一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)」が、3月12日(土)・13日(日)の2日間開催された。昨年に続き2022年も、東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)実行委員会主催の下、「ACTF2022 in TAAF」と題して、制作プロダクションによる事例紹介やソフトベンダーによる技術プレゼン、運用事例の紹介などが行われた。本記事では13日に行われたセミナー配信「リアルタイムエンジンUnityで楽しみながら作るアニメ・映像制作」と「Odyssey/オデッセイ リアルタイム 2D/3Dのアニメーション制作ソフトウェアの開発の進捗状況」の概要をレポートする。

記事の目次

    「まず作って、どんどん良くする」Unityが実現するイテレーション型のワークフロー

    「リアルタイムエンジンUnityで楽しみながら作るアニメ・映像制作」にはユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏が登壇。Unityのリアルタイム性を活かした制作ワークフローについて、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが開発中のアニメ制作向けツール「Unity Anime Toolbox」と、それを用いて社内検証用に制作したアニメ『Robo Soccer』の実例を基に解き明かした。

    現在のアニメ制作では多くの場合、上流から下流に向けて工程が進むウォーターフォール型が採用されている。信頼性の高いフローではあるものの、分業によって成り立っており、前工程に遡って修正するのが難しいといった問題も存在する。それゆえに新しい表現を追求する際のコストが高くなり、プリビズや絵コンテの段階から高い見通しが求められてしまう。

    一方、Unityのようなリアルタイムエンジンでは、途中で新しいモデルに差し替えても後工程に大きな負荷がかかることはない。新しい素材にブラッシュアップしていくことができる。

    そういった環境では、従来のウォーターフォール型の一部にUnityを当てはめるより、制作フロー自体をイテレーション型に切り替えた方が多くのメリットを享受できると大前氏は語る。その「まず作って、どんどん良くする」というワークフローを検証するために制作されたのが『Robo Soccer』である。

    『Robo Soccer』は青色のロボ太と黄色のロボ夫が、ピンク色のロボ子を巡ってPK対決をするという約2分のショート作品。制作はスピーディに進めることを優先し、MA(ダビング)も含めた全部入りの状態を目指した。

    Unity Anime ToolboxにはStoryboardツール、MeshSync、SelectionGroup、VisualCompositorといった機能が含まれている。ストーリーボードの作成にはStoryboardツールを使用。Storyboardツールはタイムラインに撮影指示やキャプションを手早く配置でき、カットナンバーを増やしたり、ダイアローグを付け足したりもできる。

    Storyboardツールを用いた作業風景。カットナンバーやタイムカウンター、ディレクターノート、セリフやSEの指示が表示されている

    キャラクターの演技付けに関してはDCCツールは一切使用せず、実写で撮影した動画にWebサービスのPlaskを利用した。Plaskは動画から3Dアニメーションを起こすツールであり、大前氏は「個人的にも大変未来を感じる技術です」と関心を寄せていることを明かす。Plaskで出力したデータをUnityのタイムラインに持ち込み、キャラクターの演技付けに用いた。

    コンポジットにはVisual Compositorを使用。Visual Compositorは2Dと3Dを自在に組み合わせてポスプロツールのような感覚で作業ができ、各カットごとにComposition Graphを作って画面を構成していく。

    今回はシーンのセッティングが特殊で、登場するキャラクター全てを同じ位置に置き、その周囲に大量のカメラを配置している。これはステージに対しても同様で、いろいろな場所を切り取ったカメラを用意して、それらを組み合わせることでカットを作り上げているのだ。

    例えばカット2にはロボ太が映っているが、Rendering Nodeのobjectsとlightsの入力を変更することで、キャラクターや光の当たり方が変化する。カットごとにキャラクターとカメラを正しい位置に置き、画面を確認するという手法では試行錯誤に時間がかかってしまう。「まずは作る」という今回の目的を達成する場合において最適な方法だと言えるだろう。

    Selection Groupに描画したいobjectsや使いたいlightsのリストを入れておくと選択可能。キャラだけでなく、背景を変更したり、ボカしたり、色合いを調節したりもできる

    全ての工程が終了してからはMeshSyncやFBX Exporterを使ってDCCツールなどと行き来をしながら、各要素のクオリティアップを目指していく。作品を生み出す第一歩としてUnityをどう役立てればいいのかが実感できるセミナーとなった。

    アジャイル開発にも貢献 UEをベースにした2Dアニメ制作ソフト「Odyssey」プロジェクト

    「Odyssey/オデッセイ リアルタイム 2D/3Dのアニメーション制作ソフトウェアの開発の進捗状況」にはPraxinosのファブリス・ドゥバルジュ氏と佐藤直幹氏が登壇。Unreal Engineを技術ベースにした2Dアニメーション制作ソフトウェア・Odysseyの開発状況を伝えた。

    Praxinosは2018年11月創立。現スタッフは8名。C++言語の開発エンジニアは4名で、2Dアニメーション制作ソフトウェアの開発経験を豊富にもつ

    まずUEをベースに開発した理由について佐藤氏は、2Dアニメーション、3Dアニメーション、リアルタイムレンダリングの利点をそれぞれ挙げた。2Dはアニメーターの個性的なタッチを自然に反映でき、3Dは複雑なオブジェクトの大量生産が可能。そしてリアルタイムレンダリングは、光や影などの効果を瞬時に計算して表示できるというアドバンテージをもつ。これら3つの技術を組み合わせることで、より大きなメリットを得られるとの確信から、Odysseyプロジェクトを始動した。

    プロジェクトは長期にわたると予測されたため、1つ1つのモジュールを開発していくことから始めた。ブラシエンジンの開発にあたっては、UEが提供するノードベースのスクリプティングシステム・Blueprintsを用いて、タッチが異なるブラシを実装した。

    • Odysseyにはデフォルトで100を超えるブラシを搭載。ノードに触れずに微調整可能な設定を備えている

    ペンタブレットとの互換性が存在しない点も問題となった。マウスからの出力は可能だったが、それでは圧力やねじり、傾きなど、ペンから送信される情報を活用することができない。タブレットの利点を活かすために機能を実装した上で、3Dでも描画できる環境を整えていった。

    なお描画モジュールに関してはOdysseyの正式リリースに先駆けて2019年12月より、プラグイン・ILIADをUEマーケットプレイスで無料配信中。静止したオブジェクトに直接描画することで2D・3Dのどちらも修正でき、キャラクターのタッチを変えたり、植物(フォリッジ)を手がけたり、デカールをデザインしたりと、汎用性の高いプラグインとなっている。

    描画プラグインILIADの使用例
    日本語のDiscordも用意されており、わからないときは気軽に質問できるのもポイント

    アニメーションに関しては、Odysseyはシーケンサーと呼ばれるタイムラインを用いて、シナリオをシーンごとに分割。ストーリーボードのように構成し、3D環境内に配置された仮想カメラと連動してカメラワークのコントロールができる。ユーザーが3D環境内を自由に動きながら、シーケンサー、カメラ、プレーンをワンクリックで設定できるようにした。

    タイムラインではサウンドトラックの読み込みも可能。水車に水の音が付いており、カメラが近付くと水音が大きく、離れると周囲の環境音が大きくなる

    さらに佐藤氏は、リモートワークでの共同作業においても革命をもたらすとコメント。各プラットフォームを介してプロジェクトをオンラインに保存することで、複数のアーティストが同じシークエンス上での作業が可能になる。変更点をリアルタイムで確認した上での共同作業は、オンラインゲームをプレイしているしくみに近いという。

    左では背景を変更、右ではストーリーボードを作成している

    これらのコラボレーションツールの活用は、プロジェクトの各段階においてアーティストやディレクターのヴィジョンを尊重することに繋がり、アジャイル開発にも貢献するだろう。

    なお上記の機能はストーリーボード管理プラグイン・EPOSとして、2021年7月よりβテストが行われている。日本からはグラフィニカが参加し、オリジナルアニメのプリビズを制作した。その模様は以下の記事でレポートしているので確認してほしい。

    関連記事:UE4でマンガやアニメ、イラスト制作に挑戦するための第一歩をサポート「UE4 Manga Anime Illustration Dive Online」レポート、<4>「UE4とEPOSで創る新しいアニメ制作のワークフロー」

    EPOSは間もなくUEマーケットプレイスで配信される予定だ。

    タイムシートは画面のどの場所にも配置可能になる予定

    今後の課題としては、ライトテーブルのツールにタップ割り機能を備えるなどの充実化、Xシート(タイムシート)は手描き可能な画像として実現するなどの構想に触れた。Odysseyの正式版のリリースは2023年を予定している。

    最後にドゥバルジュ氏は「2Dと3Dの垣根はこれからどんどんなくなってくるだろう」とコメント。アニメーションの将来を考える上で、Odysseyを通じて新たな可能性を追求していければと、日本のクリエイターにメッセージを送った。

    TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada