5月27日(金)、28日(土)の2日間にわたって、CGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM ONLINE 2022」が開催された。2日目のスキルアップチャンネル「今から始めて差をつける、Unityグラフィックスの新常識」では、最新のUnityで望んだグラフィックを作成するための考え方と、効率的な学習方法についてセミナーが行われた。今回は、その様子をレポートする。
イベント概要
「CGWORLD JAM ONLINE 2022」
日時:5月27日(金)17:00〜22:00/5月28日(土)11:00〜19:00
会場:オンライン配信
主催:CGWORLD、株式会社ボーンデジタル
cgworld.jp/special/jam/vol4/
Unityアーティストが知るべき2つの新常識
本セッションで講師を務めたのは、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのクリエイター・アドボケイト、大下岳志氏。セッションの冒頭で大下氏は次のように述べた。
「みなさんもUnityでつくられたハイクオリティな3DCGをよく見かけると思いますが、自分でつくれるか、それまでの工程を思い描けるかというと、難しいのではないでしょうか? これには色々理由がありますが、私は、多くの方が少し昔の理論や手法で制作をしていることも原因ではないかと思います」。
Unityは高頻度で機能のアップデートが行われており、これにより、従来よりも簡単に高品質な3DCGが制作できるようになっている。ただそれだけに、機能の変化に気付かず、有効活用できないユーザーも多いのではないかと大下氏は考えている。
そこで本セッションでは、Unityをつかうアーティストに押さえてもらいたいポイントとして、「レンダーパイプラインの新常識」と「開発スタイルの新常識」の主に2つが解説された。
レンダーパイプラインの新常識
レンダーパイプラインとは、いわばゲームエンジンの中でグラフィックを描くしくみそのもののことだ。
モデリングで扱うマテリアルは、本質的にはすべて数字や計算の集まりだ。これを様々な手順を踏みながら二次元の情報としてディスプレイに映し出されるようにする。この手順がまさにレンダーパイプラインだ。
Unityでは、3つのパイプラインがあり、どのパイプラインを使うかは制作者自身が選ぶことになっている。この3つのパイプラインにはそれぞれ得意不得意があるため、最適なものを選ぶためにあらかじめ特徴を知っておく必要がある。
このうち、Built-in Render Pipelineは従来のUnityからあるパイプラインで、現在では積極的な機能追加は行われていない。
これからハイクオリティなグラフィックをつくりたいアーティストは、Universal Render Pipeline(URP)かHigh Definition Render Pipeline(HDRP)が推奨される。SNSなどで見かけるリアルで高品質なグラフィックの多くは、HDRPを用いてつくられている。
HDRPは、動作環境に限りがあり、ある程度の規模の作品をつくりたいのであればマシンのスペックも要求される。
また、HDRPはフォトリアル表現を加速させる高度な物理ベースレンダリングを採用しており、これにより、まるで実写のようなレンダリングが可能だ。
一方のURPは、フォトリアル表現こそHDRPには及ばないものの、モバイル向けの制作にも使える高い自由度をもっている点が特徴だ。
ただし、大下氏によると、URP自体がモバイル向けであるわけではない。URPはあくまでモバイルからハイエンドまで自由に表現するためのパイプラインであり、「モバイル向けに最適化されたパイプライン」という特徴はURPのひとつの側面でしかないという。
HDRPのような高性能なパイプラインでは、レンダーパイプラインの工程は複雑なため、これをアレンジするのは困難だ。
その点、URPであれば、初期状態では各工程の計算がシンプルになっており、工程の一部を改変したり、オリジナルの工程を追加したりすることが比較的容易になっている。これにより、どんな既成のパイプラインでも実現できなかった独自の表現ができるようになる。
Unityを使った制作の新常識
従来からUnityを使っている人であれば、ゼロからプロジェクトを作成し、コードエディタを併用して制作するというスタイルを貫いている人もいるかもしれない。
しかし、大下氏によると、この方法はアーティストなどの非エンジニアにとっては難しく、初期の簡素な画面からは完成形を想像しにくいというデメリットがあるという。
そこで最近のUnityでは、ある程度の規模の作品であれば、コーディングをしなくてもUnityエディタだけで完結できるようになっている。
例えば、Visual Scriptingという機能は、従来C#で書いていたUnityのスクリプトをグラフィカルなノードを使って組めるようにしたものだ。ノードベースのスクリプトはC#コーディングを経ることなく制作を進めることができるため、アーティストなどに恩恵が大きい。
「Visual Scriptingはノードの名前や機能が従来から使われているC#スクリプトの記述と揃えられているため、慣れてくるとC#のコードを見て、それをノードで再現することができるようになります。また、エンジニアと何か相談したい際にも、同じ用語を使って相談が可能なため、やり取りがスムーズになります」(大下氏)。
次に、Shader Graphが紹介された。こちらもVisual Scripting同様、ノードベースのツールだが、標準のマテリアルでは実現できない質感を表現するために用いるものだ。LitやUnlitなどをベースに、テクスチャ素材や計算を加えて独自の表現をつくり出すことができる。
特にURPではShader Graphを様々な用途で使うことが可能で、他の機能と組み合わせることでスタイライズされたシェーディングやポストプロセスをつくることもできる。
「従来シェーダは描画処理に深く関わってくるため、アーティストだけでは手が出しにくい分野でした。ノードベースでの制作が可能になったことで、手軽に作業ができるようになったことには大きな意味があるでしょう」(大下氏)。
Unityでは、これらのノードベースのツールを使うことによって、コーディングをしなくても多彩な作品をつくることができる環境となっている。そして、これらのツールに慣れ親しむことによって、コーディングに関するより深い知識を身に付けやすくなっているのだ。
講演動画
TEXT_江連良介 / Ryosuke Ezure
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)