ロボレース物の自主制作アニメ『MOTORED APES(モータードエイプス)』の制作を続けている綿製タオル氏を取材。“ロボット愛”にあふれるタオル氏がつくり出すオリジナルロボたちの姿は愛嬌がありつつも、リアルさも兼ね備えており、見ているうちに作品の世界観に引き込まれてしまう。今回はそんなタオル氏の人となりを伺うミニインタビューと作品のメイキングをお届けする。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 294(2023年2月号)からの転載となります。

    Information

    自主制作アニメ『MOTORED APES』
    現在、第1話をYouTube、Twitterなどで公開中。
    ©綿製タオル

    <1>ミニインタビュー:ロボット愛にあふれる綿製タオル氏にモチベーションの源泉を聞く

    CGWORLD(以下、CGW):本作は自主制作の3Dアニメということですが、3DCGに興味をもったきっかけは何でしたか?


    綿製タオル氏(以下、タオル):子どもの頃に『ギャラクシアン3』(※1)というアトラクションをプレイして、その立体的な空間表現にすごく驚いたんですよね。

    ※1『ギャラクシアン3』……ナムコ(現バンダイナムコアミューズメント)が開発したテーマパーク向けアトラクション

    綿製タオル氏

    2014年春より、ロボレース物の自主制作アニメ『MOTORED APES』(旧名「エンスージアスト!」)を制作。全6話構成のうち、現在、第1話を公開。第2話以降を制作中。アニメ製作プロジェクト「僕たちの見たいメカアニメをつくろう製作委員会」『エンスージアスト!』決勝進出(2015)、「本気のクリエイター発掘大作戦」第1回(2018)、および第2回(2021)オリジナルロボ「ノーティフロッグ」決勝進出、ほか。
    Twitter:@towel_roborevo

    CGW:そこから3DCGを始めたのでしょうか?

    タオル:いえ、つくり始めたのは19~20歳頃からですね。ふと深夜テレビを見ていたら、『PROJECT-WIVERN』(※2)がながれていて。見ていたら最後に個人制作だというテロップが入っていて、「こんな作品が個人でできるんだ!」と感動しました。それからです、自分もつくりたいって考え始めたのは。

    当時3DCGソフトはかなり高価で手が届かなかったんですが、ちょうどその頃手に取りやすい価格の「iShade」(Shade3Dの機能厳選版)が発売されたので、それを買って始めました。

    ※2『PROJECT-WIVERN』……1997年、青山敏之氏と北田清延氏が共同で制作した3DCG映像作品(www.project-wivern.com

    CGW:メカに興味をもったきっかけは何でしたか?

    タオル:それはもちろん『機動戦士ガンダム』です! といっても、アニメではなくてガンプラにハマっていました。その後で、リアル志向のミリタリックなメカにも興味をもって、『フロントミッション』(※3)や『ガングリフォン』シリーズ(※4)といったゲームから大きく影響を受けました。そういうゲームがつくりたいと思って、『フロントミッション』シリーズをつくっていたスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)に入って4~5年間、モデラーをやっていました。

    ※3『フロントミッション』……1995~2005年にかけてスクウェア(現スクウェア・エニックス)が発売したコンソールゲームシリーズのシミュレーションRPG

    ※4『ガングリフォン』……1996年、ゲームアーツが開発した3Dシューティングゲーム

    CGW:その後、おもちゃ業界へと転職されたんですね。

    タオル:そうです。スクエニにいた頃はガンプラやプラモが好きな人が周りに多くて、先輩からプラモのつくり方を教えてもらったりもしていました。そのうち「おもちゃって面白そうだな」と考え始めて、現職のおもちゃ制作会社に行くことにしました。

    CGW:本当にメカがお好きなんですね。最初に自主制作の作品づくりを始めたのはいつ頃ですか?

    タオル:2014年頃です。『MOTORED APES』の原型になったレース系ロボアニメをつくり始めました。

    CGW:レース系のロボにしたのはなぜでしょうか?

    タオル:戦闘ロボットものだったら山ほどあるので、「自分でつくらんでええやん」と考えていて。すごい人たちがつくった作品を見ていれば満足なんですよ。だからそことはちがうものをつくりたい。『頭文字D』が大好きなんですけど、当時ミニ四駆や『ミラーズエッジ』シリーズ(※5)というパルクールのゲームにもハマっていたんです。だからその頃、『頭文字D』のレース要素、ミニ四駆のカスタム要素、『ミラーズエッジ』のパルクール要素を全部混ぜたロボット作品、そういうのができたら面白いなと思いながら描いた、1枚の落描きがきっかけになりました。『機動警察パトレイバー』も好きで、現代日本を舞台にしている点では共通しているかもしれないです。

    ※5『ミラーズエッジ』……2008年、エレクトロニック・アーツが発売したアクションゲーム


    CGW:なるほど。それにしても、これまで8年間にわたってつくり続けているのは、すごいモチベーションですね。

    タオル:映像作品をつくったことがなかったので、学ばなければいけないことがたくさんあって飽きないですよ。監督や演出もそうですし、モーションを付けるという意味では役者的な側面もあって面白いです! 単純に手が遅いとか、時間がとれないからかもしれませんけど(笑)。平日は仕事から帰ってきて、家族に迷惑をかけない時間内でやるという感じなので、「10分できれば良し」という日が多いです。

    CGW:わからないことが多かったり、まとまった時間がとれないことで挫折してしまう方も少なくないと思いますが、コツコツ続けられる秘訣はありますか?

    タオル:やっぱり「ロボットが好き」というのが大きいですね。それにたとえ1日10分でも、積み重ねたら1週間で1時間以上になります。ちょっとずつでも進んでいけば、後ろを振り返ったときには結構な距離になるものです。これが体感としてあるので続けられているのかもしれないですね。

    CGW:なるほど、タオルさんのメカ愛が伝わってきます。ただ、これだけ制作期間が長くなると、飽きてしまったりしませんか?

    タオル:確かに、作品をつくり始めてから自分でどんどんハードルを上げてしまって、最終的に飽きて止めるというパターンは、自主制作の失敗例として多いと思います。でも僕の場合は「これでええやん」って妥協できるんです。その妥協点がすごく低いという(笑)

    CGW:「これでええやん」の精神は大切かもしれないですね(笑)。3DCGの知識は基本的に独学でしょうか?

    タオル:最初は独学でしたが、スクエニ時代に教えてもらった知識もあります。人物キャラクター制作の基礎を学んだ感じです。Blenderを触り始めたのは2014~15年からですが、教本を買って独学でやっています。

    CGW:タオルさんのようにBlenderを使用しているクリエイターやこれから自主制作を始めたいと考えている方にアドバイスをお願いします。

    タオル:正直、勉強しようと思うと続かないので、とにかくつくりたいものをつくったら良いと思います。それから、周囲やネットで嫌なことを言われることもあるかと思いますが、気にしないことです。自分が面白いと思うことを突き詰めていったら面白いものになりますし、そういうものは必ず誰かに面白いって思ってもらえます。自分を信じてつくり続けてください!

    CGW:最後に『MOTORED APES』の今後はどうなるのか教えてください。

    タオル:全6話は絶対に完成させたいと思っています。20年くらいかかると思うんですけど……(笑)。でも、現時点でプロットは全てできていますし、第2話のカットもだいぶ進んできているので、気長に待ってもらえたらと思います。

    <2>メイキング:リアリティを追究した世界観設定とメカデザイン

    本作で目指したのは「こういうロボットがいてほしいという憧れ」と「本当にいるかもしれないというリアリティ」を視聴者に感じてもらうこと。現代の日本にありそうなメカをデザインするため、面と線のながれを意識した。「流線型の中に突然四角いブロックみたいな箇所が出てきたら、なんだか唐突な印象を受けてしまいます。本物の自動車のデザインを見てみても、線が嫌なぶつかり方をしているものはありません」とタオル氏。一方で、特徴となるバイクシート部分にはあえて機械らしさを演出し、デザインの取っ掛かりにしている。その上で動かすことを前提としたデザインになっており、膝や足の付け根などの関節部も布製という設定である。モデリングには約1ヶ月をかけ、スクエニ時代の経験を活かした、取り回しやすいローポリモデルを作成した。デザインの甲斐あって、アニメーションさせてもめり込みづらいモデルになったという。

    テクスチャについては、ビジュアル面と制作カロリー面を両立させるため、手描きの風合いを出すことにした。水彩独自のぼやけたタッチや筆目を出すため、SAIを中心に使って描き上げている。

    ブラッシュアップを経て完成したメカデザイン

    機体名「ノーティーフロッグ」のデザインの変遷

    • 最初のラフデザイン。タオル氏が大好きだという自動車「トヨタ アクア」をイメージしてデザインした。足の裏にはウィールが付いており、舗装道路ではインラインスケートのように走行する
    • 改良したラフデザイン。【左画像】のデザインにカエルっぽい可愛らしさをプラスした。肩の丸みはカエルの頬をイメージしている
    現在のデザイン。コンテストの企画などを経て、さらにスポーティにリデザインした
    ビジュアルイメージ。日常的な軽トラックと非日常的なメカが共存するという、本作独特の雰囲気が伝わる
    『MOTORED APES』の前身『エンスージアスト!』のビジュアルイメージ

    序盤シーンの絵コンテ

    絵コンテは、タイムは省略されているものの、シーンやカット、画面、カット説明がひと通り書かれた一般的な形式のもの。カット制作までのながれは、まず脚本から必要なオブジェクトを割り出して制作し、背景のロケーションを構築する。そこにカメラを置いて良い画角を探りながらレイアウトを検討し、決定したレイアウトから図の絵コンテを作成し、カット制作に入る。第1話は2014年から始めて4年後の2018年に完成しているが、ゼロからアニメーションを学び始めた勉強時間が含まれているため、実際の脚本から完成までは2年程度

    メカのモデリングとテクスチャ制作

    ノーティーフロッグのモデルは、ひとりで制作していることやPCのマシンスペックを考慮して、基本的にはローポリモデルで制作。アップのカットなど、ローポリモデルは対応できない場合に、サブディビジョンサーフェスモディファイアでポリゴンを細分化する

    • ローポリモデルのシェーディング
    • ハイポリモデルのシェーディング
    • ローポリモデルのワイヤーフレーム
    • ハイポリモデルのワイヤーフレーム
    テクスチャ。メインツールはSAIで、色分けにはPhotoshopを使用している。アウトラインはFreestyleによるポストプロセス(Blender 2.79)で描画しているが、テクスチャ上にはラインも描き込んでいる。バイナルグラフィックス(ロゴなど、メカ筐体に施されるデザイン的装飾)は綺麗なラインを出すため、Illustratorで描画した

    コックピットとライダーのモデリング

    小型メカが好きだというタオル氏は、本作のメカも小型サイズでデザインしたが、そこで問題となったのがコックピット。定番はサンライズのモータースポーツアニメ『DEAD HEAT』に登場する「FX」のように剥き出し状態で上に乗るタイプや、アニメ『コードギアス』シリーズのようにコックピットを背負うタイプなどだろう。しかし本作では、既存のメカ作品とはちがう新しいかたちを追求した。ビジュアルの面白さと乗り込みスペース確保の両立を模索した結果、ロボットの背面にバイクシートが突っ込んだような、斬新なスタイルが生み出された

    全身のモデル
    手元のモデル。手元はアップのカットが多いと予想していたため、最初からメッシュを細かくしておいた

    シンプルなリグ

    ノーティーフロッグとライダーのリギング。セットアップはシンプルだ

    ボーン構造。腕と脚にはIKを設定し、腕と足のターゲットに加えて、肘と膝が開くようにターゲットを設定している
    • コックピットとライダー。ライダーはハンドル操作があるため指の骨まで設定してある。ライダーは別のモデルも用意してあり、指の握りはシェイプキーで制御
    • バイクシートを動かした状態
    チャイルドコンストレイントの設定。ライダーのアーマチュアオブジェクトをノーティーフロッグのバイクシートのボーンに結びつけている。ライダーはバイクシートの動きに追従して動く

    <3>メイキング:Blenderだけでつくり上げる小気味良いアニメーション

    本作ではしっかりと世界観を理解してもらうため、「意図が伝わりやすいカットづくり」と「起承転結」を意識した。例えば、メカが鉄塔の土台をパルクールで登っていくシーン。ねらいは人型メカと一般的な自動車との挙動のちがいを見せることである。ただ走るだけならば人型である必要はない。その問いに対して、「このメカはクルマにはできない挙動ができ、高い走破性を実現している」という根拠を、映像を通して示している。また、見下ろすメカと見上げるクルマという構図のカットを入れることで、上位と下位の関係性を描くというねらいもある。

    ひとつひとつの練り込まれたカットの中で、視覚的な盛り上がりを担っているのがモーショングラフィックス。メカが着地する際に「ズバ‼」というマンガの擬音のようなエフェクトや集中線が3D空間に浮かぶ様子はインパクト十分である。こうしたモーショングラフィックスを含め、本作のアニメーションはBlenderだけで完結している。After Effectsなどを使っても同様の表現はできるが、全てのタイミングをBlender上で確認しながら気持ちの良い映像をつくるため、あえてBlenderで完結させているとのことだ。

    マンガの擬音「ズバ‼」はブーリアンで表現

    メカの着地に合わせて地面からマンガ的擬音文字が出現するエフェクトの制作のながれ

    • 用意するのは、少しだけ厚みを付けた板状のオブジェクトと擬音のテクスチャ。少し厚みを付ける理由は、板ポリゴンではブーリアンが上手く作動しないためだ
    • 板状オブジェクトに擬音のテクスチャを貼り込んだ状態
    • ブーリアンで削るためのオブジェクト(黄緑色)を用意
    • 完成したエフェクト
    ブーリアンの設定。【板状オブジェクトに擬音のテクスチャを貼り込んだ状態】に対してブーリアンのモディファイアを適用する。「Operation」を「Difference(差分)」に、「Object」に黄緑色のオブジェクトを設定。オブジェクトに重なった部分から文字が削られていく
    本編完成カット。マンガの集中線を使って衝撃を表すエフェクトも追加してあるが、これはテクスチャを貼り付けた板ポリゴンをアニメーションでスケーリングしたものだ

    テールランプの光跡もブーリアンで表現

    視聴者からも反響があったという、軽トラックのテールランプ光の残像表現。まず軽トラのアニメーションを作成して、軽トラの動きに合わせてテールランプの軌跡となるオブジェクトを作成する。次に、軽トラのリア部分に追従する大きめの板状オブジェクトを作成してアニメーションさせる。その後、テールランプのオブジェクトに対してブーリアン モディファイアを適用し、「Operation」を「Intersect(交差)」にする。これによって板と軌跡が重なった部分だけが残り、テールランプの光跡のように見えるというしくみだ

    ブーリアン設定前の状態
    ブーリアン設定後の状態
    完成エフェクト
    軌跡のオブジェクトのブーリアン設定。「Object」には板状オブジェクトを指定する
    本編完成カット

    <4>TIPS:ロボットのモーションを自然に見せるコツ

    最後にタオル氏が主にモブキャラクターなどに使用している、ロボットらしい動きの付け方を特別に紹介してもらった。下記の手法は機械的な作業だけで、ある程度自然なモーションをつくることができ、作業の効率化につながるという。

    • 二足歩行するロボット
    • 脚のアップ
    ウォークサイクルのキーフレームを打つ
    • 左足(Foot.L)と右足(Foot.R)のキーフレームを選択
    • 【左画像】のキーフレームを1フレーム後ろにずらす
    • 腕のターゲット(ArmTarget.L、ArmTarget.R)とつま先(Toe.L、Toe.R)を選択
    • 【左画像】のキーフレームを2フレーム後ろにずらす。全体のモーションに対して、腕やつま先などが少し遅れて追従するかたちになり、自然な挙動に見える。フレームをずらす幅を大きくすれば、さらにヌルヌルとした生っぽい動きになる
    フレームずらし前
    フレームずらし後

    月刊CGWORLD + digital video vol.294(2023年2月号)

    特集:映画『すずめの戸締まり』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年1月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_野澤 彗
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/ Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada