2018年から続いているTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』シリーズの最新作『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』は、物語の舞台を中学校に設定し、学園ドラマと共にストーリーが進んでいく。基地の設定やシンカリオンと敵の登場シークエンスなどもリニューアルされており、見どころ満載のシリーズだ。そのメイキングを、3回にわけて紹介していく。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 312(2024年8月号)からの転載となります。
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これまでのシリーズとどう差別化し、新しいシンカリオンを描くかの挑戦
CGアニメーション制作はこれまでのシリーズ同様、小学館ミュージック&デジタルエンタテインメント(以下、SMDE)が担当した。
CGプロデューサーの山野井 創氏は「SMDEがシンカリオンのプロジェクトに参加して10年になります。TVシリーズの3作目となる本作をどう差別化するか、当然われわれの課題になりました。新幹線の形状こそ変わりませんが、新しいロボットであるという雰囲気をつくることが大きな課題のひとつでしたね。本作から担当される駒屋健一郎監督と一緒に、新しいオーダーの下に新作するというよりも、これまでの表現を継承しつつブラッシュアップを目指しました」と話す。
毎週日曜放送中、テレ東系列あさ8時30~、BSテレ東深夜24時35分~
監督:駒屋健一郎/アニメーション制作: シグナル・エムディ、Production I.G/CGアニメーション制作:小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント/制作:小学館集英社プロダクション
www.shinkalion.com
©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX
ワークフローもこれまでのシリーズから刷新されたという。「制作にアサインされているディレクター陣も新しくなっているので、新しいディレクターたちに合わせたワークフローになっています。今回から手順をマニュアル化するなど、若手スタッフでもある程度までつくれるしくみを構築することで、これまでは4ヶ月かかっていたモデリング作業も3週間程度に短縮されています」と、モデリングディレクターの桐敷 晃氏はふり返った。
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www.smde.co.jp
前シリーズの終了時にはすでに本作の企画が進行しており、シナリオ完成前にはシンカリオン3体のモデリングが完成、カット作成に入る前にはバンクとして使用する変形シーンが完成していた。
「CG側が早く動けた分、制作側に提案しながら作業を進めることができたので、ストレスのない制作環境で進行できています」(山野井氏)。それでは、本作のメイキングを紹介していこう。
これまでの技術の継承と新しい試み
カット制作のワークフローはこれまでのシリーズを踏襲している部分も多いが、作業の効率化やクオリティアップを目指して新しい試みも取り入れられた。そのひとつがファイルフォーマットの刷新だ。本作からレンダリング出力素材をOpenEXRに変更し、8種類のパスを利用することで、コンポジット作業を効率化したという。
「OpenEXRは色情報の精度が高く、モーションベクターなどを含めた様々な情報を1つのファイルに盛り込めるので、ベースコンポジットを作成して、各スタッフが共通して作業できるようになりました。ベースコンポジットもAfter Effects(以下、AE)のエッセンシャルグラフィックス機能を使って、落影表現や瞳の輝き具合などをパラメータでコントロールできるようにしたので、コンポジットの作業工程をかなり簡略化できています」と、CGディレクターの久能木 亮氏は語る。
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これまでのコンポジット作業では、エフェクトの調整時にも数十あるレイヤーの中から適用されているエフェクトを探し出して作業することが多く、協力会社のスタッフが作業するときに非常にわかりにくかったが、このしくみを導入することでかなりの効率化が実現したという。
レンダージリオンとAEのエッセンシャルグラフィックスの活用
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シンカリオンの骨格フレーム
各シンカリオンの骨格フレームは共通のものを用意しており、シンカリオンごとに色替えで流用している。左から、シンカリオンE5はやぶさ、E6こまち、E7かがやきの骨格フレーム。合体時やアクション時に骨格フレームが露出する場合があるため、見えてしまっても問題ないように各パーツをつくり込んでいる。「骨格フレームのモデリングは、基本的に見えない部分のモデリングなのでほぼ趣味の世界です(笑)。ただ、腕を上げたときなど、中のフレームが見えてしまうこともあるので、見えない部分も結構つくり込みが大切になってきます」(桐敷氏)。
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(2)につづく。
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CGWORLD 2024年8月号 vol.312
特集:パルワールド
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年7月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada