技術革新が絶えないCG映像業界で、クリエイターはどのように学び、成長していくのか。各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画、第4回はStudioGOONEYSを紹介する。同社では入社直後から実案件に参加する“実践型OJT”を重視し、新人であってもクライアントチェックの場に同席させる。前編では、その現場参加型の育成方針と、提案力や判断力を育てる教育の考え方に迫る。

記事の目次

    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.329(2026年1月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 第4回 StudioGOONEYS」を再編集したものです。

    StudioGOONEYS

    2012年設立、東京都中野区に拠点を置くCGスタジオ。社員約70人。映画、アニメ、ゲーム、CMなど多彩な映像を手がける。スタッフひとりひとりが演出意識をもって制作に臨み、学びと挑戦が循環する開かれた現場づくりを推進している。
    Webサイト:https://gooneys.co.jp

    クライアントチェックへの同席で育てる、新人の提案力

    CGWORLD(以下、CGW):まずは新人教育についてお聞きします。StudioGOONEYSでは、入社直後から実案件に関わる“実践型OJT”を重視されているそうですね。

    斎藤瑞季氏(以下、斎藤):当社では、一般的な新人研修のように、何ヶ月もかけて社内ルールやワークフローを教える期間は設けていません。マナー研修や社内ツールの使い方など、最低限の導入を2〜3日で済ませたら、すぐにプロジェクトに参加してもらいます。ただし美大出身など、ツール操作に慣れていない新卒者の場合は、例外的に1ヶ月〜半年ほどの補助研修を設けることもあります。

    ▲代表取締役・斎藤瑞季氏

    石原一志氏(以下、石原):やはり現場でしか学べないことが圧倒的に多い。早く案件の空気に触れてもらうのが一番の教育なんです。

    ▲取締役/チーフディレクター・石原一志氏

    斎藤:新人には、入社初月から“成果を実感できる適正な業務量”を設定しています。多くの新人が現実的に取り組める範囲で、会社としても無理のない、かつ責任あるかたちで“業務を任せる環境”を整えています。当社では、全ての作業を「工数=金額」として見積もりに落とし込んでいます。モデルひとつ、カットひとつ、モーションひとつなど、それぞれの単位で工数が決まっている。だから案件の受注金額に対して、どのレベルのスタッフをどれだけアサインするかを明確に設計できる。新人が担当する範囲も、常にその設計の中に位置づけられています。

    大山萌依氏(以下、大山):私は新卒で入社して8年目になりますが、当時も今とほぼ同じかたちでした。内定後の1ヶ月間はインターンとして社内で自由課題に取り組み、4月の入社直後にプロジェクトへアサインされ、6月には最初のクライアントチェックに同席していました。自分がつくったキャラクターモデルをチェック対象として提示することになって、「え、もう私が参加して良いんですか?」と驚いたのを覚えています(笑)

    ▲モデリングスーパーバイザー・大山萌依氏

    CGW:新人どころか、作業者が参加するケースも珍しいと思うので、それは驚きますね。

    藤巻香洋氏:クライアントチェックは斎藤とクライアントが一緒に提出物を確認する場で、当社では、このチェックに新人のうちから同席してもらうことが多いです。

    ▲広報・藤巻香洋氏

    大山:新人の場合は、クライアントチェックに提出する前に、スーパーバイザー(以下、SV)が品質やエラーを確認する社内チェックを行います。熟練スタッフになると、社内チェックを省略し、直接クライアントチェックに進むことも多々ありますね。

    斎藤:クライアントチェックは、単に修正指示を受ける場ではなく、“一緒につくる”ための協働の場だと考えています。相手の表情や言葉のトーン、反応から「何を良しとするのか」を感じ取ることが重要で、その力は実際に同席しないと身につきません。新人が早い段階でそこに立ち会うことで、机上の学びでは得られない“肌感覚”を養えるんです。

    石原:チェックの場では、クライアント側の人柄や柔軟性、ストライクゾーンの広さにも気づけますよね。「ここまでは遊んで良い」、「ここは譲れない」というラインを見極めることが、後の提案力にもつながっていく。

    大山:予算や納期をふまえて、どこにリソースをかけ、どこを割り切るかという判断も、そこで学べます。新人のうちから、そうした実務判断に触れられるのも貴重な経験です。

    濵邉 麻里菜氏(以下、濵邉):クライアントチェックに出ると、テキストだけのやりとりでは得られない情報がたくさんあると感じます。相手の話し方や言い回しから、「こうしたい」という演出意図のニュアンスが伝わってくるんです。テキストだと「ここを直してほしい」と端的に書かれて終わりですが、対面ではその理由や背景、迷っているポイントまで聞ける。その思考のプロセスを知ることで、アニメーション表現の精度も上がりました。

    ▲アニメーター・濵邉 麻里菜氏

    小林陽愛氏(以下、小林):私も入社初期に、発注書通りにつくったアニメーションに対して、「なんかちがう。もっと遊んで良い」と言われたことがありました(笑)。学生時代には経験しなかった抽象的なフィードバックをどう解釈するかに戸惑いましたが、SVと相談しながら“遊び”の方向性を探るうちに、演出意図を読み解く面白さに気づいていきました。今は、発注書や絵コンテの大方針をふまえつつ、「こうした方が、意図が伝わる」と思えば、レイアウトやカット割りを自分なりに調整して提案するようにしています。

    ▲アニメーター・小林陽愛氏

    斎藤:この2人は入社3年目ですが、もう「クライアントがOKを出す画を出せるアニメーター」に育っています。単に指示を再現するだけでなく、相手の意図を超えすぎない範囲で、想像を上回る表現に仕上げてくれます。

    濵邉:以前は、自分の意図をクライアントに上手く伝えられずに悩んでいました。でも今は、作業に入る前に「なぜこうしたいのか」を整理してから臨むようにしています。緊張で簡潔な報告しかできなかった頃とはちがい、今はしっかり話せるようになりました。

    小林:私も、求められているものをそのまま受け取るのではなく、「なぜそう言われたのか」を考えるようになりました。その習慣が身についてからは、自分の提案が受け入れられる機会が増えていったように思います。

    斎藤:CGという分野は、監督やクライアントが必ずしも全工程を理解しているとは限りません。だからこそ、対話を通じてお互いの理解を深めていくことが大切なんです。当社では、そうした「環境づくり」も教育の一部と位置づけています。チェックの場を共有すること自体が、クライアントとスタッフの相互学習の場になっているんです。

    石原:こうしたチェック方式には、もうひとつ大きなねらいがあります。合意形成のスピードを速め、限られた予算でも成立しやすくするという点です。現場で作業者とクライアントが直接意見を交わすことで、誤解や手戻りが圧倒的に減る。これは、当社のような中規模スタジオが持続的に案件を回していく上で、とても重要なんです。

    斎藤:そのしくみを支えているのが、制作進行の存在です。当社では制作を、現場運用を担う中核的ポジションとして採用・育成しています。単に「クライアントを呼んで提出物を見せるだけ」では関係性は長続きしませんから、たとえ相手がCGに詳しくなくても的確にチェックできるよう、制作が事前準備や資料づくりを徹底してくれている。前回フィードバックと最新データとの差分表示、台詞や音を含めたセットアップなど、“見せ方”の工夫が非常に緻密なんです。

    30項目評価で可視化する、専門スキルと社会人力

    斎藤:当社では、スタッフの成長を「専門スキル」と「社会人力(コミュニケーション力)」の2軸で捉えています。前者は新人であっても3年ほど経験を積めば“自走できるレベル”に到達しますが、そこから先の伸びを決めるのは、社会人力の方なんです。

    石原:特に重視しているのが「ロールプレイング力」です。監督やクライアント、観客など、他者の視点に立って考え、相手の求めるものを理解した上で最適な提案や判断ができる力。“役割演技力”とも言える要素ですね。単に提出物をつくるだけでなく、「この人ならどう判断するか」を想像できる人は強い。

    斎藤:ロールプレイング力は、専門スキルとの掛け算で成立する能力です。スキルがないと、相手の意図を理解してもかたちにできない。逆にスキルだけあっても、相手の視点を欠くと自己満足に終わる。その両方を磨くしくみとして、評価制度を設けています。

    石原:年に1度、全社員を対象に人事面談を行い、30項目の評価基準に対して話し合います。内訳は専門スキル10項目、社会人力10項目、総合力10項目で、最初にSVがチームメンバーを評価し、それを斎藤と私が自身の現場感と照らし合わせて調整します。

    斎藤:上下関係で査定するというより、チームとして成長を支えるしくみです。SVの評価が高すぎたり低すぎたりする場合は、私たちが直接対話してすり合わせます。ときには、こちらの認識を改めることもありますね。

    石原:評価項目自体も毎年アップデートしています。重複がないか、現場に合っているかを確認しながら、改訂と評価に2ヶ月かける。面談実施にもさらに2ヶ月ほど要するので、年間の1/3をこのプロセスに充てています。

    大山:評価を通して「自分は何を伸ばすべきか」を可視化できるのは大きいです。ロールプレイング力は抽象的に聞こえますが、実際は「誰の視点で、何を優先し、どこに工数を使うか」という判断の積み重ねなんです。面談でその考え方をすり合わせておくと、現場で迷いにくくなります。

    CGW:ご自分がSVへと成長する上で、転換点になった経験を教えてください。

    大山:入社2年目に入る少し前、斎藤と石原に「案件を自分に任せてほしい」と直談判したことがありました。当時はチームの情報共有が上手くいっておらず、誰に聞いても状況がわからないことに疑問を感じて、「だったら自分が責任をもって回したい」と思ったんです。そのとき斎藤に「監督の視点を理解することが大事だ」と言われ、ロールプレイング力の重要性を初めて意識しました。

    斎藤:ちょうど中堅が抜けたタイミングで、彼女の立候補は助かりましたね。スキル面では発展途上でしたが、横のつながりを広げて現場をまとめられるコミュニケーション力があった。その後はSV見習いを経て、25歳で正式昇格。社内でも最年少でした。自分から裁量を求め、意思決定の現場に入っていく姿勢が、成長の原動力だったと思います。

    大山:もうひとつの転換点は、教育の場に立ったことです。斎藤が非常勤講師をしている専門学校で、私も講師を務め、1年生向けにキャラクターモデリングの授業を担当しました。半年間のカリキュラムを自分で設計し、授業動画も制作したんです。教えるために手順を整理して言語化する過程が、自分自身の学び直しにもなりました。

    斎藤:あれは「大山チームを好きにデザインして、好きに遊んでほしい」と思って勧めたんです。彼女の授業資料は現在、インターン研修の教材にもなっています。

    大山:教育を通して「自分がどんなチームをつくりたいか」を考えるようになりました。最近は社内向けのミニセミナーを開き、発注のながれや工数設計を共有したりもしました。評価制度で培った“可視化の思考”が、教育にもつながっていると感じます。

    斎藤:評価は、成長を数値化するためのものではなく、次の役割を演じるための台本です。当社では、毎年その台本を現場に合わせて書き換えていく。だからこそ、皆が同じ方向を見ながら変化していけるんです。

    現場の“工数”を学ぶ社内向けミニセミナーで、職種を越えた視座と仕事観を共有

    ▲大山氏が自主的に企画・実施した、社内向けミニセミナー用の資料の一部。案件の発生やスケジュール、工数をテーマに、全職種のスタッフに向けて業務設計の基礎を解説した。受講した濵邉氏は「工数の捉え方が明確になった」と語った
    第4回 StudioGOONEYS 後編は、19日(月)に公開します。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.329(2026年1月号)

    特集:映画『果てしなきスカーレット』

    定価:1,540円(税込)

    判型:A4ワイド

    総ページ数:112

    発売日:20251210

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota