U-30 3DCG VISON CONTEST2022の審査員を努めるCG ArtistのKazuya氏。17歳の時にBlenderを始め、およそ1年でTwitterのフォロワー2.4万人を魅了し、最近はテレビや雑誌などでも数多く作品が取り上げられている。今回はそんなKazuya氏に、コンテストの特別企画としてインタビューを行った。
きっかけはYouTubeの「Blenderチュートリアル」
CONTEST事務局(以下、C):よろしくお願いします。最初に、Blenderを始めたきっかけなどを教えていただきたいです。
K:僕はYoutubeをよく見るんですが、たまたまおすすめにBlenderのチュートリアルが出てきたので、「無料だしやってみよう」と思ったのがきっかけですね。
C:なるほど。ちなみに最初に見たチュートリアルって何だったんですか?
K: Tom Studioさんのチュートリアルです。「超時短、楽して作る小物の作り方」という動画を見ました。「超時短」というのが僕のめんどくさがりな性格にピッタリマッチしたんですよね(笑)
C:「自分なりに作品を作ってみよう」と気持ちが変化したのは、どのぐらいのタイミングなのでしょうか?
K:チュートリアルで学習をしながら「ちょっとここ変えてみよう」とか「ちょっとここにコップ置いてみよう」とかやっていたので、始めた直後から自分の好きなものはずーっと作っていた感じでした。
C:最初に作ったのは、どんな作品ですか?
K:何だったかなーー。記録に残っているものでいうと「透明なガラスの瓶に、謎の液体が入っている作品」ですね。
C:ガラスが綺麗ですね…!個人的な感想として、kazuyaさんの作品は「世界観が一貫している」ように感じているのですが、その世界観はどうやって決めたりしているのでしょうか?
K:僕は最初に「自分が好きなもの」から考え始めることが多いです。例えばスターウォーズやトランスフォーマー、スタートレックといったような、いわゆるSFと呼ばれている作品からインスピレーションを受けることが多くあります。でも好きなものを作っても、自分の好きが共感されなければ誰も作品を見てくれないし、参考にした作品の下位互換として終わってしまうので、そこに、自分が日常で感じたワクワク感だったり美しさだったりを、大衆化できる形で入れ込んでいますね。
最近は、SFに自分の感じたワクワク感を入れ込むだけでもまだ「ただのSF」だなあと感じるので、そこに別な要素、例えば「魔法の要素を急に入れ込んでみる」などをしています。
スターウォーズもSFの宇宙の戦争が起こっている中に、侍映画的な、剣で戦う奴らがいて、そこにフォースっていう大きな取り巻きがあったりしますよね。そういう要素があったから、スターウォーズはただのSFではなくて、真新しいものとして世に受け入れられたと思っています。他からのエッセンスを加えて、別のものにする。そういう作品制作の考え方をすることが多いです。
「自分が感じていることを、相手も感じているか」を探る
C: Twitterを通して、人に魅力的だなと感じさせる作品制作をするには、Kazuyaさんは何が大事だと思いますか?
K:まず、SNSの数字が何なのか?という問いがあると思っています。SNSのいいねって単純に共感なんですよ。そして、その共感を生むには3つのパターンがあると思っています。
1つ目は「自分が思っていることが相手にも伝わる」ということ。2つ目は「自分の思っていることと相手の思っていることが同じ」ということ。そして3つ目は「相手の思っていることが自分にも伝わる」こと。この3つです。どのパターンを取るかが重要です。
一番簡単なのは、相手が好きなことをする、大衆が好きなことをやる。そうすれば、みんな好きだからいいねする。つまり「自分が思っていることが相手にも伝わる」という状態です。これを作るには、人が共有している共通の観念や共通項を探して、それを作品に込めるというのが一番簡単な数字の伸ばし方だと思っています。わかりやすく言えば、CGでみんなが面白いと思うものをクオリティ高く作ればみんないいねするということです。
そのようなやり方で「自分も面白い」と思えるのであれば良いですが、もしそれが面白くないのであれば、「スターウォーズの二次創作をする」というようなアプローチもありだと思います。自分がスターウォーズ好きであるなら、スターウォーズが好きな人に向けて「スターウォーズのこの船を作りました」をやってみる。これは「自分の思っていることと相手の思っていることが同じ」というアプローチです。
今言った2つの方法は確実に伸びると思います。だけど自分が好きで、相手に若干伝わるくらいのものだと伸びないし、もっと伸びないのは、自分が好きなだけのパターンかなと思います。
でも、みんなに合わせるのも嫌だし、二次創作と呼ばれるような決まった形をもう一度作るだけでも面白くない。
そう思うのであれば「自分はすごく好き、だから、誰か他にも好きだと思っているかもしれない」みたいな、自分が感じているものが、相手も感じているかどうかを探ることが必要になってくると思っています。
例えば、カーチェイスのシーンに自分がワクワクしたとき、友達に「カーチェイスのシーンワクワクした?」って聞いてみるのは、自分が感じていることを相手も感じているかどうかを探る良い方法だと思います。そこに共感があるのであれば、カーチェイスはワクワクを生む共通項になり、カーチェイスの作品を作ると共感がおきて、いいねがもらえるかもしれない。自分がワクワクするものを相手に共有してみた時に、ワクワクするかどうかが大切です。SNSってこれの繰り返しでしかないと思っていて。これをどんどん繰り返していけば、自ずと数字として見えてくるのかなと思います。
C:ありがとうございます。月並みな表現ですが、綺麗な絵やスゴイ作品を作りたいって思っているとしたら、どこにこだわればいいのでしょうか?
K:それは”スゴイ感”ってのが結構重要だと思っています。自分の作品は、当たり前だけど誰かが見ていいねするわけですから、他者がどう思うかがすごく重要です。
例えば一枚の画像だったら、その画像の中に「相手がスゴイと感じるポイントがどれだけ多く含まれているか」を考えるんです。めちゃくちゃ細かい造形があれば「ああ、これはスゴイ作品だ」って誰かが思うかもしれない。本質的には、人間がスゴイと思うかどうかのポイントは、自分より優れているかどうかだと思うんですよ。だから、優れているポイントを多く含める。普通の人にはできないけど、自分にはできることを探す、それが何なのかを考えて作品に落とすことが重要かなと思います。
C:”スゴイ感”、これはかなり重要なポイントだと思いました。話は変わりますが、CGの制作はこれまでモデリング、アニメーション、テクスチャーなど分業化していたように思えますが、最近はKazuyaさんのように、一人で映画のようなクオリティを作る人が生まれたきたように感じています。Kazuyaさんは、なぜそういうスタイルになったのでしょうか?
K:影響を受けてきた人が一人いて、Ian Hubert って人がいるんですけど。その人は3年間かけてBlenderで”Dynamo Dream”っていう20分くらいの短編映像を作ったんです。 その方は、最初はBlenderはしてなくて、映画監督になりたかった方だったんです。 確か一度映画監督にはなったけど、(Blenderが)自分が表現したいものをダイレクトに表現できるってところにすごい魅力を感じていたみたいで、CGが素人にもできるようになった10年ぐらい前からずっとBlenderを触り、3年かけて1つ自分の作品を作ったんです。
CGの現場の流れとして、僕がコンセプトを作った場合、誰かがモデリングをして、誰かがアニメーションをやって、最終的にレンダリングされて出来上がりますが、そのレンダリングがちょっとイメージと違ったら、僕にまた返ってきます。でもこれはコンセプトをやる人がCGの工程を全部やったら終わるじゃんという話で。そのほうが純度は高いし、時短にもなるし、効率が良いと思ったんです。
僕はCGを「無料でできるんだやってみよー」のような気持ちで始めたけど、やっていくうちに「これ一人で映画作れるんじゃねえか」っていう風に思ってきた。であれば、一人で何か大きな作品を作ってみようかなって思考回路になって。多分、そういう人が今後どんどん、そう遠くない未来で、レベルの高いドラマだったり映画だったりを作り出すと思います。
まずは雑でも良いから形にしてみて、続けるか、止めるか一回選択をする
C:Kazuyaさんは作品制作をするとき、何から始めますか?
K:1つあるのは、さっき言った、ワクワクする瞬間を考えることから始めます。僕の映像作りの条件として、「ワクワクを含める」というのが1つある。
例えば、飛行機に乗ってて、窓の外を眺めて、雲をみて「わー、すごいなー」ってワクワクしたならば、その飛行機に乗っているシーンを作る。そうやってダイレクトに作る時もあれば、映画とかに感銘を受けてやるときもある。自分が作るものは結局自分が感じた何かでしかないから、自分が心を動かされたところから作っていきます。
そこからまずは雑でも良いから形にしてみる。なんか球を置いて、パース取るだけでもいいから、一回自分が頭の中に思い描いているものを形に起こしてみる。全体として、その1つ1つの精度は本当に甘くて良くて、キューブでも、球でも、デフォルトで出せるものでも若干変形させてだけでも良いから、とにかく早く、自分の頭の中のものを形にする。それをしてみたときに、ここからいくらクオリティをあげても、いくら細部にこだわっても、これは魅力的にならないと踏んだら、そこで一旦制作を止める。魅力のない制作に時間を割くのは無駄だから、別のコンセプトでやるか、そこからちょっと変えてみようって続けるかを一回選択をする。
続けるってなったら、置いたオブジェクト、構築してある世界の細部をどんどん詰めていく。で、また、ある程度詰まったら、見返して、ダメだったらやめて、、、って、詰めて見返して詰めて見返してを繰り返す。
それを一日で作り終えることもあるんですけど、基本的には、ちゃんと本腰入れた作品は、絶対に1日以上かけます。
それは、1日で作り終えると大体脳みそが興奮していて、それが全然魅力的じゃないのに魅力的に見えることがあるからです。だから1回、作品を寝かせる。そして、次の日の朝に見て、違うなと思った部分を詰める、そういうサイクルを繰り返すことでクオリティを上げていきます。そこで変える必要があれば、コンセプトの段階から見直して、じゃあちょっとここはこのコンセプトに合わせて変えてみようって取り入れてくって感じです。
C:企画出しからレイアウト仮で組んでディティール詰めて、アニメーションかけて、映像のレンダリングまでを1日で行うというのは、とてつもない制作スピードのように感じます。
K:実は総時間で言うと変わらなくて、僕は頭の中で完璧に組み上げてから、手を動かすんですよ。
だから頭の中でイメージがごちゃついている状態で、blenderを触ったりすることはあまりないです。だから実際作業している時間は1日くらいでも、頭の中で考えている時間はもっと長いという感じです。
C:なるほど、頭の中でビジュアルが見えているんですね。
K:そうですね。頭の中で構図とか考えたり、必要があればメモを取ったりします。いろんな要素が重なり合いすぎて、ちょっと整理がつかなくなってきたら、紙に書き出して、絵でビジュアルを描いたり整理したりを繰り返したりもします。
美意識を育てるために、自分の日常では見えない景色をあえて見にいく
C:今のお話にあったように、制作を続けるかやめるかの判断は、美意識や、価値判断基準が洗練されてないとできないような気がしますが、その美意識を育てるためのポイントや、自分の美意識はここに影響されて磨かれたんじゃないかなというポイントはあったりしますか?
K:日常の行動の中で、帰り道に急に道路に寝っ転がってみるとか、自分の日常では見えない景色をあえて見にいく行動を取ったりします。美しさって、意外と飽きるんですよ。例えば、すっごい良い形だなと思っていても、毎日それを見ていたら確実に飽きるんですよ。それは、そのもの自体に価値が下がったんじゃなくて、自分の意識が変わってそのものに満足できなくなった証拠だなと。
人生ってその繰り返しだと思っていて、毎日出勤するとそれは飽きるし、毎日同じ仕事していたらその仕事にも飽きる。だからそこを変えないと、自分が感じている美しさがアップデートされない。
帰り道に急に寝っ転がってみたらすごい空が綺麗だったりするんです。そうやって、日常の中で違う景色が見える瞬間を多く作っていく。寄り道して帰るとかもそうだし、日常を変えて、自分が今まで感じていないものが美しさに繋がっていく瞬間を過ごすと良い気がします。
C:そんなKazuyaさんが今、行ってみたい場所とか、やりたいことってありますか
K:僕がずっと行ってみたい場所は、栃木県のスッカン沢っていう渓谷ですね。そこは、ただの森、水が流れている沢っていう感じで、僕が今暮らしている場所とはかけ離れていて。そんな、普通に過ごしていたらこんなところに魅力を感じないだろっていう場所に、あえていく姿勢を大事にしています。美しさは自分が見えていない景色にあるから、行ってみたいですね。
映画級の何かを、たった1人で作りたい
C:今後について、こんな作品を作りたいとか、10年後どうなっていたいとか、目標にしていることなどあれば教えて下さい。
K:常に、自分の作品をアップデートし続けることが目標です。自分が満足いく形、見ている人が満足する形でもなんでも良いけど、常にクオリティーを上げ続けることが、生涯やっていくべき、というか確実にやっていくことだと思っています。
その中で、明確な目標で言うと、ずっと言ってるのは、一人で映画級の何かを作りたい。映画じゃなくても、映画級の作品を、たった一人で、全ての工程を行ってみたい。すごい長編でも、20分でも30分の短編でも、何か1つ作品として世に発表するのが目標です。
ハリウッド映画を何百人、何千人とで作るのに5年かかったり10年かかったりするけど、それは先に言ったワークフローに問題があると思っていて。
関わる人が多ければ多いほど、”関わるため”に割く時間も大きくなるから、結局1人が7年でやることと、100人が7年かけてやることって、実はあんまり変わらないんじゃないかと思っています。そういう意味では、クオリティにそこまで差は出ないんじゃないかと。唯一差が出ることとしては、映画一本の中でクオリティーの差が出来てしまうことは、一人でやることの問題だと思っています。他の映画と比べてではなくて、一本の中で、長い時間全て一人でやっているから、だんだんクオリティにばらつきが出てくるってことが、確実に起こりうることだと思います。
C:「後半に制作したシーンの方が、クオリティ高くない?」みたいな(笑)
K:そう。だから自分が技術的に満足できる形で、作品を作り始めなければいけない。でも、満足はいかない。一人で作った映画って、そうなるのはもう宿命というか、だからそこをあえて面白さとして転換するっているのが、1つの大きな目標の中での課題であり、克服しなければならないところかなと思っています。
誰かに評価される場に、自分の作品を投げてみるのはすごく大事
C:Blenderをやっている人の中でKazuyaさんを目標としていたり、こんなふうになりたいなと思っている人って多いと思うのですが、Blenderを頑張っている人に対してアドバイスなどあればお願いします。
K:なんだろ、どんなものでも作ったものを作ったままにしておくんじゃなくて、誰かに評価される場に自分の作品を投げてみるのはすごく大事かなと思います。僕はTwitterをおすすめしますけど、TwitterでもInstagramでも、なんでも良いんですけど。自分の作品を自分の中にとどめて置くのは非常に勿体無いです。
作品のレベルを上げたいのであれば、Twitterを初めて、「CG始めました」ってツイートして、人と繋がって、そこから自分の作品を上げてみて、その人たちがどう評価するかをみてみると、自分がみていた景色じゃなくて、もう一歩客観的な意見とか景色とかが見えると思います。自分を客観視することが、クオリティ上げるためには重要なので、まず自分が作ったものを発信するということが、1つ重要なことなのではないかと感じます。
コンテストに参加する意味はない。ただ、他人から評価される機会と自分を宣伝する機会としては意味がある。
C:最後に、U30 3DCG VISON CONTESTが開かれるにあたって、このようなコンテストに対して、参加する意味や、参加した方がいいかどうかについて、意見をいただければと思います。
K:本音を話しますと、参加する意味はないと思います。それは作品に順位をつけるイベントと言うのが無粋だと思っているからです。そこから、本当の意味でのクリエイティビティは生まれない可能性が高いです。
ただ他人から評価される機会と、自分を宣伝する機会としては、素晴らしいものであると思います。そういう点においては、意味がある。だから、いい意味でも悪い意味でも、順位は気にしてはいけないけど、他人からの評価は気にするべきだと思っています。
大事なのは、点数や数字ではない「こう思った」「ここをこうしたら良いと思う」というものがフィードバックとして返ってくる部分です。そこに一番価値がある。+αとして、順位に応じて特典があったりするから、そこは自分のために使えば良いかな。ただ、Twitter上で「こうした方が良いと思うよ」ってコメントいただける機会はほとんどないので、そういう意味で、出る意味は大きいと思います。
C:では最後に、Kazuyaさん的に参加を考えている方に何かメッセージがあればお願いします。
K:メッセージ、、、難しいんですよね。期間が設定されている以上は、その期間内に作らないといけないので、おそらく自分の満足いく作品は出来ないです。なので、まず、自分が表現したいものを取捨選択した方がいいかなと思います。ただ、全部できるに越したことはないので、できるのであればスパンを考えて、自分が出せる100%を出して、頑張る方はそういう風に頑張るのもありかなと思ったりします。
過去の作品が納得いかなければ、それを出してフィードバックをもらうの機会として利用するのもありかなと思っています。楽しんでやれば良いかなと。
C:本日はありがとうございました!
U-30 3DCG VISON CONTEST2022について
30歳までの若手3DCGクリエイターを対象とし、グランプリ受賞者には2021年に3DCG業界で最大の話題となった新宿駅前の巨大3Dサイネージ『クロス新宿ビジョン』にて、応募作品を披露できる機会を提供いたします。応募締め切りは2022年5月15日(日)19:00
詳細は特設サイトをご確認ください。
https://3dcg-contest.com/
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