多彩なスキルとアイデアで独自の世界観をつくりあげる―セガの新作リズムゲーム『サンバDE アミーゴ』からみるSpooky graphicのアニメーション制作
有名アニメ・ゲームIPやNHK「みんなのうた」、さらには自社でもオリジナル作品を展開するCGスタジオ「Spooky graphic」がCGディレクター・アニメーターを募集中だ。同社の特徴はひと目で違いが分かるグラフィカルでスタイリッシュな作風。
その特徴を活かして、この夏に発売されたセガの新作リズムゲーム『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』ではコンセプトデザインから作中のムービーまで携わり、作品の世界観を大きく広げていった。今回、本作を手掛けた3名と代表のハヤシヒロミ氏にSpooky graphicでのクリエイターの仕事についてお話をうかがった。
求人情報
募集職種:
① 3DCGディレクター
② 3DCGアニメーター
cgworld.jp/jobs/10054.html
オリジナリティあふれるSpooky graphicの魅力
CGWORLD(以下、CGW):Spooky graphicさんの作品は日本の他のスタジオにはないオリジナリティを感じます。一体どんな会社なのか興味を持っている方々も多いかと思います。まずは会社の特色と、みなさんのお仕事内容について教えてください。
ハヤシヒロミ氏(以下、ハヤシ):代表のハヤシです。Spooky graphicが得意とする表現は、確かにちょっと海外テイストだけど、かといってガッツリとアメコミというわけでもない。そこを上手く日本的なテイストにチューンして、さらにデザインをとても重視する変わった立ち位置のスタジオかもしれないですね。あとはデザインと同じくらいキャラクターアニメーションを重視していて。そうしたスタイルがスタジオの特色なのかなと思います。でもこれらは結成当初から変わっていないんですよ。
ハヤシヒロミ氏
代表取締役
フジサワトミオ氏(以下、フジサワ):コンセプトアーティストのフジサワです。立ち上げの時に、アメコミやバンド・デシネ、カートゥーンアニメなどが好きなメンバーが偶然に集まってきたんです。僕はDTPのデザイナーからフリーになって。もともと絵を描くのが好きだったので、デザイン+イラストから始まり、いまはコンセプトアートや絵コンテの仕事を中心としています。
フジサワトミオ氏
コンセプトアーティスト
CGW:おふたりはアニメーターとして2022年に入社されたんですよね?入社のきっかけや決め手を教えていただけますか?
柴田祐香氏(以下、柴田):私は2022年4月の新卒入社です。大学ではアニメーションを専攻しており、手描きアニメーションを中心に制作していました。CGはほとんど触ってこなかったのですが、教授がSpooky graphicを紹介してくれて、オリジナル作品も少しつくっていると聞き、魅力を感じて入社を希望しました。仕事だけをするのではなく、創作も続けたかったので、それが会社にいながらできればとても素敵だなと思ったんです。
CGW:それまでは手描きだったとのことで、3Dにスイッチすることに対しての不安はありましたか?
柴田:それまで3Dはモデリングやモーション付けをちょっとやったことがあるぐらいでしたので、心配は確かにありました。でも入社前の課題で3DCGアニメーションをつくってみるというものがあり、そのときの修正指示が分かりやすくレスポンスも早かったので、ここでならついていける、気負わずにやっていけるんじゃないかと思いました。
ハヤシ:以前はCGを勉強してきた方を中心に採用していたのですが、入社後に絵心を教えることが難しく……。ベースに画が描ける方を採用して、CGの技術については入社してから教えるように、と切り替えたんです。
柴田祐香氏
アニメーター
髙橋里沙氏(以下、髙橋):私は映像制作会社で5年ほどゼネラリストをしていましたが、アニメーターに惹かれ2022年の夏に中途で入社しました。前職ではXRやプロジェクションマッピング、インタラクティブ案件を取り扱い、抽象的なアート作品や知育系の作品が多かったのですが、ゲームやアニメのように物語の中でキャラクターを動かしたいなと思っていたところ、Spooky graphicに出会いました。
ものづくりの心を忘れないためにオリジナル作品に挑戦したり、就業時間内にアニメーション練習の時間を設けてスタッフ教育に力を入れている会社の方針にも共感しています。そういったところから単純な作業員ではなく、一緒にものづくりをする人を求めていると感じられたのが入社の決め手になりました。
髙橋里沙氏
アニメーター
新作『サンバDEアミーゴ』の世界観をつくり上げる仕事
CGW:Spooky graphicさんの新作は、この夏に発売されたセガのリズムゲーム『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』で、コンセプトづくりから映像制作まで携わられたそうですね。
ハヤシ:はい。セガさんの方から、欧米市場にも訴求する新しい『サンバDEアミーゴ』をつくりたいというお話がありました。従来はブラジルやメキシコのイメージが中心だった世界観を、現在のさまざまな音楽に合わせてリニューアルしたいというご意向でした。そこで当社のフジサワにアイディア出しをしてほしいというオーダーからスタートしました。
世界観を固めるコンセプトアート
フジサワ:僕が携わる仕事って、ゼロスタートであることが多いんです。キャラが決まってはいるんだけど、何となくまとまり切っていない時に、「こんなのはどうでしょう?」と絵を起こして提案していく。色々なアイデアを出しながら世界観をつくってあげるような感じですね。最初は作品の世界観を見せていくための背景デザインをご要望されていたのですが、今風のデザインを取り入れて考えるとキャラクターも含めたデザインイメージがどんどん浮かんだので、それらを描いて提案させていただきました。
ハヤシ:最終的に「キャラクター紹介」や「ストーリーモード」の映像、アミーゴの世界で流行しているSNS「StreamiGo!」のジングルなど、ゲームを盛り上げるための映像をSpooky graphicで担当させていただきました。
1年目のアニメーターが絵コンテを担当
柴田:私は「ストーリーモード」の絵コンテをさん髙橋と共同で描きました。あとはアニメーションの作業を少し担当しています。
ハヤシ:まずは大ラフを髙橋と柴田で描き、それを柴田の方で取りまとめて絵コンテにし、最終的には髙橋がVコンをつくったという流れですね。柴田は描くのがものすごく早いんです。
柴田:これを描いたのは入社1年目の終わりの頃だったのですが、私は3Dの絵コンテの経験がなかったので、2Dで考えていたことを3Dに置き換えていきました。ハヤシさんに教わったりフォローしてもらったりしつつ、描きながらコツを掴んでいったのが楽しかったです。
ハヤシ:描きたいと思える場面を、説得力のあるレイアウトで描けるのが柴田の強味ですね。映像を繋いでいく演出の部分はまだ勉強中の身なので、そこはこちらでフォローしながら進めていました。
映像の根本に関わる構成・Vコンテ
髙橋:私は「オープニング」「StreamiGo!」のコンテとVコンテ、アニメーションを担当しました。「ストーリーモード」はコンテの大ラフだけ描いて、あとはVコンテをつくり、その後でアニメーション作業を行いました。
CGW:髙橋さんは、ほとんどすべてのパートに関わられていますね。
髙橋:そうですね。携わったところは多いかなと。アニメーションについても、他のメンバーのフィードバックも担当しています。
CGW:コンテのアイデアはどうやって考えられていったんですか?
髙橋: 最初にリファレンスを集めて、構成案を考えました。そこから精査したりいろいろなアイディアを詰め込んでいって、コンテの形にしてそれをVコンに編集しました。映像の根本の部分から関われるのが楽しかったですね。
各自で考えて演技をつけるアニメーション
髙橋:アニメーションに関しては、今回の作品ではダンス系が多く、オーバーリアクションな動きをつけるのが面白かったです。アミーゴとアミーガが兄弟なんですけど、2人でワーッて喧嘩してる感じとか。
ハヤシ:最初見たときに、凄く面白いものが上がってきたな! と感じました。コンテではここまで描かれていなかったので、これは髙橋が考えた演技ですね。当社の場合は各自で演技を考えることも多いです。もちろん、シナリオに沿ってではあるのですが、その中でどういう演技をするのかは、やっぱりアニメーターが考えてつくって欲しい。その意味でのやりがいは大いにあると思います。
CGW:柴田さんは新卒1年目、髙橋さんも転職されてきて1年目で絵コンテを担当されていますが、Spooky graphicさんでは若手の方にこうして積極的に任せる方針があるのでしょうか?
ハヤシ:最近は積極的に若手にチャンスを与えています。これまで絵コンテはフジサワがメインで担当してきたのですが、今は作品の傾向によっては柴田・髙橋以外にも若手の方に任せるようにしています。あと、先ほども述べましたが、近年は絵心のある方を採用するようにしています。柴田もアニメーターとして採用したのですが、別件で軽くコンテを描いてもらったとき、想像よりもずっと上手かったんです。それで、この作品でもコンテを任せ、現在も別件でコンテを担当してもらっています。
もはや監督!? Vコンに仕掛けたさまざまな演出
CGW:皆様の担当したパートでこだわった点や苦労した点を教えてください。
フジサワ:流行りものや新しいデザインを考えつつ絵に表現していく事が自分としてのこだわりで、それが上手く表現できた時は達成感もあるし、そこから新たな表現が見つかる時もあり、クライアントも喜んでくれます。
CGW:流行の最先端はどのようにキャッチアップされるのでしょうか?
フジサワ:最近はTikTokやInstagramのStoriesですね。エンタメやデザイン系で気に入ったのものをチェックしていくと、どんどんその傾向のものが流れてくるので、それをひたすら頭の中で組み上げていって、自分の中である程度の形が生まれたら絵で表現する。頭の中で妄想しながら新しい表現を考えるのが好きなんです(笑)。
柴田:私は見やすい絵コンテであることを心がけました。仕事として絵コンテを描くのはほぼ初めてでしたので、描き方でわからなかったところがあったり、フィードバックへの対応、演出の繋ぎ方などは苦労しました。ハヤシさんからカメラの動きを利用した視線誘導などのアドバイスをいただきつつ、必死に駆け抜けた感じではありましたね。あとは3DCGのアニメーションについてもほぼ初めてだったので、こちらもアドバイスやフィードバックをいただつつ、形にしていった感じでしたね。
髙橋:アニメーションに関しては、どれも楽しくつくれました。苦労したところは、プロポーションが独特なキャラクターたちの動かし方。マラカスを振り回すような動きをすると二の腕が顔に干渉したりするので、モデルの埋まりには苦労しました。あとはメンバーに対するフィードバックをしながらブラッシュアップしていくのが初めてだったので、そこは結構探り探りでした。ただ、他の方の担当シーンも細かく観る経験は、自分のカットしか担当しないのに比べて数をこなせるのでその分勉強になりました。
CGW:髙橋さんのコンテとVコンに関してはいかがでしょうか?
髙橋:絵コンテについては、わかりやすく伝わりやすくを意識しました。今回のオープニングはデザイン性の高いものだったので、カラースクリプトやコンセプトアートのように最終イメージが伝わるようなイメージで描いています。Vコンに関しても、仮のサウンドや効果音を入れて、そのシーンの状況や雰囲気がアニメーターやクライアントに分かりやすく伝わるように意識して制作しました。
ハヤシ:Vコンの段階で街中のざわめきとか、爆発音とか、床の反響音まで入れてあるんです。Vコンでここまで音をつくり込んできたのは初めてだったのでとても驚きました。アミーゴの声も入っていたけど、あれはどこから持ってきたの?
髙橋:家の中で自分で叫びました(笑)。
CGW:もう監督ですね(笑)。
ハヤシ:本当その通りだと思います。Vコンについては修正を入れた覚えがないので、髙橋がつくったものがほとんど採用されています。
CGW:今回の制作ではUnityを使われたそうですが、その経緯について教えてください。
ハヤシ:ゲーム自体がUnityで制作されていて、ステージも動きもとても豊かだったこと、オーダーされているムービーも映画的な精緻なものではなく賑やかで楽しげな映像とのことだったので、従来のMayaでつくるフローではなく、セガさんがUnityで制作されたゲームのアセットをそのまま使用したいと提案させていただき、映像づくりに入っていきました。
CGW:制作フローはどのような形でしたか?
ハヤシ:Unityで制作された背景をガイドとしてMayaに持ってきて、Mayaでアニメーションをつくります。その後、ゲームのUnityデータを背景に、僕たちがつくったキャラクターアニメーションを置いて撮影していきます。リアルタイムレンダリングなので非常に効率的でした。最後にレコーディングという作業を行なうのですが、30カットがものの数分で出来上がるんですよ。制作中はゲームのキャラクターなどがフィックスしていない状態で進めるので、仕様変更に合わせて、映像の方にも反映する必要があります。特にUnity自体のバージョンの管理は再現性に大きく影響するので注意しました。
アイデア出しから関わり、クリエイティブに自分を出せる環境
CGW:現在、Spooky graphicでは中途採用でアニメーターを募集しているとのことですが、具体的に教えていただけますか?
ハヤシ:将来的にCGディレクターや、リードアニメーターを目指している方を探しています。現在、CGアニメーターは職業として成り立っていますが、それだけにとどまらず、クリエイティブなことをやっていきたいと思ってる方に来ていただきたいです。
CGW:みなさんがSpooky graphicで働く上で魅力に感じることを教えてください。
フジサワ:アニメだけでは無く色々な事にチャレンジできるところですね。オペレーションのように決まったものだけをつくるのではなく、自分が良いと思ったものを表現できるチャンスがある会社だと思います。
柴田:私はアニメーターとして入って、今はコンテを担当しているように、ひとつにこだわらず、いろんなことを担当させていただけるところに魅力を感じます。リモートワークですので、通勤の時間も技術力の向上に充てられますし、業務時間内でアニメーションスキルアップのための勉強時間を取っていただけたりと、社内でいろいろとバックアップしていただけるのがすごく魅力的だと感じています。
髙橋:仕事内容に関しては、今回のようにアイデア出しからできる機会に恵まれた貴重な会社だと思います。あとは、柴田さんのように業務をスイッチしたり、仕事の選択肢を与えていただけるところが魅力だと思います。働き方についてはワークライフバランスがとても良いと感じています。社内は女性比率が高く、子育てをされながら働いている方もいて、お子さんのお迎えなど臨機応変に対応できています。
CGW:髙橋さんは前職と比べて働き方について何か違いは感じていらっしゃいますか?
髙橋:まったく違いますね。イベント系の案件が多くて国内外、色んなところに行って現地で仕事をしたりもあったのですが、今は完全にリモートなので働き方は大きく変わりました。
CGW:Spooky graphicさんではフルリモートなんですか?
ハヤシ:オフィスに出社しているのは3人ぐらいかな? 会社のほうが集中できる人、会社の環境で作業したい人、あとは通勤でダイエットしたいという人(笑)。コロナ禍以降、地方在住の方も積極的に採用していますので、遠方からリモートで働いている人もいます。
CGW:ほぼリモートで業務をされている中で、社員同士のコミュニケーションはどのようになさっていますか?
髙橋:Slackのハドルミーティング機能を使っていて、常にオンラインでボイスチャットを繋いでいます。聞きたいことがあったら、すぐに聞きに行ける環境です。
ハヤシ:新人の方に言っているのは、とにかく何でもいいから聞いてくださいと。逆に先輩の方には、本当に時間がないとき以外は答えて下さいと言ってあります。
髙橋:わからないことがあればお互いに呼びかけ合って、相談するようにしています。Slackには雑談/癒し/映像紹介ルームもあるのでそこで情報共有をしたり、投稿されるみんなのペット写真に癒されたりしています(笑)。
ハヤシ:Slackを導入してハドルミーティングを活用したり、コミュニケーションを極力取りやすいようにと考え続けています。せっかくリモートが定着しているのですから、このメリットを上手く生かして、デメリットを何とか消していけるようにやっていきたいと考えています。
CGW:では皆さんそれぞれ、どんな方と一緒に働きたいですか?
フジサワ:何に対しても興味を持ちチャレンジできる人、自分はこうだというアピールができる人は良いですね。難しいとは思いますが、クリエイティブって何をやるにしろチャンレンジしないと生まれないもの、やっぱりそういうところじゃないかと思います。
髙橋:私もそうですね。ものづくりをしていると上手く行かない時だってあるので、そういった時に挫けず一緒に頑張れるといいなと思います。あとは素直で、ものづくりを楽しめる方と働けると嬉しいです。スキルでいうと今回のようにUnityやUnreal Unreal 4などゲームエンジンができる人や、社内でも勉強しているBlenderに慣れている人だと嬉しいですね。
柴田:自分と違う考えを持ってる人と仕事ができるといいなと思います。せっかく大人数で制作しているのですから、違う考えの方と仕事をしてお互いに刺激を与え合う、多様性のある考え方ができると良いなと思います。
ハヤシ:ポジションとしては先ほど述べた通り、将来的にディレクターやリードアニメーターになりたい人。マインド的にはデザインにも興味があって、キャラクターアニメーション、モーションデザインができる人。つまり「こういう表現をしたい」という考えを持っていて、その手段としてアニメーターやディレクターをやりたいと思っている人が良いですね。ただオペレーションとしてやっているだけだとつまらないと思うので、クリエイティブを一緒にやっていきましょう!という考えに共感できる人が良いですね。
CGW:最後に、Spooky graphicは今後どのようなスタジオにしていきたいですか?
ハヤシ:Spooky graphicはフジサワが描くコンセプトや、髙橋・柴田が描くコンテからスタートする案件が多いので、そこをコンスタントにやっていけるような会社にしたいですね。あとは、仕事だけにとらわれない会社にしたいと思っています。皆さん、モノがつくりたいからこの業界に入ってるはずです。オリジナル企画も開発したりスキルアップを含めた可能性を広げ、Spooky graphicの色を出しつつ、クリエイティブな気持ちを忘れないようなスタジオをずっと続けていきたいと思っています。
求人情報
募集職種:
① 3DCGディレクター
② 3DCGアニメーター
cgworld.jp/jobs/10054.html
TEXT_日詰明嘉/Akiyoshi Hidume
EDIT_柳田晴香/Haruka Yanagida(CGWORLD)