AIを用いた作品制作で重要なPCパーツはVRAM!? AI導入の極意とともに解説 ――「HP ZBook Ultra G1a 14inch Mobile Workstation」レビュー
近年注目を集め続けているAI技術。クリエイティブ制作においても大きな影響力を見せており、今後はより一層導入が進むとみられる。そこで今回はAIアプリを用いたクリエイティブ制作において作業PCにどのようなスペック・機能が求められるのかを紹介しよう。AIアプリを日々の作品制作に積極的に取り入れているクリエイターに、AIアプリの導入におけるポイントなどとともに、AIアプリの使用に向いたPCスペックについても聞いた。
また今回は、メインメモリをVRAMとして使用できる最新アーキテクチャを採用したAMD Ryzen AI MAX+ PRO 395搭載の「HP ZBook Ultra G1a 14inch Mobile Workstation」(以下、HP ZBook Ultra G1a)を用いて、ローカルでのAIアプリ作業の検証も実施した。そちらの使用インタビューもあわせて読んでほしい。
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AIを使いこなすには、下地となる知識や経験が重要
CGWORLD(以下、CGW):AIで作品制作を始められた経緯を教えてください。
日下部 実 氏(以下、日下部):2022年にStable Diffusionが発表されましたが、その頃からAIによる制作を開始しました。AIとの関わりということでいうと、2016年頃にAIでのアニメーション制作の研究プロジェクトに参画していたこともあり、AIの動向には興味をもっていました。その後にAIに触れるきっかけのひとつになったかと思います。
日下部 実 氏
武蔵野美術大学油絵科卒業後、シナジー幾何学、セガ、ソニー・インタラクティブエンタテインメントにて、ゲーム開発に携わる。現在は時間株式会社の代表取締役兼ディレクターとして、ゲームムービーの演出や科学番組のアートディレクションを手がける。主な参加作品に『SIREN』シリーズ、『Sonic』シリーズ、『GRAVITY DAZE』シリーズなどがある。また、神奈川工科大学准教授、多摩美術大学非常勤講師を務め、次世代のクリエイター育成にも尽力している。
AIを活用した作品制作に取り組むプロジェクト「ZIKAN PRODUCTS」を主催し、新たな表現の可能性を探求している。
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CGW:現在はAIでどのようなコンテンツを制作・開発されていますか?
日下部:最近はZIKAN PRODUCTSの名義で「時間について研究開発をしている架空の企業」というていでAI作品を制作しています。仕事の合間に作品を作り、SNSなどで活動を展開しています。またもともと美術大学で油絵科だったこともあり、今後はアナログ作品も作っていこうかと考えています。
CGW:CGクリエイターの立場から見て、AIの効果的な使い方はありますか?
日下部:AIの性能は日々が向上しているので「いつ何をやるか」そして「どういうゴールを持つか」によって効果的な使い方は変わってくると思います。今できないことでも1年先のプロジェクトだったらできるようになっているかもしれないですしね。
たとえば、画像から3Dモデルを生成するAI技術について、今年2025年4月あたりに私は試しましたが、それから半年ほどたった頃には各段に生成物のクオリティが上がっていました。いまでは実務でも耐えうるレベルになっていて、中景や遠景用の3Dモデルとしてであれば使用できるかと思います。
また、生成AIを用いた素材の導入が許されないプロジェクトであったとしても、プリプロの段階であればAIを有効に使える場面はあるのではないでしょうか。
CGW:AIを使用する場面は増えると思いますが、的確に使うには見極めが必要そうです。
日下部:私の場合、AIの使用を前提に制作活動を行なっているので、研究開発も含めて今後も積極的に使っていきたいです。現在もAIを用いた映像作品を制作していますが、AIで実現できる表現技術を選定して、それを組み合わせていく手法を採っています。
少し前まで、同じ見た目の人物やモノを出力したり、カメラを変えるといったことができませんでしたが、今ではそれができるようになってきています。人物にどれだけ演技をさせられるかなど、AI技術の進化が制作手法や表現自体に大きく影響します。ですのでプロジェクトごとで、どのようにAIを取り入れるかを考える時代だと感じますね。
CGW:CG制作において、AIで代替できない・すべきでないことはありますか?
日下部:生成AIを使っていると、往々にして自分の知識や経験の範囲外のものが出力されることがあります。そういった場合はその出力結果についてその都度調査を行なっています。腑に落ちないものを、わからないままに使うというのは避けるべきですね。
画像生成をした時点では良い結果が得られたと感じても、改めて確認してみると違和感があったり表現的に誤っていることなどが多々あります。楽しむだけの用途を越えて、仕事としてディレクター目線でみると修正すべき点が見えてきます。そういったシチュエーションに対応するために感覚を養っておくべきですし、なるべく知識や経験を積んでおかねばならないですね。
AIで代替できない作業ということでいうと、AIでは作りづらい構図があった場合、3DCGでカメラワークを作ってそれを用いてAIに指示を出したりすることもあります。また、編集作業では専用のソフトを使いますしね。現状ですとまだAIで代替できない作業も多くありますが、AIの圧倒的な速度や安価なコストは魅力ですので、どんどん制作現場に導入されていくだろうとは思います。
CGW:AIアプリを使っていて「改善が必要」と感じるところはありますか?
日下部:まだまだできないことは多々ありますが、今後のAIの進化の一つとして期待したいのは、リアルタイム生成ですね。VR環境をリアルタイムで生成して、そこに入り込んでコントロールできるようになることが一つの目標になってくるのではないかと思います。また、映像制作においても、映像の中を歩く速度やカメラワークのコントロールなど細かい部分やニュアンスなどの制御もしづらいです。
CGW:AI時代において、クリエイターであることの価値はどこに求められるでしょうか?
日下部:「モノづくりをする」という意味で、真にクリエイターであることが求められるのではないでしょうか。現在のコンテンツを見渡すと、既存の作品を参考にしたり、表面的な模倣に留まったりしているものが溢れています。しかし、そうした「過去の延長線上にあるもの」は、今やAIが最も得意とする領域です。誰でもAIを使って容易に生成できてしまう以上、オリジナリティの弱い作品は、今後急速にその価値を失っていくでしょう。だからこそクリエイターには、AIには到達できない「表現の拡張」、つまり見たことも感じたこともない体験を生み出す力が、これまで以上に求められているのだと感じます。難しいことではありますが、AIにより様々な制約がなくなるからこそチャレンジできると考えていきたいですね。
生成AIアプリでの作業効率アップの鍵は"VRAM容量"!
CGW:AIを活用するうえで、PCで重要な性能やパーツを教えてください。
日下部:まず重要視するのはVRAMですね。VRAMの容量が多ければ多いほど生成AIをローカルで安定して作業させることができます。今回の検証機は、システムメモリを利用可能なAMD Ryzen AI MAX+ PRO 395を搭載しており、システムメモリを96GBまでVRAMとして使用できるため安定性の面で懸念はありませんでした。
SSDの容量もできるだけ多く確保しておく必要があります。動画を生成する際は個々のデータが大きくなるため、保存先のボリュームも十分なものを用意しておきたいです。今回使った機材は2TBのSSDを搭載しており不安はありませんでした。
最も困っているのは、実はネットワークの速度です。制作フローに依るため個人的な観点になりますが、画像生成モデルはデータ容量が数10GB以上と大きいです、生成されたデータも大量にあり、それらを複数のマシンで移動や共有する際にいつも苦労しています。ストレスなくかつ作業効率を上げるために、ネットワーク速度にも気配りが必要ですね。
CGW:HP ZBook Ultra G1aを使用された所感をお伺いしたいです。
日下部:ノートPCではありますが、前述したように実質的に大容量のVRAMを使うことができるため、生成AIアプリをローカルで動かしたり、Unreal Engineのような操作の負荷が重いソフトであっても安心して開くことができました。高い性能にもかかわらず、ビジネス用によく用いられる自分が使っているノートPCと同程度の14インチとコンパクトです。また、処理負荷の高いUnreal Engineを立ち上げても、以前使っていたゲーム用ノートPCなどに比べるとファンの音も静かでした。
CGW:機能面で印象に残ったものはありましたか?
日下部:今回、HP ZBook Ultra G1aを使わせてもらいました。いろいろな用途で使ってみましたが、AIアシスタント機能のRecallが便利そうでした。画面を記録しておいて、時間をさかのぼって過去にどういった作業をしたのか検索したり見返す事ができます。データ管理の面でも有用で、作成データの整理や探索などもAIの補助があれば手間やストレスを軽減できるようになりそうです。長期のプロジェクトで扱っているデータや、昔のデータ等になると探すだけでも一苦労ですので、AIを使って効率化していきたいですね。
CGW:外観の印象などはいかがでしょう?
日下部:デザインについてはシンプルでスッキリした印象ですね。繰り返しになりますが14インチというサイズ感も絶妙で、持ち歩きには大き過ぎず、ベゼルの細さも相まって画面サイズも作業するには十分な大きさです。持ち歩けることでの作業面のメリットとしては、ComfyUIをまわしている時に、外出先からリモートで確認できることなどでしょうか。また、インターネットがつながらない環境であっても、ローカル作業できる安心感もありますね。
CGW:AIを用いて、今後取り組みたいことはありますか?
日下部:AIを用いてバイブコーディングができるようになり、プログラミングの敷居が下がってきています。AI出力した動画を再生して、コントローラでコマ送りをしたり、いろいろな素材をオーバーレイしたりなどAIによるコンポジット・編集などをやってみたいですね。また、AIアプリを組み合わせることで様々な表現が可能ですので、今後の展開の一環としてメディアアート的なプロダクトの開発にも着手したいと考えています。
CGW:AIとCGで創作したいと考えている読者や若手クリエイターに向けてアドバイスをお願いします。
日下部:これからの時代は、できないと思われていたことや想像すらしていなかったことがAIで実現できる時代になると思います。もしかすると、CGを作るということも無くなるかもしれません。たとえば3Dモデリングが仕事としては存在しなくなる可能性もあります。ただ一方で、学習や仕事に打ち込んで得ることはあるでしょうし、3Dデータを修正する部分は仕事として残るかもしれません。どのような状況になっても良いように経験して成長しておくことが大事なのではないかと考えています。まずは、今やっていることに集中して取り組んでやっていくのが良いかと思います。
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TEXT・EDIT_小倉理生(種々企画)