2023年4月28日(金)から4月30日(日)まで、テクニカルクリエーションイベント「SESSIONS in C4 LAN 2023 SPRING」がツインメッセ静岡とオンラインのハイブリッドで開催された。

本記事では前編として、全3日間のイベントの中から、4月29日(土・祝)に行われたセミナー「SESSIONSの楽しみ方 by kioku」とコンペティションの結果をレポートする。

記事の目次

    Information

    SESSIONS in C4 LAN 2023 SPRING

    開催日時:2023年4月28日〜30日
    場所:ツインメッセ静岡
    sessions.frontl1ne.net

    デモパーティの魅力とは?

    「SESSIONS」は映像や音楽をリアルタイムに生成するプログラム「デモ」を制作、鑑賞して楽しむパーティ&コンペティションである。LANパーティ「C4 LAN 2023 SPRING」の一角にステージを構え、全5部門のコンペティションを中心に、セミナーやイベントが開かれた。

    ▲「SESSIONS in C4 LAN 2023 SPRING」開会式。左上が会場の模様。左下はチャット欄を開放し、オンライン参加者もコミュニケーションを取ることができる

    SESSIONSでは技術ベースアプローチによる創作活動を「テクニカルクリエーション」と定義。「技術ベース創作」という共通ワードの旗の下、インタラクティブアートやライブコーディングの音楽ライブなど、従来のデモパーティではあまり扱われなかった領域まで拡大した総合イベントとなっている。

    ▲テクニカルクリエーションの作品例

    運営のFL1NE氏は「様々な技術ベース創作に関わる人が一堂に集いセッションをする場所、それこそがSESSIONSです」とイベントの意義を語り、SESSIONSの開会を宣言した。

    開会式に続いて行われたセミナー「SESSIONSの楽しみ方と日本のデモシーンについて」には、日本唯一のピュアデモパーティTokyo Demo Festの運営リーダー kioku氏が登壇。初心者に向けてデモにまつわる用語やコンペティションについて解説した。

    まず「デモシーン」というワードは、プログラミングを用いてデモを作るコンピューターアートのサブカルチャー全般を指す。そのカテゴリの中にある「デモパーティ」は、デモを持ち寄って盛り上がるイベントであり、特に北欧では1,000人規模で開催されるなど活況を呈している。

    ▲セミナー「SESSIONSの楽しみ方と日本のデモシーンについて」

    デモパーティのメインとなるのが「デモコンポ」と呼ばれるコンペティションだ。通常のプログラムコンテストと異なるのは、審査員が存在せず、観客の投票によって順位を決める点にある。会場で多くの人たちを湧かせた人が優勝するという民意に支えられたシステムが特徴となっており、デモは技術難易度だけでなく面白さや美しさといったアート面も重視される。

    そのため非常にテクニカルだが映像自体はよくわからなかったり、カッコイイけれど技術的には普通だったりする作品は、上位にランクインしない傾向にあるという。技術とアートの総合力で競い合う奥深さがデモパーティならではの魅力なのだ。

    ただしデモパーティはその名の通り、あくまで「パーティ」であって、参加者全員で楽しむことを一番の目的としている。会場ではピザやビールが振る舞われたり、DJイベントが行われたりと、様々な企画があり、参加者同士が親交を深める場としての役割を果たす。

    セミナーではデモコンポの種類と過去のデモパーティで披露された代表作が紹介された。「DEMO」は実行ファイルでリアルタイムレンダリングされた作品であり、サイズの容量制限がない部門を指す。最新のGPUを用いて、最高品質のグラフィックスを表示させることを目指していく。

    ▲『Number one / Another one』はフィンランドのLANパーティ Assembly 2018で発表された。ファイルは約160MB

    「64KB INTRO」はファイルにサイズ制限のある部門である。INTROは小さいサイズのプログラムのことを示し、64KB=65,536byteではMP3すら入らないため、音楽はシンセサイザーのプログラムを作成して再生。アセットを使うとすぐに容量がオーバーしてしまうので市販のソフトは使えず、全てをプログラムでプロシージャルに作らなければならないという職人技が求められる。

    ▲『Dope on Wax』はドイツのデモパーティ Revision 2019で発表された。ファイルは65,536byteで制限ぴったり

    「4KB INTRO」はさらにサイズが小さい4,096byteの部門だ。容量はわずかA4用紙3枚分で、ファイルより映像のスクリーンショットの方がサイズが大きいという逆転現象が起きる。

    この部門ではドイツのデモパーティ Breakpoint 2009で発表された『Elevated』を紹介。kioku氏は現地に参加しており、「それまでの4KBは2Dメインの作品が多かったのですが、この作品が出てきたときは“こんなことができるの!”と衝撃が走りました」と驚きをふり返る。

    『Elevated』を機に「4KB INTRO」の部門が大幅にレベルアップしたという意味でもエポックメイキングなデモである。

    ▲『Elevated』のファイルは4,066byteで、サイズ制限の4,096byteより小さいものの、それを感じさせないクオリティだ

    「WILD」はパソコンで動かなくても問題ない、いわば何でもありの部門。こちらは自作のレーザープロジェクタによるデモ『reLase』が紹介された。プログラムだけでなく自作のハードウェアも作品に含まれるところもデモパーティのユニークな点だ。

    ▲『reLase』はTokyo Demo Fest 2017で発表

    「4K Executable Graphics」は4KB以内の実行ファイルで静止画を生成する部門。映像に比べてサイズに余裕がありそうだが意外と入りきらず、美しいグラフィックスを実現するためには、優れたアイデアと短いコードを用いてパズル的な感覚で作らなければならない。

    kioku氏は「静止画のプロシージャル技術だけで競い合うので、シェーディング言語のGLSLが書けるプログラマーであれば、すぐに挑戦できるジャンルです」と、この部門ならではの面白さをコメント。

    ▲右の画像はRevision 2023でトップ3に入った作品で、上から『Storm』、『RiverScape』、『Fast & Fouriers』。いずれも実写のようなクオリティである

    「GLSL Graphics」はTokyo Demo FestとSESSIONSのオリジナル部門だ。

    「4K Executable Graphics」と同じようにGLSLで書かれるが、こちらはアニメーションとして動作可能。SESSIONSではtwigl.appというサービス上で競い合う。ブラウザとキーボードさえあれば気軽に参加できるカテゴリということもあり、SESSIONSの全5部門のコンポで最も多い15作品がエントリーした。

    ▲SESSIONSの部門にはないが、番外編として「96KB Game」部門を紹介。サイズが96KB以内のゲームで、FPSの『.kkrieger』と相撲ゲーム『Sumotori Dreams』を取り上げた。『.kkrieger』は武器のパワーアップ要素もある本格的な仕様。『Sumotori Dreams』は物理エンジンを実装しており、力士のコミカルな動きが観客の笑いを誘った
    「Shader Battleroyal/Shader Jam」は完成作品を持ち込むのではなく、参加者全員が一斉にシェーダを書き始めるイベントであり、作品が出来上がる過程を楽しめる。SESSIONSでは総勢18名が同時にシェーダを書くパフォーマンスを開催した

    最後にkioku氏は「デモパーティはどなたの作品も大歓迎です。作って出すだけで、皆さんに見てもらうことができる。それが醍醐味だと思います」とイベントの楽しみ方を伝え、来場者にメッセージを送った。

    コンポ各部門の受賞作品紹介

    SESSIONSでは全5部門のコンポを行い、個性的な全52作品が集まった。各部門で1位に輝いたデモを紹介しよう。

    音楽部門「Combined Music」でトップとなったのは、Virtua Point Zeroさんの『Starship』だ。AmigaのProtracker 2.3Dで作られた4チャンネルのMODトラックである。

    グラフィックス部門「Combined Graphics」の1位は、0b5vrさんの『20230421_fillercube』。サブカテゴリ「4KB INTRO」の作品で、4KBの実行ファイルによって生成される。

    ▲『20230421_fillercube』

    「WILD」の全6作品を勝ち抜いたのは、mickaleusさんの映像作品『BadApple.zip』。こちらは「Bad Apple!!」のPVのパロディであり、Photoshopを使ってPremiere Proでコンポジションをした。

    「GLSL Graphics」はコンポの中でも最大の15作品が集まった。激戦を勝ち抜いたのはRenardさんの『POOL』。twigl.appで動く映像を57,409文字のコードだけで表現している。

    Renardさんによる作品解説はこちらで読むことができる。

    「Combined PC DEMO」で1位に選ばれたukonpowerさんの『Decompress of Empty』は、WebGLを用いて制作された64KB以下の作品である。

    授賞式でトロフィーを受け取ったukonpowerさんは「初めてのデモで1位を取れてメチャメチャ嬉しいです。イベントを開催してくださったオーガナイザーの皆さん、ありがとうございました」と感謝の言葉を述べた。

    閉会式にはFL1NE氏が再び登壇。SESSIONSの初回開催はデモパーティをベースとしたイベントとして運営したが、第2回以降はコンポのカテゴリを新設するなど、様々なアイデアを模索中であることを明かす。

    そして「ぜひ皆さんのご意見をください。皆さんがSESSIONSを一緒に作っていただけると本当に助かります。次はSESSIONS 2024でお会いしましょう」と次回開催に向けて意気込みを語り、イベントは盛況の内に幕を閉じた。

    後編では、2日目に開催されたセミナーの内容を紹介する。

    配信アーカイブ

    TEXT_髙橋克則 / Katsunori Takahashi
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)