劇場先行上映を経て10月からTV放送中のアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ!』。スマートフォンゲームアプリに登場する52人のアイドルを、原作の魅力そのままに3DCGで描ききるその挑戦について、白組に聞いた。
CGが可能にした52人の“ 箱推し”作品
総勢52人と多彩なアイドルが登場し、その全員が主役である本作をアニメーション映像作品として成立させるためには、3DCGを駆使することが不可欠だった。
企画は約5年前からスタートし、綿田慎也監督とシリーズ構成・脚本の加藤陽一氏、バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)によってプリプロダクションが進められるなか、これまで『NIGHTHEAD 2041』(2021)などセル調CGによるアニメシリーズを制作してきた実績をもつ白組に白羽の矢が立った。白組は本作の制作担当に値するか判断してもらうためにトライアル映像を作成し、監督やBNEに認めてもらった上で制作に入っていった。
本作ではシナリオ開発に十分な期間が確保された。そのシナリオ開発の中で、登場する人物、衣装、シチュエーションなど、大きなところでの制作コスト管理がしっかり行われている。
アニメーションプロデューサーの井出和哉氏は脚本開発にも参加し、この段階で必要なアセット量の精査と調整を行うことで、効率的な制作スタイルを構築した。折しも制作時期はコロナ禍が直撃した頃。制作上の意思伝達を円滑にするため、可能な限り白組の内製にこだわった。
本作は「女の子を可愛くする」ことはもちろん、「キャラクターの息吹や臨場感を感じさせるようなライブ」を目指した。例えば、マイクを持って歌うというパフォーマンスひとつとっても、それはステージ上で実際にアイドルたちが歌っているという実在感を表現するため。過去の『アイマス』作品を研究し、顔や指、シルエットにもこだわったほか、髪の毛の動かし方にも顔と同等のコストをかけて制作を進めていったという。
「中盤から新曲が登場し、後半にかけては作中のライブシアタープロジェクトの進行に応じて、ライブシーンも増えていき、さらに大きなクライマックスが控えていますので楽しみにしてください!」(井出氏)。それでは具体的にみていこう。
<1>アセット制作
52人の個性の表現と効率化を両立
本作のキャラクターモデル制作は、頭部と衣装(体)をそれぞれ別のワークフローで構築し、後から合体させる方法を採っている。私服からレッスン着、ステージ衣装まで、各アイドルが着る衣装は多岐にわたるため、この手法によって効率化を図っているのだ。
スマートフォンゲームアプリ『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、ミリシタ)からディテールアップした3Dキャラクターデザイン画を基に、フェイシャルやボディを作成し、色彩設計を行なった後、両部分を合成する。モデルのポリゴンは必要最低限の数で軽く、試行錯誤をしやすくつくられている。
ルックデヴで最も気をつけたのは、いかに手描きらしいルックをつくるかだった。その理由としてモデリングSV・篠崎徳太郎氏は「悪い意味でのCGくささが出てしまうと、視聴者がストーリーに集中できなくなってしまいます。そうしたことが起きないよう、多くの作画資料を集め、どの程度のバランスでCGに落とし込めば違和感をなくせるか、トライ&エラーをくり返していきました」と語る。
ライン描画には「Pencil+ 4 for 3ds Max」を使用。作画アニメの資料を参考に、感覚頼りで様々な線の強弱をつけていく泥臭い手法で表現していった。目の周りはアップになることも多いため、まつ毛のディテールにもこだわった。ハイライトや眼球も、どの角度からでも綺麗に見えるようにつくられている。
篠崎氏によると、ルックデヴで最も難しかったのは髪のモデリングだったという。目や顔と同程度の時間をかけ、髪の毛の分け目やスッと伸びる綺麗な毛先の表現を追求し、アイドルの可愛らしさを表現した。
アイドルたちのシルエットについて、BNEからのオーダーは「ちょっと大人びたイメージ」だったという。そこで設定身長は守りつつも、少し手足を伸ばし、ゲーム版に比べて1~2歳ぐらい上を想定して制作した。ボディは衣装に合わせて胴や膝の位置を調整している。これはセル調特有のもので、衣装によって足の長さが変わって見えるためだ。最後に顔と合わせたときにプロポーションをひとつひとつ手作業で調整して仕上げている。
「目元などは1%、1ピクセルのズレでキャラクター性の印象が変わるので、綿田監督と共に特に念入りにチェックをしています」(塩谷氏)。
CG制作向けにデザイン画をリファイン
本作では、モデリングの際に元のデータに引っ張られてしまうことを防ぐため、『ミリシタ』のCGモデルは直接的には使用していない。
同作のモデルやカードイラストを参考に、石井哲哉氏、蔦 香穂里氏がキャラクターデザインを行なった後、梅澤純一氏が3Dキャラクターデザインとして本作向けにレタッチを施し、全体のバランス調整、耳の形状調整、グラデーションの追加、目とまつげのディテールアップ、髪の細毛足しと分割数、影とハイライトのディテールアップなどを行なっている。
モデリングアーティストはこのデザイン画を基に、モデルをフルスクラッチで制作した。
キャラクターモデル制作のながれ
ボディは基本的に男性/女性の2パターンの素体モデルから、各キャラクターの設定資料に合わせてリグでプロポーションをつくり込み、3ds Maxの体型変更ツールで調整を行う。頭部はフェイシャルのつくり込みのほか、ヘアアクセサリの作成も行い、最後に上下を合成する。
全方位可愛く見せるための顔のつくり込み
髪型の造形は、髪の束に対してさらに細い毛を追加し、細い毛・太い毛がバランスよくグラデーションを描くようにまとめることで柔らかく、見映え良く見せている。
また、一般的にアイドル作品ではイメージを崩さないよう、特に前髪などはあまり動かさないことが多いが、本作では躍動感や可愛らしさを表現するためにあえて動かすという方針の下、前髪の裏側までつくり込んでいる。前髪の裏側にテクスチャをつくり、髪がめくれたタイミングで生え際のある額テクスチャに切り替えている(設定上、額を出せるキャラクターに限る)。
映像作品としてアップに堪えられるよう、目の周りは『ミリシタ』よりもディテールアップした。ゲームでは目尻のまつ毛が1~2本だったものを、キャラクターとしての印象を崩さぬ範囲で付け足している。「これは髪の毛にも言えることですが、単純に細かくすれば良いというものでもなく、バランスよくメリハリをつけるのが重要です」(篠崎氏)。
手作業の調整で強弱をつけたアウトライン
アウトラインの描画は、Pencil+の標準機能のみではチラツキが出やすいため、ラインにそれぞれマスクをかけて手作業で強弱を調整している。画像の例では、アウトライン、スムージンググループなど頭部だけで5枚のマスクテクスチャが存在する。
メッシュとテクスチャの使い分けで衣装の手描き感を高める
衣装のモデリングでこだわったのはシワのつくり込み具合。ここを間違えると単なる模様に見えてしまうため、モデルとして浅く見えないよう、きちんと厚みを表現する陰影の入れ方に注意を払った。
「ディテールが多いものを選ぶことによって、シルエットが複雑になり、いわゆるヌルっとした動きやシルエットが軽減されます」(塩谷氏)。
<2>アニメーション
作画アニメらしい可愛さを目指したアニメーション
アニメーションはルックデヴと並んでアイドルたちを可愛く見せるための両輪だ。フェイシャルを付ける際には過去の『アイマス』作品の膨大な資料を参考に、喜怒哀楽表現を追求。特にゲームのカードイラストは、それぞれのアイドルが1枚絵として最も可愛い表情を見せるため、リファレンスとして重視したという。
演出・アニメーションSVの山村 聡氏は「イラストを基に、例えば片目を閉じたときに左右の目のバランスはどうなっているか、ある表情をするときに眉の角度はどうなっているのか、あるいは斜めを向いたときの顔の輪郭はどうすれば可愛く見えるか。それぞれのアイドルがどんな表情をするのかをリードアニメーターを中心として検証していきました」と話す。
大勢のアーティストが関わる本作。表情づくりや動かし方がカットごとに偏ってしまうことを防ぐため、作画アニメにおける表情集も参考としてつくられた。絵による図示のほか、「口の見せ方について」では、「舌をしっかり見せる」、「口パクはハッキリ・メリハリ重視」などリードアニメーターによるテキストでの注意書きも多数用意されている。
ボディアニメーションについては、ライブシーンやアクションが多い話数などの一部にモーションキャプチャを使用したことを除き、ほぼ全てがそれらを参考にした手付けで行われている。「コマを落とした上で、ダンスの振り付けに合わせて、見映えがするようなメリハリのある動きをリビルドしていきました」(山村氏)。
髪の毛や服の動きはショットの内容によって手付けとシミュレーションを使い分けているが、特にキーとなるショットはボディと同じプライマリアクションとして捉え、手付けで動きを作成している。ポイントとしては、体の動きと合わせて綺麗なシルエットになるように心がけたという。
山村氏は「髪のアニメーションはバランスが大事。派手に動かしすぎたり、時間が長すぎたりするとキャラ崩れしているように見えてしまいます。大きく崩しても素早く元の形状に戻すことでそれを防いだり、細毛をパラつかせてリズムを出すことで、毛束のモッサリとした感じを軽減する工夫もしています」と語る。
ツールは3ds Max、MotionBuilderを使用。ライブシーンは基本的に2コマ(=6フレーム)打ちで、本編のドラマパートは3コマ打ちをベースにしている。またドラマパートでPANをする際にはAfter Effectsで2コマ打ちにすることで作画風の画面づくりにしているとのこと。
メリハリを意識した丁寧なアニメーション
猫系アイドル・野々原 茜がキビキビと動くアニメーション。画像は3フレームごとの画を掲載している。3DCGだからといってヌルヌル動くのは本作ではNG。作画らしいタメツメの効いたモーションを表現している。
「動きから動きの間のキーフレームの数が少ないと、CGで補間される量も多くなるので、均等に動きが割れてしまいます。寄りのカットなど、重要な部分では1コマ=3フレームおきにポーズを付けてそれをつないで動きをつくっていきました」(山村氏)。
どんなアングルにも対応するフェイシャルアニメーション
<3>ライブシーン制作
実際の「アイマスライブ」をアニメの作中に再現
本作のハイライトであるライブシーンは、キャラクターアニメーションとステージ演出を並行して制作した。
まず、楽曲を基にアイドルの振り付けをつくり、モーションアクターの動きをキャプチャした後、MotionBuilderで埋まりや刺さりを補正する。その後、clipを使って曲の頭出しタイミングを調整し、MotionBuilderでレイアウトとキーポーズとカメラの動きを決め、これを背景班に渡しレイアウトを決める。その後、3ds Maxにもっていき、AS作業(アニマティクス)を行う。
フェイシャルとボディアニメーション、セカンダリアニメーションはこの段階で決め、キャラクターと照明のレンダリングを行い、撮影班に渡す。レンダリングではトライ&エラーをくり返せるよう、キャラクターを構成する素材数の最適化をしていたという。
ステージは、曲とステージデザインが決まった後、曲に合わせた照明の演出の方向性を監督と共有する。このとき、担当演出は曲のリズムやタイミング、ABのメロに合わせて照明の色を変えたり、観客のコンサートライトの揺れなどを決めた「ライブ演出指示動画」を作成する。照明とモーショングラフィックスはそれぞれ専門のスタッフが置かれているが、ライブ演出は各話の演出家が考える。
そのときに指針になったのは、各キャラクターの担当声優によるリアルライブ、いわゆる「アイマスライブ」のようなリアル路線だ。
「演出家みんなで照明の勉強会を開きました。撮影班やリグ班も加わり、実現可能かを精査しながらライブ照明のつくり方を身につけていきました。監督は何度も実際の『ミリオンライブ!』に足を運んでいる方なので、第1話で『本当のライブみたいですね』とおっしゃっていただけて嬉しかったです」(塩谷氏)。
背景LEDはグラデーションをさせたり、左右交互で異なる動きをさせるなど、単調にならないように注意を払った。こうしてつくられたキャラクターと照明、背景のレンダリング素材を最後に撮影で合成してライブステージがつくられた。
また、ステージ側だけでなく観客もまたライブシーンを盛り上げる重要なピースだ。この会場には9,000人の観客が存在している。本編同様セル調に近いモブを作成できるツールを検討した結果、3ds Maxとの相性も良いanimaとtyFlowを採用した。モブの男女比は、監督の要望で女性をやや多めにし、6割ほどを女性モブにしている。
ライブシーンの制作フロー
先ほど解説したライブ制作のながれをおおまかに図示したもの。
照明コントロールツールによる演出設計
照明の点滅やグラデーションは、DMXコントローラ(照明コンソール)を3ds Max上で再現したツールを使用して制御している。パターンはプリセットもあるが、後から各ライトで色を調整できるようになっており、アニメーション作業時にも細かく調整している。レンダリングは撮影班で行なっている。
作業負荷を下げるためプラグインや内製ツールを活用
ライブシーン等では大人数を1つの画面で扱う必要があるが、そのままでは処理が非常に重くなるため、3~5人ずつに分けて作業し、レンダリングしている。その際、ステージのライティング等が重複してしまうため、プラグイン「XMesh」を使用し、キャラクターのジオメトリキャッシュを取り、1シーンにまとめて各素材を出している。
これによりエフェクト素材のマットが取りやすくなり、アニメの変更があっても対応がしやすかったという。
以下は、内製のキャラクターアイソレーションツール。シーン内にいるキャラクターが一覧表示され、それぞれに表示、非表示、孤立表示等を設定できる。
アニメーション作業するキャラクター以外のモディファイヤやコントローラを一時的に無効化することで、軽くした状態でアニメーション作業を行える。本作のMVPツールといってもいいほど重宝されたという。
animaとtyFlowを使い分けるモブアニメーション
モブキャラクターはドラマパートの通行人のようなモブと、ライブシーンでの観客とで制作方法が異なる。ドラマパートでは群衆キャラクターアニメーションソフトanima 5 PROを使用して作成した。
ライブ会場の観客モブはtyFlowで制作。ここでもリアリティにこだわり、観客1人につき最大で7本までコンサートライトを持たせられるようにしている。
それぞれの観客の動きは、実際に各楽曲を流しながら原作ファンの白組スタッフが考案した動きを参考に、モーションアクターによる動きをキャプチャしている。これにより、観客を映したときにもライブの臨場感や一体感を途切れさせることなく演出することができたという。
「どの曲で何本のコンサートライトを持たせるかについても、同様に白組社内の原作ファンに意見を聞いて、ツールを使って色の割合を決めています」(塩谷氏)。
CGWORLD 2023年11月号 vol.303
特集:『漫画×3DCGの現在地』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年10月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIO_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada