『サイコブレイク』や『Ghostwire: Tokyo』といったリアルなホラーやアクションアドベンチャーを代表作とするTango Gameworks(以下、Tango)。新作『Hi-Fi RUSH』は、過去にないカートゥーン調の明るいビジュアルを見せる。開発においても過去にないつくり方のため、チームで模索が続いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 297(2023年5月号)からの転載となります。

    Information

    『Hi-Fi RUSH』
    発売:Bethesda Softworks
    開発:Tango Gameworks
    リリース:発売中
    価格:4,150円(通常版)、5,550円(Deluxe Edition)
    Platform:Xbox Series X|S via Xbox Game Pass、PC
    ジャンル:リズムアクション
    bethesda.net/ja-JP/game/hifirush

    © 2023 Bethesda Softworks LLC, a ZeniMax Media company. Developed in association with Tango Gameworks. Hi-Fi RUSH, Tango, Tango Gameworks, Bethesda, Bethesda Softworks, ZeniMax and related logos are registered trademarks or trademarks of ZeniMax Media Inc. in the U.S. and/or other countries. All Rights Reserved.

    Interviewee

    写真左から リードコンセプトアーティスト/エンバイロンメントアートディレクター:阪井圭太氏、ディレクター:ジョン・ジョハナス氏、エンバイロンメントデザイナー:渡部圭一氏、リードアニメーター:畠山耕一氏、リードキャラクターアーティスト:松村和也氏、リードグラフィックスプログラマー:田中康介氏、リードVFXデザイナー:木戸健雄氏、以上、Tango Gameworks
    • グラフィックスプログラマー:駒田 喬氏
      以上、Tango Gameworks

    “ゲームをつくりながら画づくりする”模索した約5年の開発

    『Hi-Fi RUSH』は世界の全てがそのステージの楽曲のビートに合わせて展開され、プレイヤーがそのビートに乗りアクションすることで進行するリズムアクションゲームだ。Unreal Engine 4(以下、UE4)で開発されており、開発期間は約5年を要した。

    「最初は画づくりよりゲームデザインから考えていました」。本作のディレクター、ジョン・ジョハナス氏は開発初期をこうふり返る。Tangoとして初めて手がけるジャンルということもあり、最初の1年はプロトタイプの開発に集中した。とりわけサウンドの比重が大きく、レベルデザインよりサウンドが優先されるプロジェクトでもあった。

    明るめの世界観が志向される中、様々な画づくりを模索し、トゥーンシェーダのコミックを思わせる画づくりが選ばれた。一方“ゲームをつくりながら画づくりする”模索した約5年の開発で、キャラクターも背景も全てトゥーンで表現するには、視認性の問題が付きまとった。

    手探りが続くなか、「『カラフル・クリーン・シャープ』という3つのキーワードが見えてきてから、方向性が固まりました」(リードコンセプトアーティスト/エンバイロンメントアートディレクター 阪井圭太氏)。

    描画面でも模索が続いた。当初、画づくりの方針としてリードグラフィックスプログラマーの田中康介氏は「なるべくUE4の改造はしない」と決め、タッチ的な表現をポストプロセスで加えたり、トゥーンのマテリアルを入れるなど画づくりを検討。

    しかし最終的に「エンジン改造なしには画づくりは完成しない」と判断、UE4を拡張し様々なトゥーン表現を追加していった。

    Tangoにとって初めてのチャレンジばかりの中でつくり上げた本作は、カートゥーンとリズムが融合した他に類をみない快作となった。

    以下より、各工程の挑戦を詳しく紹介していく。

    Point 1:カートゥーン世界をつくるため模索が続いたデザイン

    「カラフル・クリーン・シャープ」このキーワードで方向性が決まった後も、真に完成形にもっていくために各班で模索が続いた。ここではそんな模索を紹介する。

    ビジュアルコンセプトの試行錯誤

    本作では独特なアートスタイルという特性上、 イメージの共有に重きを置き、開発初期からビジュアルの方向性が固まった後も、アート班によって大量のコンセプトアートやカラースクリプト、デザイン画などが描かれた。「何枚描いたか計算したところ、決定稿だけで3,000枚を超えていました」(阪井氏)。

    • 開発初期のアートスタイル模索案①
    • 開発初期のアートスタイル模索案②
    • 背景のカラースタイル模索案。【開発初期のアートスタイル模索②】と同じ構図で様々な配色が検討された
    • 背景のカラースタイル決定稿。本編の空気感がここで出来上がっている
    • 実機で目指すビジュアルの指針を示すコンセプトアート。このあたりで「カラフル・クリーン・シャープ」のキーワードと方向性が定まったという
    • テストマップを作成するためのエリアデザイン。開発初期はこのテストマップをベースに、様々なR&Dが行われた

    キャラクターモデル制作のながれ

    キャラクターモデルの制作も、模索から始まった。「トゥーン表現のキャラクターの制作経験があるスタッフがチームにひとりもおらず、これまでやってきたフォトリアル系の制作とはまったく異なるつくり方で戸惑いました。国内外の様々なゲームや映像作品でのトゥーン制作事例を参考に、つくりながら仕様を固めていきました」と語るのは、リードキャラクターアーティストの松村和也氏。

    ポリゴン数はアウトラインメッシュを含め、人間キャラは10~15万。エネミーは2~10万。大型ボスは20万~60万とのこと。

    • 登場キャラクターのひとり、CNMN(シナモン)のコンセプトアート
    • ラフモデル。「コンセプトに合わせてシルエットをメインにしっかりプロポーションをつくり込みます。これはアニメーターへ作業データとして渡す必要があるので、この時点で各関節位置はしっかり決め込んでいます」(松村氏)
    • UV1枚目にベースカラーとシャドウカラーを設定し、ラフモデルをブラッシュアップする
    • UV2枚目にエッジラインを追加
    さらにUV3枚目ではスペキュラを加える
    • アウトラインメッシュを追加(後述)
    • 最後に影の入り方をコントロールするため、面の法線を調整する。左が調整前、右が調整後

    頂点カラーによるアウトラインの強弱

    キャラクターのアウトラインは、モデルに対しアウトラインメッシュを追加し、ポリゴンを反転して頂点カラーで強弱を整えている。

    • 調整前
    • 【調整前】の頂点カラーを可視化した状態。これを調整して線の太さの強弱を探り、最適なバランスを決めていく
    • アウトラインを調整した結果
    • 調整後の頂点カラー

    過去事例を参考にしたエッジやスペキュラの表現

    UE4のトゥーン制作事例として、アークシステムワークスの『GUILTY GEAR』シリーズで活用された「本村式ライン」のしくみも参考にされた。

    • 服のシワなどのエッジに乗るラインの強弱はUV2枚目を動かして調整
    • バックルなどに入るスペキュラの幅はUV3枚目のUVを動かすことで調整している

    影のコントロール

    トゥーン表現においては、キャラクターの影の制御も重要な要素だ。

    本作では基本的に法線や頂点カラーの調整によって影をコントロールしているが、キャラクターの顔については、コミックテイストということもあり、表情がかなりオーバーに激しく変化するため法線調整だけでは影が壊れてしまう。そこで、顔の影については、Face Threshold Mapというしくみにより制御している。

    • 頂点カラーによる影の調整前
    • 調整後
    • 調整後の頂点カラー
    Face Threshold Map。DCCツール上でライトを等間隔に回しながら2値化レンダリングして複数の画像を作成し、それらを内製ツールで補間し1枚のテクスチャにして使用する
    Face Threshold Map未使用時の顔の影。影の端が崩れ、粗く見える
    Face Threshold Map使用時の顔の影。影が整理され表情がわかりやすくなっている

    Point 2:リズムアクションならではのリズムを重視したモーション

    本作では世界のほぼ全てがビートに合わせてできている。そのため、キャラクターのモーションにもまたビートを感じさせる必要があり、“拍”に合わせた動きが要求された。

    楽曲の拍に合わせたモーション

    本作ではリズムに合わせたアクションを特徴としているため、キャラクターや敵の攻撃モーションは、拍に合わせたメリハリのある動きが要求された。

    「『サイコブレイク』シリーズではリアル系の動きがメインだったため、本作のモーション制作はこれまでとはひと味ちがった経験でした。最初は音楽の知識もあまりなく、BPMという言葉の意味も何となくしか把握できていない状態からの始まりでした」(リードアニメーター・畠山耕一氏)。画像はプレイヤーの強攻撃1撃目において、拍にアニメーションを合わせている例。

    120BPMのテンポを基調とし、Maya上で15fpsを1拍として、拍ごとに足の接地タイミングや決めポーズをもってくるように制作している。これらは最終的にUE4上でのオーディオミドルウェアのWwiseのBPMレート機能を活用し、各ステージの楽曲のBPMに合わせてストレッチングをかけている。

    BPMに合わせたモーションストレッチングの例

    JointChainPhysicsを使った揺れもの

    髪が衣服などの揺れはJointChainPhysicsで作成された。「これは『Ghostwire: Tokyo』でも使われた、チェーン状になっているボーンを揺らすものです」(グラフィックスプログラマー・駒田 喬氏)。

    • 主人公のHairの設定例。Hairのジョイントと衣服とはアルファの設定を分けており、それぞれで強さを変更できるようにしている
    • 主人公のジャケット、ベルト、マフラーの設定例
    カーブでの設定例。揺れものを手付けアニメーションで制御したい場合、このカーブの値を調整することで、手付けとPhysicsをブレンドできる

    Point 3:リズムの動きとコミックテイストを合わせた本作独自のエフェクト表現

    アクションゲームに必要なものをひと通り用意しつつ、本作ならではのリズミカルかつコミック的な表現によるエフェクトが指向された。

    エフェクトの種類

    ヒットエフェクト。リズムに合わせて表示/非表示させることを目指した結果、主にエフェクトは大きく、余韻を残さず短時間で消えるものが目指された
    • 背景エフェクト
    • プレイヤーがリズムに乗って動くことを補佐するためのエフェクト。画像では両サイドのパネルから緑色のライン状のエフェクトが出ている。本作ならではだ
    • スピード線エフェクト。シャープな動きを表現する
    • 文字エフェクト。コミックテイストをより印象付ける

    エフェクトの制作工程

    「UE4でのエフェクト制作は初めてでした」とリードVFXデザイナー・木戸健雄氏が語るように、こちらも他の班と同じく表現方法が模索された。

    エフェクトのデザイン。キャラクターの数倍のものもある。「本作のエフェクトはものすごくキャラクターに寄った存在なので、開発初期にキャラクターとエフェクトが共存するアートを阪井さんに何枚か描いてもらいました」(木戸氏)
    • エフェクトの素材
    • エフェクト作成画面
    • 完成エフェクト
    • 本作のエフェクトはできるだけ半透明を使わず、ディゾルブテクスチャによって消滅を表現している
    実際のエフェクトの消え方

    ポストプロセスを併用したダッシュ線のエフェクト

    • キャラクターがダッシュしたときのエフェクトのデザイン画。カラフルな流線が出る
    • 後ろに伸びていく線はエフェクトで作成
    • ポストプロセスでキャラクターの色収差による残像を加える
    • 完成。「本作ではキャラクターにモーションブラーが乗らないようになっているので、スピード感はこのようなエフェクトやポストプロセスで表現しています」(木戸氏)

    Tango Gameworksチャレンジが詰まったカートゥーン調リズムアクションゲーム『Hi-Fi RUSH(ハイファイラッシュ)』(2)につづく。

    CGWORLD vol.297(2023年5月号)

    特集:超こだわりのルック開発
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年4月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada