5月27日(金)と28日(土)の2日間に渡ってCGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM ONLINE 2022」が開催された。初日に開催された「学生時代の過ごし方」では佐藤駿平氏、松原 陸氏、伊藤太一氏といった新進気鋭の若手アーティストたちが登壇し、どのような学生時代を過ごしてCGの技術を身につけたかを語ってくれた。
イベント概要
「CGWORLD JAM ONLINE 2022」
日時:5月27日(金)17:00〜22:00/5月28日(土)11:00〜19:00
会場:オンライン配信
主催:CGWORLD、株式会社ボーンデジタル
cgworld.jp/special/jam/vol4/
佐藤駿平氏(WHO’S NEXT? 2021年第2弾最優秀賞)
最初に登壇したのは、昨年のWHO’S NEXT?で最優秀賞を受賞した佐藤駿平氏。YouTubeの無料チュートリアル動画から独学を始めてWHO’S NEXT?で最優秀賞を取るまでの道程を語ってくれた。
独学開始から受賞までの2年間は大きく分けると、
1.チュートリアル時期(~半年)
2.模写時期(半年~1年)
3.模写・オリジナル作品時期(1年~2年)
4.WHO’S NEXT?時期(2年~)
の4つの時期があったという。
1.チュートリアル時期(~半年)
大学ではプログラムやWebデザインを学んでいた佐藤氏がCGを始めたきっかけは、友人から教えられたBlenderだった。初めにYouTubeの動画でソフトのダウンロードからレンダリングまでの一連を学び、その後はポットやクルマ制作などのチュートリアルをこなしていった。実は、この時期が一番つらく、部屋の壁につくった作品を並べてモチベーションを保つための工夫をしたという。「壁が埋まっていくのが楽しくて、制作を進められました。それに作品を客観視できたのが良かったと思います」(佐藤氏)。
2.模写時期(半年~1年)
つらい時期を乗り越えた後は、CG模写を重ねた。観察力を高めたり、表現力も学べたりと、CG的に糧になったという。工夫をしたのは、2D作品を模写して3D作品にした点だ。デフォルメからリアルにしていく過程で、情報量の足し方を学んだという。初めは手探りで1つの模写に1週間ほどかかっていたのが、慣れてくると3日でつくれるようになった。
3.模写・オリジナル作品時期(1年~2年)
WHO’S NEXT?に初参加するも落選。悔しい思いをしたことが、大きな転機となった。審査員のプロからのコメントや、入賞者の作品を徹底的に比較検討して自分の作品を見つめ直し、オリジナル性を模索していったという。
4.WHO’S NEXT?時期(2年~)
1年間、CGを制作しているうちに、正直クオリティの面では勝てないと感じた。そこで、自分の強みを作品背景のストーリーの解像度を高めていく方向に転換。修練を重ねて満を持して再びWHO’S NEXT?に参加し、念願の最優秀賞に輝いた。
この作品は、父親や親戚が銃を扱うということで身近であるためストーリーもつくり込みやすかったという。企画力の勝利かもしれない。
この時期は、積極的に作品を人に見てもらい、感想をもらうようにした。実際、コンテストに出した作品は自分で決めていた構図ではなく、友人の意見を参考に構図を変えて、なんと締め切り30分前に提出したという。
ふり返ると、一度目のWHO’S NEXT?に落選してから、CGに対して本気に取り組むようになった。しかし一方では、大学の専門科目からCG1本に絞ったことで不安も強くなり、あまりに真剣に取り組みすぎたことや、将来への不安から脱毛症になってしまったという。しかし、むしろそこまでの熱量を込めたからこそ作品のクオリティは上がっていったといえるのではないだろうか。
松原 陸氏(AnimationCafe/CELAVIEチーム)
松原氏はAnimationCafeの社内チームCELAVIEに所属するCGアーティストだ。CELAVIEは設立2年、約30人の若いチームで、メタバースを視野に入れた次世代のセル調フルCGアニメーションを研究開発/制作するチームだという。
CGの道を志したのは『スター・ウォーズ』などのSF映画のVFXを見たことがきっかけで、子どもの頃の作文でもCGをやりたい、監督になりたいという夢を書いていた。自分で物語のある世界観をつくることに憧れ、ジョージ・ルーカスのような監督になることを夢見ていたという。CGは自分の考えを伝えるための手段だと考えているとのことだ。
セッションでは、高校から社会に出るまでのステップを高校、大学、留学、休学、復学という5段階に分けて説明された。
高校時代:「積極性」
美術系のある公立高校で、デザインの基礎を学んだという。学業以外では、「長」のつく役割を積極的にするなど仕切り役だったという。
大学時代:「CG基礎」
デジタルハリウッド大学へ進学し、CGの基礎を学んだ。大学でも積極的に活動し、インターンや起業、アルバイトなど多忙な毎日を過ごした。
留学時代:「主体性」
未知への挑戦としてアイルランドへ留学。海外では自分で動かないと何も始まらないため、日本人のいない異文化の中で自助自立の精神を学んだ。
休学時代:「技術・知識」
日本へ戻り、休学。大学へ戻る前にCGやデザインで働くなど、より具体的で実践的な技術や知識を学んだ。
復学:「自主性」
大学へ復学して、グループで活動。その中でアートディレクションをするなど、リーダーとして活動した。
この過程を通して、CG制作では強い目的意識と観察眼が必要と気がついた。特に、監督を目指していく中で、知識が必要だと感じたという。
その一環として練習としてつくったギターは、複雑な形状や構造まで観察してモデリング。例えばノブはクリアパーツであるため、中の構造まで観察してモデリングをした。同じようにクルマを作ればブレーキディスク等見えないところまでつくり込んだり、ライトセーバーも図面を読み込んでつくったり、細部にこだわっていった。
現在は学習リソースやインフラが充実しているため、学生時代に大事にしたのはオリジンをもつことだった。CGの目的は監督に至るまでの過程であり、的確に指示をするために学んでいるものと意識してCGを制作。職業としてはプロップデザイナーを目標としていた。
就職でCELAVIEを選んだのは、組織としての未知数な可能性に惹かれてのことだった。職場にはゼネラリストも多く、知識がどんどん入り、風通しの良い環境だという。
松原氏が学生に伝えたいことは、挑戦していくことの大事さ。「とにかくやってみよう! 紆余曲折は当たり前なので、人と比べて腐らずに、頑張りましょう!」(松原氏)と学生にエールを送ってくれた。
伊藤太一氏(Khaki)
Khakiでゼネラリストとして活躍する伊藤氏は、専門学校や大学でCGやデザインを学ぶ人が多い中、独学で仕事を始めた実践派ともいえる異質のプロフィールだ。
CGを知ったのは、高校時代にYouTubeやニコニコ動画でボーカロイドを見たことからだったという。当時、Blenderをインストールしてやってみたが、難しくて挫折。それでも3Dをやるために、学生版があったCinema 4D(以下、C4D)を使い始めた。当時のBlenderに比べてC4Dはとっつきやすかったとのことだ。
丁寧に教えてくれるチュートリアルもなかったので、特に作品をつくるでもなく、とりあえずソフトを触ってみて覚えていった。チュートリアルもかいつまんでやる程度で、SNSやブログの情報が有益だった。SNSは周りにCGをしている人もいなかったので、ライバルのように感じで良い刺激になったという。
その頃、CG制作と並行して日本中のリアルイベントにも積極的に参加。その縁から名古屋ではめずらしくC4Dをメインツールにしている会社にアルバイトとして入ったのが大きな経験だったという。人数が3人程度の小さいプロダクションだったので、メインスタッフとして3年ほど大きな案件に携わることができ、修正が予想されるところを直しやすいようにつくるなど、クオリティ以外のプロとしての業務のノウハウを学んだ。
その後、いつかは東京に出たいと思っていたところに、Khakiと縁があり東京進出を決めたという。
以上のような経歴をもつ伊藤氏は「独学でもいくらでもチャンスがある。CG関係の学校に通っていない人も、やる気次第だと思います」と力強く語ってくれた。一方で、CGを学校で学んでいる人の先生や仲間は貴重で、羨ましい部分だとも。
最後に視聴者からのQ&Aが和やかに行われた。モチーフに対しての質問には3人とも好きなものをするのが良いという答え。それぞれ異なる道程でCGアーティストになり、第一線で活躍しているが、根本は同じように見える。好きなCGを全力でつくる姿勢こそが業界へ続く道であり、学生時代をの有意義な時間の過ごし方なのかもしれない。
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TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada