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TBSが主催を務めるアジア最大規模の短篇映画コンテスト「DigiCon6 ASIA Awards」が今年で開催25回目を迎えた。10月7日(土)にはTBS赤坂BLITZスタジオにて授賞式が行われ、全1,698作品の中から最優秀賞のGrand Prizeに『Monsoon Blue』が選ばれた。本記事では授賞式の模様をレポートする。

記事の目次

    新進気鋭のクリエイターを輩出する映像フェスティバル

    「DigiCon6 ASIA Awards」はアジアのデジタルコンテンツクリエイターの発掘・育成を目的に、2000年から開催されている短篇映画コンテストだ。15分以内の短編であれば、CGアニメーション(2D/3D)、ストップモーション/クレイアニメーション、実写映像などジャンルは問わない。プロ/アマ不問で、アジア出身・在住のクリエイターか、アジアにおいて制作された作品を対象としている。

    第25回開催では、日本をはじめ、イラン、インド、インドネシア、韓国、シンガポール、スリランカ、タイ、台湾、中国、バングラデシュ、香港、マレーシア、モンゴル、ラオスの15の国・地域から、全1,698作品の応募が寄せられた。

    コンテストは、最初にそれぞれの地域で「DigiCon6 Regional Awards」が行われ、最優秀作品を選出。それらの中から「DigiCon6 ASIA Awards」の各賞を決定するというながれである。

    授賞式では日本の優秀作を選ぶ「DigiCon6 JAPAN Awards」の結果を公開した後、「DigiCon6 ASIA Awards」を発表。司会進行は俳優・歌手の上白石萌音氏とTBSの日比麻音子アナウンサーが務めた。

    ▲「25th DigiCon6 ASIA Awards」メインビジュアル

    「DigiCon6 JAPAN Awards」Junior&Youth部門

    まずは「DigiCon6 JAPAN Awards」より、今年新設された12歳以下のJunior部門と、2015年より行われている18歳以下のYouth部門の各賞が発表された。

    Junior部門は、れきなさんの『トウモロコシとハイビスカスのミルク煮』が選ばれた。本作は女の子が大切にしていたヤギの人形が動き出してしまう物語だ。監督のれきなさんは、脚本、作詞、さらにはヤギの声と複数の役職を兼ねている。

    ステージに登壇したれきなさんは、大勢のオーディエンスの前で「人形と心を通わせて話をして友達になるという想いを忘れたくない」という、子どもなら誰もが抱いたことのある感情が創作の動機だったことを伝えた。

    ▲【25th DigiCon6】トウモロコシとハイビスカスのミルク煮

    Youth Best Actorは愛純百葉さんの『リトルマザー』

    愛純さんは昨年はYouth 監督賞に選出されており、今回は役者としての受賞となった。前作とは異なり監督をしながらの芝居という環境に不安を覚えながらも、出演者に支えながら作品を作れたことに感謝の言葉を贈った。

    <Trailer>【25th DigiCon6】リトルマザー

    Youth Best Storyは香川県立善通寺第一高等学校・稲田なつめさんの『ベタ♡ラブ』

    審査員からは「初恋の初々しさがわかりやすく表現されている」と評価され、日比アナウンサーも「見ていてキュンキュンしました」とお気に入り。稲田さんは最もこだわった点について「(登場人物が)こけるところ」だと語り、今後も面白い作品を作っていきたいと意気込みを見せた。

    【25th DigiCon6】ベタ♡ラブ

    映像表現に優れた作品に贈られるYouth Best Art & Cinematographyは、蓬田悠太さんの『瓦礫の下の赤い希望』

    12歳の蓬田さんはキャラクターデザインからBGMまで一人で作り上げており、小学4年生の頃から3DCGを触っていると話すと、会場からは驚きの声が。若きクリエイターの将来が楽しみな一幕となった。

    【25th DigiCon6】瓦礫の下の赤い希望

    最優秀賞のYouth Goldは香川県立善通寺第一高等学校・中村千晶さんの『メモリーガーベッジ』

    進路に悩む高校3年が主人公で、実写とアニメーションを行き来した表現が特徴的な作品である。中村さんはこだわった点について、アニメーションのパートでは好きなように表情を変えたことを挙げた。学校の友人たちと一緒に作り上げた作品がYouth部門のトップに輝いた。

    【25th DigiCon6】メモリーガーベッジ

    「DigiCon6 JAPAN Awards」サポーター賞

    ファンワークス賞は松本伊代氏の『ピロピロプゥ』。本作は犬と鳥の2匹のキャラクターが織りなすコメディで、バラエティ豊かなミニコーナーが多数盛り込まれている。

    その映像表現について、上白石氏は「遊び心が満載で、もっともっと見ていたいと思いました」と絶賛。可愛らしいキャラクターについて問われると、松本氏は「私は自分が鳥に似ているなと思って、友達は犬に似ていたんです」とモデルが自分自身と友人であることを明かすなどの制作秘話も飛び出した。

    <Trailer>【25th DigiCon6】ピロピロプゥ

    ROBOT賞は廣田耕平氏の『ラの♯に恋をして』

    意外なきっかけから始まるラブストーリーで、廣田氏は「恋に落ちる瞬間を描きたい」と思ったことから生まれた作品だとコメント。奥さんとの間で起きたある出来事にインスピレーションを得たことに触れて、来場者の笑いを誘った。

    <Trailer>【25th DigiCon6 】ラの♯に恋をして

    SEED COMICS賞は森 雄耶氏の『FOUL』

    あえてセリフを排した本作は、自然と発展の対立を軸にしたメッセージ性に富んだ内容だ。森氏は自然の描写について、デジタルで描きつつもアナログ感が残すことに力を注いだという。

    【25th DigiCon6 】FOUL

    BS-TBS賞は小嶋美那絵氏の『MASTER』

    飼い犬が外の世界を知る様子をチャーミングなデザインで表現した。制作の理由が「東京に出たかったから」という小嶋氏に対し、日比アナウンサーも「BS-TBS賞ですから、赤坂でのお仕事が待っているのではないでしょうか」と背中を後押しした。

    【25th DigiCon6】MASTER

    TBSアニメーション賞は池辺 凜氏の『520』

    審査員満場一致での受賞だったことが伝えられると、池辺氏は驚きつつも「不器用な人間を愛らしく思えるような作品を作りたいと思って制作しました。そういう作品を満場一致で選んでいただけたのは、キャラクターたちを愛していただけたのかなという気がして、とても嬉しいです」と胸の内を伝えた。

    タイトルの『520』は中国語での発音が「愛している」と似ており、スラングとして使われていることに由来する。素直に愛情を伝えたり受け取ったりできない人たちを描く作品のタイトルに相応しいのではないかと感じたそうだ。

    <Trailer>【25th DigiCon6】520

    「DigiCon6 JAPAN Awards」主要部門

    Animation&Live Action Best Comedy『ピロピロプゥ』がファンワークス賞に続いて2冠を達成した。

    Animation Best Characterは洞口祐輔氏の『Mask the Flower』

    メキシコの元プロレスラーを主人公にした人形アニメーションである。キャラクターデザインのアイデアについて問われると、洞口氏は「僕です」と回答。この意外な答えに司会の2人は、洞口氏をじっと見つめて「そう言われてみると……」と納得した様子だった。

    【25th DigiCon6】Mask the Flower

    Animation Best Storyは新海大吾氏の『ぼくがこわい黒いもの』

    妹が生まれたときの経験から着想を得たクレイアニメーションだ。新海氏は「一番悩んだのがストーリーだったので、Best Story賞だとは思わなかったです」と想定外の受賞だったという。エンドクレジットで流れる赤ん坊の泣き声は、実際に妹が生まれたときの音声であることを明かすと、上白石氏は「この作品はご家族の宝物ですね」と笑みを見せた。

    【25th DigiCon6】ぼくがこわい黒いもの

    Animation Best Artは木原正天氏の『トモヤ!』

    木原氏は前回はNext Generationに選ばれており、2年連続での受賞となった。審査員からは音について、人や蝉の音声を重ねるなど趣向を凝らした演出が高評価だった。夏を題材にした理由については「日本的情緒を感じられるものを作りたいという意識があった」と話した。

    【25th DigiCon6】トモヤ!

    「DigiCon6 JAPAN Awards」のJAPAN Goldには、許 願氏の『Sewing Love』が選出された。

    許氏は「Goldなんて考えたことがなくて、すごく嬉しいです」と感激の言葉を述べた。愛をテーマにした本作は、胸に穴が空いた男性が女性と出会うストーリーだが、企画当初には女性のキャラクターは存在していなかったという。穴が空いている登場人物が自分のパーツを探すというアイデアを基に試行錯誤を重ねた作品が、今年の最優秀賞に選ばれた。

    なお許氏は日本留学中に本作を手がけており、エントリーは作品を制作した地域で判断するため「JAPAN Awards」での受賞となった。

    【25th DigiCon6】Sewing Love

    「DigiCon6 ASIA Awards」受賞作品

    後半は「DigiCon6 ASIA Awards」の発表に移った。

    Master Dan Rising Star AwardはKHUANCHAI PANYVONG氏の『BEFORE』(ラオス)とJacen Tan氏の『Roach Love』(シンガポール)が受賞した。

    『BEFORE』は輪郭線を排したシンプルな描線や色彩が、ノスタルジックな気持ちを呼び起こすアニメーションで、iPadによって制作されている。どこか幻想的な本作は、兄弟が昏睡状態になったときの経験を基にしているとコメント。また兄弟は今は元気に暮らしていることが伝えられると、司会の2人は安堵の表情を浮かべた。

    【25th DigiCon6】BEFORE

    『Roach Love』はゴキブリを踏むことに快感を覚える男が主人公の異色作。Jacen Tan氏は「情熱だけで作り上げた作品なので、受賞は思ってもいないことでした」と謝意を表した。日比アナウンサーが「ゴキブリは本物ですか、偽物ですか?」と恐る恐る尋ねると「その答えは差し控えたいと思います」と回答。会場はこの日一番の笑いに包まれた。

    <Trailer>【25th DigiCon6】Roach Love

    Live Action Best Art & Cinematographyは、Diya Gambhir氏の『NEVER SAY DIE』(インド)。今回の受賞作の中で唯一のドキュメンタリーで、関節リウマチを患った実の叔母との記憶を描いた作品である。

    複数の表現を織り交ぜた理由に関して、実写だけでは制限が多いと感じたことから、ストップモーション・アニメーションにたどり着いたという。Gambhir氏は「6ヶ月の制作の間、私を支えてくれたメンターの皆さん、家族、友だち、様々な方々にお礼を申し上げたいと思います」と伝えると、温かい拍手が送られた。

    【25th DigiCon6】NEVER SAY DIE

    Animation Best StoryFLYING MONKEYS PRODUCTION『Monsoon Blue』(香港)。本作では大量の金魚や、モンスーンが迫る街の光景が、抑えた色彩ながらも鮮烈に表現されている。

    FLYING MONKEYS PRODUCTIONは、前回はHong Kong Silverを受賞した経験をもつ。スタジオについて問われたプロデューサーのDonald Kwok氏は、友人と設立した制作会社であり、アニメーションや広告など幅広いジャンルの作品を手がけているとコメント。「自分の本当の姿を出すのはなかなか難しいですが、自分を信じてやれば真の姿をみんなに見せることができると思っています」と一歩踏み出すことの重要性を語った。

    <Trailer>【25th DigiCon6】Monsoon Blue

    Animation Best ArtはMona Shahi氏の『The Red Fire』(イラン)。赤い鳥の群れを描いた本作は、子どもの頃に読んだ本からインスピレーションを得た作品だ。

    Shahi氏は「アニメーションを制作するときに、私は自分が信じている物語を伝えたいと思っています。このような奇跡は勝手に起こるものではないので、アジアの皆さんと一丸になって、そういった作品を作っていきたいです」と力強い言葉を発すると、客席も大きな拍手でそれに応じた。

    <Trailer>【25th DigiCon6】The Red Fire

    そしてGrand Prize『Monsoon Blue』に決定。Best Storyに続いて2冠となった。再び登壇したKwok氏は今後の展望について、香港で暮らす人々のアニメーション・ドキュメンタリーを制作するアイデアがあることを打ち明ける。一体どんな内容に仕上がるのか、新たな作品への期待も膨らむ授賞式となった。

    ▲左から 上白石萌音氏、Donald Kwok氏、日比 麻音子TBSアナウンサー ⒸTBS

    授賞式では、第25回開催のキービジュアルを手がけた見里朝希監督のビデオメッセージも上映された。見里監督は「DigiCon6」に3年連続で応募した過去があり、2018年の第20回で『マイリトルゴート』ではGold - Special Jury(審査員特別賞)に選ばれた。

    見里監督は「DigiCon6」について、国内だけでなくアジア全体のクリエイターと繋がれる貴重なイベントだと意義を語る。「もしも私が映画祭に作品を応募、出品していなかったら、コマ撮りスタジオを立ち上げることもなかったですし、『PUI PUI モルカー』という作品を作る機会も得られなかったのではないかと思います」と振り返った。実際に『PUI PUI モルカー』の作曲を手がけた小鷲翔太氏と知り合ったのも、「DigiCon6」がきっかけだったそうだ。

    最後に参加者に向けて、作品を制作して発表することによる出会いや喜びなど、いろいろな経験によって自分の世界も大きく広がっていくとコメント。「それらの経験をもとに今後も素敵な作品づくりをしていってください」とエールを贈った。

    この授賞式の様子は、受賞作品のダイジェスト映像とともに、地上波でも放送予定だ。興味のある方はぜひ観てみてほしい。

    第25回デジコン6最新短編映画の世界
    [放送日時]11月18日(土)深夜25時58分~27時28分 
    [MC]上白石萌音 日比麻音子(TBSアナウンサー) 
    ※放送後1ヶ月間のTVerおよびTBS Freeにおける無料見逃し配信あり

    TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)