今回紹介するのは強炭酸水「天然水THE STRONG」のプロモーションとして公開された動画『GEKIAWA THE STRONG』のテーマソング『SPLaSh』のMV。強炭酸水「天然水THE STRONG」の新パッケージ発売を記念して制作された作品だ。若手クリエイターのハングリー精神がほとばしる、勢いに満ちた作品に仕上がっている。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 290(2022年10月号)からの転載となります。

記事の目次

    Information

    ARuFa『SPLaSh』MV
    出演&歌・ARuFa/音楽プロデューサー・大木嵩雄(CHOCOLATE)/作詞:ピノキオピー
    ©CHOCOLATE Inc.

    商品の特徴を世界観に入れ込み3DCGならではの表現力で爽快感や躍動感を表現

    想像を超えるクオリティを求めて若手クリエイターを抜擢

    強炭酸水「天然水THE STRONG」を象徴する巨大オブジェクトがそびえ立つ近未来都市を、GEKIAWA BIKEに乗り込んだARuFa氏が駆け抜けていく、爽快感と躍動感があふれるフルCG作品『SPLaSh』MV。「サントリー THE STRONG 天然水スパークリング」のプロモーション第2弾として制作され、第1弾(※下記動画参照)の作品にひき続きCHOCOLATE Inc.(以下、CHOCOLATE)が企画、KASSENが制作を担当した作品である。

    超高密度アニメーション『GEKIAWA THE STRONG』
    (2022年5月2日(月)公開)
    ©CHOCOLATE Inc.

    かっこいいアニメーションを制作できるプロダクションを探していたCHOCOLATEと、数多くのハイセンスなCG制作の実績をもつKASSENは「出会うべくして出会った」とCHOCOLATEのクリエイティブディレクター、栗林和明氏。

    クリエイティブディレクター・栗林和明氏(CHOCOLATE)

    VFXスーパーバイザー&カラコレ・太田貴寛氏(KASSEN)

    本作では、VFXスーパーバイザーを務めるKASSENの太田貴寛氏の意向により、型にはまらない若い人材、wanoco4D氏とYuma Arts氏にCGディレクションとデザインを一任。前作では多数のアーティストによる様々なテイストをひとつにまとめたポップな作品だった。

    CGディレクター・wanoco4D

    CGデザイナー・Yuma Arts

    一方、第2弾の本作では楽曲のフルバージョンを使うこともあり、アーティストの個性を活かしながらひとつの世界観で通すことに決まった。そうした経緯から、前作の資産を活かしながら限られた時間の中で高品質な作品をつくるための最適解を模索。若いBlenderアーティストを軸に制作するという結論が出た。栗林氏は完成後、「こちらで設計図を詰めきってやってもらうよりも、ルールだけを決めてジャンプしてもらうほうが遠くへ飛べて、想像を超えるものがつくれるのだと実感しました」とその手応えを語ってくれた。

    同社とつながりのある多くの若手アーティストの中からこのふたりに白羽の矢が立ったのは、両氏と何度か仕事をしていく中で、彼らならひとつの作品を任せても大丈夫だという信頼が生まれたからだ。「表現からドライに人選したのではなく、このふたりとなら面白いものができそうな気がしたのです」と太田氏。センスと人柄の両面を評価しての人選である。

    Project:限界突破で作品づくりに挑む現役京大院生×現役高校生

    柔軟性とハングリーさを武器に自由な発想で3DCGをつくる

    CGディレクターを務めたwanoco4D氏は、京都大学修士課程で3DCADのジェネレーティブデザインを研究している現役の大学院生。高校1年生当時、ゲームのクリエイティブ機能を楽しんでいたが限界も感じていた同氏。夏休みに親のPCでBlenderに触れて3DCGと出会い、ゲームよりも自由度の高いその世界に魅了された。商業作品でのCGディレクターは本作が初めてである。「この作品は、はじめに頭で思い描いていたよりも良いものになりました。それは自分の限界を超えて成長できたということですから、とても満足しています」(wanoco4D氏)。

    バイクのサーキットやロボットなどのアセットを担当したCG デザイナーのYuma Arts氏はさらに若く、現役の高校生である。3DCGに触れたのはコロナ禍で学校が休みになり、自宅で時間を持て余していた2年ほど前。SNSでCG作品を見かけて、自宅のPCでBlenderを試してみたのがきっかけだ。YouTubeで遊びながら独学で習得し、スクールなどへは通っていない。独学にも関わらず1年少々で仕事にしてしまったという驚きのキャリアである。

    KASSENは普段から若手のクリエイターと共に仕事をすることも多い。若いクリエイターの良さは、新しいツールに対する柔軟性や良い意味でのハングリーさ。そして、将来的な伸びしろにも魅力を感じるという。ただし、太田氏は早熟なタイプがプロとしてのワークフローを知らずに低予算で消費されてしまうことや、程々のレベルで満足してしまうことについては危惧しているという。「KASSENは若い人たちが指数関数的な成長曲線を描いて上達するための後押しがしたいと考えて、彼らと一緒に仕事をしています。彼らが仕事で本領発揮できるように私たちがバランスをとるので、のびのびと作品をつくってもらいたい、そう思っています」と若い人材を起用する理由を語ってくれた。

    想像力を刺激するコンセプトアート

    コンセプトアートと完成カットの比較。太田氏はコンセプトアートの制作時からwanoco4D氏とYuma Arts氏に参加を打診することを決めていた。バイクでサーキットを走るという設定はいわゆる“自主制作界隈”で目にすることも多く、Blenderに向いている。また、疾走するバイクがメインならば、時間のかかるキャラアニメーションも最低限で済む。そのように考えたことが理由だ

    コンセプトアート。クリエイターが想像を膨らませやすいように、モノトーンで描かれている
    完成カットの一例。クリエイターはコンセプトアートを独自に解釈し、世界観を広げて制作した

    3DCG:スピード感と清涼感あふれる描写で近未来都市を疾走する

    Blenderで完結するワークフローで 1.5ヶ月の制作期間をスピード走破

    今回、wanoco4D氏の要望によりほぼ全てをBlenderで制作している。レンダリングにはEeveeを使い時間を圧縮することで、そのぶん作品をブラッシュアップする時間を増やした。本作はコンポジットまでBlenderで完結するワークフローを採用し、レンダリングでの素材分けはない。一般的なCGプロダクションのワークフローに縛られない自由な発想である。

    企画がスタートしてから約2ヶ月で納品するスケジュールで、そのうちCG制作にかける時間は1.5ヶ月ほど。少人数で進めるにはタイトなスケジュールだった。アセットの一部は前作から流用されているものの、これは時短のためではなく世界観を合わせるためである。仕事の打ち合わせは全てオンラインで進められ、一度も対面せずに完成させた。今回はふたりが勢いよく作業を進めたため短期間で制作できたが、太田氏はこのスピード感が常態化してしまうのは危険だとも感じている。「ちょっとやりすぎだからクオリティを下げてとは言えない。今回は楽しんでやってくれているから受け止めていました」。

    初のCGディレクターを務めたwanoco4D氏は、「それまでは自主制作で実験的につくることが多かったので、ひとつのまとまった作品をつくったらどうなるか。自分の力を試してみようという気持ちで臨みました」と参加時の意気込みをふり返った。なお、フィードバックを受けて修正することを念頭に置かずデータを組み上げた部分もあるため、修正対応には苦労したそうだ。

    Yuma Arts氏は前作からひき続きの参加。「前作でコンセプトアートからモデルを起こす際に、こちらの発想を優先して自由にやらせてもらえたのが面白かったので、ひき続き参加させていただきました」。制作中は、チェックのたびにwanoco4D氏のつくる世界が出来上がっていく様子を横から見ているのが楽しかったとのことだ。以下、wanoco4D氏とYuma Arts氏が手がけた部分を中心に、3DCG制作を紹介したい。

    Yuma Arts氏によるアセット制作

    Yuma Arts氏が制作したアセット群の一例で、本人が最も気に入っているというロボット。ハイテクなテイストの内にレトロ感が漂うかわいらしいデザイン
    ディテールまでつくり込まれたゲート。横にあるフェンスの模様は、修正しやすいようシェーダでつくられている。データを共有するため、全般的にわかりやすいデータづくりを心がけたという
    道は直線パーツとしてつくり、ジオメトリノードでカーブに合わせて自由に曲げられるように非破壊でモデリング。これにより、サーキットのルートをアニメーションに合わせて微調整しながら制作できた
    細かいアセットも世界観に合わせてつくり込んだ

    緻密なワールドとダイナミックなコース

    本作で最も難航したというコース決めの工程。曲に合わせてコースを激しく変化させないと画がもたないと考え、戦闘機の軌道を参考に三次元的でダイナミックなレイアウトにした。「コースをつくるコツは、とにかくカメラから見た画でくり返し検証することです」(wanoco4D氏)

    戦闘機の軌道のような立体的なコース。映画『トップガン』で有名になった空戦機動「コブラ」をはじめ、実際の戦闘機が使う機動を参考にしながらコースを構成した。ダイナミックな動きで見飽きることのない画に仕上がっている
    強炭酸水「天然水THE STRONG」を中心に据えたワールド全体のレイアウト。緻密にモデリングされ、どのアングルで見ても強炭酸水「天然水THE STRONG」が魅力的に見えるように考え抜かれている。全体を俯瞰してコースの修正も加えられ、最後まで試行錯誤の連続だった

    先進性を感じさせるARuFa氏のスーツモデル

    ARuFa氏のモデルはwanoco4D氏が以前検証用につくった素体をベースにして制作。デザインは強炭酸水「天然水THE STRONG」のペットボトルの意匠イメージをより強く打ち出したものになっている。カラーリングは新パッケージの黒と赤を基調にしたもので、背面は本作中よく映ることから、「激」の文字が目立つようにデザインした
    • 肩の冷却用ファンはLEDが発光しながら回転するが、この細かい配慮には栗林氏も感動したそうだ
    • カラーランプによる配色。インナーの模様はアナトミーベースのデザイン。筋肉のながれに沿って色が浮き出るシェーダを組み込み、インタラクティブに色を変える。「先進的なスーツをつくるなら解剖学に基づくものになると考えました」(wanoco4D氏)

    商品の造形を反映したサングラスのデザイン

    wanoco4D氏が作中で最も気に入っているというサングラス。モデルとなったARuFa氏の特徴である目隠しラインの印象を残しつつ、ハイテク感のあるデザインとなっている。また、同氏の特徴的な眉毛が見えるようにもしてある
    サングラスの意匠は、強炭酸水「天然水THE STRONG」のペットボトルの造形をモチーフにした多面体のデザイン。モデルとしては、ローポリで面を割るとエッジが形成されるように、ジオメトリノードにモディファイアを組み込んである。これにより、面の割り方をいくつも試しながら、より良いデザインを試行錯誤できた。wanoco4D氏は「商品っぽいアルゴリズムをジオメトリで組み上げました」と語っており、デザインコンセプトをアルゴリズムで考えるあたり、いかにも理系的で新鮮

    本人もこだわった口もとの表情

    かなり再現性が高いARuFa氏の口もと。リグ構造にはBlenderの標準アドオン「Rigify」を使用。シェイプキーを使わずに全てボーンで済ませ、シンプルにまとめている
    完成カットの例。釣り眉で口元は広角を上げて笑うといった、ARuFa氏本人からの詳細なチェックバックが返ってきたという。こだわった甲斐あって、ARuFa氏の特長をしっかり捉えつつ、本作の世界観に合った表情とアニメーションになった

    GEKIAWA BIKEのモデル制作

    本作のもうひとつの主人公、ペットボトルから炭酸を吹き出して走るバイク「GEKIAWA BIKE」。サングラスと同様に製品の意匠をモチーフにしたデザインである。ペットボトルをバイクにするというアイデアについては、太田氏と栗林氏で入念な議論が重ねられた。「商品をバイクにして乗ったのは、炭酸業界初だと思います(笑)」(栗林氏)

    • モディファイア適用前のモデル。スラッとした形状だ
    • エッジを出すモディファイアを適用してペットボトルの意匠を反映したデザイン。モディファイアのため、最終的な形状を探りながら、いつでも形状を変更できるのがポイントだ
    • 飛沫のような模様はプロシージャルのシェーダで作成。UVに頼らず、試行錯誤と修正がしやすい構造
    • 【左画像】のノードの構成

    インスタンスモデルを使ったアニメーション

    制作のゴールはアニメーション。そのため、早期にコース全容を視覚的に把握することを目的に、モデリングとコースレイアウトは並行して進めた。ながれとしては、アニメーションをインスタンスモデルに付けてコースを走るカットをカメラで確認しつつ、ベースモデルに修正を加えてブラッシュアップ。注目すべきはwanoco4D氏がこのフローを独学で見つけ出したこと。太田氏は「これはCG現場ではよくあるフローですが、独学でたどり着いたところにwanoco4D氏の学者肌なところを感じます。彼の大きな魅力です」と語っており、こうしたセンスは抜群だという

    インスタンス(左)とオリジナル(右)
    オリジナルのモデルを編集すると、アニメーションが付いたインスタンスにも修正が反映される

    炭酸水の気泡をイメージした飛沫エフェクト

    都市の上空で弾けている水の飛沫のエフェクトもBlenderのみでつくられている。泡が弾けるタイミングや範囲を曲に合わせるため、パーティクルやシミュレーションは使わず、ジオメトリノードに対して物理法則の数式を入れて調整している

    • 上空の飛沫エフェクトのノード
    • エフェクト素材。大きな飛沫の素材は楕円球の中心にプロシージャルなシェーダを浮かせ、シェーダのアニメーションで動かしている
    水の飛沫素材は上記の【エフェクト素材】に加え、水玉、火花のようなものの計3種類を用意
    完成カットの例。バイクは猛スピードで移動するため、タイミングを合わせるのに苦労したという

    バイクから噴射される飛沫のエフェクト

    • バイク関連の飛沫エフェクトのうち、バイクの軌道に沿って後方に流れる飛沫にはパーティクルを使用。上空の飛沫のようなジオメトリノードの場合、位置の計算を入れると複雑になりすぎるため、パーティクルで表現することにした
    • 噴射口から四方へ流れ出るエフェクトは、メッシュに対してプロシージャルなシェーダアニメーションを付けて表現。メッシュのサイズや角度を調整して変化を出している
    完成カットの例。全編を通して飛沫が飛び散っているだけでなく、そもそも水に対するチェックバックが多かったため、データの軽さが有利に働いた。シミュレーションだけではかなり重いカットになってしまったはずだ

    素材を活かすカラーコレクション

    カラーコレクションは太田氏が担当。wanoco4D氏がBlenderから書き出した連番をFlameで調整している。ナチュラルなトーンで生っぽさを消し、キャリブレーションモニタでどこまで階調を出せるかを検討した。「あまり過度にいじらずに、最後に支えるようなイメージで仕上げています。綺麗なデータがより際立つように、素材を活かした色調整を心がけました」(太田氏)

    • 色調整前
    • 色調整後。潰れがちなところをもち上げ、日差しが当たっている様子を再現しつつ、白い部分をしっかり白く見せるように調整
    • 色調整前
    • 色調整後。発光部分がやや沈んでいたため、発光感を加えて目立つように盛り上げた。また、明滅も足している

    軌道に沿って現れる歌詞の演出

    歌詞がサーキットの軌道に沿って表示される演出。コンセプトアートの時点で盛り込んだ要素だ。文字はKASSENの井上 櫂氏がコース内に文字のモデルデータを配置しwanoco4D氏が仕上げた。文字の動きによってMVらしい体裁となったが、単調にならないように気をつけたとのこと

    Information

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.290(2022年10月号)

    特集:新世代クリエイター
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2022年9月9日

    詳細・ご購入はこちらから

    TEXT_石井勇夫
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada