和製VRアドベンチャーゲームを模索し続けるMyDearestの新たな挑戦。『東京クロノス』、『ALTDEUS: Beyond Chronos』に続いて送り出す最新作は、つくり込まれたグラフィックスで没入感の高いVR体験が得られる作品だ。
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ディレクターの構想を基にスタッフが作品を進化させる
VRによる新しいアドベンチャーゲームのかたちを模索してきたMyDearest。2019年、クラウドファンディングの大成功により誕生した『東京クロノス』から『ALTDEUS: Beyond Chronos(以下、アルトデウス: BC)』を経て、最新作『DYSCHRONIA: Chronos Alternate(以下、ディスクロニア: CA)』が発売された。
本作ではついにVR空間内でのプレイヤーの自由移動を実現。現実世界と「拡張夢」というふたつの世界を行き来しながら思うがままに動き、犯罪捜査を進めていく。
本作は原案からメインシナリオ、ディレクターまでを末岡 青(まつおか あお)氏が手がけた、氏の作家性が際立つ作品。スタッフに「末岡さんの頭の中をVRに再現していく作業だった」と言わしめるほどである。
氏の構想をベースにしてグラフィックエンジニアやアーティストらがイメージを大きく膨らませ、強いチーム感の下開発している。それは音楽バンドが作品づくりを行う際に、メンバー同士のケミストリーでとてつもない曲が完成してしまうことに似ている。
グラフィックエンジニアの山本順也氏は本作の開発について「メンバーが好き勝手にやっていても、実は全員同じ方向を向いているんです」とふり返る。
また、本作の演出を担当した田村直彬氏は「今年に入ってスタッフが増えたのですが、そこからの進化がすごい。尻上がりに面白くなりました」とゲームのクオリティに自信を覗かせる。
リアルとファンタジーが入り交じり、SFテイストも多分に感じられる世界観、LAM氏がデザインした多彩で個性豊かな10名のキャラクターワークなど、グラフィック面でも見どころは盛りだくさんである。
本作の開発ツールはゲームエンジンにUnity、3DCGワークにはBlenderとMayaを使用している。
Point 01:現実と夢が入り交じる楽園都市のデザイン
コンセプトは「都市は偽りの世界でも、人々の感情が残っている」こと。その思想はカラーから装飾デザインにまで染み渡り、血の通ったSF世界が完成した。
世界観を彩るデザイン設定
前々作、前作に続き、作品全体のトーンを決めるカラーやHUDのUIなどのデザインルールは雷雷公社が作成。
Sci-Fi色の強いコンセプトアート
各種コンセプトアート。末岡氏の頭の中のアイデアをコンセプトアーティスト黒木修司氏が丁寧に掘り下げ、アートとして具現化していった。
Point 02:前作から改良を重ねたモデリング&リギング
VR 空間の自由移動が可能ということは、モデルをじっくり観察できるということ。本作では破綻のないモデルときめ細やかなモーションの両方が求められた。
LAM氏のデザインを3Dモデルで再現
主人公ハル・サイオンのキャラクターデザインと3Dモデル。本作ではトゥーンライクなアウトラインはあえて使っていないほか、エイリアスの問題から、多機能なシェーダの利用も控えた。ライティングではディレクショナルライトをキャラクターに落とす程度の処理で収めている。
前作から改良した眼球のモデル
本作ではプレイヤーが自由移動してキャラクターを見つめることができるため、目のモデリングにも気を配っている。
Auto-Rig Proを活用したリギング
リギングはBlenderの有償アドオン、Auto-Rig Proを活用して効率化。
また、VRゲームの性質上、頻繁に目にすることになる手のモデルについては、手根骨のボーンを使えるようにした上で、ハンドコントローラをリグに追加した。本作では複数のキャラクター視点に変わるシーンがあるため、手だけでも各キャラクターの個性が出るようにモーションをつくり込んだという。
Point 03:リアルからファンタジーへ世界観を拡張する背景
現実世界と「拡張夢」というふたつの世界を行き来する本作の世界観。背景制作においては、色遣いや演出にメリハリをつけて両者のちがいを視覚的に表現している。
現実と拡張夢を背景で描き分ける
現実世界と「拡張夢」で雰囲気を大きく変えた背景。
VRではモデルが広角に見えてしまうため、『東京クロノス』では世界のスケールを通常の3.5倍、『アルトデウス: DC』では1.7倍にし擬似的な望遠処理で広角感を抑えていたが、物をつかんだり置いたりする操作を行う際に距離感覚がつかみづらいという問題があったため、本作では1.2倍とさらに等倍に寄せている。
スプラットマップを使った「光る道」
本作中に登場する「光の道」は、青と黄色が混ざり合う幻想的な表現のため、主に地形描画に利用されるスプラットマップを活用した。
Point 04:リアルなライティングと没入感を高めるエフェクト
ゲーム体験向上のため、ライティングはよりリアルに、エフェクトはより幻想的につくり込まれている。どちらも負荷が高くなる要素であるため、対策には苦慮した。
パーティクルシェーダで低負荷にエフェクト生成
本作では山本氏がチームに加わったことにより、それまで必要に応じて機能を追加していたため数が増え管理が難しくなっていたシェーダを取りまとめ、機能の切り替えをチェックボックスで容易に行える「MyDearestシェーダ」が開発・活用された。
グローエフェクトの生成にはパーティクルシェーダを使用。VRゲームとしてのパフォーマンスを考え、メッシュから生成して処理負荷を低く抑えた。
ライトマップによるリアルな陰影表現
前作まではライトを使用せずUnlitシェーダを用いていたが、本作では探索できる空間内に説得力をもたせるため、ライトマップを用いて比較的処理負荷を抑えながらリアルな照明と陰影を表現している。
以降、ライトマップによるポスト処理結果。
負荷軽減のため適宜ポリゴン化
パーティクルシェーダによるエフェクト処理は、画面全体にかかると負荷が高くなってしまう。そこで極力ポリゴン化処理を行い、画面からアルファ素材を省いている。
ポストエフェクトによる画面効果
本作では前作までと比較して背景がしっかりモデルで描画されているため、ポストエフェクトとしてブルームやフォグを加え、さらに画面をリッチに見せている。
特にブルームを実装できたことが大きく、VRコンテンツはレンダーバッファを左右2枚ずつ用意する必要があるためレンダリング解像度をあまり上げられないという難しさがあるが、ブルームによって画面の質感を底上げできたとアートディレクターのGenz氏は語る。
Point 05:VR ならではの操作性が求められたUI デザイン
VR ゲームのUI は操作性や視認性、階層のわかりやすさなどが求められる重要な要素。特にインゲームUI は慎重に検討が重ねられた。
視認性と操作性を考慮したインゲームUI
インゲームUI (ゲーム中に表示されるUI)制作のブレイクダウン。
リッチな質感のアウトゲームUI
アウトゲームUI(ゲーム開始前/スタート画面)制作のブレイクダウン。
CGWORLD 2022年11月号 vol.291
特集:山崎 貴と白組 調布スタジオ
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2022年10月7日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_葛西 祝 / Haijme Kasai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)