ゲームクリエイターズギルドが運営する学生向けゲームコンテスト「ゲームクリエイター甲子園」。昨年末開催された「ゲームクリエイター甲子園 2022」から、審査員を務めたCGWORLDアドバイザリーボード・榊原 寛氏が特にその画づくりに惹かれた3タイトルをピックアップ。開発者にインタビューした。
学生と侮るなかれ、型にはまらない才能の競演
小学生から大学、専門学校生という、まさにこれからのゲーム開発を担う世代がしのぎを削ったゲームコンテスト「ゲームクリエイター甲子園 2022」。本コンテストの特徴は、最終締め切りまで、フィードバックを受けながら何度でも作品をブラッシュアップをしていけることだ。
このシステムにより、年間を通して作品とクリエイターのレベルアップが期待でき、成長型のゲームコンテストとなっている。
「ゲームクリエイター甲子園」
ゲームクリエイターズギルドが運営する、学生向け成長型ゲームコンテスト。「ゲームクリエイター甲子園 2022」は昨年12月に授賞式が行われた。「ゲームクリエイター甲子園 2023」は現在エントリー受付中!
https://game.creators-guild.
榊原 寛氏が審査員を務めるのは昨年度に続いて2度目。まずは本コンテストについて、「『甲子園』なので学生向けのコンテストですが、未熟な作品が集まるということではありません。プロがつくったゲームに見劣りしない作品がたくさんエントリーされています」と話す。
榊原 寛氏
CGWORLDアドバイザリーボード(ゲーム開発技術/海外ゲーム担当)
個人ゲーム開発者/ゲームエンバイロンメントアーティスト
Twitter:@SakakibaraEnv
榊原氏は、プロは給料に見合うだけのレベルのものを制作できるというスキルをもち、豊富な経験があるからこそプロとして生き残っていけると考えている。しかしその一方で、仕事として制作するものは、どうやってもプロジェクト上の様々な制限からは逃れられず、知らず知らずのうちに型にはめられていることが多いとも感じている。
「自分も海外のAAAタイトルに参加していましたが、最近は『AAAタイトルってどこがつくっても同じようなゲームになるね』と言われることも多いです。非常にリアルなんだけど、画づくりのアイデアはパターン化している感じがすると。これは読者の多くがいらっしゃる日本の業界も似た現象がみられますよね」。
それに対して学生が制作したゲームは、卓越したアイデアやコンセプト、スキルが情熱を伴い、型にはまらず結実したものが多いと榊原氏は感じるという。それは決してプロのゲームの未熟版ではなく、時にチームで、時にひとりで、納得のいくまでつくり込んだことがわかる作品群である。
「こうしたゲームのメイキングはプロが見ても参考になる部分があるでしょう。ゲーム業界の未来は明るいと感じます」と榊原氏は期待をにじませた。
<1>『ObotShooter』by 矢木彰人
物理演算を活用した独特な操作感のシューティング
最初に紹介するのは矢木彰人氏による『ObotShooter』。ゴミとして廃棄されたロボットが、何者かの命令で建物の最上階にあるコアの破壊を目指すというストーリーの2Dシューティングゲームだ。
テキストで表現してしまうと、よくあるシューティングゲームのように思えるが、本作ではキャラクターのモーションにUnityの物理演算を使用しており、その独特な操作感がポイントとなるゲームである。移動やジャンプなどはキーボード操作で行う一方、手の動きなどはマウスの動きに追従することから、操作感になんとも言えない気持ち良さがあるのだ。
ビジュアルについてはシンプルながら、配色やライティングに工夫が施されているためチープ感がなく、非常にスタイリッシュなデザイン。
作者の矢木彰人氏は都内中学校に通う14歳。プログラミングに触れ始めたのは小学1~2年生頃で、入口となったのはレゴ マインドストームだったという。その後、中学受験がありプログラミングからは離れていたが、中学受験が終わったお祝いとして、ノートパソコンをプレゼントされる。
ここで憧れだったScratchを使ってゲームをつくり始めたが、ほどなく限界を感じ、Unityを使い始めたそうだ。「ゲームをつくり始めたきっかけは両親の教育方針です。ゲームをさせてもらえなかったので、それなら自分でつくろうと思いました」と矢木氏は話す。
ゲームの構造やアイデア、表現といったゲーム開発に必要な知識は、YouTubeのゲームプレイ配信などを見ながら培ったそうだ。
本作はまず「Unityユースクリエイターカップ」に応募し、その後今回の「ゲームクリエイター甲子園」に応募し、ブラッシュアップを重ねた。
「YouTubeやネットにアップされているUnityの新機能を試すのが好きで、このゲームはそういう機能の実験からスタートしました。今回は物理演算を使ったラグドールの機能と、ヒト型のアセットを動かすジョイントツリー機能を使ってゲームをつくろうと思ったのがきっかけです」(矢木氏)。
開発は後から着手。「良い感じのビジュアル、シンプルだけどチープに見えないように、Adobe Colorで配色を考えたり、ライティングで視線誘導を工夫したりしています」と矢木氏。もう新作を構想しているとのことで、次回作にも期待したい。
作品概要
『ObotShooter』はUnityで開発された2Dシューティングゲーム。キャラクターのモーションに物理演算を使用するなど、これまでのシューティングゲームにはあまりない手法が採用されている。非常にシンプルな画面構成ながら、ライトやブルームを上手く利用することでセンス良いグラフィックスにまとめられている。
物理演算を活用したユニークな動き
本作の一番の特徴は物理演算を使ったキャラクターのモーションだ。物理演算を使ってキャラクターなどを動かすと動きが遅くなってしまうことが多いが、本作では軽快な動きが実現されている。
本作のキャラクターは腕や脚、頭、ボディなどのパーツにそれぞれ物理演算が設定されており、例えば歩くモーションであれば、歩く方向に力を与えるとそれぞれのパーツに対して決められた回転角度の範囲に応じた動きが力の強度によって計算されるため、キーフレームを使ったモーションのクリップを作成することなくキャラクターを自由に動かすことができる。
ライトによる視線誘導
矢木氏がこだわったポイントの1つがライティングの使い方だ。本作ではライトを使った視線誘導が積極的に採り入れられている。例えばゲーム中画面にチュートリアルが表示されるときは、チュートリアルの文字が目立つようにライティングが変化する。また、キャラクターの進行方向もこのライトの方向などによって示唆される。
<2>『Out of the World』 by 豊田龍斗
足元が見えないスリルを味わうアイデアが光るパズルアクション
『Out of the World』は、京都コンピュータ学院4回生の豊田龍斗氏の作品。最初に表示されたマップの記憶だけを頼りに、暗闇に包まれた狭い視野の中を進んでいく2Dパズルアクションゲームだ。
榊原氏は「応募作品はプロから見てもすごく面白い画づくりの作品も多いですが、この作品は、白黒という最低限の要素で画面が構成されています。それなのにとても面白いつくりになっていてアーティスティック。しかもゲームとして遊びやすい。アイデアと制作過程が非常に興味深くて選びました」と、この作品に注目した理由を話す。
豊田龍斗氏
(京都コンピュータ学院ゲーム学科)
Twitter:@toyota_ryuto
gameparade.creators-guild.com/works/563
就職先も決まっており今春から大手ゲームメーカーでゲームデザイナーとして働きはじめる豊田氏。本コンテストには2020年から参加しており、今回で3回目だ。「この作品はNHK主催の『神ゲー創造主エボリューション』というコンテストに企画書を出して応募したのが始まりです。それが1次審査を通過したので、本格的に開発を進めてきました」と豊田氏は話す。
開発はまず、ゲームのテーマ決定から。「『目に見えているものだけが真実』というテーマを決めて、そこからゲーム性やコンセプトを考えていきました。ジャンルは『プラットフォーマー』という床から床へ飛び移っていくゲームですが、あえてその床をなくすという、逆転の発想です」(豊田氏)。
人間の日常動作では、階段を降りるときには最初は下を見るが、途中からは下を見ずに降りていくことができる。そのことから豊田氏は、「見る、見ないという行動を活かしたパズルゲーム、見えていないところに足を踏み出すスリルを体験できるゲーム」を軸に開発を行なったという。
ビジュアル面については、床や壁といったオブジェクトがゲームにとって重要な要素となるため、それらが際立つよう、あえて白黒だけで構成。また、グラフィックスにはアセット類を活用した。
「私はモデリングはできないので、Unreal Engineのプリミティブや、マーケットプレイスで購入したアセットを使っています。床や壁が歪むようなエフェクトも『Chameleon Post Process』というUE用の有料ポストプロセスアセットを利用しました」(豊田氏)。
キャラクターのモーションについては、配布されているアセットにAdobe Mixamoでリグとモーションを適用して利用した。ゲームはアイデア次第で、既存アセットを利用してもオリジナリティにあふれたゲーム開発は可能だという好例である。
作品概要
『Out of the World』は、キャラクターの狭い視界の範囲内に表示された床や壁の情報を頼りに一歩を踏み出す勇気が試される、2Dパズルアクションゲーム。黒い闇の中、床や壁といったオブジェクトが白い線画で表示されるだけというシンプルでスタイリッシュなグラフィックスも特徴だ。
ブロックの消滅表現
キャラクターの足下にあるブロックなどが消滅する表現は、キューブ型アセットのマテリアルに対してディゾルブを適用することで実現。処理にはノードが組まれている。
まずはベースカラーが白のマテリアルに対して、マテリアルのオパシティマスクにフラクタルノイズのような模様のテクスチャをPowerノードとStepノードを介して入力。
そしてStepノードのYに接続したAppearanceノードの値を調整することで、徐々に白い部分が消滅していくアニメーションにした。こうしたマテリアル設定は海外のチュートリアル動画などを見ながらやり方を会得したそうだ。
ポストプロセスによる歪み
ゲームの世界観として豊田氏は、夢の中の出来事のような、認識がやや曖昧になっている不思議な印象を表現したいと考えていた。
そのため、有料アセット「Chameleon Post Process」を使用して、背景の白いラインに対して、ラインをグローさせるNeon、ラインにノイズを加えるScratches、ラインにゆがみを加えるInfectedといったポストプロセスを適用。また、Infectedで表現できる線が波打つ表現は、プレイヤーの行動範囲を明確に区分けするのにも役立っている。
市販アセットを活用したキャラクターモデルと動き
キャラクターモデルやモーションにもアセットが利用されている。キャラクターモデルはUEのマーケットプレイスではなく、Sketchfabを利用。ゲームのイメージにあった棒人形のモデルを選択した。
キャラクターモデルの動きはDCCツールを利用せず、Adobe Mixamoでリグ設定からモーション作成まで行なった。市販のアセットを利用してはいるが、アセットをチョイスする基準が明確なため、アセットの寄せ集めという印象はなく、ゲーム作品として非常にセンス良くまとまっている。
<3>『スーパーコブシデナグルチャン』by 虹色螺旋龍
爽快感あるアクションとレトロなドット絵がマッチ
3頭身のキャラクター「ナグル」ちゃんが強力な拳を武器に、迫ってくる様々なエネミーを「殴って、弾いて、吹き飛ばす」しながらゲームを進めていくという横スクロールアクション『スーパーコブシデナグルチャン』。エネミーを攻撃した際のエフェクトが多彩で気持ち良く、ドット絵で表現されたゲーム世界も美しい。
榊原氏は本作について「スーパーファミコンやメガドライブぐらいの世代の、レトロなドット絵表現をあえて採用しているところが興味深いですね。どのようなアイデアでこのようなゲーム表現に至ったのかに興味があって選びました」と話す。
本作はHAL名古屋のゲーム4年制学科の学生たちがチームで開発したゲーム。今回は代表してリーダー兼プランナーの谷川海童氏、リードプログラマーの宇佐美晃之氏、リードデザイナーの加藤希咲氏に話を聞いた。本作のチームメンバーは、谷川氏が学内で一目置いている、一緒にゲームをつくりたいと思う学生たちで構成された、いわばドリームチーム。
虹色螺旋龍(HAL名古屋)
写真左から 加藤希咲氏(リードデザイナー)、谷川海童氏(リーダー、プランナー)、宇佐美 晃之氏(リードプログラマー)/写真なし 水貝 純氏(担当教員) 他12名
gameparade.creators-guild.com/works/287
もともとは、日本ゲーム大賞アマチュア部門で評価されるようなクオリティの高いゲームをつくろうというプロジェクトの中で企画したもので、事実、日本ゲーム大賞アマチュア部門では優秀賞を受賞している。
「2021年のゲームクリエイター甲子園では『LUMINO La ruta naturaL』という作品で最優秀賞をいただきました。そこで、連覇を目指したいという目標と、プロからどのような評価を受けるのかという挑戦の意味を込めて応募しました」と谷川氏。
自分たちのやりたいことをやろうという目標を軸に、開発に参加したメンバーを中心にアクションゲームをつくろうという意見が多くあったため、「とにかくプレイしていて手触りが気持ち良いとか、キャラクターが殴るアクションが気持ち良いといった、ゲーム性を重視したアクションゲームをコンセプトに開発しました」と谷川氏。
2Dのドット調グラフィックスのアイデアは、「3Dの画像を2Dのドット調に変換して使ったら面白いのではないか」という加藤氏の提案をメンバーが検証していく中で、モデリングコストの削減にも寄与することがわかり、アイデアが固まっていったという。
そのほか、レトロゲーム風の雰囲気を出すためにナグルちゃん(プレイヤー)のモーション再生のfps値を落とすなど、チーム開発の利点を活かした工夫の多い作品となっている。
作品概要
『スーパーコブシデナグルチャン』はUnityで制作した横スクロールの2Dアクションゲーム。レトロなドット絵調で描かれているが、3Dアセットを使用し、近景と背景の動きを微妙にずらすことにより、奥行き感のあるゲーム空間を表現しているのが特徴だ。
また、ナグルちゃんのくり出す技やエネミーの反応などに対して多彩なエフェクトが設定されており、攻撃時の気持ち良さに中毒性のある作品となっている。
ディザで表現するドット的な画づくり
本作を印象付けている要素のひとつである、2Dのドット絵調のルック。最終ルック決定まで、加藤氏がイメージラフ案を何種類も提案した中から、「ドット絵のルックが一番キャッチーで可愛らしくて新しい」ということで現在のルックに決まった。
レベルには3Dモデルアセットを配置しているが、ポストプロセスでディザを適用することで、ドット絵的な画づくりを実現。宇佐美氏は「背景のライティングはHDRPで描画して、キャラクターにだけトゥーンシェーダを設定しています。それにポストプロセスでディザ処理を施すことで、全体的に2Dのドット絵ルックに仕上げています」と話す。色調はポスタリゼーションを適用することで階調を落としている。
ネオンライト
サイバーパンク風の画づくりに貢献した背景のビルの窓や看板のネオンサイン。「そうしたネオン表現もテーマのひとつでした」と宇佐美氏は話す。
どのようなネオンの表現を入れればサイバーパンク風の雰囲気になるかについては、加藤氏によるコンセプトアートだけでなく、様々なゲームや映像を観ながら研究したという。
背景の多重スクロール
簡易な3Dモデルで作成した背景のビル群は、手前と奥でスクロールスピードをずらして遠近感を出す、2Dの横スクロールゲームではお馴染みの多重スクロールで表現。
背景に3Dアセットを使っているため、本来であればカメラを動かせば自然とスクロールスピードが手前と奥とで変わってくるが、本作では2Dのレトロな横スクロールゲームらしさを強調するため、あえて背景をオーバー気味に多重スクロールさせているそうだ。
シルエット重視のキャラクターデザイン
エネミーなどのキャラクターも、様々な試行錯誤を経てデザイン。最終的にドット調になることから、プレイヤーもエネミーも、とにかくわかりやすいシルエットのデザインにしようということで開発を進めた。
動く窓のハイライト
背景の表現でこだわったポイントのひとつに、ビルの窓のハイライト表現がある。近景の窓には白いハイライトを描画しているが、これがプレイヤーの動きに合わせて動くのだ。
「当初このハイライトはなかったのですが、プレイヤーが動いても景色の変化を感じられず寂しいよね、ということで実装しました。ビルのモデルは個別のメッシュですが、窓のハイライトが繋がって見えるように工夫しています」(谷川氏)。
メリハリを利かせた手描きエフェクト
多彩なエフェクト効果も本作の特徴。プレイヤーキャラクター攻撃時のエフェクトは手描きでスプライトシートを作成し、パリッとした感じに仕上げている。
逆に、敵を倒したときや必殺技のエフェクトは全てパーティクルエフェクトで表現しているが、2Dドット調に変換することで、既視感のない、雰囲気のあるエフェクトに仕上がっている。
CGWORLD vol.296(2023年4月号)
特集:とことん深掘り! ゲームのアニメーション
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年3月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada