3DCGコンテンツの制作を手がけるプロダクションや教育機関にインタビューを実施し、オートデスク製品の導入理由やその魅力を聞く本企画。「教育機関編」となる今回は京都精華大学 マンガ学部アニメーション学科に話を聞いた。時代の変化が著しい昨今、教育の最前線で3DCGについてどのように考えているのだろうか。

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    いずれ3DCGのスキルは「必須技能」となるかもしれない

    あらゆるものがデジタルに置き換わっていく中、生きていく上でテクノロジーを味方に付けることが有利に働くであろうことは間違いない。もとから3DCGはデジタルテクノロジーではあるが、人々の認識と使われ方が大きく変わったことで、今後3DCGは「必須技能」となっていくかもしれない。

    つい数年前までは、3DCGは特殊技能として専門学校などに行き、特別な訓練を受けることが一般的だった。しかし今では早ければ小学生のうちから3DCGソフトに慣れ親しみ、それなりの作品を制作してSNSに投稿するというケースも珍しくない。ツールの進化により扱いやすくなったという側面も大きいが、3DCGを扱うことができる人の母数が増えたことで活用の幅が広がったことも大きく関与している。

    京都精華大学 マンガ学部アニメーション学科アニメーションコース専任准教授の坂本拓馬氏は、「もはや映像制作物で3DCGを使っていない作品はほぼありません。3DCGを習得しているとゲーム・アニメ・映像業界への就職で圧倒的に有利なことは明らかです」と話しており、映像表現の世界に進むにあたり3DCGを身に着けない理由はないという。実際、美大に進学する学生の多くが就職を希望しているという背景を鑑みると、数年後には3DCGの習得は必須になっていてもおかしくないほど重要なスキルの1つだとも話している。「私が就任した7年前と比べると、3DCGを学びたい学生が随分増えましたし、入学した時点ですでに3DCGツールが使える学生もいます。当校ではまだ必修授業にはなっていませんが、3DCGが学べないのであれば美大に進むメリットがないのでは、と思えるほど必須のスキルとなっていくように感じています」(坂本氏)。

    映像制作物のみならず、絵画や彫刻などもSubstance PainterやZBrushなどで制作されている。また、SNSや動画サイトなどへの投稿により名を馳せたクリエイターは多く、そういったデジタル制作物のライセンスを保護する技術も登場した。つまり、デジタルクリエイターが十分に活躍できる土壌が整ってきたということであり、この恩恵を受けるためにも3DCG技術の習得はマストとなってくるというわけだ。

    坂本 拓馬氏/京都精華大学 マンガ学部アニメーション学科アニメーションコース 専任准教授
    CGI監督・演出。2001年スタジオ4℃入社。07年『鉄コン筋クリート』では、第7回映像技術賞、第11回日本映画テレビ技術大賞を受賞。多くのOVA・劇場作品でCGI監督を務める。主な作品に『魔法少女隊アルス』(CGI監督)、『Genius Party・デスティックフォー』(CGI監督)、『ベルセルク・黄金時代篇Ⅰ覇王の卵』、『ベルセルク・黄金時代篇Ⅱドルドレイ攻略』(演出)。2015年から京都精華大学マンガ学部アニメーション学科の教員を務める

    昨今ではBlenderなど無料の3DCGツールの開発が進み、そういったソフトから3DCGの世界に入ってくる人も少なくない。しかし、長く3DCGの世界に携わってきた坂本氏は極めて冷静にこの流行を分析している。「確かにBlenderにもメリットはあるとは思いますが、京都精華大学ではMayaを使ってアニメーションを教えていますし、今後もMayaを使う方針を変える予定はありません。実際の現場でメインツールとして使われているものを学んだ方が良いだろうということに加え、自分でBlenderを触ってみた所感として、アップデートも頻繁で不安定なところもあり、まだまだかゆいところに手が届くツールではないと感じているからです。3DCGツールのこれまでの歴史と共に歩み様々な経験をしてきた身として、現状では世間が騒ぐほど優秀なソフトだとは思えないんです。今後Blenderがどうなっていくのか分からない状態で、流行に安易に飛びつくのはリスクが高いと考えています」(坂本氏)。

    特にゲーム会社では、オープンソースであるBlenderをメインツールにすることは現時点では考えにくく、今後もMayaをベースに制作していくスタイルは変わらないと思われる。こういった事実を考慮した上で、せっかく大学で学ぶのであればゆくゆく仕事に役立つMayaを学んだ方が得策であるとの考えのようだ。

    そんな坂本氏が教鞭を執るマンガ学部アニメーション学科ではどのように3DCGを教えているのだろう。マンガ学部に在籍する学生は1学年あたり約300名。マンガ学科の「ストーリーマンガコース」、「カートゥーンコース」、「新世代マンガコース」、「キャラクターデザインコース」、アニメーション学科の「アニメーションコース」の全5コースがある。日本初のマンガ学部を設立したというだけあり、日本が誇るアニメ・マンガの素養がしっかりと学べるコース展開は圧巻である。

    中でもアニメーションコースは3DCGを採り入れたカリキュラムが比較的多く、「動き」を重視した指導を徹底している。またアニメ制作会社による特別授業などもあり、デジタル作画をプロのアニメーターから学ぶ機会もあるようだ。「私が担当する後期の授業では、リギングや人体構造を意識したアニメーションを採り入れています。デッサンの授業などもあるので、そういった授業と連携しつつ体系的に人体構造や動きを学ぶことができるようになっています。キャラクターのデータだけ配布して各々ボーンを入れてポーズを付けてもらい、一枚の画にして提出するといった課題などもあります。映像作品を作ることを目標に、映像的視点で3DCGを教えているという感じです」(坂本氏)。

    さて、いまだ収束の目処が立たないコロナ禍における授業風景も気になるところだ。大きな変化の真っ只中でどの大学も試行錯誤しているわけだが、とりわけ感覚的な学びを必要とする美術大学ではどのように授業が行われ、どのような課題に向き合っているのだろう。

    「これは全ての実習授業に対して言えることですが、オンラインよりも対面で教えた方が教育的効果が高いのは確かです。必修の授業では70〜80名の生徒が一斉にオンラインで授業を受けるので、そこで手を上げて発言するのは抵抗があるだろうし個別にコミュニケーションが取れないことは深刻な問題です。しかし一方で良い点もあって、授業を録画して後で見直すことができたり、4年生のゼミなどは10人程度の規模ですので逆にコミュニケーションが取りやすく、従来よりも密なやり取りができるようになったという利点があります」(坂本氏)。

    加えて坂本氏は、より現場での仕事に似た雰囲気が習得できるようになったのではないかとも話している。「僕自身、今でも東京の制作会社とオンラインでアニメーションの仕事をしていますが、今では一度も東京に行くことなく納品していたりします。お互いにある程度知っている間柄の場合、オンラインでも全く問題なく仕事ができるんですよね。リモート&オンラインでの仕事の環境とオンライン授業はとてもよく似ているので、学生のうちからこういった制作環境を疑似体験できるのはちょっとしたメリットかもしれません」(坂本氏)。

    ▲学生作品(静止画)/作:トモマツ ケンスケ
    ▲学生作品(動画)/作:リン アンチ

    アニメーションにおいて2Dと3Dの境目がなくなり、2Dと3Dをミックスさせた作品が増えてきた。坂本氏は「とにかく自分が思い描いている映像表現に、何の抵抗もなく思いのままに3DCGが使える人材がどんどん出てくれたら良いですね。全てがデジタルになっていく中、アニメーションの仕事をしていても作画をデジタルで行うのは当然になったので ”デジタル作画” という言葉をあまり聞かなくなってきました。テクノロジーはますます加速していきますし、3DCGが必須スキルとなって当たり前になると、3DCGという言葉自体がなくなるかもしれませんね」と話している。

    これからは「境界線」と呼ばれるものがどんどんなくなっていくだろう。チャンスと可能性をみすみす逃さないためにも、3DCGを習得しておくことは大きなアドバンテージになる。「3DCG業界におけるスタンダード」であるMayaや3ds Maxといったツールは、可能性の扉を開く鍵となってくれるはずだ。

    京都精華大学 マンガ学部アニメーション学科

    TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE