2022年10月25日(火)〜26日(水)の2日間にわたり、Unityユーザーのためのテクニカルな講演が一堂に会する大規模カンファレンス「SYNC 2022」がオンラインおよびサテライト会場で開催された。本稿では、株式会社Psychic VR Labによるセッション「リアルメタバース社会実装の今」についてレポートする。

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    イベント概要

    SYNC 2022

    開催日時:2022年10月25日(火)~26日(水)10:00~22:00(予定)
    開催形式:オンライン(事前登録制)
    events.unity3d.jp/sync

    AR/VRコンテンツを制作、配信できるプラットフォーム「STYLY」

    本セッションで登壇したのは、Psychic VR Labの野村つよし氏と岡村綾子氏。野村氏はAR/VRコンテンツを制作、配信できるプラットフォーム「STYLY(スタイリー)」のプロダクションマネージャー、岡村氏はグローバルマーケティングを担当している。2人によるクロストークのかたちでセッションが進められた。

    STYLYとはプラットフォーム全体の名称。制作ツールとして「STYLY Studio」があり、高度なプログラミングスキルがなくてもXRコンテンツを制作できる。より複雑なインタラクションが必要な場合は、UnityのPlayMakerの利用も可能。作ったコンテンツを配信したり体験したりするアプリは、プラットフォームと同名の「STYLY」となっている。

    ▲STYLY Studioの操作画面。用意された3Dオブジェクトをジャンルごとに選択できる
    ▲選択した3Dオブジェクトはワンクリックで簡単に配置できる。回転、拡大縮小、移動もドラッグ操作で可能
    ▲空や床面のオブジェクトも用意されている。さらにアニメーションやインタラクションを追加するModifier、3Dオブジェクトの見た目を変えるStyle change、空の部分にのみARを表示するLightship ARDKなどの機能がある
    ▲PlayMakerを使うと、STYLYでも動作する複雑な3DオブジェクトをUnityで制作できる

    NFT NYC 2022の実証実験で得られたこと

    Psychic VR Labでは、現実とバーチャルが重なり合う「3D空間を身にまとって暮らす時代」に向けての社会実装を日々実験、検証している。どのようなバランスなら安全、快適、便利なのか。まだ誰も正解を知らない状況なので、STYLYを使いながら仮説の可視化を繰り返している。

    ▲STYLYによって実現される世界のイメージ動画。情報のビジュアライズだけでなく、人流・交通データなどの都市データと連携することで、人々の回遊施策などでも利用が可能だ

    その実証実験として、Psychic VR LabはNFT NYC 2022というイベントに参加した。このイベントで「都市連動型AR NFTアート展」と題し、7人の日本人アーティストのXRアートをニューヨークのタイムズスクエアで展示。実際にSTYLYを使って行われた実証実験の様子が動画で紹介された。

    NFT NYC 2022を紹介する動画。展示されたXRアートはそれぞれNFTで購入が可能

    NFT NYCで得た経験は、4つのテーマにまとめられた。まず1点目のテーマはアートについて。日本の伝統的なアートと現代アートやポップカルチャーを融合した作品は、ニューヨークという街とXRアートのアイデンティティを高め合った。既知の場所ならばデジタル空間を使って何ができるのか、逆に今まで価値を感じなかった場所に新しい価値をどのように生み出せるのか。街中においてXRアートを展開することで生まれる表現は、いくらでも考えられる。

    ▲日本人アーティスト3人による「Japan Traditional XR NFT ART」と題された展示。武将を描いた墨絵、ストリートアートを彷彿させるような浮世絵、ポップカルチャー要素が感じられる立体の能面がタイムズスクエアをジャックした
    ▲ソフトビニール製のオブジェや人形作家である中野健太氏の作品。巨大なモデルは空間性や自然的な驚異も感じられるよう、事前にアーティストにも説明しつつ適切な3Dモデルを選んでもらったとのこと
    ▲実際の建物に投影されている映像が拡張するという作品

    2つ目のテーマは運用。グローバルマーケティングを担当する岡村氏は実際に現地に赴いて集客から展示まで担当したが、その様子が詳細に語られた。指定時間に集中的に人を集めたかったので、Psychic VR Labでは体験会ツアーを組んだ。それ以外に人を集めるために、あえて路上でヘッドマウントディスプレイを装着してもらうなど目を引くことを繰り返した。そうすることで、今までアプローチできなかった層の人にも体験してもらえたとのこと。

    ▲実際のニューヨークでの様子。右下段の写真は街中でパネルを持って集客しているところ。屋外でのXRイベントは前例が少ないので、大人数を集めて体験してもらうためには試行錯誤が多かったという

    3つ目のテーマは技術。STYLYに搭載されたVPS「Immersal」を利用してマップデータを制作したことで、街にかざすだけで自己位置を特定できるようになった。さらに、イベントの1ヶ月前に渡米して時間や場所、見え方など、現地でしか知り得ない情報を確認。各アーティストにはUnityのテンプレートパッケージを渡し、インタラクションを追加してプレハブをSTYLYにアップロードすることで、引き続きSTYLY Studioで編集ができるという形をとった。

    ▲Immersalを使うことで、マーカー認識や平面推定に比べると格段にマップデータを作りやすくなったが、屋外のXR作品において技術以上に重要なことは現場での事前準備だという

    最後、4つ目のテーマはビジネス。XR表現を得たことによって、街という空間でできることが格段に増える。今までリーチできなかった層にも届き、気軽に誰でもアートに参加できるカルチャーが生まれる。例えば、現実だけでは不動産オーナーに場所や建物を借りて街頭広告を出すことしかできなかったが、デジタル空間ならば幾重にもレイヤーを重ねることで、場所を提供する人と一緒に新しい価値を見出すことも可能になる。

    アート、運用、技術、ビジネスという4つのテーマは、どれか1つ足りなくても成立しない。「これらを同時にやりながら、作る側と使う側がXRアートを受け止めていける文化を作っていくことが大切」と野村氏は語った。最後に、その未来を実現するための取り組みが紹介された。

    STYLYのコミュニティが作る未来像

    Psychic VR Labでは、XR作品を作る感度の高いアーティスト向けのコミュニティづくりを始めた。それがNEWVIEW(ニュービュー)というプロジェクトだ。XR表現をコンテンツに落とし込める人を増やすことを目的としている。

    さらに、「体験デザイン」としての総合芸術=XRを学ぶ学校としてNEWVIEW SCHOOLを東京のほかにも台北、ニューヨーク、ロンドン、トロントで開校。入門編からしっかりカリキュラムが準備されているので、着実にスキルアップできるようなプログラムになっている。

    ビジネスパーソン向けには、NEWVIEW BIZというコミュニティも用意されている。XRをビジネスで活用したい人向けに事例の裏側の話や最新の業界動向などの情報提供、ビジネスマッチングなど様々な活動を展開していくという。それぞれ興味がある人は、ぜひ問い合わせていただきたい。

    ▲STYLYを用いた新しい表現の学校、NEWVIEW SCHOOL。オンラインでも学ぶことができる

    TEXT&EDIT_園田省吾(AIRE Design)