合もあるため、作品づくりにおいて、こうした検証や試行錯誤がとても重要になる。

    POINT 2:アウトライン描画の比較
    作品のスタイル、視認性、没入感を最大化するため、複数のアウトラインの手法を比較検討。その結果、自身が目指すビジュアルコンセプトに最も適した方法を選択することができている。

    <4>管理:タスクとスケジュールの管理

    POINT 1:タスク管理
    作業タスクは膨大にあるため、カンバンチャートを使って整理。グループを分けることで、より効率よく管理している。

    POINT 2:スケジュール
    闇雲に作業を行うのではなく、しっかりとスケジュールを立てている。特に、物語やマップの構想に十分な時間を割いている。

    いかがだったでしょうか。今回は、背景モデラーとして内定を獲得した生徒作品の解説でした。プレイヤーの感情の考察や完成に至るまでのR&D、タスク・スケジュール管理など、日々のCG制作やポートフォリオ制作の参考になれば幸いです。

    次回は、背景モデラーとして内定を獲得した生徒作品の中から、レベルデザインについての解説を行いたいと思います。

    書籍情報

    大手ゲーム会社の内定を勝ち取った21作品のポートフォリオ実例を、「キャラクターモデラー」「背景モデラー」「レベルデザイン」の3つのカテゴリに分け、現役クリエイター兼講師のポイント解説付きで紹介!

    CGクリエイターになるためのポートフォリオ実例集 <内定を決めたポートフォリオから学ぶ作品づくりと見せ方の秘訣>


    定価    3,520円(本体3,200円+税10%)
    発行・発売    株式会社 ボーンデジタル
    ISBN    978-4-86246-657-0
    総ページ数    304ページ
    サイズ    B5正寸、オールカラー
    発売日    2025年12月下旬

    詳細・購入はこちらから(Amazon)

    TEXT_佐藤智幸 / Tomoyuki Sato
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、堀越祐樹 / Yuki Horikoshi