『前東氏が聞く! 「Substance 3D Painter、みんなはどう使う!?」』 ―CGWORLD JAM ONLINE 2022 セッションレポート&前東勇次氏インタビュー
スキルアップ&就職フェス「CGWORLD JAM ONLINE 2022」が5月27日(金)と28日(土)の2日間開催された。28日にスキルアップチャンネルで配信されたセッション『前東氏が聞く!「Substance 3D Painter、みんなはどう使う!?」』には、バンクーバーのImage Engineでハードサーフェスモデラーとして活躍中の前東勇次氏が登壇。SNSで作品が話題になった3人の若手クリエイターを迎えて、アドビの3Dテクスチャペイントソフトウェア「Substance 3D Painter」の活用法や、クオリティアップのノウハウについて語り合った。
<セッションレポート>
前東氏が若手アーティストのSubstance 3D Painterの使い方に迫る!
多種多様な3人のアーティストの作品を紹介!
セッションに登壇した若手クリエイターは、現役の学生であるデジタルハリウッド大学の野口陽翔さん、HAL大阪の柏木一樹さん、そして2022年4月にクリエイティブアカデミーを卒業したばかりのkaraさんだ。
Substance 3D Painterを知った経緯については、いずれも学校の先輩や友人からの紹介がキッカケだったとコメント。使い始めた数年前は日本語の教材がまだ少なかった時期だが、学校の授業に加えて、公式サイトのチュートリアルを活用しながら学んだと振り返る。柏木さんは「最初の足がかりさえ教えてもらえれば、やりやすいツールだと思います」とSubstance 3D Painterの使用感を語った。
さらに3人とも前東氏のYouTubeチャンネル「HigaCGチャンネル」の解説動画を参考にしていたことがわかると、前東氏が「ありがたいですね」と笑顔を見せる一幕も。そんな和気あいあいとした雰囲気の中でセッションはスタートした。
前東勇次
Image Engine/ハードサーフェスモデラー
2016年に九州デザイナー学院を卒業後、ModelingCafeの福岡支社で3年間背景モデラーとしての実績を積み、2019年にカナダのバンクーバーに移住しフリーランスとして活動。2020年からカナダのトロントに拠点を移しMarzVFXで1年間アセットアーティストとしてハリウッド映画やドラマに携わる。2021年に再びバンクーバーに移り、現在はImage Engineでハードサーフェスモデラーとして活動。これまでに関わった作品は『ファンタスティックビーストとダンブルドアの秘密』(2022)、『ホークアイ』(2021)、STAR WARS『ボバ・フェット』(2021)など
Artstation:www.artstation.com/yujimaehigashi
CGWORLD Online Tutorials:tutorials.cgworld.jp/set/998
YouTube:「HigaCGチャンネル」
今回は若手クリエイターがそれぞれの作品を紹介し、前東氏がアドバイスを送るという流れで進められた。野口さんは愛媛県今治市を流れる金星川の模写作品を公開。CGらしさを消すことを目指した習作であり、参照元の写真と見比べても遜色がない出来に前東氏も驚いた様子だった。また野口さんはSubstance 3D Painterのほかに、スマートフォンで撮影した写真からマテリアルを作成するSubstance 3D Samplerというソフトについても使用していると話した。
野口陽翔
デジタルハリウッド大学4年
MMDがきっかけで高校3年生からCGを始め、主に背景作品を制作。日本のレトロなものが好き。最近はUnreal Engineやレベルデザインを勉強中。
Twitter:twitter.com/noguharu2
ArtStation:artstation.com/noguharu
柏木さんはゲームのコンセプトアートを想定した作品で、反重力によって物体が浮いている塔の内部をイメージした。テクスチャの作り込みよりも作業のスピード感を意識した作品であり、柱や床などに使用した石のマテリアルは2種類のみで制作するなど、作業効率アップのための工夫が凝らされている。
柏木一樹
HAL大阪4年
引きこもりゲーム廃人からどうせ仕事をするならとゲーム業界を志し、2019年にHAL大阪ゲームデザイン学科へ入学。現在4年次在学中。ゲームのチーム制作を通してゲームづくりの楽しさを知り、アートだけでなく最終的には自分でディレクションしたゲームを制作することを目指している。
2023年度から都内のゲーム会社でエンバイロンメントアーティストとして働くことが決定している。
Twiter:twitter.com/kazukikashiwag1
ArtStation:artstation.com/kazukikashiwag1
karaさんは自分が可愛いと思うものを突き詰めた作品を紹介。使用ツールはSubstance 3D PainterとBlenderで、アルファ素材はPhotoshopでつくり、家具のレリーフなどに用いた。前東氏はSubstance 3D Painterはアルファチャンネルを使って色塗りをするのが得意なソフトであり、仕上がりも上手くいっていると感想を伝えた。
kara
クリエイティブアカデミー 2022年4月卒業
元栄養士。新しいことに挑戦してみたいと思い、趣味で始めたゲーム制作をきっかけにCG制作にはまる。 ミニチュアやクラシックな雰囲気、CGごはんが好き。
Twitter:twitter.com/kara_moti7
制作データを公開! 前東氏がフィードバック
続いては実際の作業データを見ながら、どのように制作したのかを解説していった。野口さんのデータは橋のコンクリートの部分で、苔などの汚れをレイヤーで加ええた。コンクリートの凹凸はZBrushで掘り、Substance 3D Painterでベイク処理を施している。
Substance 3D Painterはハイポリのモデルを読み込み、メッシュをノーマルマップとして保持してベイクすることによって、ローポリであってもリッチな質感を実現可能。モデルの角や溝など形状の情報も自動で検出し、それをもとに色を乗せられる点が大きな強みである。
色に関してはレイヤーをベタ塗りで追加した。野口さんは汚れの複雑さを出すために複数のレイヤーを使用しており、前東氏も普段から同じ手法を用いているとコメント。この手法は情報を1つ1つ足していくためレイヤーの数は多くなるものの、頭の中でイメージを整理しながらディテールを足せるメリットがあり、クオリティの高いデータに仕上げることができるそうだ。
レイヤー1つ1つにパラメーターが存在しているのもSubstance 3D Painterの特徴で、メタルやラフなどの情報を細かく調節して質感を表現した。またレイヤーが増えても混乱しないように命名規則がしっかりと守られている点について、前東氏は「僕も忘れがちなのですが、きちんと名前付けをしてレイヤーを管理するのはものすごく大事なんですよ。とても見やすいですね」と感心していた。
色を制御するマスクはSubstance 3D Painter標準のスマートマスクを使用した。前東氏はSubstance 3D Painterの便利ポイントとしてスマートマスクを挙げる。デフォルトでマスクが大量に用意されており、それをドラッグ&ドロップするだけでスポットの調整ができる。Substance 3D Painterのマスクだけで完結する場合も多く、素材を探す手間が省けて時短に繋がることも嬉しいポイントだ。
柏木さんは燭台のデータを紹介。野口さんと同じようにレイヤーでディテールを追加する方法でつくられているが、過去に金属や錆の表現を手がけた経験があったため、今回のレイヤーは以前使用したものをスマートマテリアル化して流用した。そのため作業時間はほとんどかからずに、色などの微調整だけで済んだそうだ。Substance 3D Painterでは自分が手がけた素材などをライブラリ化でき、そのメリットを活かした手法となっている。
前東氏のフィードバックでは、レイヤーを重ねていくと明るくなったり暗くなったりとバラつきが出てしまっているという指摘を受けた。最初は新品の状態をつくり、そこから経年劣化による錆付きや焼き焦げ、さらに外的な要因による傷跡といったように、段階を経て汚しが入るようにした方がスムーズに作業を進められるという。また、クライアントから「この汚れは必要ないから消してほしい」と要求されたときも対応が楽だという、プロならではの考え方にも納得がいくフィードバックだった。
karaさんの家具のデータは2人に比べると汚れは少なく、細かな生活傷を加えた程度。既存のマテリアルを用いており、時短を重視して手がけたものだが、それでも及第点レベルの仕上がりを実現できるのが、Substance 3D Painterの強みである。そこから公式サイトで大理石のマーブル模様などのデータをインポートして、サイズなどの微調整によって味付けを加えた。
前東氏は模様のサイズに注目。メルヘン調の作品であってもリアルなスケール感は大切で、マーブル模様のサイズを変化させるだけでも印象に大きな違いが出てくるとコメント。同じ模様がリピートしているような違和感が少なくなれば、より作品の完成度が高まるとアドバイスを送った。
最後は前東氏が制作した宝箱のデータを公開。テクスチャリングの際に気を付けているのは、単に全体を汚すのではなく、物が置かれている場所や状況を考慮することだと語る。
たとえば人が触ったことで生じる指紋による削れは、多くの人が最初に触るであろう宝箱の中心部にのみ強めに入れている。また宝箱の左右の金属が少し禿げているのは2人で開ける場合は両端を持つことを考えたからだという。宝箱の下部には人の足などが当たったときに削れるため、上部よりも明るくなっている。また宝箱は部屋の壁際に置かれているという設定のため、裏側には日焼けの処理を加えていない。このようにシチュエーションを明確にイメージした上で作品を手がけることの重要性を伝授した。
セッションでは若手クリエイターたちが前東氏に質問する場面もあり、プロから直接指導を受けられる貴重な機会をスキルアップに繋げようとする熱意が伝わってきたほど。Substance 3D Painterを使用して3DCG制作をしたいクリエイター志望者の背中を後押しする充実した60分となった。
<前東氏インタビュー>
セッションを終えて
――セッションお疲れ様でした。出演を終えた感想はいかがですか?
作品のデータまで公開されてしまうのは、クリエイターにとっては非常に恥ずかしいことなんですよ。もしミスをしていたら全員にバレてしまう訳ですから(笑)。そんな勇気の要る企画に若手の皆さんが参加していただけたことがありがたかったですし、作品のレベルが高いことにも驚きました。それはソフトが進化してリアリティのある表現が可能になり、作業スピードも早くなったことが大きいと思います。もちろん個人個人の力も上がっていて、SNSが活発になって上手い人が目立ちやすくなったという状況もあるのでしょうね。
――前東さん自身のSubstance 3D Painterとの出会いはいつ頃だったのでしょうか?
Substance 3D Painterが話題になった2016年頃(当時のソフト名は「Substance Painter」)に使い始めました。ModelingCafeに所属していたときにゲーム案件を受けたのですが、ゲームの場合は制約が多くて、ローポリの軽いデータしか扱えない中でクオリティをどう上げればいいのかが悩みどころだったんです。そのときに先輩が「Painterならハイポリをベイクすればリッチに見せる技術があるよ」と教えてくれて、会社で一気に普及していきました。
その後カナダに拠点を移して、MarzVFXという映像系のスタジオで働きましたが、そこでも社内のテクスチャリングソフトはSubstance 3D Painterでした。海外の場合は日本以上にスタンダードに使われていて、肌感覚ではありますがシェアは8~9割ほどといった印象です。とくにゲーム系のスタジオは大量の素材を用意するためのスピードが何よりも重視されるので、Substance 3D Painterがないと仕事が厳しいレベルだと思います。
ワンクリックで60点が出せるからこそ細部に差が出る
――Substance 3D Painterの魅力はどういったところにありますか?
ソフト内で作業を完結できることが強みですね。優秀なマスクが沢山入っているため、それを削ったり、リピートしたりしながら、汚れ感をゼロから作り上げることができます。そのおかげで素材を探す手間が省けますし、版権の問題も気にしなくて済む。またレンダリングソフトを行き来せずに、マテリアルを適応した前と後でどんな変化があるのか、実際に目で確認しながら作業ができるのも魅力です。
――セッションでは前東さんのYouTubeチャンネル「HigaCGチャンネル」の話題も出ましたね。
3人が僕の解説動画を見てくれていたのは嬉しかったです(笑)。そもそも僕がSubstance 3D Painterの解説をしようと思ったのは、自分が勉強したときに参考にできるものが少なかったからなんです。チュートリアルが難しかったり、英語の解説書しかなかったりする状況のせいで、よくわからないまま感覚で使っている人が多いなと感じていたので、日本語で解説すれば皆さんに見てもらえるのではないかなと。
またSubstance 3D Painterは機能が優秀なので、60点で良ければ誰でもワンクリックで出せてしまうんです。それは当然良いことではあるのですが、逆に言えば60点で満足してしまい、それ以上のクオリティを追求する人が少ないような気がしました。だから今後も「こうすればもっとクオリティを出せるよ」と紹介するような動画を配信していきたいです。
――最後に3DCGプロダクションや海外での就職を目指す学生に向けてのアドバイスをお願いします。
作品を発表するときは1枚絵としての完成度を重視している人が多いと思いますが、仕事になると1つのモデルを納品する、というようなケースも多いため、より1つ1つのクオリティが求められます。そのため「この程度でいいや」という妥協は許されません。Substance 3D Painterの機能を使えば60点程度なら補うことができますが、最終的に100点を目指すのであれば小手先だけではないスキルや思考が必要になってきます。そういった細部に差が出てくるということは日本でも海外でも変わりません。「HigaCGチャンネル」でもいろいろと解説をしているので見ていただければクオリティアップに繋がると思いますね。
――ありがとうございました。
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_柳田晴香(CGWORLD)