世界の第一線で活躍するモーションクリエイターたちが集結する、世界最大級のモーションデザインイベント「Motion Plus Design Tokyo」が、2023年6月17日、渋谷・さくらホールにて開催された。「Motion Plus Design」は、これまでにも世界13ヶ国で開催され、モーションデザインの最前線を知ることができるイベントとして好評を博してきた。コロナ禍においてのオンライン開催を経て、今回は2019年以来のリアルイベントとなっている。この記事では、このイベントに登壇したアーティストによるスピーチを紹介する。

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    モーションデザインの鬼才たちが集う 、「Motion Plus Design Tokyo」6月17日(土)開催。【CGWORLD限定 20%OFFクーポンあり】

    イベント概要

    Motion Plus Design Tokyo

    motion-plus-design.com/events/main/event/32




    ■ Speaker 01:Benjamin Bardou 

    最初の登壇者となったのは、デジタルペインティングのスペシャリストであるBenjamin Bardou氏。まずは彼の代表作であり、未来的かつ幻想的な都市の風景を描いた『Megalopolis』が上映される。「『Megalopolis』がどのような過程を経て制作されたのかを通じて、若いアーティストの役に立てることを願う」とBenjamin氏は語った。

    Benjamin氏は10代のころから『AIKIRA』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『ブレードランナー』などの映像作品やボードレールの詩から、大きな影響を受けてきたという。Benjamin氏は“街”というものへの関心が強く、「自分の街をどう表現すればいいか」について悩んでいた時に出会った、哲学者ヴァルター・ベンヤミンと、映画監督ジャン=リュック・ゴダールらの著作や作品からも、自分自身の創造探求について大きなヒントを得たそうだ。

    また、『Megalopolis』のアイデアが生まれたのは、大量のオブジェクトやポリゴンを負担なく表示させることができる「Clarisse」(※現在は開発終了)という3DCGソフトウェアを使い始めてからだと語り、自分にとって最適なツールを見出すことの重要性についても語ってくれた。

    「私の作品はよくエモーションとノスタルジーが含まれていると言われます。皆さんが今日見られたイメージ映像の数々は、私が実際に訪れた場所、簡単に言えば私の記憶の姿であり、それを皆さんにお見せしたかったのです。そこから何かを感じてくだされば嬉しいです」との言葉で、講演は締めくくられた。

    Megalopolis 360°#001




    ■ Speaker 02:菱川勢一

    続いて登壇したのはDRAWING AND MANUAL菱川勢一氏。DRAWING AND MANUALは、1997年から2000年まで「モーショングラフィックス展」を開催し、早くからモーショングラフィックスを日本に広めてきた。

    菱川氏は、モーショングラフィックスを使ってこれからの社会の様々な活動をより良くしていきたいと考えているという。

    菱川氏はまず「Motion Graphics Plus Learning」と題して、モーショングラフィックスを学習に活かすための活動を紹介した。ウォルト・ディズニーの「大人も子どもも楽しみながらいつの間にか学んでいるエンターテイメントを作りたい」という言葉に共感し、楽しむ中で学びを提供できるような教育活動に携わりたいと考えたのだという。

    続いて「Motion Graphics Plus Medical」と題し、聾学校でのミュートコンバータの開発事例を紹介した。映像に合わせた音が振動で伝わる、体に装着するスピーカーを開発し、耳の不自由な方々がより映像を楽しめるように制作された作品だという。続いて大河ドラマのオープニング映像が紹介され、日本の「間」の表現が込められているということについて説明があった。日本の美意識をどのようにモーションデザインに落とし込むのかを指針として制作した作品とのことだ。

    「僕はモーションプラスデザインに、役に立つ"Helpful"という言葉を加えたいと思っています。このようなイベントがきっかけとなって、私たちの想いが社会へ広がっていけばいいと思います」と菱川氏は語った。




    ■ Speaker 03:中間耕平

    3人目の登壇者はデジタルアーティストの中間耕平氏

    少年時代の中間氏は、特に映像に興味のないスポーツ少年だった。しかし大学時代に、Appleがスーパーボウル用に作ったリドリースコット監督のCM映像を目にし衝撃を受け、大学生協でMacを購入して映像制作の世界へ足を踏み入れた。StrataVision 3Dというソフトを使って制作に熱中するあまり就活をしないまま大学を卒業してしまった中間氏であったが、マスコミ電話帳から手当たり次第に電話をかけ、制作会社への就職に至ったのだという。

    そんな中間氏が制作し、今回紹介した『Diffusion』は、「なぜ人間には動物のような模様がないのだろうか、この先人間も動物のような模様を手に入れるかもしれない」という発想をもとに制作された作品だ。また『cycle』という作品は、『動的平衡』という本からインスピレーションを受け、方丈記の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」にも通ずる思想を表現したものだ。この二つの作品は高い評価を受けた一方で、SNS上で一部の人々からは激しい拒否反応を受けることもあり、制作の意欲が削がれてしまったこともあったそうだ。だがそんな中でも、制作を続けた中間氏は、その後『MAKIN' MOVES』という作品を発表し、現在に至るまで数多くの作品を制作、発表し続けている。

    「今日この場に来ている方々は、モーションデザインに関わる人や、それを目指している学生の方々が多いと思います。中にはアイデアはあるが、様々な制約があってそのアイデアを実現できずにストレスを抱えている方もいるかもしれません。そういう人たちに、“いつ始めても良い。人生は長い(かも?)”という言葉を贈りたいです」とアドバイスを贈って、講演は締めくくられた。

    『MAKIN' MOVES』



    ■ Speaker 04:Francesco Misceo

    4人目の登壇者はダンサーでありマルチメディアアーティストでもあるFrancesco Misceo氏。Francesco氏はダンサーであり映像作家という異色の経歴を持ち、またそれら2つの世界を融合させたアート表現をおこなっている。

    映画やCMなど様々な分野でクリエイティブ活動をしていくうち、Francesco氏は「TouchDesigner」というノードベースのプログラミングツールを友人から教えてもらったそうだ。「これは最高にクールなものだと思いました。様々なものを融合しアートを創出することが自分のやりたいことでした。私が好きなのは、ダンス、映像、音楽を融合させてビジュアルストーリーテリングをすることです。TouchDesignerを使うことで、自分の伝えたいものを的確に表現することができています」とFrancesco氏。

    またFrancesco氏は、「人がどう動くかには興味がない。何が人を動かすのかに興味がある」ということが、自分のアートの根源にあると述べた。そして、想像と現実の境界を表現している自身の作品を形容するのには「儚い」という言葉が、適しているのではないかと述べた。

    最後に『願えば、かなう』という書籍からの引用で「Learn how to manifest your desires(自分の望みを実現させる方法を学ぼう)」という言葉が紹介された。Francesco氏自身、この言葉にインスピレーションを受けて、作品を作り続けているのだという。

    LISTEN TO NATURE





    ■ Speaker 05:Tobias Gremmler

    続いて登壇したのは、Bjorkのコラボレーターとしても知られる世界的メディアアーティスト、Tobias Gremmler氏だ。

    まず、カンフーの流動的で美しい動きに着目し彼が制作した作品が上映された。Tobias氏は素材の情報を動きで表現するものとしてカンフーに興味を持っているという。続いて、カリグラフィーを素材とした映像が上映された。これも、自由に動き回るダイナミックなストロークに着目し、作品として彼が表現したものだ。

    次に紹介されたのは、Tobias氏がデザインした腕時計だ。「時計をデザインするのではなく、時間そのものもデザインしたいと思いました」とTobias氏はデザインコンセプトを語った。太陽の昇降の流れを視覚的に表現することで時間を示すデザインになっているという。

    さらにTobias氏は、体とダンスの融合を表現するプロジェクトも手掛けていると語り、ダンスや指揮者の動きをもとに制作された映像が上映された。骨や内臓、神経など全てに興味を持ち、そこから動きが生まれることに着目したという。

    「私もかつてはミュージシャンだったので、ミュージシャンと共感することが多いです」と語るTobias氏はMVの制作はもちろんのこと、過去にはシアター用の音楽も数多く手掛けており、その時の学びが大いに生かされていると語る。「シアター用の音楽制作は色々と制限が多かったが、その制限が多い中で表現したからこそ得られた学びは多い」という。

    「私は自分自身で学び、ここまでやって来ましたが、幸運だったのは、私に素晴らしいインスピレーションを与えてくれるものがあったということです。幼い頃に触れた自然、写真家の母親が暗室で現像する過程を見せてくれた体験、そういったものが私に強い影響を与えてくれました」とTobias氏は語り、講演を終えた。

    Kung Fu Motion Visualization





    ■ Speaker 06:喜田夏記

    6人目の登壇者は、絵本の世界を想起するような独特の世界観で知られる、フィルムディレクター、アニメーションディレクターである喜田夏記氏だ。

    喜田氏は自分自身の作品作りについて、「最終的にはデジタルでの制作になるとしても、企画の段階ではアナログな技法で制作を始めます。具体的には、イメージボードを作画することから、私の映像制作は始まります」と語り、喜田氏が手掛けたL'Arc-en-CielのLiveのオープニング映像が上映された。この作品はフルCG作品であるが、まずは喜田氏がキービジュアルをアナログ作画で制作し、そのビジュアルを基盤に実制作を行うという工程で作り上げられている。

    喜田氏は父が建築家、祖父と母が画家というクリエイター一家で生まれ育ち、東京藝術大学のデザイン科へ進学した。入学後、映画に強い興味を抱くようになり、大学三年時にニューヨーク大学のフィルムコースへ留学した。ここから本格的に映像表現を学ぶようになり、やがてコマ撮りアニメーションという手法と出会い、制作に熱中したそうだ。帰国後、卒業制作として制作したアニメーション作品を見たプロデューサーからMV制作の誘いを受け、映像作家としてのキャリアをスタートさせることになったそうだ。

    経歴紹介に続いて、資生堂『マジョルカ・マジョルカ』のCM『ANNA SUI』のコンセプトムービーVAMPS 『Halloween』勝手にしやがれ『TAXI SONG』のMVなど喜田氏が手掛けてきた映像作品が次々と紹介されていった。

    現在大学講師としても活躍している喜田氏は最後に、「学生さんには、自分の好きなことを追究、深掘りし、長く続けていくことが重要だと伝えています。私の今の仕事にも、十代から続けてきたアナログワークのスピリットが活かされています。どんなにテクノロジーが進化しても、人の手から産まれるものの価値は廃れないと思っています」と語り、講演を締めくくった。

    勝手にしやがれ - Taxi Song (MV)





    ■ Speaker 07:FERNANDO LAZZARI

    イギリスのモーションデザイナー、Fernando Lazzari氏は、自らの手掛けてきたパーソナルなプロジェクトについて話し始めた。

    はじめに紹介されたのは、『Montserrat』という映像作品だ。様々な角度から撮影されたブエノスアイレスの街に、巨大なフォントが浮かび上がる情景を描いている。これはjulieta ulanovskyというグラフィックデザイナーの手掛けた『Montserrat』というフォント、作家ルイス・ボルヘスの詩、イギリスミュージシャンBrian Enoの『Black Planet』という曲からインスピレーションを受けて制作されたものだという。

    続いて紹介されたのはアメリカのミュージシャンReid Willisのアルバムに収録されていた『Placed』という曲のMVだ。自然豊かな風景の中を、大きな白い布のようなものや、骸骨のようなものが飛び交う様を描いた幻想的な作品だ。この作品は写真家Robert Adamsの『American west』という作品集や、Robin Hardyの映画『The Wicker Man』、日本人アーティストの白矢幸司氏による、白い石を題材としたインスタレーションなどから影響を受け、制作したという。

    最後に紹介された『A Toribute THE CONVERSATION』。この作品は映画『カンバセーション…盗聴…』のストーリー、映画に登場する人物の関係性や、感情を表現した作品だ。

    「私の過去の制作プロセスを見て、皆さんもテクニックやアイデアを引用してパーソナルな作品づくりをしようと思ってくれたら嬉しいです」とFernando氏は語り講演を終えた。

    Reid Willis - Placed (Official Music Video)




    ■ Speaker 08:Drop Box Devin Mancuso

    The Drop Series: Brain Dead | Dropbox Brand Partners | Dropbox

    本イベントのスポンサーでもあるDrop BoxからデザインディレクターであるDevin Mancuso氏が登壇し、Drop Boxの魅力について伝えてくれた。

    Drop Boxはクラウドストレージサービスとして非常に有名だが、単にデータをクラウド上に保存するだけではなく、クリエイターの活動を支える様々なサービスがあるという。「Drop Box capture」は、画面、カメラ、マイクなどを使って動画や音声を録画・録音し、またそれらを簡単に他のユーザーと共有できるサービスだ。

    「Drop Box sign」は、文書の作成や署名の依頼、署名済み文書の保管先管理など、それら全てをクラウド上で簡単におこなえる、電子署名ソリューションだ。一度作成した契約書を雛形として保管しておくことで、それを他のクライアントとの契約にも活用することができる。「Drop Box Replay」は、映像制作に便利なツールだ。制作した動画に対するコメントやレビュー等の収拾、進捗管理などを簡単にすることができる。

    「Drop Box Transfer」は、大きなファイルをやり取りするときに便利なツールだ。これを使うことで、ファイルの送信先がDrop Boxのアカウントを持っていなくても、大きなサイズのファイルを送ることができる。しかも、セキュリティも万全だ。

    「Drop Boxは皆さんの仕事を楽にし、クライアントからのフィードバックを的確に得ることを可能にします。それはクリエイティブを仕事としている方々にはとても大事なことだと思います。Drop Boxがどんな製品か知っていただくことで、新たな可能性を見出していただけたらとても嬉しいと思います」とDevin氏はDrop Boxの魅力について紹介してくれた。


    ■ Speaker 09:松岡勇気

    続いて登壇したのはモーションデザイナーの松岡勇気氏。松岡氏はモーションデザイナーとして活動する上で、「自主制作と人と環境」という3つのことを、大切にするようになったという。

    松岡氏は、米国留学時代、趣味で制作しニコニコ動画に掲載していた動画が一部のユーザーや友人から評価され、ものづくりの喜びを知ることに。そんな中、映画『アイアンマン』のエンドクレジットの美しいモーショングラフィック、タイトルデザインに衝撃を受けたことが重なり、自分もモーショングラフィック、タイトルデザインの仕事に携わりたいという夢を抱くようになったそうだ。ここから松岡氏は本格的に映像制作を開始。学習を続けながら、憧れのモーショングラフィックデザイナー佐藤隆之氏にmixiで連絡を取り直接アドバイスをもらうなど、自身の夢に向かって積極的に行動し始めた。

    その努力の積み重ねの甲斐あって松岡氏は26歳の時にTYMOTEという会社でモーションデザイナーとして働き始める。優れた技術、表現力を持つメンバーに囲まれた環境で必死にスキルアップに励んだという。その後34歳になったタイミングで、一度自分を見つめ直す機会として「死ぬまでにやりたいリスト」を作り、それまでの自主制作を見返したそうだ。この時、「自分はタイトルの仕事がしたいと思いこの世界に入った」と、自身の原点を思い返し、前述した佐藤氏が代表を務めるOTAS.TVに入社することを決意。佐藤氏のもとでさらにスキルを磨いた。

    そして35歳で独立。独立後、順調に活躍を続ける松岡氏だが、制作に没頭するあまり憔悴してしまった時期も。しかし、そんなときEcoru Togoshiの「バランスプラネット」というプロジェクトの映像制作に携わり、自分が制作した作品をみて子どもが喜ぶ様子を目にしたことで、モーショングラフィックの価値に改めて気づくことができたという。

    松岡氏は自身の体験を振り返って、「自主制作、人、環境という三つを大切にしていくことで、僕はモーションデザイナーとしての人生が楽しくなった気がします。より楽しく、ずっとモーションデザインを好きでいられるためにも、皆さんもこの3つを自分に合うかたちで大事にしていただければ幸いです」と語り、講演を終えた。





    ■ Speaker 10:Reuben Wu

    最後の講演を務めたのは、Reuben Wu氏。ライトを付けたドローンを飛ばし、その様子を長時間露出で撮影することにより、自然の中に光のラインを描いた作品が高く評価されている。

    そんなReuben氏は、大切にしているという4つの価値観を自身のキャリアを交えながら紹介した。

    まずは「Love is answer」(愛こそが答え)、自分が愛しているものに情熱を注ぐことが重要だという。Reuben氏は、ミュージシャンとして活動しながら趣味として写真を撮っていたが、音楽活動の休止をきっかけに、フォトグラファーとして生きることを決意。世界でひとつだけ生きる意味を与えてくれる写真への愛と、実現不可能な夢だという不安の間で葛藤しつつも、愛に従い作品を作り続けたことでフォトグラファーとしての地位を徐々に確立できたそうだ。

    続いて紹介されたのは、「Cousislersy leads to growth」(継続は力なり)という言葉だ。Reuben氏は、愛していることを仕事にすることができたのは、「アートへの執着」が原動力となってビジュアルランゲージを探求し続けていることが大きな要因だと語る。執着は良い面も悪い面もあるが、自分の創作意欲を維持するために重要なのはやはりアートへの執着だという。

    3つ目は、「Listen to quiet voice」(静かな声に耳を傾ける)だ。Reuben氏は幼少期、内向的で、自然の中で時間を過ごすことが多かったという。そういった幼少期の経験が、想像力を養う土台となったそうだ。「孤独と暗闇は私のプロセスには欠かせないものです」とReuben氏は語った。

    最後に紹介されたのは「The future is hybrid」(融合にこそ未来がある)という言葉。Reuben氏は近年、『METAMORPHE』という、AIアーティストとのコラボレーション作品を手掛けている。この活動のように、「既に存在するコンセプト同士を、新たにコラボレーションさせることによって、オリジナリティとアイデアを創造することができる」とReuben氏は語り、講演を終えた。




    TEXT_オムライス駆

    EDIT_中川裕介(CGWORLD)/Yusuke Nakagawa