2018年から続いているTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』シリーズの最新作『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』は、物語の舞台を中学校に設定し、学園ドラマと共にストーリーが進んでいく。基地の設定やシンカリオンと敵の登場シークエンスなどもリニューアルされており、見どころ満載のシリーズだ。そのメイキングを、3回にわけて紹介していく。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 312(2024年8月号)からの転載となります。

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    Information

    『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』
    毎週日曜放送中、テレ東系列あさ8時30~、BSテレ東深夜24時35分~
    監督:駒屋健一郎/アニメーション制作: シグナル・エムディ、Production I.G/CGアニメーション制作:小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント/制作:小学館集英社プロダクション
    www.shinkalion.com
    ©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX

    プラレールの動きを踏襲しつつ格好良い変形と合体を実現するモデリング

    左より、CGディレクター・久能木 亮氏、CGプロデューサー・山野井 創氏、モデリングディレクター&メカニックデザイン・桐敷 晃氏(以上、小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント)
    www.smde.co.jp

    シンカリオンのモデル制作では、最初にタカラトミーから供給された資料を基にラフモデルを作成し、実際のプラレールからの変形映像を観ながらモデルを仮組みした。アニメでも玩具の変形を踏襲しており、プロポーションを確認しながらディテールが近くなるように仕上げていったという。

    「プラレールの形状と実際の車輌ではスケール感がちがうので、スライド変形を入れるなどして長さを調整しています。新幹線の1車両分で変形しないといけないので、デザイン時にはボリューム感が減ってしまわないように注意しました。仮組みをした状態で過去のシンカリオンの骨格フレームを使って、変形したときの全体の大きさや長さ、ボリューム感を確認していきました」(桐敷氏)。

    本作では、シンカリオンとトレーラーなどのエルダビークルが合体する設定があり、トレーラーも新たにモデリングされた。プラレールのデザインはデフォルメされているため、リアルなトレーラーとしてリデザインし、新たにサイドミラーや警告ランプなどの細かいパーツも追加している。なお、デザイン画は玩具用のものしかなかったので、CGアセットのデザインはSMDEが行なった。

    シンカリオン E5はやぶさの変形ギミックの検討

    本番のモデリングを始める前に、ラフモデルを使ってシンカリオンの変形ギミックが桐敷氏によって検討された。シンカリオンは新幹線1車両が変形して1体のロボット形態になるため、1車両だけで質量的なボリューム感を出すことが求められた。変形する際の外装の区分けは、タカラトミーから提供されたプラレールの資料を基に、肩や脚のパーツの位置を確認しながら区切っていった。情報量を増やしつつ、プラレールからの変形ギミックの印象をなるべく崩さないように心がけたという。

    ▲ラフモデルを使用した変形手順の検討。実際に販売されているプラレールの変形機構を参考にしながらギミックが検討されている
    ▲E5はやぶさの変形ギミックの完成形
    ▲E5はやぶさのフィックスモデル。E5はやぶさの場合、制作に4ヶ月程度かかったとのこと

    ビークル合体したE5はやぶさトレーラーフォームの変形ギミック

    本作ではシンカリオンとエルダビークルが合体する「ビークル合体」という演出がある。E5はやぶさには陸送トレーラーと合体する場合の変形ギミックが作成された。トレーラーはプラレールのデザインを基に、サイドミラーや警告ランプを新たに追加したり、バーニアや噴射口の形状を変更したりして、リアルにリデザインしている。プラレールでは単純に穴が塞がっているような機構も、ハッチ風にデザインして情報量を増やした。トレーラーは合体時に左右に分割されるので、センター部分にも面を作成している。

    ▲ビークル合体のパーツ分け変形ギミック
    ▲ビークル合体したE5はやぶさトレーラーフォームの完成画像

    頭部のブラッシュアップ

    シンカリオンの頭部のモデルは、プラレールのCADデータを基にブラッシュアップして作成した。プラレールの場合、安全面を考慮して各パーツの先端を尖らせないようにしているため、先端を尖った形状にモデリングし直している。側面部分にもディテールを追加して凹凸を入れ、全体的にシルエットの情報量が増えるように調整した。

    • ▲正面から見た頭部のCADデータ
    • ▲3ds Maxでブラッシュアップしたモデル
    ▲側面から見た頭部のCADデータ
    ▲3ds Max上でブラッシュアップしたモデル。「『ロボのデザインは顔が命』と言われるほど、その完成度は顔のデザインで決まると思っています。前作より高い年齢層の視聴者もターゲットにしているので、ロボとしての特徴と、プラレールとしての特徴の中から、何を表現しなければいけないか考えながらディテールを増やしていきました」(桐敷氏)。なお、顔の造形はレンダリング画像を見ながら、静止画で見ても格好良い感じになるように細かいつくり込みを施した。特に、にらみを利かせているポーズや、横顔の見え方には気をつけているという。プラレールのCADデータでは、横から見たときに顎が前に出ている形状だったが、CGモデルではこれを整えている。また、ライティングしたときにリアルなCG影が入るので、凹んでいる部分と突出している部分を強調し、影が落ちるところにはしっかり影が入り込むようにすることで、リッチ感がでるようにした
    • ▲E7かがやきの頭部のCADデータ
    • ▲リデザインされたCG版の頭部
    完成映像。止めて見たときの格好良さが追求されているビークル合体したE7かがやきドリルフォームの変形ギミック
    ※CADデータの画像は、開発途中のものです

    肩の内部構造のモデリング

    変形シークエンスのバンクには、メカの内部構造同士が接続されるという、とても緻密な機構が必要な表現がある。モデリング作業時から内部構造が展開していくシーンが発生することを想定して作業を進めていたところ、実際に演出側から内部構造のカットがほしいというオーダーが入ったという。肩のメカの接続シークエンスは、実際にアニメーションを作成し、動く状態を確認しながら内部構造をモデリングしていった。

    ▲肩の内部構造の外観。接続シーンではカメラがメカ内部に向かって移動し、接続される様子が表現されている
    ▲肩部分がアップで映る完成映像

    以下は、内部メカがどのように動くのかを確認するために作成された資料画像。ガチャガチャと動くメカ感が強調された演出となっている。

    • ▲内部構造の入り口付近。カメラが中心に向かいながら、奥にあるジョイントの板が開く
    • ▲さらに奥にカメラが移動すると、手前側にある円盤が回転し、さらに移動したところで円盤が反対方向に回転してロックされる
    • ▲カメラの動きと共に、手前の板が奥へと移動
    • ▲カメラが内部構造の最深部に到達したところで中心のシリンダーにロックがかかり逆回転して止まる
    ▲シリンダーの最終状態

    以下は、接続シークエンスの完成映像。

    目の発光表現

    目もクオリティを左右する重要なパーツであり、カットによって目が発光する演出にもこだわりが込められている。単純に発光するのではなく、一瞬目の中にあるカメラの機構のようなディテールが見えるようにすることで、目に表情が出るように設定した。

    • ▲E6こまちの頭部を正面から見た状態。この角度ではデフォルトの状態だと目が隠れてしまうが、パーツを移動させることで目が格好良く見えるようにレイアウトされている
    • ▲E6こまちの頭部を側面から見た状態。目の中の機構が透けて見えるようにして、目の表情が演出されている

    シンカリオンのセットアップ

    変形シークエンス用のモデルには、変形する動きを細かく設定せずにすむように専用のリグが作成された。このリグを使用することで、新幹線の車輌形態から、ビークル合体を経て最終形態まで、一連の動きを再現できるようになっている。画像は変形用リグを使ってパーツを動かしたもの。

    • ▲初期状態
    • ▲パーツを展開した状態
    ▲変形合体が完了した状態

    二重関節構造のリグ

    ロボットのモデルでは、膝の関節が1つだとパーツのめり込みなどが発生するため、二重関節になっていることが多い。シンカリオンの膝関節も、二重関節構造になっている。セットアップは前作のものを踏襲しているが、モデルのプロポーションが少し変わっているため、骨格のスクリプトは変えずに骨格のポイントだけを修正して対応した。二重関節構造のスクリプトは、いくつもあるポイントヘルパーのうち重要なポイントに三角関数などの計算式を入れて、下の脚を上げるときの曲がり具合を計算でコントロールできるようになっている。

    • ▲膝が伸びている状態
    • ▲膝を曲げた状態
    ▲二重関節の構造のリグだけを表示した状態

    腕のリグ構造

    ▲大抵のロボットモデルのデザインと同様に、シンカリオンのデザインも肩が大きく張り出している形状になっており、そのままでは肩を思うように動かすことができない。腕を曲げるための構造は、肩から回るのではなく肩の下で腕が回転するという最近のプラモデルの構造を参考にリグが設定されている
    ▲腕を外側に回した状態

    目を見せるための頭部パーツの調整

    シンカリオンの頭部は顔の角度によって目が隠れてしまう。印象的な目の表現ができるよう、頭部パーツは上側を分割して、カット担当者が手軽に目のパーツが見えるように修正できる構造にしている。可動部分にはボーンが入っており、自由に移動させることが可能だ。

    • ▲調整前。この角度だと目が隠れて見えない
    • ▲調整後。頭部上側のパーツが移動して、目が見える状態に調整されている
    ▲可動部分の側面には黒いスリット構造を作成しており、動かしても目立たないように工夫されている

    (3)につづく。

    CGWORLD 2024年8月号 vol.312

    特集:パルワールド
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年7月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada