どれほど緻密なメカであろうと、どれほど美しいキャラクターであろうと、ポージングがいわゆる『棒立ち』(※1)だと、その魅力は半減してしまう。だとしたら、どんなポージングをさせればメカやキャラクターの魅力が引き立つのだろうか。その手がかりを伝える特別講義『メカ&キャラクター ポージング講座』が、大阪デザイナー専門学校で2016年12月に開催された。講師を務めたのは、同校の卒業生で、現在はunknownCASE (アンノウンケース)で取締役を務める崎山敦嗣氏だ。講義では、崎山氏が培ってきた数多くの知見の中から、ポージングに関する初心者向けのノウハウが厳選して解説された。さらにリギング、レイアウトについても言及した本講義の骨子をお伝えしよう。
崎山敦嗣氏(取締役/CGアニメーションディレクター)
株式会社unknownCASE
大阪デザイナー専門学校を1994年に卒業。現在はunknownCASE 取締役/CGアニメーションディレクターとして、主に作品の最終決戦シーンを担当。特にレイアウトからアニメーションまでのディレクションを得意とする。
株式会社unknownCASE
劇場版、OVA、CM、TVシリーズなどのアニメーション制作に特化した、少数精鋭のCGプロダクション。連綿と受け継がれてきたレイアウトやアニメーションの伝統を継承、進化させ、新たなCGアニメーションを生み出すことに注力している。近年の参加作品には、『龍の歯医者』、『シン・ゴジラ』(ヤシオリ作戦特撮パート・プリヴィズ制作)、 『マクロスΔ』、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』、『AKB0048』、劇場版『マクロスF』などがある。現在、同社ではスタッフを募集中だ。
www.unknowncase.com
www.unknowncase.com/recruit.html
ポージングだけでなく、レイアウトやカメラワークの知識も必要とされる
崎山氏はunknownCASEの社内でも、自身のノウハウを共有するための講義を実施しているという。「アニメ業界のCGアニメーターの仕事は、VFX業界やゲーム業界の仕事とは勝手がちがいます。キーフレームを打ってアニメーションを付けることに加え、画面内でのレイアウト、カメラワーク、After Effectsでのコンポジット、エフェクト制作にいたるまで任せてもらえる場合もあります。たとえCGの学校を卒業したとしても、入社後に学んでもらうことが沢山あるのです」。
例えばTVシリーズ『マクロスΔ』 の場合、サテライトCGディレクター森野浩典氏と共に、同社の代表取締役である加島裕幸氏がCGスーパーバイザー、崎山氏がCGアニメーションディレクターを務めた。メカ中心のカットにおいては、レイアウトから仮コンポ(※2)までの全工程が、担当したCGプロダクションに任されたという。「2Dの背景美術は別の会社の担当ですが、それ以外の部分は演出も含め、かなり自由にやらせてもらえました。絵コンテすら変えていいと言われる場合もあるので、我々の仕事では、ポージングだけでなく、レイアウトやカメラワーク、映像演出など、様々な知識が必要とされます」。
崎山氏は新人の成長を見ながら、多岐に渡る知識を最適なタイミングで紹介するよう心がけていると語る。「映像制作を仕事にするなら、60〜70年代の日本映画はぜひ観てほしいと思っています。実写なら黒澤 明監督の『用心棒』(1961)や『天国と地獄』(1963)、市川 崑監督の『犬神家の一族』(1976)、アニメなら高畑 勲監督の『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)は最たるものですね。僕自身、これらの作品を20代前半の頃に観て『これほど見事なレイアウト、カメラワーク、映像演出の作品が、何十年も前につくられていたのか』と衝撃を受けました」。当時の崎山氏と、同社の新人の年齢や立場は似ているため、作品の素晴らしさを理解してくれるだろうと期待しているという。
「大阪デザイナー専門学校の受講生の大半は、CG制作を始めて間もない1年生でした。今はまだ、僕が解説したことを100%理解できるだけのキャパシティがなかったかもしれません。でも4〜5年後、プロになった後で、何かの機会に思い出して役立ててくれればと願っています」。崎山氏自身、同校で学んだ上手(かみて)や下手(しもて)などの映像演出の知識を、プロになってから鮮明に思い出したとふり返る。「学生時代に色々な知識を詰め込んでおけば、時を経てそれが必要になった瞬間、蘇ってくると思います。僕が伝えたことも、そんな知識のひとつになれば嬉しいですね」。
以降では、リギング、ポージング、レイアウトの順番で、崎山氏のノウハウを具体的に紹介していこう。
Point01:リギング
フォトリアルなキャラクターのリギングはもちろん、TVシリーズ『AKB0048』に登場するようなデフォルメされたキャラクターであっても、実際の人体構造を基本にしていると崎山氏は語る。「大阪デザイナー専門学校の教室には人体骨格模型が置かれていたので、骨格の形、関節の位置などを観察し、頭に入れてほしいという話をしました。そういう模型が身近にない人は、解剖学の書籍やアプリ、自分の身体で確認するという手段もあります」。自分の身体であれば、立体的な形に加え、動いた場合の可動域も確認できるのでぜひ実践してほしいという。
「例えば、腕を頭上に上げると、自然に鎖骨も上がります。このとき、どこを支点にして、どの方向に、どのくらいの角度まで上がるのか......といったことを観察してみてください。実際の構造を基本とするリギングにしておけば、自然なポーズやアニメーションを付けられます」。『AKB0048』のキャラクターの場合には、腕を上げると自動的に鎖骨も上がるリグが設定されており、アニメーターの作業をサポートしていた。「なるべくアニメーターの負担を減らせるように、自動化の仕組みをつくることもリギングの大切な役割です。一方で、鎖骨は感情表現にも使える要素なので、必要に応じて手動で調整できる機能も用意しました」。
前述のような解剖学に基づいたリギングを施すためには、3Dモデル自体も、解剖学に基づいてモデリングしておく必要がある。『AKB0048』の場合には、本作のキャラクターモデリングディレクターである宮嶋克佳氏(※3)がすばらしい3Dモデルへと仕上げてくれたので、以降のリギングやアニメーション工程の仕事が円滑に進んだという。
Point02:ポージング
メカであれ、キャラクターであれ、複雑なデザインの3Dモデルにポーズを付けることは、初心者にはハードルが高いと崎山氏は語る。「混乱を避けるため、手始めに六面体の集合として考えることをお勧めします」。次に紹介する動画にあるような、色分けされた複数の六面体を組み合わせたキャラクター(以降、六面体キャラ)にポーズを付け、各六面体の最低でも二面、できれば三面が見えるようにすれば、自然といいポーズになるという。この六面体キャラを使ったポージングは、同社の新人スタッフ教育用に、崎山氏が発案したものだという。
「直方体の場合、同時に四面が見えることはあり得ません。そのため、二面か三面を見せることだけに集中すればいいのです。見える面が一面だけだと奥行きが伝わらず、立体感が損なわれます。情報量が少ないぶん、画の面白みが減りますし、ライティングした場合の陰影が単調にもなります。各六面体で、微妙に角度を変えることも大切です。例えば、上腕の六面体、前腕の六面体、手の六面体の角度を少しずつ変えることで、躍動感のあるポーズになります」。
なお、ポーズを付ける前に、構図に関する下記項目を決めておくことも非常に重要だという。
●カメラの位置
●カメラの角度(カメラのアングル)
●カメラの画角(カメラに映る範囲 ※4)
「実際のアニメーションの仕事でも、最初に決めるのは構図です。同じポージングのキャラクターだとしても、映すカメラの設定がちがえば、全くちがう画になります。例えば、焦点距離が24mmの広角レンズを使って近距離から映した場合と、焦点距離が200mmの望遠レンズを使って遠距離から映した場合とでは、驚くほど3Dモデルの見映えが変わるはずです」。ちなみに、ユーザーがリアルタイムにカメラを操作できるゲームの場合、様々な視点からの鑑賞に堪えられるポーズを付ける必要がある。アニメの場合は視点が決まっているため、その視点からの見え方に集中できると崎山氏は補足する。
加えて、ポージングには『感情を表現する』という役割もある。「言葉に頼らず、身体だけを使って感情を表現するという点では、パントマイムに似ています。例えば、手脚を身体の外側へと伸ばし、胸を開き気味にしたポージングにすることで、ポジティブ思考の元気なキャラクターであることを表現できます。逆に、手脚を身体の内側へ寄せ、胸を閉じ気味にしたポージングにすると、ネガティブ思考のキャラクターになります」。次に紹介する『AKB0048』の登場キャラクター、東雲彼方(しののめかなた)と横溝真琴(よこみぞまこと)のポージングを見ると、2人の性格のちがいが明確に表現されていることがわかる。
Point03:レイアウト
先に解説したメカやキャラクターのポージングに加え、それらを画面内に配置することも、非常に重要な作業といえる。この作業は、レイアウトと呼ばれている。「ある程度ポージングをマスターしたら、次はレイアウトに挑戦してほしいですね。これもまた、非常に奥深い作業です。同じポージングのキャラクターでも、画面内にどう配置するかによって、見る人に与える印象が大きく変わってきます」。例えば、子供向けアニメの場合には、真横に伸びる地平線を画面の下方に配置することが多い。そうすることで、わかりやすく、安心感を与える画づくりができるからだ。しかし『マクロスΔ』 のようなハイティーン以上に向けたアニメの場合には、水平線を傾けることで戦場の混乱した様子を表したり、極端な広角レンズを使うことで巨大ロボットの大きさを強調したりするという。
以上が、崎山氏による特別講義『メカ&キャラクター ポージング講座』の骨子である。3DCGアーティストを志す人は、ぜひ崎山氏の解説を参考に、まずは六面体キャラを使ったポージングに挑戦してほしい。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充