3DCGコンテンツの制作を手がけるプロダクションや教育機関にインタビューを実施し、オートデスク製品の導入理由やその魅力を聞く本企画。「TV&FILM業界編」でとなる今回は、エヌ・デザインにインタビューを行い制作現場の声を聞いた。時代の変化が著しい昨今、TV&FILM業界におけるVFXの最前線で3DCGはどのように使われているのだろうか。

記事の目次

    CASE01:エヌ・デザイン

    第3のプロマネ「ShotGrid」

    映画やドラマのVFX制作を軸に、遊戯機、ゲームなど幅広く手がけるエヌ・デザイン。実写案件に関してはプリプロ(プリプロダクション)やポスプロ(ポストプロダクション)といった段階から制作に関与することも多く、「世界中の人々に観てもらえる映画制作」を目指してVFXのプロフェッショナル集団として着々と歩みを進めている。もっとも設立当初(2001年)は、「ハリウッド映画に関わること」を目標として掲げていたとのことだが、昨今ではNetflixをはじめ配信メディアの普及により、世界中の人々にコンテンツを届ける手段のバリエーションが豊富だ。そう考えると、この20年で「世界中の人が観る映画=ハリウッド映画」という概念が大きく変わったことを実感する。

    さらに新型コロナウィルス感染拡大による「巣ごもり」により、動画配信サービスの需要が高まった。「ここ数年で徐々に配信メディアに向けた案件が増えはじめていましたが、やはり新型コロナウィルス感染拡大の影響からか、最終的なアウトプットが配信メディアとなる案件が増加傾向にあるのは確かです」。そう話すのは2006年に同社に入社以来、第一線でVFX制作に携わってきたCGディレクターの阪上和也氏だ。劇場・TVに続く新たなメディアが増えたことで、映像制作の需要は当然高まる。また技術の進歩によりナチュラルな3DCG表現が可能になったことで、3DCG・VFXを駆使した映像作品が広く受け入れられるようになったということも、需要増の要因として考えられるだろう。いずれにしても、世界中の人々はますますエンターテインメントを必要としており、新たな映像作品の登場を心待ちにしているということだ。

    【左】阪上和也氏/第一デザイン部部長・CGディレクター、【右】阿部広久氏/管理部

    そんな期待に応えるべく日々映像制作に全力を注ぐ同社。所属する3DCGクリエイターは30名。モデリングチーム、アニメーションチーム、エフェクトチーム、コンポジットチームと各工程でセクションが分かれており、そのほとんどがスペシャリストとして業務に携わっている。メインツールはMaya、エフェクト制作では別のツールが使われているが、必要に応じて3ds MaxやZBrushといったソフトを織り交ぜつつ最終的にはMayaに集約して完成、というのが基本的なフローとのこと。なかでも、実写撮影ならではのMaya活用法が興味深い。



    「実際の撮影をする前に、Mayaを使って撮影のシミュレーションを行います。実際に撮影した際の見映えを監督やカメラマンと共有するための工程です」(阪上氏)。これはいわゆる「プレビズ(プレ・ビジュアライゼーション)」という工程で、ジオラマのように3DCGでバーチャルな模型を作り、その中でロケハンやカメラテストが行われる。「例えば、大きさが40メートルのロボットなんて実際には存在しないし、肉眼で観ることなんてできませんよね。そこでMayaの出番です。3DCGのセットの中で40mのロボットのCGモデルを動かして、カメラから50メートル離れていたらこういう見映えになる……と、実写さながらの状態を3DCGで再現するわけです」(阪上氏)。



    プレビズでは緻密な3DCGモデルを使うのではなく、イメージ共有ができるレベルの簡単なグレーモデルが使われることが多い。まず、演出の確認をとりながら実際の現場でシミュレーションに合わせた素材を撮し、次に現場で計測したデータを基に同様のシチュエーションをMayaで制作。3DCGで制作された実寸大のジオラマの中でテスト撮影をするといった具合だ。さらに、キャラクターを配置することもライティングを施すこともできるため、キャストの都合や天候、太陽の位置すらシミュレーションすることが可能となる。阪上氏は「Mayaは総合的に何でも出来る万能ツール」だと話しており、撮影前のプリプロダクションから関わることが多い実写撮影の現場では、3DCGは効率の良い制作をする上で欠かせない存在となっているという。

    Mayaはエヌ・デザインのメインツール。同社では新人教育にも力を入れていて、Mayaのほか、社内ツールやワークフローの理解のための研修が充実している

    Mayaの他にも、大規模案件においてなくてはならないツールがあると管理部の阿部広久氏は話す。「ShotGridがなくなったら、プロダクションマネージャーはすごく大変な思いをするはずです」と苦笑する阿部氏。大規模案件では制作の工程が複雑で関わるスタッフの数も多く、スタッフの入れ替わりや引き継ぎ、業務連絡などが頻繁に行われるからである。そうなると重要になってくるのは「データの管理」と「アセットのライブラリ化」だ。

    「Mayaやほかのツールで制作したアセットやショットのバージョンがきちんとリスト化・管理されることで、最新の画がどれなのか、どのデータを使えば良いかが一目瞭然になります。また、レビュー済みのアセットはそのままライブラリに登録されるので、自分が担当しているショットにそれらアセットを持ってくることができます。制作したものを無駄にすることなくシェアできるのは、3DCGの大きなメリットですよね」(阪上氏)。

    ShotGridは、タスク管理、具体的なフィードバック対応といった案件管理の用途のほかにも、自社ツールと連動させて工数管理をしたり、各種リストやマニュアルをShotGrid上で一元管理し、社内のコミュケーションツールとして使用しているという

    モデルのアセット、エフェクトのアセット、アニメーションのアセットなどをShotGridで管理しライブラリ化することによって、例えば、熟練度の高いスタッフが作ったアセットを新人スタッフが扱うといった場合でも、クオリティを高く保ったまま制作が進められるというわけだ。さらに、データを格納している場所やデータ名が「制作した本人にしかわからない/本人すらわからない」という状態では、データ共有や引き継ぎといった場面でトラブルが生じてしまう。阿部氏は「ShotGridで管理するようになって以来、シーンデータやパスなどの命名規則が厳格化されていくようになりました」と話しており、阪上氏は「特に大規模案件でShotGridの真価が発揮される印象があります。ShotGridは第3のプロマネといった感じですね」と評価している。

    感性が優位になる「クリエイティビティ」と合理性が求められる「整理整頓・報告」はなかなか両立しづらい……というのは筆者の偏見だろうか。とにかく、クリエイターが「作り出すこと」に意識が集中するのは当然だ。そんな彼らのクリエイティビティを損なうことなく、面倒な業務を快適にサポートしてくれるのがShotGridなのである。

    また阿部氏は、管理・人事の視点からShotGridについて次のように語っている。「専門学校や大学でMayaの勉強をすることは、我々現場のスタッフとの共通言語を習得するということです。同じように、学生のうちからShotGridを使った進行管理業務に慣れておくと、入社後にパニックに陥らずスムーズなスタートが切れるかと思います。ぜひ、教育を通して学生の皆さんにもShotGridに触れていただきたいですね」(阿部氏)。阿部氏が話すように、卒業制作やグループ制作、課題の提出といった場面でShotGridは大いに役立つだろう。制作を通して進行管理の基本を学ぶことで制作全体の流れを体系的に理解し、映像制作のルールと作法を習得することができるはずだ。

    このように制作とは切っても切れない関係にある進行管理だが、メリットは理解しつつもなかなか導入に踏み切れないものだ。そこで、同社がShotGridを導入するに至った経緯について聞いてみよう。阪上氏は「10年前をふり返るとマネジメントソフト自体存在しておらず、人と人とのコミュニケーションとExcelだけで進行管理を行なっていました。ちょうど我々が『20世紀少年』(2008)や『GOEMON』(2009)の制作を終えた頃、”制作にはパイプラインが必要だ” という話をしていたのを覚えています」とふり返る。そこからサーバ内のフォルダ構造をはじめ制作フローの全てを再構築するなど、パイプライン構築に力を入れはじめたという。とはいえリスト化および管理は相変わらずExcelのままである。映画制作の進行管理としてExcelは使い勝手が悪く、内製の「ショット管理ツール」で対処していたそうだ。

    「そんなとき、『ShotGun(現:ShotGrid)』を導入してみようという話が社内で持ち上がりました。名前だけは聞いたことがあったのですが、進行管理ツールと聞くと何となくハードルが高いように感じ、なかなか手が出なかったんですよね。進行管理についていろいろと試行錯誤しましたが、一度試しに使ってみようかということになりました」(阪上氏)。その後、社内での地道な研究とカスタマイズを重ねつつ、大規模案件におけるShotGridでの管理体制を徐々に整えていき、今や同社の制作において「なくてはならないツール」となった。「よりたくさんの人に観てもらえる映像を提供していきたいですね。毎回面白い案件に携わることができ、その度に新たな挑戦をさせていただいています。こうやって映像作品を作っていけることは、とても幸せなことだと思っています」(阪上氏)。

    かつて映画制作には莫大な資金と機材が必要だった。しかし昨今では、iPhoneを使って映画を制作する監督も珍しくない。iPhoneを片手に、日本国内だけでなく世界に向けて配信することができる環境があり、その気になれば誰だって映像作品を作ることができる時代だ。3DCGも同様で、Mayaや3ds Maxといったクリエイティブツールに加えShotGridなどの制作をサポートするツールのおかげで、より快適で正確な制作が可能となった。チュートリアルやセミナー、サポート等も充実しており、テクニック習得までのハードルも随分と低くなったように思う。Autodeskでは日本語版のチュートリアルを豊富に用意しているので、「ハードルの高さを感じる」「どうしても解決できない問題がある」と悩んでいる方はぜひチェックしてほしい。新たな発見がきっとあるはずだ。

    エヌ・デザイン

    www.ndesign.co.jp

    TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE