世界初のバーチャルR&Bシンガーとしてワールドワイドで活躍する、テフロン・セガ。エッジの効いた3Dアバターを引っさげ、Unreal Engineを用いて制作した高品質でスタイリッシュなMVが魅力のバーチャルアーティストだ。今回はテフロン・セガ本人に直接インタビューし、気になる質問をぶつけてみた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 297(2023年5月号)からの転載となります。

    Unreal Engineを使って3Dアバター&MV制作を行うアーティスト

    ――まずは日本の読者に向けて簡単に自己紹介をお願いします。

    テフロン・セガ(以下、テフロン):まず最初にお伝えしておきますが、「私」には2つの立場があります。ひとつはテフロン・セガというバーチャルシンガー。そしてもうひとつは、テフロンという存在を裏から支えるオペレーターです。今回のインタビューでは、後者の立場から回答させていただきます。

    Teflon Sega/テフロン・セガ
    世界初のバーチャルR&Bシンガー。楽曲「Beretta Lake」がSpotifyのバイラル・チャートでトップ5を記録し、総ストリーミング数1億回以上、YouTube総再生回数2,500万回以上の実績を誇る。

    テフロン・セガ総合リンク
    linktr.ee/TeflonSega

    ――それでは、最初の質問です。あなたはアバターを使ったバーチャルアーティストとして活動されていますが、そもそもなぜアバターを使って活動しようと考えたのですか?

    テフロン:人間という存在は、生身の肉体をもっているがゆえの限界や制約があります。しかし、われわれの内面には無限の可能性がありますし、アーティスト活動は、その可能性を表現する最も素晴らしい方法のひとつだと感じています。私はアバターを用いてアーティスト活動をすることにより、様々な現実の制約から解き放たれて、より自由に表現ができると考えています。

    ――Lil Miquelaをはじめ、世界には多くのバーチャルインフルエンサーがいますが、注目しているバーチャルヒューマンは誰ですか?

    テフロン:アメリカでは、XanaduCode Mikoが大きなインスピレーションを与えてくれました。immaは日本を飛び越えて世界的なスターになりました。彼女の美学やファッションセンスが大好きです。でも、私が一番好きなバーチャルスターは、初音ミクGorillazです。

    ――今のご回答からも、日本発のコンテンツに親しまれていることが窺えます。現在のあなたを形成する上で影響を受けたり、好きな日本の作品はありますか?

    テフロン:私の幼少期から現在に至るまで、多くのヒーローが日本人です。私はクリエイターとして、『ファイナルファンタジー』シリーズをはじめとした坂口博信氏の作品に大きく影響されました。また『AKIRA』の影響も過小評価されているように思います。『マトリックス』や、史上最高のミュージックビデオの数々も、この映画なしにはありえません。日本アニメのストーリーは、社会的な話題や深いストーリー展開、素晴らしい音楽に重点を置いているため、いつも興味を惹かれます。

    テフロン・セガ流 3DCG活用術

    ――当初は2Dのアバターを使用されていたようですが、現在は3Dのアバターになっています。2Dイラストから3Dアバターへ切り替えたタイミングや理由についてお聞かせください。

    テフロン:実は、切り替えというものはなかったんです。テフロン・セガの世界ではどちらも同時進行していて、2Dと3Dのどちらか一方に限定されることはありません。どちらもユニークな表現手段ですからね。抽象的に聞こえるかもしれませんが、私というのは、今までの私、今の私、そしてこれからの私、全ての集大成ということです。

    ――なるほど。フル3DのMVを拝見しましたが、いずれもクオリティが高く、アーティスティックです。

    テフロン:ありがとう。私は音楽をつくるとき、必ずビジュアルを意識してつくります。自分の頭の中にある世界を全て表現したものがMVの映像になっています。

    ――映像制作はひとりで行なっているのですか?

    テフロン:私はこれまで、ほとんどのMVをひとりで制作してきました。しかし、最近のビデオ「Smoke N’ Drift」では、Pixel Urgeという3Dディレクターとコラボレートしました。

    ――3Dは全てフルスクラッチで制作されたものでしょうか、それとも既存のアセット等も使用していますか?

    テフロン:初期の作品の頃は時間もなかったので、ほぼ市販アセットを組み合わせたキットバッシュです。最近の作品ではカスタムモデリングも行なっています。

    ――一般に3Dの制作技術は敷居が高いと思いますが、どのように身につけたのでしょうか?

    テフロン:クリエイターである私は、常にテクノロジーと共に歩んできました。音楽から始まり、そでが3Dやビジュアルアートにまで発展したんです。パンデミック以前は、3Dの経験はまったくありませんでしたが、長い間自宅に閉じ込められていたおかげで、YouTubeのチュートリアルを無限に見ることができ、私のようにオンラインで3Dアートを制作している人たちと出会い、教えを請うことで徐々に身につきました。

    ――映像制作の基本的なワークフローを、使用しているDCCツール等と合わせてご説明いただけますか?

    テフロン:私のワークフローは、Xsensを使ったリアルタイムのモーションキャプチャとUnreal Engineのリンクから始まります。編集は全てPremiere Proで行なっています。顔の動きのキャプチャには、iPhoneのARKitを使用しています。

    ――ヘアや衣服の表現に物理シミュレーションを使用していますか?

    テフロン:髪の毛はUnreal EngineのGroomという技術を使い、服はuDraperというプラグインを使っています。

    ――日本の作品と比較すると、フェイシャル表現(特にリップ)がリアルで、こだわっている部分のひとつだと感じます。映像表現におけるこだわりと、それらの突き詰め方について教えてください。

    テフロン:私はシンガーであるため、必然的に声の出し方の大きな部分を占めている唇や口の動きの細かい部分にこだわっています。歌の情感とマッチするように、時間をかけて丁寧につくるよう心がけていますね。

    ――XRをはじめとした技術の進化と共に、メタバースや3Dアバターが広く浸透してきました。それらの今後の展望についてお聞かせください。

    テフロン:アバターを通すことで、夢の中でしかできないような自分の一面を見つけることができると思います。内向的な人間の代表として言えば、大勢の観客の前でパフォーマンスをしたり、大きなインタビューを受けたりするのは、かなり緊張するものです。でもアバターであればそういったこともなく、別の人格としてふるまえます。私もバーチャルな存在であるからこそ、ザ・ウィークエンドやジャスティン・ビーバーと同じステージに立つ機会を得ることができました。メタバースや3Dアバターはこれからもどんどん活躍の場を広げていくと考えています。

    次元を超えたアバタービジュアル

    オリジナルスケッチ
    2Dアバターのひとつ
    3Dアバター最新版。紫色の髪と肌が特徴的なアバターは楽曲によって2Dと3Dが使い分けられているものの、映像表現においてはいずれも現実感と異世界観が入り交じるテフロン・セガ独特の世界観が表現されている

    バーチャルライブでのパフォーマンス

    テフロン・セガは、ジャスティン・ビーバーも登場したバーチャルライブプラットフォーム「Wave」で二度、ライブパフォーマンスを行なった経験がある。「カメラの動きやカット割り、ライティングなどは事前にプログラミングされていましたが、パフォーマンスは録画ではなくリアルタイムで行いました」(テフロン・セガ)。

    Wave x Teflon Sega - Dimensions Vol.1(2022年3月16日配信)
    Wave x Teflon Sega - Dimensions Vol.2(2022年5月12日配信)

    <1>Unreal Engineを中心としたワークフロー

    Unreal Engineによって広がるテフロン・セガの世界

    バーチャルシンガーとして活動するテフロン・セガのMVは、初期はアニメ調の2D表現が使われてきた。しかし近年では2Dアニメ映像のMVと並行して、3DCGを活用したMVも多数公開されている。彼のMVに使用されている3DCGは、Unreal Engine(以下、UE)によって制作されたという。

    「2Dとは異なる、自分の新しい姿を表現しようと思って3DCGを使うことを決めました。3DCGを始めた当初はUE4を使っていましたが、2022年からUE5を使い始めるようになりました。UE5は素晴らしいゲームチェンジャーであったと思います。YouTubeの動画などを見て使い方を学びながら試行錯誤して制作していましたが、初期の作品は視聴者から厳しい反応を受けることもありました。でも、そのことによって多くの学びを得て、次の作品に取りかかることができたんです」(テフロン・セガ)。

    3DCGを手がけてから初期の作品「Paralyzed」や「Strange Condition」の時点で、すでに豊かな物量と高いクオリティで、独特な世界観が表現されている。

    「初期の作品はストーリーボードをつくらずに、頭の中にある世界を即興で映像にしていくというスタイルでした。UEの素晴らしいところは、そうやってリアルタイムでいろいろと探求しながら作業を進めていくことができるという点ですね。そのように即興でつくったからこそのマジック(思いがけず生まれた素晴らしい表現)もありました。また、最初の頃は技術もなく、制作時間も限られていたので、全てをフルスクラッチで制作するのではなく、市販のアセットをキットバッシュして制作の効率化を図っています」(テフロン・セガ)。

    以下からは3DCGでつくられたMVをピックアップし、その制作技術や演出意図などについて紐解いていく。

    Unreal Engineを活用したMV制作

    テフロン・セガのMVにおける3DCGはUEによって制作されている。背景や小道具はフルスクラッチというわけではなく、アセットストアやMegascansなどもフル活用しているという
    またキャラクターについては、UEのMetaHuman技術が効果的に使われている

    キャラクターの動きに追従する髪

    アバターの髪の毛の表現にはUEのHair Groomプラグインが使用されている。これにより髪の毛一本一本を独立したものとして扱えることで、髪の表現力が大幅にアップしている。

    Blenderで作成されたHairをUEにインポートしてHair Groomとして扱う
    • キャラクターの動きに合わせてリアルタイムに髪が追従する
    • 髪が追従している様子

    手軽に使えるモーション&フェイシャルキャプチャ

    テフロン・セガはほぼ個人での映像制作をしているため、手軽に利用できるモーションキャプチャ機材を活用している。

    • 使用機材は、ボディはXsensスーツ
    • ハンドはManusグローブ(現在はMeta VRグローブ)
    フェイシャルはARKitとLive Link Face。これらを効果的に用いることで、アバターが生身の人間のような実在感をもっている

    <2>「Paralyzed」

    不思議の国のアリスを模した世界観

    本作はテフロン・セガにとって、3DCGを用いた2作目の作品となっている。「この作品は私の3D映像作品としては初期のもので、3Dの技術をを学びながら試行錯誤して制作しました」(テフロン・セガ)
    • 「『不思議の国のアリス』のマッド・ティーパーティーをイメージして、自分の頭の中にある、非現実的なキャラクターたちがたくさん登場する夢の世界を表現したつもりです」(テフロン・セガ)
    • 「映像中に登場する怪物のダンスは、バレリーナの踊りをモーションキャプチャしたものですが、複数人でのキャプチャ収録は難しくて苦労しました」(テフロン・セガ)

    <3>「Strange Condition」

    異世界でのコンサートを表現

    本作は宇宙空間のような異世界で、アバターがただひとりでピアノを弾いているという作品だ
    • 「この作品は孤独と、孤独に対する恐れを表現したものです。演奏シーンは、指にキャプチャグローブを付けて実際にピアノを弾いた運指を再現しています」(テフロン・セガ)
    • 背景となる惑星や宇宙は、Megascansのアセットをキットバッシュしてつくりました。ただしスニーカーのモデルは既存のアセットではなく、友人がつくってくれたオリジナルのものです。またライティングもコンサート的な照明演出に見えるよう設計しました」(テフロン・セガ)

    <4>「Never In The Middle」

    マンモスを乗りこなすのに苦心

    本作は、荒涼とした中世ファンタジー風世界でアバターがマンモスに乗り、剣を振るってドラゴンと戦ったり【画像上・中】、城に攻め込んでドラゴンの女王と格闘するという【画像下】、RPGのような世界観が表現されている。「この作品は当時の私にとっては一番のビッグプロジェクトでした。マンモスという巨大なキャラクターをリアルタイムで乗りこなす様子をどうモーションキャプチャすればいいのか、それを考えることが大きな課題でした。TikTokにメイキングをアップしたのですが、それも大きな反響がありました」(テフロン・セガ)

    <5>「I Think Of You」

    シネマティックな表現、服のシワにもこだわり

    燃える森の中をアバターが歌いながら歩き、その周囲を3Dの顔文字が飛び交うという、不思議な世界観の作品となっている。また、ワンショット撮影での作品となっていることも本作の特徴だ
    「木や炎に関しては市販のアセットを使用していますが、服は全てカスタムでつくりました」(テフロン・セガ)
    「服のシワの表現はuDraperを使っています。ビデオゲームのようにではなく、シネマティックに表現したかったので、被写界深度表現にこだわって画面の手前と奥がボケる効果を多用しました」(テフロン・セガ)

    <6>「Smoke N’ Drift」Collaborated with Pixel Urge

    外部のディレクターと初コラボ、荒廃した未来世界を表現

    本作は、ところどころに炎が上がる近未来的な荒廃した都市を、日本の“痛車”のようにカラフルなイラストがペインティングされたジープに乗ったテフロンが歌いながらドライブしていくという、SF映画の1シーンを切り取ったような作品となっている。

    誰もいない都市の中で、ジープの屋上でアバターがギターソロを演奏するシーンも印象的だ。さらに、その様子を物陰から謎のクリーチャーが覗いているという不穏さも感じさせる、ストーリー性の強い作品となっている。

    「この作品は初めて外部の3DディレクターであるPixel Urgeを招いて制作した作品で、彼にジープやクリーチャーをモデリングしてもらいました。MVをつくり始めた時点で、ジープで走り回るシーンやギターソロのシーンがあることや、クリーチャーが登場するといった断片的なアイデアはありましたが、それらに明確なイメージはありませんでした。それを、彼が具体的な形にしてくれたんです。特にストーリーボードなどはつくりませんでしたが、いくつかのスケッチを提供し、私が曲で何を表現したいかということを伝えました。苦労したのはギターの演奏シーンですね。モーションキャプチャのキーフレーミングに苦心しました。この作品に限らず、楽器の演奏シーンはいつも大変です」(テフロン・セガ)。

    またラストシーンでは、アバターが謎のクリーチャーたちに取り囲まれ、血を流して死んでいるという、ショッキングな展開も描かれている。

    「この作品のエンディングはロックンロールだと思っています。私が好きなアニメでもよく見かける展開なのですが、最終的に敵にやられてしまうようなバッドエンドが好きなんです」(テフロン・セガ)。

    また、これまではUEで試行錯誤をしながらリアルタイムにつくり上げていく制作スタイルだったが、これからリリースされる新作では事前にストーリーボードを作成し、より綿密な設計によって作品世界を表現していくという意気込みも語ってくれた。さらなる進化を続けるテフロン・セガの作品世界に、今後も期待したい。

    リアルな挙動を実現したクルマ

    ジープのモデルは、外部の3Dディレクターにイメージを伝えて制作してもらったもの。派手なペイントが特徴的
    コントールリグ
    でこぼこ道での挙動やドリフト時のタイヤへの負荷などもきちんと表現されている

    荒廃した街の陰に潜む、謎のクリーチャー

    クリーチャーのモデル。長い腕と大きな手に多くのコントローラが仕込まれている
    グロテスクな質感も特徴的
    クリーチャーらしいポーズや動きが付けられている

    荒廃した街のモデル

    MVの舞台となる廃墟のモデルはMegascansの素材を活用し、キットバッシュ主体で制作されている

    テフロン・セガこだわりのシーン

    モーションキャプチャに苦労したというギターソロ
    バッドエンドを彷彿とさせるお気に入りのラストシーン

    CGWORLD vol.297(2023年5月号)

    特集:超こだわりのルック開発
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年4月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_オムライス駆
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada