ヒーロー界の巨星「ウルトラマン」の新しいかたちを描いたアニメ『ULTRAMAN』。2019年に配信されたシーズン1では、父から子へウルトラマンの力を継承するように次世代のヒーローとしての姿を再構築してみせた。
そして、その続編となるシーズン2が2020年4月からNetflixにて全世界独占配信中だ。制作はひき続き、SOLA DIGITAL ARTS(以下、SOLA)。前シーズンからさらにパワーアップしたウルトラマンたちの活躍を堪能できる作品に仕上がっている。
エンターテインメント性を追求したアクションに注目
前シーズンとの大きなちがいは、「シリーズ監督」という新ポジションを設置したこと。神山健治監督と荒牧伸志監督の下、実制作の現場で指揮を執る大役を任されたのは、今作が初監督作品となる内山寛基監督だ。内山監督はシーズン1ではレイアウターとして参加していたが、今回シリーズ監督に抜擢されたのは、シーズン1での内山監督のレイアウトが、神山監督と荒牧監督に認められたためだ。
SOLAでは『ULTRAMAN』をはじめ、モーションキャプチャを活用した作品制作を中心に据えてきたが、そうした作品には「絵コンテ通りにレイアウトを切れない」という特徴がある。アクターの生の演技を収録していくため、ながれの中で立ち位置や動きが絵コンテとは異なる場面がしばしば発生してしまうのだ。
SOLAのレイアウターには、そうした演出面を自分で考え、画をつくる能力が求められる。「予定とちがう演技は後々良いスパイスにもなります。だから無理やり絵コンテ通りにするのではなくて、絵コンテの意図を汲み取りつつ、アクターさんの演技を活かすようなカメラ割りを考えていくのです」と内山監督。
全6話と短いシーズン2だが、内山監督のウルトラマン愛にあふれた熱量高い画づくりに注目して観てほしい。
<1>ウルトラマン愛にあふれた多彩なアクションカット
シーズン2は当初から全6話構成と決まっていたが、その短い話数の中で新たなウルトラマンを3体登場させる必要があった。そうした事情から、作品の舵の取り方も前シーズンとは少し異なっている。
前シーズンから続く物語の屋台骨はそのまま継承しつつも、モーションキャプチャの持ち味を活かすアクションをしっかりと見せて、エンターテインメント作品としての側面を強く押し出す方針が採られている。
肝となるアクションシーンの制作を紐解くにあたっては、内山監督が制作した第2話の「炎状態のタロウとジャックのバトル」がその指標となる。やりたい要素を詰め込んだ、内山監督お気に入りのアクションシーンだ。
「指標をつくったあとは基本的に、殺陣はアクションアクターさん、レイアウトはレイアウターさんに任せていましたが、皆さんすごく良いものを仕上げてくれたので感謝しています。僕自身、オリジナルのウルトラマンが大好きでその愛を爆発させて監督をしたので、ぜひ本作のウルトラマンたちの活躍を観ていただけたら嬉しいです」と内山監督。
以下、特徴的なシーンの制作をいくつか紹介したい。
カット制作のながれ
内山監督の思い入れが強いというワドラン星人たちのシーンを例に、カット制作のながれを紹介する。
格闘技やカンフーを取り入れたキャラクターの個性が光るアクションシーン
内山監督がこだわり抜いたアクションシーン。各ウルトラマンのアクションはキャラクターに合わせて動き方を変えているという。例えば、本シーズンから登場するジャックはMMA(総合格闘技)をベースに動きを構築。打撃だけでなく、投げ技や寝技といった幅広い攻撃を披露する。
また、同じく本シーズンから登場のタロウは、なんと香港のアクションスター、ジャッキー・チェンを意識。ジャーナリストである東 光太郎の無鉄砲な性格から、往年のアクションスターを連想したという。つぶさに観察することで、タロウの動きの中にジャッキー・チェンの姿を見ることができるはずだ。
ダンスで沸かせるエンディングムービー
シーズン2のエンディングでは、ウルトラマンたちがキレキレのダンスを披露する。これを仕掛けたのも内山監督。そもそもはオリジナルのウルトラマンにインスパイアされた、前シーズンを踏襲したシルエットを使った映像から構想をスタートさせている。
ただし、質感と立体感のあるシルエットにすることで、前シーズンとの差別化を図った。「シーズン1にもダンスの要素はありましたが、もっと特化させてみようと思いました。これはあくまでも個人的な構想ですが、僕としては“スーツが魂をもって夜な夜な遊んでいる”というイメージでつくりました」(内山監督)。
レイアウターが個性豊かにカット制作
こちらはレイアウトスーパーバイザーの佐藤貴之氏が担当したカット。
「シーズン2はアクションがメインになるので、フォトリアルを意識しつつも作画的な表現を取り入れるというハイブリッドなイメージでしたが、そのストライクゾーンの設定にかなり難航しました」と佐藤氏はふり返る。
パースの歪みやタメ・ツメのタイミングなど、作画表現のバランスについては前シーズンでの知見を基にあらかじめ仕様書を用意。
内山監督を含む5人の社内レイアウターに加え、外注が7人、インターン2人で方向性を共有してテイストを統一しながら、各作業者の持ち味を活かせるような指示出しを行なったという。
「長回し、細かく刻んだショット、派手な空中シーンなど、各レイアウターの個性が活きたカットが出てきます。そういったところにも注目していただけたら嬉しいです」(佐藤氏)。
<2>培ったノウハウを活かしシンプルかつ効率的に制作
シーズン2では、前シーズンで構築したフローをベースにしつつも、各工程で制作手法をブラッシュアップ。特に『攻殻機動隊SAC_2045』(2020)の制作時に培われた技術が多く採用されている。身長を170cmに統一するというリグの量産システムもそうした技術のひとつ。
標準、筋肉質、老体など体格ベースでテンプレートを用意し、リグのパブリッシュ時に全体スケールで反映するしくみである。このシステムのおかげで、頭部の差し替えのみでモブを作成できるようになり、服装の共有化も容易になった(※)。
※CGWORLD.jp「『攻殻機動隊 SAC_2045』フル3Dとなって再結集された2045年の公安9課 - No.1 - 草薙素子篇」にて詳細を解説
そして、スタジオとして最も大きな変化がレンダラの変更である。前シーズン当時は発表されていなかったPencil+ for Mayaを本シーズンの制作に導入したことを契機に、メインのレンダラをV-Rayに変更。
前シーズンとの印象が大きく離れてしまわないよう、素材の修正やテストの工数はかさんだが、「V-Rayのおかげで色味がかなり正確になったので、そこは助かりました」とコンポジットスーパーバイザーの小澤匡義氏は語る。費用対効果という意味で大きなメリットのある変更となったようだ。
ウルトラスーツの硬質感を表現するセットアップ
「硬い印象を与える」ことを目指したシーズン2のウルトラスーツ。「各部が変形したときでも彫り込み線の形状を保つようにしたり、アーマーや付属パーツの形状、体積が同じ印象になるように意識しました」とリギングスーパーバイザーの井上暢三氏は語る。キャプチャデータをながし込んでも対応できる柔軟性やしくみなども盛り込んだ。
FACSベースのフェイシャル
シーズン1から大きく変わったのがフェイシャルリグである。
演出を優先したライティング
ライティングはシリーズ間のつながりや統一感維持のため、基本的には前シーズンを踏襲。ただし、監督陣からの要望を受けて、ややアニメらしい表現に寄せている。
「影が青い光を受けたり、昼間でもオレンジ系のライトが入るといった、アニメ的な誇張をしています。2Dアニメとリアルの中間くらいの面白いところをねらいました」とライティングスーパーバイザーの猪原英史氏。
画としての完成度を優先して、リアルでは存在しえない場所に光源を設置する局面もあったという。また、画面奥や室内でフォグを使用し、空気感や奥行き表現、ムーディな光を演出。ありきたりな3Dアニメにはしないという意気込みで、前シーズンとはちがうアプローチを試行錯誤した。
シンプルかつ効果的なコンポジット
「コンポジットに関しては、シーズン1の経験を基に、より簡略化できる方法を考えました」と小澤氏はふり返る。なお、本シーズンは制作期間がタイトで、1シーンを何名かで分担する方針。その点からもシンプルなつくりは効果的だった。
コンポジットチームによるBGエフェクト
黄金の城塞内、発射口から破壊光線を発射するシーン。こうしたBGのエフェクトもコンポジットチームが制作した。
CGWORLD vol.289(2022年9月号)
特集:『あんさんぶるスターズ!!Music』3DダンスMV
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2022年8月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_CGWORLD編集部