2019年に大阪を拠点に本格始動して以来、フォトリアルに特化したビジュアル表現でインテリアや家電メーカー等のトップブランドから信頼を集めるLIT design(※)。彼らが手がける極めて上質な3DCG表現は、モノや空間が創り出す物語を想起させ、目にした人の五感に働きかける圧倒的な説得力がある。今回、彼らのものづくりの根底にあるビジョンを聞くことができたのでその内容をお伝えしよう。
※「LIT design」は、株式会社ABILITIST CG事業部のブランドネーム
今一度、「フォトリアルとは何か」を問う
「3DCGか実写か」の垣根を越え、もはや3DCGで制作されていることすら気がつかないフォトリアル3DCGの世界。よりリアルな表現を求めて3DCGツールの技術革新が進められており、少しがんばって勉強すれば誰でもリアルなCG作品を制作することができるようになった。さしずめ「リアルであることは当たり前」といったところだろう。
本稿を読んでいる読者諸氏においては、「リアルとフォトリアルのちがい」について十分に理解されていることだろう。その前提で話を進めると、「フォトリアル」について解説する必要はないと思われるがどうだろうか。10年以上に渡り3DCGを専門に記事を書いてきた筆者においても、フォトリアルについてそれなりに理解しているつもりでいた。しかし今回、それはとんだ思い上がりであることに気付かされた。LIT designが手がける極上のフォトリアル表現を目の当たりにして、「フォトリアルとは何か」を改めて問い直すこととなったのだ。
インテリアや家電、建築を中心にフォトリアルなビジュアル表現を追求しているLIT design。彼らが3DCGで制作した空間からは、肌で感じる間接的な光の暖かさや湿度、風に乗って流れてくる心地よい香り、さらにはかすかな生活音まで聞こえてくるようだ。技術、知識、感性、プロダクトに対する理解力と分析力。これらの情報から不純物を取り除き、凝縮し、再結晶させて美しく磨き上げる。「神は細部に宿る」という言葉がふさわしい、プロフェッショナルによる仕事がここにある。
「リアルを超越して感情を動かすビジュアル表現を実現する。まるでカメラで撮影するかのように美しい瞬間を切り取る。当社では ”バーチャルカメラマン” ”バーチャルフォトグラファー” という言い方をしています」。そう話すのは同社の代表を務める松上明弘氏だ。広告写真の撮影において、カメラマンの選定はモデルの選定より重要視されることが多々ある。被写体が同じでも、カメラマンによってまったく別物のように表現されるからだ。
これと同じことが3DCGでも起こると松上氏は言う。「例えば同じチェアの3Dモデルをモチーフにしたとしても、画角、ライティング、レンズ選び、レイアウトなど、CGクリエイターのセンスによってレンダリングの結果はまったく異なります。3DCG空間内においても、現実世界のカメラマンと同じように ”どこを切り取るか” が重要なんです」(松上氏)。ゆえに同社では、「本物を観察すること」にとことんこだわる。木や石をはじめとする様々なマテリアルのサンプルはもちろん、スチル⽤、映像⽤のカメラに多様なレンズ、ドローンや照明などの撮影機材を一通り揃え、細部まで入念に観察してシミュレーションが行われる。「写真ベースでマテリアルの特徴を参照することは多々あるかと思いますが、当社では実際のマテリアルを目で見て、組織や成分、プロセスやバックグラウンドまで理解して3DCGに起こします。そうすることで表現するべきポイントが見えてくるんです。ここまで観察・分析しているCGプロダクションは珍しいかもしれませんね」(松上氏)。
「カメラからCGにツールが置き換わっているだけで、3DCGはあくまでも手法のひとつという考え方です」。そう話すのはクリエイティブ・ディレクターを務める植村明斗氏だ。LIT designのビジュアル制作は、「カメラマンがCG制作を行う」といったイメージが近いと植村氏は言う。
「実写の代替」としてのフォトリアル3DCG
前述したとおり、LIT designではインテリアや家電メーカー、建築関連の広告ビジュアル制作を多く手がけているのだが、ここ最近では「実写撮影の代替」としてフル3DCGを用いたビジュアル制作の依頼が増えてきたと植村氏は話している。「従来の広告制作では実際の商品を撮影する必要があったため、季節や天候、時間帯、ロケ地、スタジオレンタルなど非常に多くの制約で縛られていました。さらに一度撮影し終えた画のアングルを後から変更することができないため、再撮影の可能性も考慮しておかなければなりません。ビジュアル制作をすべて3DCGで行うことで、広告写真が抱えるこれらの問題をベストなかたちで解決することができるのです」(植村氏)。
「実写撮影の代替」としての3DCGビジュアル制作の需要が加速すると考えられる背景には、コロナ禍によってスタジオ撮影や国内外のロケが困難になりリモートワークが強いられるなど、致し方ない事情も複雑に絡んでいる。それに伴い広告業界のみならず、不動産業界においてはモデルルーム、製造業ではショールームと各業界でも3DCGビジュアライゼーションを用いたバーチャル展示へと移行し始めている。こういった世相を読み解くと、フォトリアル3DCGの活用の幅は無限大であることに改めて気付かされる。実物と触れ合う機会が減ったことで、よりリアルなバーチャル体感が求められるようになった。LIT designが「心を動かすフォトリアル」を専らの強みとし、本物にこだわり、本質を見抜く目を養う理由はここにあるのだ。
被写体の本質をとらえ、最も美しく輝く瞬間を作り出して切り取る。彼らは新たな世界を切り開くイノベーターであり、一流のバーチャルカメラマンでありスタイリストでもある。知識とセンス、技術力を自由自在に組み合わせてオリジナリティと価値を提供する。LIT designが描き出そうとする世界から、未来を見据えたスマートなクリエイティビティが感じられる。
<TIPS>木材のフォトリアル表現
LIT designの細部へのこだわりについて具体的に聞いてみたところ、マテリアル表現のTIPSとして木材をテーマに解説してもらうことができたので紹介していこう。
ちなみに LIT designの制作環境は以下のとおりとなっているとのこと。参考までに。
・メインツール:3ds Max(動画、静止画共に)、Cinema 4D、UE4
・レンダラ:Corona Renderer
・マシンスペック:AMD Ryzen™ 9 5950X、GeForce RTX 3080
(2022年5月現在)
木目と年輪
木材は木を製材したもので、フローリングや壁、扉、収納家具、置き家具などCGでよく使われる素材だ。そんな木材を認識する最も重要な特徴となるのが「木目」である。夏と冬とで木が育つ生長速度がちがうため細胞組織の密度が異なり、それによって「年輪」と呼ばれる模様が生じる。
それぞれ「外樹皮」「内樹皮」「形成層」「木部」と名称が付いており、「木部」の中にも「辺材」「心材」「髄」と名称が分かれそれぞれの特徴がある。また、切り出す場所や条件によって木目の柄と名称(「木口」「板目」「柾目」「杢目」)は異なる。
節
樹⽊から出る枝の跡を「節」と呼び、材⽊業界では「節」の有無で等級が付けられており、等級が⾼い順に「無節」→「上⼩節」→「⼩節」→「節あり」と分類されている。柄によって希少性が異なり、同じ⽊材でも⾼級な部位から安価なものまで様々だ。
無節:節がない
上⼩節:直径6mm程度までの上⼩節と呼ばれる⼩さな節があるが、あまり⽬⽴たない
⼩節:直径20mm程度までの⼩節がある
節あり:⼩節より⼤きな節が存在する。
樹種によって異なる特徴
樹⽊の種類は、大きく分けると「針葉樹」「広葉樹」の2種類に分かれる。広葉樹の中でも冬になると葉が落ちる「落葉樹」と年中緑色の葉がついている「常緑樹」があり、 家具で使われることが多いのが「落葉広葉樹」になる。細胞の密度が⾼いため材質が硬く、傷がつきにくいからだ。
<針葉樹>
ヒノキ、杉、パイン(松)など。
加⼯がしやすく柔らかくて軽量。⽣⻑が早く、⼤きなものが⼊⼿しやすい
<広葉樹>
オーク、ナラ、ウォールナットなど 。
硬くて重い。⽣⻑が遅い
⽊材の加⼯と種類
⽊材は「無垢材」「集成材」「積層材」「合板(ベニヤ板)」など、⽬的に応じて加⼯されるわけだが、その製造過程や種類によってテクスチャに特徴がある。
面
基本的には、多⾯体の⽊材の「⾯」が全て同じ⽊⽬になることがないことが理解できたはずだ。このように、各⾯において切り出された部位の質感が異なると当然表情も異なる。曲⾯で成り⽴つ形状の場合は、その部位ごとの特徴が連なり合うためさらに表現の難易度が上がる。⽊材の性質に合わせてテクスチャの設定をなっていかなければならない。
面取り
板材や柱などの⾓張った⽊材のコーナー部分を⾒てみると、加⼯されているものがほとんどであることに気が付く。これは他の加⼯資材も同様で、CGでよく⾒かける「ピン⾓(かど)」は実際の⽣活シーンでは基本的にはあり得ない物体だ。その他、「C⾯取り」「⽷⾯取り」「R⾯取り」と⾯取りの幅や形状によって呼び方は異なり、これらも同様に⽊⽬の表情が異なる⾯となる。
突板(単板)
例外として、木材を薄くスライスしたものをベニヤ板や下地材に練りつける「突板(単板)」と呼ばれる方法があるのだが、この場合は全ての⾯を⽊⽬にすることも可能だ。このように、切り出す場所や形状によって⽣じるちがいや特徴を捉えることが、フォトリアルな表現をする上では重要になってくる。
今回は木材をテーマにざっくりと解説してもらったが、どのような素材であれしっかりと観察し特徴を理解して知識を深めることで、違和感の元となる表現に気づくことができるようになる。「こういった知識を増やすことで、クライアントから渡された資料がたとえ少なかったとしても精度の高い表現ができるようになります。引き出しをたくさんもっておくことが重要ですね」(松上氏)。
「LIT design 3DCGコラム」でさらに詳しい解説を読むLIT designでフォトリアル3DCGを極める、という選択
今後はファッションやビューティー、ヘルスなどライフスタイル領域でのビジュアル制作も視野に⼊れているというLIT design。「ありがたいことにお仕事のご依頼が多く、正直、⼈⼿が不⾜している状態です。動画制作の依頼も増えてきたため、 3DCGクリエイターと動画クリエイターを募集しています。新規サービスや新たな取り組みも計画しているので、サービス開発をやりたい⽅やアイデアに富んだ⽅も⼤歓迎です」と松上⽒。
LIT designに在籍する3DCGデザイナーは現在6名。建築、金属、機械と各分野でキャリアを積んだスタッフが集結しているという。「各分野でギーク的な探究心を持ち合わせたスタッフが揃っていますが、はじめから高い専門知識を持っている人はなかなかいないと思います。LIT designで一緒に仕事をしていくうちに、次第に観察眼が鋭くなり知識が深まっていくはずです」(植村氏)。
LIT designは単にフォトリアルな3DCGを制作するだけの場所ではない。3DCG制作を通して、より良い暮らしを作り出すためのクリエイティブを行う場所と言えるだろう。「日々の暮らしをより豊かで快適にするためにアンテナを張っている方や、身の回りの道具や持ち物にこだわりのある方。追求することが好きな方。ドアはいつでも開いていますので、ぜひ一度、LIT designに立ち寄ってみてください」(松上氏)。
現在の拠点は大阪だが、東京拠点も現在準備中とのこと。リモートワークについては基準や条件はあるが、相談可能だという。 LIT designの仕事に魅⼒を感じたなら、ぜひ気軽にコンタクトをとってみてほしい。
▼募集職種
①3DCGディレクター
②3DCGデザイナー
③動画クリエイター
▼求人情報の詳細はこちらから
cgworld.jp/jobs/30665.html
LIT design
株式会社ABILITIST CG事業部
事業内容:3DCGI、3DCG動画、3DCGVRの制作
<大阪本社>
所在地:大阪府大阪市中央区南久宝寺町1-4-7
TEL:06-6266-8911
<東京事務所(近日始動予定)>
所在地:東京都港区西麻布2-25-29 フレミッシュ西麻布B1
E-mail:contact@litdesign.jp
URL:litdesign.jp
TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)