『FINAL FANTASY VII (以下、FFVII)』完全リメイク3部作の2作目として、『FFVII REMAKE(以下、REMAKE)』から4年を経てリリースされた『FINAL FANTASY VII REBIRTH(以下、REBIRTH)』

前作と地続きでありながらPS5のパワーによってさらに微細に描き出される本作の開発について、5回に分けて紹介していく。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 311(2024年7月号)からの転載となります。

    関連記事

    プラットフォームと描画設計の刷新で画面密度を向上した『FINAL FANTASY VII REBIRTH』(1)開発方針編

    キャラクターの印象を崩さずPS5に見合ったディテールに

    ターゲットがPS5に移行し、前作に登場したキャラクターをどう進化させて魅力的に見せるかが本作のキャラクター制作でのコンセプトとなった。プラットフォームがPS4からPS5に変わったことでキャラクターに使えるテクスチャ・ポリゴン数の上限が引き上げられ、開発もそこにフォーカスするかたちで進められた。

    『FINAL FANTASY VII REBIRTH』
    発売・開発:スクウェア・エニックス
    リリース:発売中
    価格:9,878円(通常版)
    Platform:PS5
    ジャンル:RPG
    www.jp.square-enix.com/ffvii_rebirth
    © SQUARE ENIX CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA / ROBERTO FERRARI LOGO ILLUSTRATION:© YOSHITAKA AMANO

    クラウドは全面的につくり直されているほか、メインキャラクターは基本的に何らかのディテールアップが施されている。ただしそれによって印象が変わってしまうことは徹底して回避されており、クオリティをアップさせつつもシリーズとしての地続き感もしっかり感じられる。制作フローやツール等は前作のものをひき続き採用しつつ、スタッフレベルでは細かく無駄が省かれ最適化された。

    肌や髪などのシェーダには前作のものから手を入れており、特に瞳のシェーダは構造からつくり直されている。スカルプトした虹彩から出力したノーマルマップを利用し、より複雑かつ透明感のある瞳の描画を実現した。

    風野正昭氏

    キャラクターモデリングディレクター

    髪は制作フローこそ前作と変わらないものの、PS5水準の詳細さを得て繊細さや柔らかな印象を向上。衣類・装飾等についても、より見応えのある仕上がりとなっている。

    「PS5というプラットフォームのパワーを前提に、それを活かすべくグラフィックの調整を進めました」(メインキャラクターモデラー&リードキャラクターアーティスト・鈴木 大氏)。

    鈴木 大氏

    メインキャラクターモデラー&リードキャラクターアーティスト

    エネミーに関しては、部位破壊など内部的に複数アセットで構成されるものも多数登場する。

    こうしたエネミーの制作時には、UEに読み込ませるファイルを出力するフローが煩雑であったためこれを効率化するツールを開発。分割情報はShotGrid(現・Flow Production Tracking)に登録・管理し、同一シーンデータで作業する可能性のあるモーション班・セットアップ班からもコミット時には分割やLOD作成、UEアセット更新などが自動で走るようになっている。

    中村博之氏

    モンスターモデラー&リードキャラクターアーティスト

    前作からのモデルのディテールアップ

    • ▲本作のクラウドの顔まわり
    • ▲同、前作。ポリゴン数のアップ(主役級であれば前作比約2倍)とテクスチャの配分の見直しにより、全てイチからつくり直された。一方で続編であるという点を強く重視し、いかに詳細感が向上しても印象が変わらないよう徹底。前作のメッシュをガイドに頂点を吸着させるなど造形的には完全な一致を目指しつつ、ポリゴン数の増加によってフェイシャルがより滑らかに表現されている。なお、セーターに関してもシェーダの見直しにより布の質感が向上している
    • ▲本作のティファの腰まわり
    • ▲前作。テクスチャ解像度の向上により、ベルトの装飾やレザーの質感がより強く引き出されている
    • ▲本作のバレットの衣装
    • ▲前作。バレットは顔や身体ではなく衣装を更新。「全てをディテールアップしてしまうと処理負荷的にも難しくなるので、より効果的な箇所に集中して力を割くという方針で取り組みました」(鈴木氏)

    虹彩の見え方

    エンジニア主導でシェーダ全般が更新されており、肌や髪の質感改善のほか、瞳のシェーダは大きくつくり直されたという。

    • ▲本作のエアリスの瞳のみカラーにした状態
    • ▲同じく前作。虹彩部分のノーマルマップをより詳細にし、光が当たったときのディテール感が大幅に向上、前作と比べてよりコントラストの高い目力のある瞳に仕上がっている
    ▲瞳のノーマルマップのために新たに瞳孔周辺を詳細にスカルプト。虹彩輪や毛様体といった実際の構造を意識して造形されていることがわかる。本作のキャラクターの瞳は全てこの仕様となっており、前作から移植されたキャラクターも瞳は全てつくり直したとのこと。シェーダについては、外部資料から得た実測ベースの値を反映、上記の虹彩の法線追加のほか、屈折による集光や眼内シャドウイングの手法などを変更。計算上の多層構造を複雑化した

    より繊細に見せる髪の表現

    髪は前作と大きく印象が変わらないようにしつつも、PS5の性能を活かしてより精細なものとなっている。

    • ▲本作のクラウドの髪。前作から新たにつくり直された
    • ▲前作の髪。【左画像】と比べるとややぼやけた質感となっている。4KやHDRといったプレイ側の環境向上もあり、クローズアップにも堪えられるよう力を入れた部分だ。「つくり方は変わっていませんが、スペックが上がることによって表現としてちがいが見えてくる部分かなと思います。フロー的には前作を引き継ぎ、今作もストランドベースではなくヘアカードを生やしています」(鈴木氏)
    • ▲エアリスの本作の髪
    • ▲前作の髪。クラウドと同じく印象を変えないまま、より髪の毛らしい細さが感じられるようつくり直されている。また、キャラクターモデリングディレクター・風野正昭氏によると、ティファの後ろ髪もディテールアップによって大きく見映えが向上しているとのこと

    キャラクターの個性を活かした造形

    • ▲本作から登場するシド。リアルタイムCGモデルでは短い毛の表現が難所となりやすく、シドのヒゲは引きで見るとミップマップなどの仕様の関係で印象が変わって見えてしまうため、調整が重ねられた
    • ▲老けてみえないよう野村哲也氏と意見が交わされたという
    • ▲『INTERGRADE』と同時リリースされた新規エピソード『FF7R EPISODE INTERmission(以下、INTERmission)』から登場したユフィは、PS5仕様でのキャラクター制作の試金石となった。そのため、前作から続投するキャラクターのようにはつくり直されていないが、一方で腕や腰まわり、ルーズソックスなどについて野村氏からのデザイン変更があり、結果的には7割ほど新規となっている
    • ▲顔については目鼻立ちをはっきりさせないアジア風に寄せられている
    • ▲ヴィンセントは特徴的なマントを装備しているが、同社イメージ・スタジオ部制作のルックではより彩度が高く、本作のエンジンでは十分な発色が得られなかった。野村氏より「キャラクター性も含めてもう少し落ち着いた色合いにしてはどうか」という提案もあり現在の彩度となった
    • ▲合わせて金属パーツもより落ち着いた色調に調整された
    • ▲ケット・シーやデブモーグリ【左画像】のように毛の生えたキャラクターは身体に沿った毛並みのながれに力を入れて制作された。この点はレッドXIII【右画像】も同様だ。また、デブモーグリはよりピンク色だったが、こちらも作業を進める中で落ち着いた色調に調整された
    • ▲毛並みの作成フローは前作と同様、OrnatrixなどのHairツールで生やした毛を板ポリゴンに落とし込んでいる
    ▲16歳のクラウド(左)は、本編のクラウド(右)と過去回想に登場した幼いクラウドとの中間をねらっているが、両モデルのデータ的な中間ということではなく、中間の印象となるよう新規に造形された。具体的には若干顔が短くなり、肌の質感もわずかに艶を出している

    エネミー制作のながれ

    本作のエネミー制作フローで特徴的なのは「モックモデル」の工程が追加された点だ。印象としてはスピーディにゲームに出すことを目的としたラフモデルを思い浮かべるが、モックモデルはそういったものではなく、後工程に渡しやすいよう関節・触手などを伸ばした状態の、ディテールを詰める前のモデルとなる。

    「セットアップ班やモーション班の要望を受け、骨構造やシルエットを早期に確定できる工程を設けることで、本作の膨大なエネミー制作を効率化しました」(モンスターモデラー&リードキャラクターアーティスト・中村博之氏)。

    ▲ロストナンバーのモックモデル(左)と完成したインゲームモデル(右)。ディテールに差はあるが、構造やシルエットはモック段階で確定していることがわかる。ハイモデル工程でのディテール追求が無限に嵩んでしまうことへのコスト削減にもつながった
    ▲本作ではボスを中心に部位を切り替えて変身するエネミーが多数登場する。そのためモデルを部位ごとに分割し、アセットを複数用意する必要があり、内製ツールを開発。ShotGridにパーツ名を登録し、Maya上でのパーツの選択・出力、UEでのID付与、マテリアルのアサインなどを自動化した
    ▲分割実行後にUEに登録された各部位のアセット。LODも自動で作成される

    アレクサンダーのマテリアル表現

    必殺技「聖なる審判」では、アレクサンダー体表の小窓が下から上へ順次点灯する。窓の量は膨大で、ある程度のパーツ分けをしそのパーツ単位で発光させていった。

    パーツごとに通常のマテリアル、エミッシブフロー用のマテリアルを用意し、パーツ分割は30、マテリアル数は計60に及んだ。技術的にはシンプルながら作業工数がかかり処理負荷も嵩んでしまうが、それでも実現したかった演出とのこと。

    ▲点灯の様子(抜粋)
    ▲パーツ分け。これらが段階的に点灯していく様子はぜひ実機でご確認いただきたい

    オーディンのデザイン変更

    本作から登場する召喚獣はスペック向上に伴い基本的にボリュームアップしており、オーディンもそれにあてはまる。オーディンの愛馬「スレイプニル」については、原作では脚が6本となっていたが、本作では8本となっている。

    ▲オーディンのデザイン画。「原作に合わせてまず6本でデザインしたんですが、デザインを見た野村哲也から『神話に合わせて8本にしたい』というオーダーがあり、今回しっかり8本になりました」(中村氏)
    ▲オーディンの3Dモデル
    (3)モーション編に続く>>

    CGWORLD 2024年7月号 vol.311

    特集:とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_ks
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada