テクニカルディレクター集団BASSDRUMが、MSIのクリエイター向けノートPC「Creator Z16P B12U シリーズ」を活用。Unreal Engine 5を用いたオリジナルアートを制作!
「クリエイティブ」と「技術」を横断的に理解し、両者を媒介する―――多岐に渡る技術開発の屋台骨として活躍するテクニカルディレクター集団「BASSDRUM」が今、バーチャルヒューマン『ルカ』を研究開発している。最も重い開発ジャンルとも言える、バーチャルヒューマンとリアルタイムグラフィックス。そのR&Dの現場において、MSIの『Creator Z16P B12U シリーズ』がスペックの高さを遺憾なく発揮。使用感について聞いた。
常に先端を見据えるアプローチ
テクノロジーとクリエイティブをつなぐ、テクニカルディレクターという役割。その専門集団という独自のスタイルで、業界内でも大きな存在感を放つBASSDRUM。その中においても、今回話を聞いていくXR SQUADというXR(VRやAR、Mixed Reality)の専門チームは、まさに今の技術と映像制作をつなぐ最先端、と言えるだろう。そんな彼らの拠点のひとつが意外にも京都の町家、というのがまた面白い。
「こういった雑踏のない場所にいると、雑音を気にせずというか、流行に大きく影響されず、単に機械と自分との向き合いで制作できる、というのが良いですね」と語るのは、リアルタイム映像アーティストの中田拓馬氏だ。「ただ、リアルタイム映像である、というのは作品を見てくれる人には関係がないこと。ひとりよがりではなく、見てくれた人に何をどう伝えるのか。実験的だけど届かなければ意味がない、常にそうしたことは考えていますね(中田氏)」。
そして今回のバーチャルヒューマンを企画し、モデルを作り上げたのが、同じくXR SQUADに所属する小川恭平氏。配信等のバックエンドテクノロジーまで網羅し、日頃からXR案件を扱うテクニカルディレクターだ。
中田 拓馬/Takuma Nakata
1989年、静岡県生まれ。生後まもなく父親の転勤によりブラジルへ渡り、以来、セネガル、日本、インドネシアで育つ。京都精華大学在学中、オランダに留学し、現地のメディアアート集団 「BornDigital」の一員 として活躍。帰国後は、フリーランスとしてクリエイティブチーム「CEKAI」に所属し、京都を拠点にさまざまなプロジェクトの映像演出、インタラクションデザイン等を手がける。2019年、Adobeがグローバルに展開するキャリア支援プログラム「Adobe Creative Residency」に日本人初のメンバーとして選出され、創作活動に専念。大型の映像インスタレーションを制作し、インド、アメリカで発表。2020年7月に「BASSDRUM」に参画。
website profile: https://www.takumanakata.com/
twitter:https://twitter.com/takumanakata
instagram:https://www.instagram.com/takuma.nakata
小川 恭平/Kyohei Ogawa
テクニカルディレクター
学生の頃よりエンターテイメント業界に携わり、漫画を中心としたクリエイターエージェンシーでエンジニア兼編集者を経験する。独学で3DCG制作を始めた後、上海でバーチャルアイドルのステージ演出やミュージックビデオの映像制作・動画配信を担当。2020年よりBASSDRUMに参画し、エンターテインメント・XRのエンジニアリング、ウェブサイトやサービスの構築からコンテンツまで、幅広いプロジェクトに携わる。
website profile: https://bassdrum.org/ja/members/kyohei-ogawa/
「我々は先端をキャッチアップしてこそなので、常にR&Dをしているような感じ(笑)。その中で生まれたのがこの『ルカ』で、Unreal Engine 5のテストも兼ねたプロジェクトでもあります」(小川氏)。
このR&Dプロジェクトでは、演出やアート部分を中田氏が担当し、ヒューマンモデルまわりとそのプログラム部分を小川氏が担当。今後も引き続き、関連した開発が続けられていくとのことだ。
高負荷に耐えうるモバイルのメリット
バーチャルヒューマンのような、ハイメッシュでリアルな質感を持つハイエンドビジュアルを、現実の人の動きと連動して出力するようなリアルタイムグラフィックス開発は、あらゆるクリエイティブのなかで、最もマシンスペックを要求する開発ジャンルのひとつと言える。実際、中田氏は普段ノートPCを使わず、ハイエンド構成のデスクトップPCを作業環境としている。撮影や投影現場に赴く小川氏はノートPCを使うことがあるものの、開発機や本番環境には、やはりデスクトップ機を用いる。今までは、「Unreal Engineを使う、という時点で、ノートPCは選択肢から外れていた」と語る中田氏だが、今回の『Creator Z16P B12U シリーズ』なら、十分に戦力になる感触を得たという。「まず、軽く3時間使い続けてみました。Unrealは、いわば実行している間常にレンダリングしている状態です。落ちることなく軽快に動作してくれました」とのこと。
また、本機を活用することで開発アプローチも少し変化が現れた、とも中田氏は振り返っている。「現環境のデスクトップ機は、CPUが1、2世代前の最高スペックのもの、GPUがGeForce RTX2080Tiですが、このノートはそれとほぼ遜色がなかった。デスクトップで進めていた同じプロジェクトを、そのままノートで普通に開いて続きをやっていましたから。そういった性能的なところにはもちろん関心しましたが、それより自分としては、作品制作上でも大きなメリットを感じました。それは、作品中の屋外のシーンを、“実際に外の光や風景を観察しながら作れる”ということ。デスクトップは屋内でしか使えませんから。やっぱり印象も光も違うし、考え方が変わってくるんですよ」。
ここまで性能が上がってくると、機材選定のラインにも乗ってくるだろう、と小川氏も言う。「特に現場があるクリエイター、移動がある人。ライブ会場だったり、プロジェクションマッピング会場だったりとか。そういうインタラクティブ系の人からすると、とても便利だなと思えます。外部出力も3系統あるし、現場環境に耐えますね」。
リアルタイムグラフィックス開発という負荷の高い現場において、この高評価。まさにクリエイターの活用を前提として作られた『Creator Z16P B12U シリーズ』の完成度の高さが証明された、と言えるだろう。
作品メイキング
バーチャルヒューマン『ルカ Luca』R&Dプロジェクト
「Creator Z16P B12U シリーズ」を活用したメイキング
ルカ/Luca
2022年4月に開催されたBASSDRUM 4周年記念トーク「BD Session with XR SQUAD」でモデレータとして生み出された23歳のバーチャルヒューマン。BASSDRUMの所属アーティストとして、今後はXRチーム「XR SQUAD」によるアップデートやBASSDRUM内での経験を積みながら自身のパーソナリティを確立していく予定。また、XRを使った演出や表現を社会に周知するアイコンとしてイベントやSNS上でのプロモーションに積極的に関わっていく。
https://bassdrum.org/ja/members/luca/
Unreal Engine 5(以下、UE5)のR&Dプロジェクトでもあるため、当然リアルタイム出力に使われるのはUE5。UE5 Lit画面は、ルカがバックヤード作業(現場搬入)を担当しているイメージのシークエンス。作業時はLitとUnlitを切り替えながら行う。
これまでは、MetaHumanでオリジナルモデルを使うためには、MELでのブレンドシェイプに切り替える裏技的な手法しかなく、制作と調整には非常に手間が掛かっていたと小川氏はいう。
また、背景については一部アセットを購入し、モデリング等のカスタマイズはBlenderにて行なったとのこと。Send2Unrealというプラグインを用いて、モデル編集結果を自動的にUnrealに上書きできるようにしている。
髪の毛のファーはHoudiniを使用し、衣装はMarvelousDesignerを用いて制作したとのこと。このあたりのシミュレーションソフトウェアは負荷的が高いツールだが、問題なく「Creator Z16P B12U シリーズ」でも制作できている。
UE5の売りのひとつとも言えるNanite。数が多くなるオブジェクト類はNanite化しておけば後々の負荷を抑えられる。画面では、Nanite化した石をFoliageとして配置している。なお、Var5.0.2ではNaniteはアルファに対応していないため、木などの複雑は有機物にはまだ対応できないとのこと。
様々なツールを用い、最新のUnreal Engine 5と驚きの性能をもつMSIのノートPC「Creator Z16P B12U シリーズ」で描画されたバーチャルヒューマン『ルカ』。今後の展開も楽しみだ。
TEXT_Sadamu Takagi